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作者: 犬物語
暴飲暴食は罪じゃなくない?
食べる + うごく = けんこう!
 ちょっと聞いてくれる?

 わたしがおいしいものいっぱい食べてたのにさ、オジサンが「いい加減にしろ」ってすみっこまで引っ張ったんだよ。これからメインディッシュだっていうのにひどいよね?

「ヒドくない。自分のあだ名をベルゼブブにされる前にすっこんどけ」

「こころを読まれた!」

「そのウラ見りゃだれでもわかる。ったく他の連中はきちんと社交してるっつーのにおまえは」

(しゃこう?)

 なにそれおいしいの?

 ふと見知った顔を探し視界をうろうろしてみると、なんとびっくりみなさまそろって別行動をしてるではないですか。

 いちばんこ慣れた態度なのは教会つとめのグウェンちゃん。この会場のなかでは比較的おとなしめな方々とおだやかな顔で言葉を交わしている。注目の的になってるのは我らが誇るきんにくうーまんで、出るとこでてる身体を誇示して観衆を沸かせたり、たくましい二の腕にぶら下がらせてみたりとなかなかの人気者だ。

 社交性のカケラもなさそうな少年はどうしてるだろう? っと思いきやわりと近くにいてこちらも囲まれてる。よく耳を凝らしてみると、スプリットくんは異世界、えーっとつまりわたしたちにとって元の世界についていろいろインタビューを受けてるっぽい。みんな断片的なことしか覚えてないけど、それでも彼らにとって別世界の話は魅力的なんだろう。

 さいごにランウェイ歩いてそうなウーメンをさがしてみると、彼女はすこし離れた柱のそばで、ひとりの女性と親しそうに話をしていた。お知り合いさんかな?

「王の親戚だ。エルフの森の保護活動をしてる関係上、ビシェルと馬が合うのだろう」

 わたしの視線を察してか、オジサンがその疑問に応えてくれた。

「二十年前の戦乱は人や町だけでなく自然にも災いをもたらした。山を焼かれ避難を余儀なくされたエルフもいる。もちろん、命を落とすことになった者も……人の愚かさにはじまった戦いの後始末は人の手によって行わなければならない。そう考えた一部の人々は、貴族たちにありとあらゆる行動をもって訴えた。それに応えたのが今ビシェルと話す彼女だ。名前はなんていったかな――いかん、ど忘れした」

「ボケるの早いよ」

「ジジイ呼ばわりするな。まあとにかく彼女の援助があって、少なくとも人間が焼いた森は徐々に復興している」

「ふぅーん。じゃあエルフさんたちも許してくれてるんだ」

「それはどうかな」

 やや冷徹な視線のままオジサンは続けた。

「自分で汚したケツを自分で拭ってるだけだ。そもそもケツを汚すなという話になるし、我々の二十年がエルフにとってどの程度の時間感覚なのかわからん。もしかしたら昨日の今日かもしれん」

「あ、そうか。エルフさんって寿命が長いんだっけ」

「そうとは限らんぞ?」

「えっ」

「知り合いのエルフに聞いた話だが、ヤツらは基本長寿らしいが早ければ三百年程度で寿命を迎える場合もあるそうだ」

 あれ、エルフってもっとながーく生きる種族だと思ってたけどちがうの?

「そいつは数千年生きてるなどと抜かしたがな――さて、おまえやってくれたなぁ」

「え、なにが?」

 オジサンがなんかわたしの目を見つめてるんだけど? あ、いや違う。呆れちっくな視線がちょっち下の、えーっとだいたいくちびるあたり?

「こういった場では最初が肝心なんだよ。それぞれ分をわきまえてくれた中でひとりだけ俗っぽいことしやがってこの」

 言って、オジサンはハンカチをこちらに差し出した。

「クッキーのカスがくっついてるぞ。ほら拭け」

「え、あ」

 やべ、食べることに夢中になりすぎてた。

 ここにきて、こちらにいくつかの視線が集まってることに気づく。だいたいが笑顔なのはいいことなんだけどその種類が違うというかなんというか。具体的に解説しますと、あっちのおじょーさまはフリフリしたもので口もとを隠し、こっちのおぼっちゃまはアゴをくいっとして鼻でわらうスタイル。わずかながら「ぜんぶ食べつくす気かしら」とか「はしたない」とか「おやこみたい」などというセリフも聞き取れました。

 心情的には「おいしいものたべるってイーことじゃん!?」と主張したいところですが、そんなん口走った日にゃあオジサンのおしりペンペンが待ち受けていることうけあい。なんならいってんごわりまし威力で。

(これは……おジョーヒンにしないと!)

「えっと、えへへぇ。あらいやだ! ちょっと粗相してしまいましたわ!」

 受け取ったハンカチで顔面をグシグシ拭き上げた。よし、これで顔パック完了!

「いいかげんにしろ」

「ンが」

 わりとマジめなげんこつ、いたかったです。
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