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作者: 犬物語
ひとつ目巨人と新たな異世界少女
モンスターには弱点があるもの
 一斉に動く。

「スキル、俊足しゅんそく

 スプリットくんが先陣を切る。詠唱にあわせビーちゃんが矢を放ち、こっちもナイフをばらまいた。

 この距離じゃたいした威力はないけど、あのまっかっかなやつの気を引くことくらいはできる。

(サっちゃん目立つからこっちに誘導してあげないとね)

 さて、ほどよくみんなバラけたところで次は――ッ!

「うわっと!」

(ちょ、この距離から攻撃とどくの!?)

 ながーーーーい手が飛んできた。っていうかウデ伸びなかった? 続けざまの攻撃に警戒しつつ、すでに戦い負傷した兵士たちの救助にもまわっていく。グウェンちゃんに攻撃の手がまわらないよう引き付けなきゃ。

「だいじょうぶ?」

「は、はい。あなたは?」

「さすらいの冒険者だよ! ちょっとまってて、いま治療アイテムを」

 しゃべりつつ布袋に手をつっこむ。そこには予備の武器のほかいろんなアイテムを忍ばせております。もちろん回復アイテムだってあるよ!

「気をつけろ。や、ヤツの腕は伸びる」

(やっぱりそうだ。見間違いじゃなかった)

「わかった、ありがとう!」

 射程範囲外とおもう場所に避難させ次の攻撃にうつる。

「みんなーきいて! サイクロプスはウデのびるってーああビーちゃん!」

 ときすでにおそし! 色白長身弓兵おねーさんがぽっかり開いた穴に倒れてる!

「ぅ、くっ」

「ビーちゃんだいじょうぶ!?」

「ああ、受け身をとったから……油断した。まさかあんな攻撃をしてくるとは」

「思った以上に射程長いから注意しないとね」

「ああ。だが好都合だ」

「え?」

「スプリットが懐にはいった。近距離ではヤツの長所も意味あるまい」

 ビーちゃんが示すとおり、スプリットくんは忍者みたいな足の回転で巨人の両足の間に入り込んでいた。そのまま足、というより指先を切りつけたり距離をとったり。相手が蹴ってくるのに合わせてきちんと避けて、さすがオジサンにしごかれまくっただけあるよね。

 それだけじゃなく右手になんか持ってる。あれはロープかな?

「グレース、私のことはいいから援護をして」

「わかった!」

 さいごに回復アイテムをひとつ置いて、わたしは予備のナイフを数本指先にあそばせた。走り出すと同時に視線もはしらせ、身を潜めるオジサンとつっこんでいくサっちゃんを視認する。グウェンちゃんはどこかで回復につとめてるのだろう。

「今のうちにやれー!」

 隊長らしき人が掛け声をあげ、兵士たちがふといロープをいっせいに引き上げた。それはスプリットくんがモンスターの足元に仕込んだそれと同じ色で、ピンと引っ張られたことでそれらが締まり、サイクロプスの両足に絡みつく。

 かかった。けど、そびえ立つ巨人の身体が崩れることはなかった。

「オオオオォォォォォォオオアアアアア!!」

「なにぃ!」

 逆に足を引っ張り上げる。兵士たちはやられまいと踏ん張るも一瞬のまたたきで勝負がつき、その勢いで空中に放り出された彼らに金棒が振り落とされる。

(ダメ!)

「スキル、俊足すごくはやい!」

「スキル、サイドチェスト突進!」

 ふたつの声が重なった。こっちは投げ出された人の軌道を逸らし、方や渾身の突撃を足首にくらわせ巨人のバランスを崩れさせる。

 でも倒れない。

(サっちゃんの全力なのに……だったらあのスキルを使うしか)

「トゥーサそこを動くなよ!」

 オジサンが剣を構えて影から身を乗り出した。スキルなんてなくてもオジサンは疾い。地面を這うように接近し、そのままありとあらゆる箇所に剣を突き立てていった。

「モンスターと言えどつくり・・・は同じだろう。スネへの強烈な一撃はどうだ!!」

 飛翔し、その箇所に深々と剣を突き刺した。瞬間巨体が揺れ、耳をつんざくような怒号が鳴り響く。

 それだけじゃない。

(オジサンッ!)

 巨体がうごく。ウデが伸びる。じぶんのスネに剣を突き立てた張本人に制裁を与えようと金棒を振るう。

 当たる。そう思ったとき身体から火が吹き荒れた。

「スキル、変身トランスファー!」

「グレース!」

「オジサン手を!」

「くぅ!」

 呼びかけた声に応え、彼は武器から手を離しこちらに広げる。ぱし、という音。てのひらに確かな感触。

「しっかりにぎってて!」

 急いでその場を離脱する。直後に凄まじい風圧があって、さっきまでオジサンがいたところを巨大な金棒が通過していった。いびつな形状のそれにはいくつものトゲがある。直撃したらちっちゃい人間なんてひとたまりもなかっただろう。

「おっさん無事か!」

「安心するのはまだはやいぞ。結局転ばせられんかった」

 根本まで刺さったままの剣も、あの巨体の前では針みたいなものらしい。乱暴にひっこぬいて投げ捨てただけで、その剣はどんな投擲機でも実現できないほどの衝撃を生んだ。

「なんてヤツだ、なんか弱点はないのか」

「ンなのあったら苦労しねーよ」

「ムリやり絞りだせってんなら、アタイはあの目んたまが弱点だと思うけどね」

 サっちゃんがひとつしかない目を指さした。

「あんなとこビシェルの弓だってとどかねーだろ」

 打つ手なし、と思われたところでオジサンがこっち向いた。

「グレース、その状態でナイフを投げればいいダメージになるんじゃないか?」

「うぇ?」

 言われて、サイクロプスを見て、そこについてる目を見て、ここからそこまでの距離感を測った。

(んー、できるかも。でもこのかっこ疲れるからはやくしないと)

「目が弱点なんだな」

「そう、目が――ってえ?」

 いまだれかしゃべった?

「わかった、すぐ終わらせる」

 周囲を見渡しても口を開いた人はいない。ううん、声はどこか遠くから聞こえてくる。オンナの人の声、いったいどこに?

「あそこだ!」

 ビーちゃんがはるか頭上に腕を伸ばした。その先の木のてっぺんにひとりの女性が立ち、サイクロプスとおなじ高さで悠然と腕を組んでいる。

「スキル、一閃いっせん

 木のてっぺんに立ってた。なのに彼女はふつうに跳んで、一瞬でモンスターの眼前に迫って、獲物のながい爪をそのまま前に突き出した。その先にあるのは、サイクロプス唯一の眼。

「グォォォォオオオオオオオオオオオオ!!!」

 断末魔を上げた巨人が背中から倒れ、そのまま動かなくなる。多くの人を巻き込んだ戦いは、ひとりの少女の出現によりあっけなく終焉を迎えた。
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