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作者: 犬物語
これからもオトモダチでいよう
大活躍した後、わりともてはやされない説
 よくはたらく暗殺者系女子はいかがっすかー。

 おしごと募集中でーす。隠密スキルひととおりそろってまーす。恨みある人やノドから手が出ちゃうほど欲しい他人のブツありませんかー。

「じゃなくて」

 マトモなおしごとを探してます。本日シュナウザー滞在最終日なのです。明日の朝いちばんに出立なので、とりあえずその日限りのジョブをサーチングです。

 ナゾの巨大モンスター討伐によって知名度もり上がったはず。なのに妙におしごと依頼が来なくて、ギルドの受付さんにもお断りされて、テキトーな張り紙を見渡しても本日限りのおしごとが見つからず。しかたないので今はお外にでて町中をおさんぽ中。つまりいつもの日常を過ごしているところ。

「うーん、やっぱモンスター退治が効いてるのかなぁ」

 冒険者を名乗る人、ギルドに加入したばかりの人はまず安い仕事をこなして信用を得たり戦力を証明したりでより大きな仕事を得る。その過程で報酬額も増えていき、たとえかんたんな依頼でも高名な冒険者にはそれなりの報酬を払うことになる。

 わたしたちは(実際にはちがうけど)町近くに現れたモンスターを討伐した一行である。しかもそのひとりに二十年前の戦いの英雄がいたということで大盛りあがり。オジサンはもちろんわたしたちまで妙に有名になっちゃったし、まさかそのせいで敬遠されてるとかないよね?

(知らぬ間に依頼料マシマシになってるとか? いやーでもそれはオジサンが止めると思うし)

 うーんうーんと唸ってたらお役所に戻ってきちゃってね? ダメ元で「なにかおしごとないですか?」とリベンジしてみたら渋々顔で本日限りのお仕事を紹介してもらいました。

 依頼書には「高いところにある果物を収穫してほしい」と書かれてた。木によじ登って、そこに実ってる果物を切り取って、背中にせおったカゴへ入れてく流れ。ほいほい言われるままにやってみたけどなーんかメンドウ。そこでわたしは考えた。なんとかこの作業をらくちんにできないものかと。

 ふと目に入ったのは切れ味鋭い投げナイフ。当適用にデザインされたそこそこ芸術性も高いシロモノです。

 それをどうするかってとまあ投げるよね。オジサンのスパルタ教育のおかげで、たかだか建物の数倍程度の高さくらいなら百発百中なのですよ。んで果物と枝を切り離すんだけど、そしたら実が落ちてくるじゃん? それをあらかじめ用意しておいたふろしきで受け止めるっていう寸法。さいしょはちょっち失敗しちゃったけどコツを掴んでからはもうあっさり。

 契約では畑一面ぶん。想定した十分の一の時間で終わらせたら依頼主も「え? もうおわったの?」って驚くよね。え、失敗しちゃったさいしょのぶんはどうしたって? ――そりゃあもう、わたしが責任をもって処分むしゃむしゃさせていただきました。証拠隠滅ぅ? まぁたゴジョーダンを。

 チコちゃんが働く旅館、花の七草での日常もこの日がさいご。お料理をする人がこの日のためにといって、なんと鮮度バツグンのお刺身を振る舞ってくれました。なまのサカナですよなまの!

 この世界では相当珍しいというか生魚食う発想自体がない? らしくてオジサンなんか「うぇぇ」って顔で見てたね。塩漬けにしたのかしつこく聞いてるしよく噛んで食べろよってうるさいしわたしは子どもじゃないよ。

 みんながしょうゆ付けて食べるのを見ておそる恐るって感じだった。でも口に入れたその瞬間からオジサンの表情がまるっきし。そこからはアレもコレもひょいひょいつまんで食べてすっかり刺し身のトリコ。異世界じゃあたりまえのように食べられてたんだけどなぁ……あれ、でもわたし食べた記憶がない。

「あ、もともと記憶がないんだった」

「なに独り言つぶやいてんだ?」

「ううん、なんでもない」

 スプリットくんの視線は軽くスルーして、そうそうチコちゃんとさらに仲良しさんになったんだよ! いっしょに温泉にも入ったんだよねー! ちなみにドコとは言わないけどふつうの大きさでした。

 ビーちゃんは例の武器屋さんと、オジサンは酒場のべらんめえと、サっちゃんは鉱山で働く仲間たちと、スプリットくんはいつの間には町のいろんな人と仲良くなってた。オトモダチが増えるのはとてもうれしいことだけど、それでも時が過ぎればいずれ別れの瞬間がやってくる。

 でも、たのしい一週間だったよね。

 新しい朝を迎え、最終日のこの日ばかりはみんなの耳栓を外させていただきモーニングコールをして、みんなの背中を押してせっせと荷造りをする。カーテンを開け陽の光を浴びれば、新しい気持ちで一日を迎えることができた。

「お見送りしてくれてありがと!」

「お仕事のひとつですよお。でも、おしごとじゃなくオトモダチとしてもお見送りしたいと思いましたから」

「んーだいすき!」

 この町でであった新しいオトモダチに抱きつく。この瞬間を二度と忘れないように。

「あなたとわたしずっ友ォウ!」

「ずっともー」

「ふっ、なんだそれは」

「ビーちゃん知らないの? オトモダチはこれやんなきゃダメなんだよ! はずっ友!」

「はいはいずっともずっとも」

「世話になったな。ついでにオトモダチ価格でサービスしてもらえれば最高だったんだが」

「商売は商売ですよお。それにお値段を決めるのはウチじゃないですもん。ねえ女将さん」

 と振り向くチコちゃんの視線の先にはひとりの女性。雅な着物に身を包んだ妙齢のおねーさんがうふふと笑顔を見せております。

「ひと月お泊りいただけるならもっとお安くなりますのに」

「そこまで滞在しては腰が重くなってしまうよ。まあ、商売繁盛がいちばんだ」

 地面に置いていた荷物を持ち上げ、我らがリーダーが出立の時を告げる。

「それでは」

「今後ともごひいきに」

 旅館らしくうやうやしい礼。おかみさんにチコちゃん、それから中居さんたち数人がお見送りに来てくれるなか、わたしたちは花の七草に背を向け歩き出す。

 町の出口へ、そしていよいよ目的地であるアイン・マラハの首都フラーへと旅立つのだ。

「首都ってことは人がたくさんいるんだよね?」

「ヒガシミョーすら比較にならんほどな」

「迷子になるんじゃねーぞ?」

「スプリットくんこそ!」

「フッ」

「ちょ、ビーちゃんなんで笑ったの! それならちっちゃいグウェンちゃんのほうが迷子になりやすいじゃん!」

「あたしを巻き込まないでください!」

「みんなしてなにを下らない話してるんだい」

「サっちゃんは迷いようがないからいーじゃん」

「はぁーんそりゃあどういう意味だグレース」

「いったあ! 地面にめり込むかとおもったあ!」

「……やれやれ」

 賑やかな旅。この道筋でもいろいろな人とすれ違い、声と声を交わし、フラーまで続いていくんだろう。

(ずっと続けばいいなぁ)

 この時のわたしは心からそう思ってた。だから、わたしは心の底から笑顔でいられたんだ。

 ずっとずっと続く旅路を信じて、わたしはこれからも歩いていく。フラーまであともう少しだ!
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