力の方向性
人間と欲望と力
よくわかんないけど、夜の街はめっちゃたのしいらしい。
いろいろな"あそび"ができるんだって。みんなで競争とか追いかけっことか、わぁ室内じゃムリだし、んじゃテレビゲームかな?
そもそも、ふだんはグータラしてるオジサンがそんな遊び好きになるかな? 夜にオジサンがすることといったら酒場でいろんなお酒を呑んで、はじめて会った人とおはなしするくらいな気がする。
オトモダチがたくさんできるのはいいことだけど、それって"あそび"なのかな? お酒を呑んだオジサンってなんか独特のニオイするんだよなー。あとヘンに絡んできたり饒舌になったり。
いま、わたしたちはそんなチャールズオジサンみたいな人たちが集まる場所へ向かってる。近づくにつれどんどん光がいっぱいになって、人が増えて、騒がしくなって。
その場所に来た時、騒がしさが"あそび"じゃなかったことに気づいた。
「なぜこんな所にマモノがッ!?」
となりを走ってた少年が叫ぶ。まだうっすらとしか見えないけど、わたしたちが目指している先にマモノがいた。そして、マモノの攻撃を受け空中に弾き飛ばされる女性の姿があった。
「ビーちゃん!」
「私は無事だ! 気をつけろもう一体いるぞ!」
その言葉を斬るように、建物を突き破って眼前にクマのようなマモノが現れた。
「スキル、俊足!」
スプリットくんが地面を這って股の間をくぐる。背後から首筋へ一撃を加えたけど、その剣は打ち返されたように弾かれる。
「クッ、かてぇ」
「へぇ、ならこれはどーだい。スキル、サイドチェスト!」
サっちゃんが片方の手首を掴み、肩を張り上げてマモノに突撃する。
スプリットくんに気を取られてたマモノは、サっちゃんのそれをマトモにくらい唸り声をあげた。
「とった!」
倒れたクマの腕をとり、足を絡めて関節を極めた。
「マモノだかなんだか知らねーが、動物の形がある以上関節技は効くようだな。さあ今だよ!」
「応!」
叫んだオジサンが胸に剣を突き立てる。マモノは断末魔の叫びをあげ、そして黒い霧となって消えた。
「ビシェルはどうした!」
「こっちにいるよ!」
わたしはビーちゃんが飛ばされた場所へ駆けつけていた。彼女と戦っていたのは大きなクモ型のマモノで、ホンモノと同じような黒い糸を吐き出して攻撃してくる。
辺りにはたくさんの黒い糸が絡んでて、わたしはそれに触れないように建物の影にかくれてる。
(あの糸、ぜったいネトネトするやつだよね)
くっついてきて、暴れれば暴れるほど抜け出せなくなっていく。そして動けなくなった獲物たちをあのクモは狩っていくんだ。
「ヤツの糸に触れるな。くっつくだけでなく身体が痺れる」
「わかった」
こっちを見失ったクモはあたりを見渡している。わたしはそれに見つからぬよう身体を低くして、ガレキの下に隠れつつチャンスを伺う。
さっきのクマ型のマモノがだいぶ暴れまわったみたい。周辺には多くの破壊の跡があり、図らずともこちらにとって有利な地形になっていた。
「へぇーなかなかやるじゃん!」
(え?)
この声って、あの猫背でガリガリしたヤツの?
「まさかゲームの隠し要素じゃねーだろうな? だいたい十人にひとりの割合だが、こいつにこんな使い道があるとは思わなかったぜ」
わたしは声の出どころを探った。みぎ、ひだり、そしてうえ。クモ型マモノの背後にある高い建物の屋上。
そこから身を乗り出してマモノの様子を見ている彼は、人が泣き叫び、建物が倒壊し、多くのケガ人がいるこの状況をわらって見ていた。
(なんでこんなヒドイのにわらってられるの!?)
それにさっきのセリフにイヤな予感がよぎる。彼はそんな不安の中心をぶち抜く言葉を放った。
「バカとニンゲンは使いようってな。水だけじゃああの教会にいたモルモットくらい時間をかけなきゃいけねぇが、ヤツからもらったクスリをまぜりゃすぐ効果が現れる。へっ、アイツはいったい何を企んでるんだか」
(――ゆるせない)
あのマモノは、人間だ。
さっきまで楽しくあそんでたはずのひとたちだ。
(なんで――なんで!?)
わたしの獲物はあの子じゃない。アイツだ。
「スキル、変身」
クモの糸を引き裂き、わたしは彼のノド元に切っ先を向けた。
「ッ!! ――あぶねぇ」
「……なんでこんなことするの?」
「てめぇマジでヤりに来てたな。相変わらずヘンな姿しやがって」
「こたえて。なんでこんなことするの?」
「そー怒ンなよ。オレさまたちはただモルモットを使って実験してるだけだぜ?」
わたしは静かに武器を構える。
「まるでコッチがワルモノだと言いた気な態度だな……だけどよ、オレらだってモルモットみたいなもんなんだぜ? 望みもしねー世界にぶち込まれて実験材料にされてる哀れなモルモットさ」
「言いたいことはそれだけ?」
心臓を狙う。
「スキル、俊足」
かわされた。続けて首、頭、足の付け根。
「チッ、手加減ナシかよ!」
(当たらない――なんで)
さっきの戦闘では圧倒的な差だった。けど今はすべての攻撃を避けられて、ううん。やっぱりこちらが有利のはず。
「ッヘヘ、どうやら力を使いすぎたようだな」
男が大きく後ろに跳ぶ。わたしはそれを追いかけようとして、足がうまく動かないことに気付いた。
「鈍ってるぜ。その姿を維持するにはケッコーな体力を消耗するみてーだなァ」
「……」
「ってか忘れてねーかァ? てめーの相手はオレさまひとりだけじゃねーってことをよ!」
「ッ!」
背後から黒い糸が伸びる。
「チッ、外したか」
「あのマモノは人間なんだね」
クモ型のマモノから死角になる位置へ移動し、さらに高い位置へ飛び退いた猫背の男に身体を向けた。
「ああそうだ。ちょーどイイ感じに縛りプレイを楽しんでたバカップルがいてよォ。ったく制作者めどんだけ精巧にこの世界をデザインしてんだよ」
(しばり、なにそれ?)
怪訝な表情を見せたわたしを見て、男はわらった。
「おいおいジョーダンだろ? おめぇガキじゃねーんだからよぉ。縛りプレイはアレだよ、ほら。身体をきつぅ~く締め付けて楽しむプレイに決まってんだろ?」
「ふざけないで! 縛られてよろこぶ人なんているわけないでしょ!」
こんどは呆気にとられたような表情を見せた。
「はぁ、こりゃまぁーじでなんも知らなさそーだな……っひひ、なんだったらテメーも縛り上げていたぶってやるか?」
「ッ!」
その瞬間に見せた男の表情。下卑た笑み。わたしはそれにただならぬ悪寒を覚えた。
「案外目覚めるかもしれねーよなァ?」
この人はダメだ。
ぜったいオトモダチにはなれない。
「っと! ほらほら動きがニブくなってるぜ!」
「このぉ!」
さっきまで身体に感じてた軽さがない。まだ彼に反撃させてはいないけど余裕をもってかわされている。
「だから言っただろ? おめーの敵はオレさまだけじゃねーってよ?」
「ああ!!」
瞬間、あらぬ方向から黒い糸が伸びる。
それは避けた。でもいつの間にか張り巡らされたクモの巣が一面にあって、わたしの身体はネトつく糸に絡め取られた。
「ゲームセットだぜ」
獲物を吟味するようなイヤらしい目をこちらに向け、彼はぼさっとした白髪をフードから外に晒した。
いろいろな"あそび"ができるんだって。みんなで競争とか追いかけっことか、わぁ室内じゃムリだし、んじゃテレビゲームかな?
そもそも、ふだんはグータラしてるオジサンがそんな遊び好きになるかな? 夜にオジサンがすることといったら酒場でいろんなお酒を呑んで、はじめて会った人とおはなしするくらいな気がする。
オトモダチがたくさんできるのはいいことだけど、それって"あそび"なのかな? お酒を呑んだオジサンってなんか独特のニオイするんだよなー。あとヘンに絡んできたり饒舌になったり。
いま、わたしたちはそんなチャールズオジサンみたいな人たちが集まる場所へ向かってる。近づくにつれどんどん光がいっぱいになって、人が増えて、騒がしくなって。
その場所に来た時、騒がしさが"あそび"じゃなかったことに気づいた。
「なぜこんな所にマモノがッ!?」
となりを走ってた少年が叫ぶ。まだうっすらとしか見えないけど、わたしたちが目指している先にマモノがいた。そして、マモノの攻撃を受け空中に弾き飛ばされる女性の姿があった。
「ビーちゃん!」
「私は無事だ! 気をつけろもう一体いるぞ!」
その言葉を斬るように、建物を突き破って眼前にクマのようなマモノが現れた。
「スキル、俊足!」
スプリットくんが地面を這って股の間をくぐる。背後から首筋へ一撃を加えたけど、その剣は打ち返されたように弾かれる。
「クッ、かてぇ」
「へぇ、ならこれはどーだい。スキル、サイドチェスト!」
サっちゃんが片方の手首を掴み、肩を張り上げてマモノに突撃する。
スプリットくんに気を取られてたマモノは、サっちゃんのそれをマトモにくらい唸り声をあげた。
「とった!」
倒れたクマの腕をとり、足を絡めて関節を極めた。
「マモノだかなんだか知らねーが、動物の形がある以上関節技は効くようだな。さあ今だよ!」
「応!」
叫んだオジサンが胸に剣を突き立てる。マモノは断末魔の叫びをあげ、そして黒い霧となって消えた。
「ビシェルはどうした!」
「こっちにいるよ!」
わたしはビーちゃんが飛ばされた場所へ駆けつけていた。彼女と戦っていたのは大きなクモ型のマモノで、ホンモノと同じような黒い糸を吐き出して攻撃してくる。
辺りにはたくさんの黒い糸が絡んでて、わたしはそれに触れないように建物の影にかくれてる。
(あの糸、ぜったいネトネトするやつだよね)
くっついてきて、暴れれば暴れるほど抜け出せなくなっていく。そして動けなくなった獲物たちをあのクモは狩っていくんだ。
「ヤツの糸に触れるな。くっつくだけでなく身体が痺れる」
「わかった」
こっちを見失ったクモはあたりを見渡している。わたしはそれに見つからぬよう身体を低くして、ガレキの下に隠れつつチャンスを伺う。
さっきのクマ型のマモノがだいぶ暴れまわったみたい。周辺には多くの破壊の跡があり、図らずともこちらにとって有利な地形になっていた。
「へぇーなかなかやるじゃん!」
(え?)
この声って、あの猫背でガリガリしたヤツの?
「まさかゲームの隠し要素じゃねーだろうな? だいたい十人にひとりの割合だが、こいつにこんな使い道があるとは思わなかったぜ」
わたしは声の出どころを探った。みぎ、ひだり、そしてうえ。クモ型マモノの背後にある高い建物の屋上。
そこから身を乗り出してマモノの様子を見ている彼は、人が泣き叫び、建物が倒壊し、多くのケガ人がいるこの状況をわらって見ていた。
(なんでこんなヒドイのにわらってられるの!?)
それにさっきのセリフにイヤな予感がよぎる。彼はそんな不安の中心をぶち抜く言葉を放った。
「バカとニンゲンは使いようってな。水だけじゃああの教会にいたモルモットくらい時間をかけなきゃいけねぇが、ヤツからもらったクスリをまぜりゃすぐ効果が現れる。へっ、アイツはいったい何を企んでるんだか」
(――ゆるせない)
あのマモノは、人間だ。
さっきまで楽しくあそんでたはずのひとたちだ。
(なんで――なんで!?)
わたしの獲物はあの子じゃない。アイツだ。
「スキル、変身」
クモの糸を引き裂き、わたしは彼のノド元に切っ先を向けた。
「ッ!! ――あぶねぇ」
「……なんでこんなことするの?」
「てめぇマジでヤりに来てたな。相変わらずヘンな姿しやがって」
「こたえて。なんでこんなことするの?」
「そー怒ンなよ。オレさまたちはただモルモットを使って実験してるだけだぜ?」
わたしは静かに武器を構える。
「まるでコッチがワルモノだと言いた気な態度だな……だけどよ、オレらだってモルモットみたいなもんなんだぜ? 望みもしねー世界にぶち込まれて実験材料にされてる哀れなモルモットさ」
「言いたいことはそれだけ?」
心臓を狙う。
「スキル、俊足」
かわされた。続けて首、頭、足の付け根。
「チッ、手加減ナシかよ!」
(当たらない――なんで)
さっきの戦闘では圧倒的な差だった。けど今はすべての攻撃を避けられて、ううん。やっぱりこちらが有利のはず。
「ッヘヘ、どうやら力を使いすぎたようだな」
男が大きく後ろに跳ぶ。わたしはそれを追いかけようとして、足がうまく動かないことに気付いた。
「鈍ってるぜ。その姿を維持するにはケッコーな体力を消耗するみてーだなァ」
「……」
「ってか忘れてねーかァ? てめーの相手はオレさまひとりだけじゃねーってことをよ!」
「ッ!」
背後から黒い糸が伸びる。
「チッ、外したか」
「あのマモノは人間なんだね」
クモ型のマモノから死角になる位置へ移動し、さらに高い位置へ飛び退いた猫背の男に身体を向けた。
「ああそうだ。ちょーどイイ感じに縛りプレイを楽しんでたバカップルがいてよォ。ったく制作者めどんだけ精巧にこの世界をデザインしてんだよ」
(しばり、なにそれ?)
怪訝な表情を見せたわたしを見て、男はわらった。
「おいおいジョーダンだろ? おめぇガキじゃねーんだからよぉ。縛りプレイはアレだよ、ほら。身体をきつぅ~く締め付けて楽しむプレイに決まってんだろ?」
「ふざけないで! 縛られてよろこぶ人なんているわけないでしょ!」
こんどは呆気にとられたような表情を見せた。
「はぁ、こりゃまぁーじでなんも知らなさそーだな……っひひ、なんだったらテメーも縛り上げていたぶってやるか?」
「ッ!」
その瞬間に見せた男の表情。下卑た笑み。わたしはそれにただならぬ悪寒を覚えた。
「案外目覚めるかもしれねーよなァ?」
この人はダメだ。
ぜったいオトモダチにはなれない。
「っと! ほらほら動きがニブくなってるぜ!」
「このぉ!」
さっきまで身体に感じてた軽さがない。まだ彼に反撃させてはいないけど余裕をもってかわされている。
「だから言っただろ? おめーの敵はオレさまだけじゃねーってよ?」
「ああ!!」
瞬間、あらぬ方向から黒い糸が伸びる。
それは避けた。でもいつの間にか張り巡らされたクモの巣が一面にあって、わたしの身体はネトつく糸に絡め取られた。
「ゲームセットだぜ」
獲物を吟味するようなイヤらしい目をこちらに向け、彼はぼさっとした白髪をフードから外に晒した。