異世界人だけのスキル
ナゾの少女あらわる
「うそ」
思わずそんな声が口から漏れてしまう。木のてっぺんと同じ身長の巨人。すべてを薙ぎ払いサっちゃんの体当たりに耐え、オジサンの攻撃にいちどは傾くも反撃したあの巨人が沈黙している。
(ほんとうに目が弱点だったんだ)
倒れたとして巨人は巨人である。厚みが人間の数倍はあるため、今の高さでも巨人の目がどうなってるかを確認することはできない。けどさっきの少女が放った一撃はとても強力なもので、脆いめだまならかんたんに粉砕できるだろう威力をもっているようだった。
(そうだ! あの子は?)
何らかのスキルをサイクロプスの目に放ったのなら、今もそこにいるはずだ。
「よぉーし、んっしょ、よいしょ」
まっかな身体の肩口からよじ登っていく。頑丈でカタい肌は人が押し付けてもビクともせず、わたしは崖を登るような気持ちでモンスターの身体を踏破していく。そしててっぺん、つまりお腹まで到達したところでひと息つき、そこにいるはずの人間の姿を探す。
いた。
「おーい!」
彼女は巨人の胸のぶぶんで悠然と佇んでいた。ビーちゃんのように大きくないしグウェンちゃんみたいにちんちくりんでもない。ただ引き締まった背中が彼女の身体能力を物語っている。
「……」
「助けてくれてありがとう! ねえねえアナタはだれ? なんでこんなところにいるの? スキル使ったってことは異世界人だよね?」
「……はぁ」
呆れたようなため息をつき、彼女はこちらに振り向いた。
きれいな顔をしていた。
「質問はひとつに絞れ」
それだけで人を貫けるような鋭い目つきだった。長い黒髪だけど頭頂部から額にかけた部分だけが白く、堂々としているようでこちらのことを伺うようなミステリアスさも感じる。
手には刃渡り50センチくらいの爪。鋭いものが4本伸びて、そこから色のついた液体が滴っている。たぶんそれで巨人の目を貫いたのだろう。
「おまえも異世界人か」
「うん。わたしグレースって言うの。あなたは?」
「おれの名前なんてどうでもいい」
(まさかのおれ少女!?)
「ここにもモンスターが現れるようになったか……またバグってんじゃないだろうな」
「え? なになんのはなし?」
「あんたには関係ないよ」
「そんなこと言わないでよオトモダチじゃん!」
「はあ?」
少女が目を見開いた。
「いつおれがおまえの友達になったんだよ」
「いま」
「勝手にするんじゃねえ」
「そんなこと言わないで付き合ってよ」
「断る」
「じゃあまずはオトモダチからで」
「だから勝手に話を進めるな!」
えーいいじゃん減るもんじゃないし。
「ねーねー名前くらいおしえてよー」
「はぁ……こっちの世界にもあかりみたいなバカがいるとは」
「あかり? だれそれ」
「気にするな」
言って、少女はまた背を向けた。
「おれの名前はさくら。めんどくさいからモンスターはあんたらが倒したことにしといてくれ」
「え、ちょっと?」
静止も聞かずに跳んでった。って、え?
「うそ――消えちゃった」
いや、消えてないけど、消えたくらいにビュン! って飛んでったというかジャンプしたっていうか。
「グレース!」
うしろから少年の声が聞こえる。見ると、彼は剣を巨体に突き刺してよじ登ってきたらしく、剣がちょっとヨゴれてた。
「だれと話してたんだ」
「さくら」
「だからだれだよ」
「わかんない」
「わかんないって、おめーなぁ」
こちらの傍を通り過ぎモンスターの顔のほうまで行く。それから目の部分をまじまじと見ながら、彼は眉間にシワを寄せるのでした。
「うへぇかんっぜんに潰れてら。目ンたまとは言えこれはとんでもねぇ威力だったろうな」
「グレース、スプリット聞こえるかー」
「あ、オジサンの声だ。きこえるよー! 巨人さんは完全に仕留められましたー討伐完了でーす」
「わかった。負傷者の応急処置をするから手伝ってくれ。グウェンが治療が必要な者に対応してるから、お前たちは動けない兵士たちを救助するんだ」
「はーい! ――さくら」
彼女が消えていったほうに目を向ける。まぶしい光が山々の情景にマッチしてとてもキレイ。
「なんだろう、また会える気がする」
根拠なんてないけどそんな気がする。じゃなければこちらから会いに行くから。
さくらに言われたとおり、モンスター討伐はわたしたちの手柄になりました。
けっこうな数の金貨をもらいウハウハなオジサンと、それを酒に使わせたくないビーちゃんとでひと悶着あったのは別の話。後処理や軍、自警団の人たちに感謝されつつ旅館にもどり、それまでの戦いがウソのようにもとの静寂をとりもどしていった。
っていうのも、お役所への手続きや各方面の対応はすべて最年長の保護者ポジが引き受けていたからだ。なので逆にオジサンはてんやわんやで、朝から晩まで引っ張りだこになっていました。すべてを終えぐったりしてたはずが「酒場が私を呼んでいる」などと意味不明な供述をした後に行方不明になってしまった。まあ行き先は想像つくよね。
「ってなことがあったんですよ」
「ひえぇぇ、あまりムリしないでくださいよー」
もはや定位置となった休憩所の一角で干物を口にはさみつつ、たまたま空き時間となったチコちゃんにこれまでの冒険譚を語ってみる。その日の晩なのでまだ疲れが残ってたけど、温泉にどっぷり浸かってたら元気マシマシになっちゃったもんね!
「みなさんお強いんですねぇ……おらあスキルは使えるけどそんな戦いやる気おきないですよー」
「え、チコちゃんもスキル使えるの?」
「使えますよーほら、スキル、鑑定」
シュインっていった。
チコちゃんの目元にメガネっぽいのが見えた。なにか文字が書いてあるようだけどこっちからは逆になってるから見えにくい。
「すご! なにそれなにそれ!」
「なんか、見た相手を鑑定できるらしいんですけどー……あらまあ」
「どしたの?」
「グレースさん、さいきん食べ過ぎだったりしませんか?」
「えっ」
まあ、心当たりないこともないけど、それはいったいどういう意味でござりましょうか?
「体重の項目がちょっと、あ、でもいろんな旅してるから筋肉なんですかねー」
「わあああああ見るな見るな見るなあ!」
ソレはオトメのヒミツだろォ! オトモダチでもやっていいこととわるいことがあるんだからね!
「そうは言っても見えちゃうものだしぃ」
「あっち見てあっち! とにかく視線を逸らして!」
「効果はすぐ切れるからだいじょうぶですよー」
宣言通り、シュインって出てきたメガネが消滅した。しかしチコちゃんがわたしのヒミツに触れたことは事実であるからしてギルティ。
「いまのは忘れて! いいねゼッタイだよ!」
「あはは、なんかごめんなさいね。でもスキルって異世界人だったらみんな使えるものなんですか?」
(え?)
それは、どうだろう?
「うーんわかんない。わたしとビーちゃんでは使えるスキル違うし、あと治療魔法とか攻撃魔法とかいろいろあるし、チコちゃんはそういうのつかえる?」
わたしの問いに、着物姿の少女は首をよこに振った。
「たたかうためのスキルなんて、ウチは鑑定とかそういうものばかりです」
「そうなんだ、ふしぎだね」
そういえば、あの魔法使いの子は自分でそういうジョブにしたって言ってたなぁ。
「スキルってなんだろ」
「さあ」
ふたりして「?」って感じになった。
わからないからそのままほっといた。
思わずそんな声が口から漏れてしまう。木のてっぺんと同じ身長の巨人。すべてを薙ぎ払いサっちゃんの体当たりに耐え、オジサンの攻撃にいちどは傾くも反撃したあの巨人が沈黙している。
(ほんとうに目が弱点だったんだ)
倒れたとして巨人は巨人である。厚みが人間の数倍はあるため、今の高さでも巨人の目がどうなってるかを確認することはできない。けどさっきの少女が放った一撃はとても強力なもので、脆いめだまならかんたんに粉砕できるだろう威力をもっているようだった。
(そうだ! あの子は?)
何らかのスキルをサイクロプスの目に放ったのなら、今もそこにいるはずだ。
「よぉーし、んっしょ、よいしょ」
まっかな身体の肩口からよじ登っていく。頑丈でカタい肌は人が押し付けてもビクともせず、わたしは崖を登るような気持ちでモンスターの身体を踏破していく。そしててっぺん、つまりお腹まで到達したところでひと息つき、そこにいるはずの人間の姿を探す。
いた。
「おーい!」
彼女は巨人の胸のぶぶんで悠然と佇んでいた。ビーちゃんのように大きくないしグウェンちゃんみたいにちんちくりんでもない。ただ引き締まった背中が彼女の身体能力を物語っている。
「……」
「助けてくれてありがとう! ねえねえアナタはだれ? なんでこんなところにいるの? スキル使ったってことは異世界人だよね?」
「……はぁ」
呆れたようなため息をつき、彼女はこちらに振り向いた。
きれいな顔をしていた。
「質問はひとつに絞れ」
それだけで人を貫けるような鋭い目つきだった。長い黒髪だけど頭頂部から額にかけた部分だけが白く、堂々としているようでこちらのことを伺うようなミステリアスさも感じる。
手には刃渡り50センチくらいの爪。鋭いものが4本伸びて、そこから色のついた液体が滴っている。たぶんそれで巨人の目を貫いたのだろう。
「おまえも異世界人か」
「うん。わたしグレースって言うの。あなたは?」
「おれの名前なんてどうでもいい」
(まさかのおれ少女!?)
「ここにもモンスターが現れるようになったか……またバグってんじゃないだろうな」
「え? なになんのはなし?」
「あんたには関係ないよ」
「そんなこと言わないでよオトモダチじゃん!」
「はあ?」
少女が目を見開いた。
「いつおれがおまえの友達になったんだよ」
「いま」
「勝手にするんじゃねえ」
「そんなこと言わないで付き合ってよ」
「断る」
「じゃあまずはオトモダチからで」
「だから勝手に話を進めるな!」
えーいいじゃん減るもんじゃないし。
「ねーねー名前くらいおしえてよー」
「はぁ……こっちの世界にもあかりみたいなバカがいるとは」
「あかり? だれそれ」
「気にするな」
言って、少女はまた背を向けた。
「おれの名前はさくら。めんどくさいからモンスターはあんたらが倒したことにしといてくれ」
「え、ちょっと?」
静止も聞かずに跳んでった。って、え?
「うそ――消えちゃった」
いや、消えてないけど、消えたくらいにビュン! って飛んでったというかジャンプしたっていうか。
「グレース!」
うしろから少年の声が聞こえる。見ると、彼は剣を巨体に突き刺してよじ登ってきたらしく、剣がちょっとヨゴれてた。
「だれと話してたんだ」
「さくら」
「だからだれだよ」
「わかんない」
「わかんないって、おめーなぁ」
こちらの傍を通り過ぎモンスターの顔のほうまで行く。それから目の部分をまじまじと見ながら、彼は眉間にシワを寄せるのでした。
「うへぇかんっぜんに潰れてら。目ンたまとは言えこれはとんでもねぇ威力だったろうな」
「グレース、スプリット聞こえるかー」
「あ、オジサンの声だ。きこえるよー! 巨人さんは完全に仕留められましたー討伐完了でーす」
「わかった。負傷者の応急処置をするから手伝ってくれ。グウェンが治療が必要な者に対応してるから、お前たちは動けない兵士たちを救助するんだ」
「はーい! ――さくら」
彼女が消えていったほうに目を向ける。まぶしい光が山々の情景にマッチしてとてもキレイ。
「なんだろう、また会える気がする」
根拠なんてないけどそんな気がする。じゃなければこちらから会いに行くから。
さくらに言われたとおり、モンスター討伐はわたしたちの手柄になりました。
けっこうな数の金貨をもらいウハウハなオジサンと、それを酒に使わせたくないビーちゃんとでひと悶着あったのは別の話。後処理や軍、自警団の人たちに感謝されつつ旅館にもどり、それまでの戦いがウソのようにもとの静寂をとりもどしていった。
っていうのも、お役所への手続きや各方面の対応はすべて最年長の保護者ポジが引き受けていたからだ。なので逆にオジサンはてんやわんやで、朝から晩まで引っ張りだこになっていました。すべてを終えぐったりしてたはずが「酒場が私を呼んでいる」などと意味不明な供述をした後に行方不明になってしまった。まあ行き先は想像つくよね。
「ってなことがあったんですよ」
「ひえぇぇ、あまりムリしないでくださいよー」
もはや定位置となった休憩所の一角で干物を口にはさみつつ、たまたま空き時間となったチコちゃんにこれまでの冒険譚を語ってみる。その日の晩なのでまだ疲れが残ってたけど、温泉にどっぷり浸かってたら元気マシマシになっちゃったもんね!
「みなさんお強いんですねぇ……おらあスキルは使えるけどそんな戦いやる気おきないですよー」
「え、チコちゃんもスキル使えるの?」
「使えますよーほら、スキル、鑑定」
シュインっていった。
チコちゃんの目元にメガネっぽいのが見えた。なにか文字が書いてあるようだけどこっちからは逆になってるから見えにくい。
「すご! なにそれなにそれ!」
「なんか、見た相手を鑑定できるらしいんですけどー……あらまあ」
「どしたの?」
「グレースさん、さいきん食べ過ぎだったりしませんか?」
「えっ」
まあ、心当たりないこともないけど、それはいったいどういう意味でござりましょうか?
「体重の項目がちょっと、あ、でもいろんな旅してるから筋肉なんですかねー」
「わあああああ見るな見るな見るなあ!」
ソレはオトメのヒミツだろォ! オトモダチでもやっていいこととわるいことがあるんだからね!
「そうは言っても見えちゃうものだしぃ」
「あっち見てあっち! とにかく視線を逸らして!」
「効果はすぐ切れるからだいじょうぶですよー」
宣言通り、シュインって出てきたメガネが消滅した。しかしチコちゃんがわたしのヒミツに触れたことは事実であるからしてギルティ。
「いまのは忘れて! いいねゼッタイだよ!」
「あはは、なんかごめんなさいね。でもスキルって異世界人だったらみんな使えるものなんですか?」
(え?)
それは、どうだろう?
「うーんわかんない。わたしとビーちゃんでは使えるスキル違うし、あと治療魔法とか攻撃魔法とかいろいろあるし、チコちゃんはそういうのつかえる?」
わたしの問いに、着物姿の少女は首をよこに振った。
「たたかうためのスキルなんて、ウチは鑑定とかそういうものばかりです」
「そうなんだ、ふしぎだね」
そういえば、あの魔法使いの子は自分でそういうジョブにしたって言ってたなぁ。
「スキルってなんだろ」
「さあ」
ふたりして「?」って感じになった。
わからないからそのままほっといた。