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作者: 犬物語
ねんれい
場合によっちゃハラスメントになっちゃうから気をつけてね!
 これまでの旅路、ずっと山や川を見てきたイメージだったのに対し、今は遠くに山が見える平地をずんずん進んでいる。首都へ近づくにつれ、これまで町や村以外で見かけなかった家屋がぽつぽつ見られるようになり、徐々に人の気配が漂うようになった。

 川のそばに水車を携えた小屋のような家。おっきな臼で穀物を挽き白い粉をつくってる家。かこいを作りその中でトリさんたちを育ててる家。人や暮らしもバラバラで、すれ違う人も職業によって色とりどりの服装をしてるんだと実感した。

 白い粉は水を混ぜてこねるとちょっとした塊になる。それを焼いて食べるとすっごくおいしくてエネルギーが溢れてく気がするのだ。元気いっぱい胸いっぱいになったところで恒例の訓練になるのですが、オジサンの動きがさいきんおかしーのです。

「チェックメイト」

「ぐぬぬ」

 お忍びしたつもりがぜんぜん忍べてない! 今まででベスト隠密のはずがなぜバレたし。

「むぅ~」

 くやしさに思わずほっぺがふくらんだ。対照的に髭面はなんとも涼しい顔。だからこそ余計ににくらしい。

(もうっ、まえわたしに暗殺されたからってムキになりすぎじゃない?)

 はじめはお遊び気分ではじめたニンニンスタイルが、今やガチモンの訓練に成りかけている。いや成り果てている。それはそれで狩りのときとかお役立ちになるけど、ここまでレベルアップする必要なくない? これじゃまるで本当に人を――いやいやその発想はパス。

「なあビシェル。グレースがどこに潜んでたかわかった?」

「いや、まったく見えなかった。スプリットは?」

「オレも。どっからどういうルートとったのかすらわからねぇ」

「ふたりで見えなきゃアタイが見えるわけないね」

「チャールズさまはどうやってグレースさまの動きを看破したのですか?」

「さあな。とりあえずわかったことは、グレースはおっさんの暗殺に失敗したってことだ」

 この戦いを観戦していた評議会のみなさま。そのうちふたりはこの状況の分析を試み、もうふたりははじめからナゾナゾの答えを放棄している。崩れかけた石壁によりかかり、それぞれ自由気ままにことの感想を述べまくっております。

 メインの通りからちょっと逸れた林の手前。そこに今は古びた石造りの建物があった。屋根が完全に破壊され、今は土台と壁だったものがぽつぽつ残ってるくらい。それがいい感じに障害物の役割を果たし、複数ルートからターゲットに狙いを定めることができた。

 いわゆるひとつの廃墟というヤツだ。

「いい運動になった。今日はもう少し歩くぞ、近くに宿があったはずだからな」

 わたし疲れたのですが? っていうことばは押し込んでちゃっちゃと荷造りしましょ。言って、この廃墟を見て思いつきではじまった訓練なので大して時間はかからず、川に沿って舗装された道を歩いていきます。

 町以外ではほとんどこうやって歩き旅。たまには馬車使ってもいーじゃんという意見はドブに捨てられ、数日かけて次の拠点へという日常を送っていたためにすでに井戸端会議の話題は尽きて、なんていうこともなく本日もだれかが口をひらくのをキッカケに会話がはじまりました。

 沈黙を破る人はだいたい黙ってられない少年もしくはわたしなのですが、今回は何を思ってか先頭のオジサンがこちらに振り返ったのだ。

「そういえば、おまえたちは何歳なんだ?」

「えっ」

 オトメにそんなこと聞く?

「なんだその顔は。トシを気にする世代でもないだろ。それとも知られたくないのか?」

「そんなことないけど」

 べつだんシークレット属性でもないのであっさり薄情するわたし。ってことでかわいい少女の年齢初公開だよ!

「いっさいと、ちょっとくらい?」

 それを聞いてオジサンが破顔した。

「あっはっはっは! まだよちよち歩きじゃないか」

「ウソじゃないもんホントだもん! ってあれ?」

 ほんとだよね?

 あれ。

(ちょっとまって)

 わたしなんさいだったっけ?

「えーとぉ」

「どうした? まさか、これをセクハラ呼ばわりしないでくれよ?」

 ちょっとまて思い出せ、まさかこんなことまで忘れちゃった? いやいやそんなこたぁない自分の年齢くらい思い出せさあ思い出せ。

「……じゅうななさい?」

「なんで疑問形なんだよ」

 となりの少年が頭のうしろに両手をやった。

「じゃあスプリットくんは?」

「オレか? オレは――オレはぁ」

 固まった。

「なに恥ずかしがる?」

「ちげーよ! ああ、そうだ、オレはいまじゅうななさいだ、たぶん」

「多分って、異世界人は年齢を気にする文化でもあるのか」

「じゃあオジサンは?」

「気持ちは二十代前半だ」

「実際は?」

「さあな」

「ズルい!!」

 わたしは吠えた。

「おしえて! ねえおしえてよ!」

「うるさいわかったわかった、おまえらの親くらいの年齢だよ」

「おしえてないじゃん!」

「私たちの親、すると二十歳くらいか」

「ビシェルおまえまで……」

 オジサンは驚愕と呆然が入り混じった表情になった。
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