魔族
人外ではなくケモノでもない。そのボーダーラインはどこにあるのか
異世界といったら何がイメージできるでしょう? わたしはそんなことをしっぽり考えた。
剣と魔法のファンタジー。剣はイヤというほど見せつけられて、魔法はそこそこ体験しました。フラーの街灯はぜんぶ魔法でできている。ほかに異世界成分といえばなにがある?
「ん、なに見てんのさ」
視線に気付いた女性がこちらに目を向ける。人が行き交うフラーでも彼女の存在は異質らしく、すれ違う人の多くはその青白い肌に驚愕し、男たちは彼女のながいブロンドの髪に目を奪われている。淡くウェーブがかったそれはオトナの雰囲気を漂わせている。
周囲からの視線を浴び馴れてるみたい。それでも彼女がこちらを気にしたのは、それはもうじぃぃぃぃっと見てたからです。
「そんなに魔族がめすらしい?」
彼女はあたまのひだり側から伸びたツノをすりすりして言った。きんぴかである。
「やっぱ魔族だったんだ!」
魔族のおねーさんは吹き出した。
「あっは、正直にものを言う子だね」
ときは夕刻ばしょはオジサン邸にもどる途中。よさ気な服を買い込みいざパーティーの準備としゃれこもうとした矢先の場面である。荷物持ちを名乗り出たサっちゃんにとオジサンそれらを任せ、軽装備メンバーはそれぞれの役割分担のもと市場の喧騒にまぎれている。
お夕飯はおにく、といきたいところだけど、またスパイクがどこぞのお店を紹介したいとのことで食料調達はなし。今は雑貨をお買い求めの最中。ビーちゃんは刺繍用具を探してる感じかな。ほかのみんなが何してるかはしらない。
んで、わたしは何してるかってとおいしそーなニオイに誘われて青果コーナーに流れ着いたのですが、そこで目の前の女性と出くわしたのです。
「アタイはケイラック。ずーっと東からやってきた旅の魔族さ。アンタは?」
「グレース。異世界人だよ!」
「へぇ異世界人か、それは珍しい」
吟味されるように上から下まで見られる。さっき自分がやったしべつに気にすることもないけどいざジロジロ見られるとなんか恥ずかしい気持ちがにょきっと出てくる。そのツノみたいに。
「コレは自前だよ。青い肌も金髪もぜーんぶ生まれつきさ」
「そんなんだぁ」
「魔族が好きそうな緑豊かな土地があると聞いてね、好奇心で見物してるんだけどなかなかいいトコロじゃないか。気に入ったよ、この国も人間たちも」
周囲に目を配り満足そうにうなずく。日没までまだ時間があり、人々は太陽の日差しのもと忙しなく流動している。夜になってもその様はかわらず、きっと魔法で灯された街灯のもとたくさんの人の笑顔とジョッキにアルコールを注ぐ音と、そして強い光の隅で闇も深くなっていくのだろう。
「ふふ――人間か、いいね。魔王と戦い勝利したのはアンタたち異世界人なのに、この世界の人間たちは我が勝利だと言わんばかりに欲に溺れていく」
「ケイラックさん?」
青白い肌に深い紫の唇。その奥に白いモノを光らせて、彼女は怪しげな笑みを浮かべた。
「ところで、アンタのその髪も自前かい?」
「うん! えへへぇかわいーでしょ! 自分でやってるんだ」
ボブカットだよ、えへん!
「なるほどねぇ……やり手だ」
ケイラックさんはわたしの毛先をまじまじと見つめている。それからどこか納得したかのように真紅の瞳でこちらの瞳を射抜いた。
「よほど鋭利な刃物かウデがよくなきゃここまでできない。じゃなきゃ髪の毛痛めちゃうからね」
「あ、わかる? これだけは真剣に努力したのですよ」
なんと言っても目で見えない部分をカットしなきゃいけないから必要集中力がダンチなのです。川や水たまりを鏡代わりにできないかなーって試したことあるけどけっきょくうまく行かなかったんだよね。
「アンタにとっての異世界はアタイたちにとっての世界。アタイたちにとっての異世界はアンタたちにとっての世界。おしえてよグレース」
言って、彼女はもう一歩踏み出した。こちらに肉薄して顔が触れそうなほどに迫る。それでもなぜか、わたしは彼女にイヤな気持ちもなにも覚えることはなかった。
「アンタにとってこの世界はどう見えてる?」
「この世界は……えっと」
どう見えてるって、どう? ちょっと考える時間をください。
(たくさんの人、りっぱな建物、おいしい食べ物、これまでの旅路で見てきたたくさんの自然……これは、わたしたちの世界にもあった)
ってことは変わらない?
「うーん違うなぁ」
「ちがうって?」
「わたしたちの世界と変わらないような気がするけど、なんかあべこべて違うっていうか、ううんちがくないんだけど、あれ?」
考え込んじゃったわたしの姿に、魔族のおねーさんはまたわらった。こんどは思い切り。
「あっはっはっはっは! ごめんごめんそんな難しく考えてくれるとは思ってなかったよ。たのしいねアンタ、気に入った」
「あ、じゃあさじゃあさ、ケイラックさんわたしとオトモダチになろ?」
「おともだち?」
「うん。異世界でオトモダチを百人つくろう! 活動をしています」
こんどはクスクスと小さく笑い、彼女はその提案を承諾した。
「いいね、なってやるよ。そうだ、機会があるならこんど東へ、魔族の領域へ来るといい。その時はアタイらなりの歓迎をしてあげるからね」
(ナイス提案!)
魔族の国ってどんなところだろう? おねーさんみたいにきんぴかのツノが生えてる人ばっかなのかな? みんな青白い肌してるのかな? キレイなおねーさんばかりだったらおとこの人もイケメンばかりだよね?
「おーい!」
っと、うちのなんちゃってイケメンの声が聞こえました。うーんまあスプリットくんもイケメンか? って聞かれたらまあイケメンと言えなくもないけど口ひらいたらダメなので却下で。
「買い物済ませたか? だれと話してたんだ」
「うん、魔族のおねーさんと――あれ」
いない。
「魔族? どこに」
「いたの。さっきほんとに魔族の人がいて、あれ?」
あっちこっち見渡してもどこにもいない。まさか飛んでいった? と思い空を見上げても、そこにあるのは赤みがかる空とぽつぽつ浮かんだ雲ばかり。あと開け放たれた窓に上半身裸のおっちゃんがひとり。
「イヤなもん見ちゃった」
「ぁあ?」
「なんでもない。うーんやっぱいない」
急用ができたのかな?
「ビシェルの用も終わったってよ。ほら、ぐずぐずしてると置いてかれるぞ」
「あ、うん」
淡いブロンドと彼女が着ていた白い布のような服がチラリと見えたような気がして、ふと路地裏に視線をうつした。それでもそこにはだれもおらず、力なくしゃがみこむ浮浪者だけがそこにある。
「……ケイラックさん」
さいごに一度だけ彼女の名前を口にして、わたしは静かにその場所から離れていった。どこかで彼女が笑ったような気がした。
剣と魔法のファンタジー。剣はイヤというほど見せつけられて、魔法はそこそこ体験しました。フラーの街灯はぜんぶ魔法でできている。ほかに異世界成分といえばなにがある?
「ん、なに見てんのさ」
視線に気付いた女性がこちらに目を向ける。人が行き交うフラーでも彼女の存在は異質らしく、すれ違う人の多くはその青白い肌に驚愕し、男たちは彼女のながいブロンドの髪に目を奪われている。淡くウェーブがかったそれはオトナの雰囲気を漂わせている。
周囲からの視線を浴び馴れてるみたい。それでも彼女がこちらを気にしたのは、それはもうじぃぃぃぃっと見てたからです。
「そんなに魔族がめすらしい?」
彼女はあたまのひだり側から伸びたツノをすりすりして言った。きんぴかである。
「やっぱ魔族だったんだ!」
魔族のおねーさんは吹き出した。
「あっは、正直にものを言う子だね」
ときは夕刻ばしょはオジサン邸にもどる途中。よさ気な服を買い込みいざパーティーの準備としゃれこもうとした矢先の場面である。荷物持ちを名乗り出たサっちゃんにとオジサンそれらを任せ、軽装備メンバーはそれぞれの役割分担のもと市場の喧騒にまぎれている。
お夕飯はおにく、といきたいところだけど、またスパイクがどこぞのお店を紹介したいとのことで食料調達はなし。今は雑貨をお買い求めの最中。ビーちゃんは刺繍用具を探してる感じかな。ほかのみんなが何してるかはしらない。
んで、わたしは何してるかってとおいしそーなニオイに誘われて青果コーナーに流れ着いたのですが、そこで目の前の女性と出くわしたのです。
「アタイはケイラック。ずーっと東からやってきた旅の魔族さ。アンタは?」
「グレース。異世界人だよ!」
「へぇ異世界人か、それは珍しい」
吟味されるように上から下まで見られる。さっき自分がやったしべつに気にすることもないけどいざジロジロ見られるとなんか恥ずかしい気持ちがにょきっと出てくる。そのツノみたいに。
「コレは自前だよ。青い肌も金髪もぜーんぶ生まれつきさ」
「そんなんだぁ」
「魔族が好きそうな緑豊かな土地があると聞いてね、好奇心で見物してるんだけどなかなかいいトコロじゃないか。気に入ったよ、この国も人間たちも」
周囲に目を配り満足そうにうなずく。日没までまだ時間があり、人々は太陽の日差しのもと忙しなく流動している。夜になってもその様はかわらず、きっと魔法で灯された街灯のもとたくさんの人の笑顔とジョッキにアルコールを注ぐ音と、そして強い光の隅で闇も深くなっていくのだろう。
「ふふ――人間か、いいね。魔王と戦い勝利したのはアンタたち異世界人なのに、この世界の人間たちは我が勝利だと言わんばかりに欲に溺れていく」
「ケイラックさん?」
青白い肌に深い紫の唇。その奥に白いモノを光らせて、彼女は怪しげな笑みを浮かべた。
「ところで、アンタのその髪も自前かい?」
「うん! えへへぇかわいーでしょ! 自分でやってるんだ」
ボブカットだよ、えへん!
「なるほどねぇ……やり手だ」
ケイラックさんはわたしの毛先をまじまじと見つめている。それからどこか納得したかのように真紅の瞳でこちらの瞳を射抜いた。
「よほど鋭利な刃物かウデがよくなきゃここまでできない。じゃなきゃ髪の毛痛めちゃうからね」
「あ、わかる? これだけは真剣に努力したのですよ」
なんと言っても目で見えない部分をカットしなきゃいけないから必要集中力がダンチなのです。川や水たまりを鏡代わりにできないかなーって試したことあるけどけっきょくうまく行かなかったんだよね。
「アンタにとっての異世界はアタイたちにとっての世界。アタイたちにとっての異世界はアンタたちにとっての世界。おしえてよグレース」
言って、彼女はもう一歩踏み出した。こちらに肉薄して顔が触れそうなほどに迫る。それでもなぜか、わたしは彼女にイヤな気持ちもなにも覚えることはなかった。
「アンタにとってこの世界はどう見えてる?」
「この世界は……えっと」
どう見えてるって、どう? ちょっと考える時間をください。
(たくさんの人、りっぱな建物、おいしい食べ物、これまでの旅路で見てきたたくさんの自然……これは、わたしたちの世界にもあった)
ってことは変わらない?
「うーん違うなぁ」
「ちがうって?」
「わたしたちの世界と変わらないような気がするけど、なんかあべこべて違うっていうか、ううんちがくないんだけど、あれ?」
考え込んじゃったわたしの姿に、魔族のおねーさんはまたわらった。こんどは思い切り。
「あっはっはっはっは! ごめんごめんそんな難しく考えてくれるとは思ってなかったよ。たのしいねアンタ、気に入った」
「あ、じゃあさじゃあさ、ケイラックさんわたしとオトモダチになろ?」
「おともだち?」
「うん。異世界でオトモダチを百人つくろう! 活動をしています」
こんどはクスクスと小さく笑い、彼女はその提案を承諾した。
「いいね、なってやるよ。そうだ、機会があるならこんど東へ、魔族の領域へ来るといい。その時はアタイらなりの歓迎をしてあげるからね」
(ナイス提案!)
魔族の国ってどんなところだろう? おねーさんみたいにきんぴかのツノが生えてる人ばっかなのかな? みんな青白い肌してるのかな? キレイなおねーさんばかりだったらおとこの人もイケメンばかりだよね?
「おーい!」
っと、うちのなんちゃってイケメンの声が聞こえました。うーんまあスプリットくんもイケメンか? って聞かれたらまあイケメンと言えなくもないけど口ひらいたらダメなので却下で。
「買い物済ませたか? だれと話してたんだ」
「うん、魔族のおねーさんと――あれ」
いない。
「魔族? どこに」
「いたの。さっきほんとに魔族の人がいて、あれ?」
あっちこっち見渡してもどこにもいない。まさか飛んでいった? と思い空を見上げても、そこにあるのは赤みがかる空とぽつぽつ浮かんだ雲ばかり。あと開け放たれた窓に上半身裸のおっちゃんがひとり。
「イヤなもん見ちゃった」
「ぁあ?」
「なんでもない。うーんやっぱいない」
急用ができたのかな?
「ビシェルの用も終わったってよ。ほら、ぐずぐずしてると置いてかれるぞ」
「あ、うん」
淡いブロンドと彼女が着ていた白い布のような服がチラリと見えたような気がして、ふと路地裏に視線をうつした。それでもそこにはだれもおらず、力なくしゃがみこむ浮浪者だけがそこにある。
「……ケイラックさん」
さいごに一度だけ彼女の名前を口にして、わたしは静かにその場所から離れていった。どこかで彼女が笑ったような気がした。