聖職者の活動
聖なる職業ってなんだ?
それから、わたしたちの仲間探しがはじまった。
町中で、酒場で教会で、いろいろな人にあたっては旅のヒーラーを訪ねて歩く。そういう呪文を使える人はだいたい教会に所属していて、町を渡り歩いて修行というか地方巡業というか聖地巡礼というか、そんな感じで旅をしているらしい。
今回はたまたま運が悪く、そういった旅の僧侶と出会うことがなかった。
で、次のアテは酒場です。異世界っていったらやっぱり冒険者ギルド! この世界にもしっかり存在しました。
じゃあすぐに見つかるねと思ったんだけど、この世界の冒険者ギルドは依頼を受けてドラゴン討伐だーとか、未踏破のダンジョンに入ってお宝ゲットだぜ! とかそういうのじゃないっぽい。
じゃあどんなのがあるの? っていうと「建物建てたいから大工さん募集中!」とか「畑仕事手伝ってくんない?」とか、乱暴にまとめちゃえば旅人たちが滞在中にする短期バイト。ただし旅銀はガッポリ稼げる。ギルドに加入すれば報酬額アップだよ!
たまーに『ドラゴンのベビーシッター募集中!』っていうそれどんな仕事? って感じのものもあるけど。オジサンにドラゴンいるの? って聞いたら「魔族の領域にごまんといる」って答えが帰ってきた。場合によっては騎乗体験できるんだって。
なんだかんだで数日経ちました。オジサンは相変わらずあの司教さんに言い寄られてる。本人はオトナの対応してるらしいけど、いつどこで丸め込まれるかわからんと酒場の酒をあおっている様子。このままヒーラーを見つけられず町を後にする自体だけは避けたいのだけれど。
ってことで数日が経ち、わたしたちはもはや定例となってる例の酒場に集まりました。そしたらですよ?
「アニスさん!?」
なんと、敬虔な僧侶が真っ昼間からアルコール臭を漂わせてるではありませんか!
「ああ、アナタ方は」
しかも周囲にヤローどもを従えて!! こ、これはとんだ現場に居合わせちまったぜ。
「あ、アニスさん? その、お、男の人の手を握ってナニしてるんですかッ!?」
「え? ――ああ、コレですか」
アニスさんはやわらかな笑みでテーブルから立ち上がった。なんだろう、今は彼女の笑顔から邪な味を感じる。
「みなさまの疲れを癒やしてさしあげてるところです」
(ショーゲキ発言きたー!)
「ああ、今日はココだったのか」
「オジサン知ってたのッ!?」
「うむ、教会では定期的にこういった活動をしてるそうだ。ありがたいことだな」
「ていきてき!」
教会公認! しかもオジサン「ありがたい」ってもしかして経験済みってこと!?
「ここにはとくに悩める方々が多いようですから――少しでも力になれればと思いまして」
「あぁぁ……」
跪く男性の手をやさしくなでる。彼女の手つきとしぐさ、そして女神のようなほほえみに、手をとられたその人は恍惚の表情を浮かべた。
「ってグウェンちゃんもいる!?」
「……どうも」
若干不審な顔を見せつつ、少女はこっちに気づきあいさつのことばを贈る。
「いや、グウェンちゃんはまだ早くない? せめてあと五年、いや十年待たないとそういうことは――」
「ちょっと、グレースどうしたんだい? はやく前に行っておくれよ」
混乱するうしろからサっちゃんが声をかける。入口の九割がさっちゃんの身体にせき止められており、そのうしろにスプリットくんとビーちゃんが控えていた。
「ちょっと待てグレース。おまえが何を勘違いしてるのか知らんが、アニスはただ教会の仕事で民の治療に来てるだけだぞ」
「へ?」
教会のおしごと?
もういちどアニスさんとグウェンちゃんに向き直る。ふたりは教会で出会った時と同じ衣装に身を包み、その周囲にはオトコの人ばかりだったけど、たまに女性や子どももいるし、っていうかみんな並んでる。
テーブルの上にはいくつかの瓶があて、それらの中には液体や粉末。それらを混ぜる皿もあり、並ぶ人々の多くは顔色が悪かったり、手をプルプル震わせたりしていた。
「魔法も万能ではありません」
近づくと、彼女がお酒のニオイを発してるわけじゃないことがわかった。
「あるていどのキズや痛みを癒やすことはできるでしょう。ですが未だ解明されていない病気があり、それらを治療するためには薬が必要なのです」
「この前は教会前広場でやってたよな」
スプリットくんが後ろから顔を覗き込ませ、アニスさんはそのことばに頷いた。
「できるかぎりを尽くしたいのですが、わたくしの治療魔法ではこの程度しかみなさまを癒やすことができず歯がゆいかぎりで……司教さまの呪文であれば、もしかしたら」
「あまりご自分を卑下しないでください」
うつむく彼女を少女が慰める。
「アニスさまは教会の前で倒れてた少女を治療魔法で助けてくださいました。いまここに居られるのはアニスさまのおかげです」
「グウェン……」
「グウェンはまだ助けてもらった恩に殉じていません。アニスさまから教えていただいた魔法でもっと多くの人々を救いたいのです」
「その子の言うとおりだと思うぜ」
「そうだな。町中では教会を悪く言う人を見かけたことがない。それも貴方たちの尽力あってのことでしょう」
「うむ、トゥーサとビシェルの言うとおりだ。アニスよ、キミはまだ若いのにすばらしいウデをもっている。きっと日頃の信心の成せる業だろう」
「そんな、わたくしは皆様にできるかぎりのことをしてるに過ぎません」
「謙遜してくれなくて良い……まったく、その姿勢をあの司教に見習ってもらいたいものだ」
また、彼女の顔が悲痛なものにゆがむ。
「アニスさま。まだ人が残っています」
「……そうですね」
「職務中に失礼した」
「いえ、ここに居合わせたのも神の思し召し。これを終えたらゆっくりお話でもしませんか?」
「それはいい提案だ。神官とテーブルを挟んで酒飲みもまた一興」
「うふふ、もちろんアルコールはなしですよ?」
人差し指で口にフタ。いたずらっぽい笑みのアニスさんも魅力的だった。
町中で、酒場で教会で、いろいろな人にあたっては旅のヒーラーを訪ねて歩く。そういう呪文を使える人はだいたい教会に所属していて、町を渡り歩いて修行というか地方巡業というか聖地巡礼というか、そんな感じで旅をしているらしい。
今回はたまたま運が悪く、そういった旅の僧侶と出会うことがなかった。
で、次のアテは酒場です。異世界っていったらやっぱり冒険者ギルド! この世界にもしっかり存在しました。
じゃあすぐに見つかるねと思ったんだけど、この世界の冒険者ギルドは依頼を受けてドラゴン討伐だーとか、未踏破のダンジョンに入ってお宝ゲットだぜ! とかそういうのじゃないっぽい。
じゃあどんなのがあるの? っていうと「建物建てたいから大工さん募集中!」とか「畑仕事手伝ってくんない?」とか、乱暴にまとめちゃえば旅人たちが滞在中にする短期バイト。ただし旅銀はガッポリ稼げる。ギルドに加入すれば報酬額アップだよ!
たまーに『ドラゴンのベビーシッター募集中!』っていうそれどんな仕事? って感じのものもあるけど。オジサンにドラゴンいるの? って聞いたら「魔族の領域にごまんといる」って答えが帰ってきた。場合によっては騎乗体験できるんだって。
なんだかんだで数日経ちました。オジサンは相変わらずあの司教さんに言い寄られてる。本人はオトナの対応してるらしいけど、いつどこで丸め込まれるかわからんと酒場の酒をあおっている様子。このままヒーラーを見つけられず町を後にする自体だけは避けたいのだけれど。
ってことで数日が経ち、わたしたちはもはや定例となってる例の酒場に集まりました。そしたらですよ?
「アニスさん!?」
なんと、敬虔な僧侶が真っ昼間からアルコール臭を漂わせてるではありませんか!
「ああ、アナタ方は」
しかも周囲にヤローどもを従えて!! こ、これはとんだ現場に居合わせちまったぜ。
「あ、アニスさん? その、お、男の人の手を握ってナニしてるんですかッ!?」
「え? ――ああ、コレですか」
アニスさんはやわらかな笑みでテーブルから立ち上がった。なんだろう、今は彼女の笑顔から邪な味を感じる。
「みなさまの疲れを癒やしてさしあげてるところです」
(ショーゲキ発言きたー!)
「ああ、今日はココだったのか」
「オジサン知ってたのッ!?」
「うむ、教会では定期的にこういった活動をしてるそうだ。ありがたいことだな」
「ていきてき!」
教会公認! しかもオジサン「ありがたい」ってもしかして経験済みってこと!?
「ここにはとくに悩める方々が多いようですから――少しでも力になれればと思いまして」
「あぁぁ……」
跪く男性の手をやさしくなでる。彼女の手つきとしぐさ、そして女神のようなほほえみに、手をとられたその人は恍惚の表情を浮かべた。
「ってグウェンちゃんもいる!?」
「……どうも」
若干不審な顔を見せつつ、少女はこっちに気づきあいさつのことばを贈る。
「いや、グウェンちゃんはまだ早くない? せめてあと五年、いや十年待たないとそういうことは――」
「ちょっと、グレースどうしたんだい? はやく前に行っておくれよ」
混乱するうしろからサっちゃんが声をかける。入口の九割がさっちゃんの身体にせき止められており、そのうしろにスプリットくんとビーちゃんが控えていた。
「ちょっと待てグレース。おまえが何を勘違いしてるのか知らんが、アニスはただ教会の仕事で民の治療に来てるだけだぞ」
「へ?」
教会のおしごと?
もういちどアニスさんとグウェンちゃんに向き直る。ふたりは教会で出会った時と同じ衣装に身を包み、その周囲にはオトコの人ばかりだったけど、たまに女性や子どももいるし、っていうかみんな並んでる。
テーブルの上にはいくつかの瓶があて、それらの中には液体や粉末。それらを混ぜる皿もあり、並ぶ人々の多くは顔色が悪かったり、手をプルプル震わせたりしていた。
「魔法も万能ではありません」
近づくと、彼女がお酒のニオイを発してるわけじゃないことがわかった。
「あるていどのキズや痛みを癒やすことはできるでしょう。ですが未だ解明されていない病気があり、それらを治療するためには薬が必要なのです」
「この前は教会前広場でやってたよな」
スプリットくんが後ろから顔を覗き込ませ、アニスさんはそのことばに頷いた。
「できるかぎりを尽くしたいのですが、わたくしの治療魔法ではこの程度しかみなさまを癒やすことができず歯がゆいかぎりで……司教さまの呪文であれば、もしかしたら」
「あまりご自分を卑下しないでください」
うつむく彼女を少女が慰める。
「アニスさまは教会の前で倒れてた少女を治療魔法で助けてくださいました。いまここに居られるのはアニスさまのおかげです」
「グウェン……」
「グウェンはまだ助けてもらった恩に殉じていません。アニスさまから教えていただいた魔法でもっと多くの人々を救いたいのです」
「その子の言うとおりだと思うぜ」
「そうだな。町中では教会を悪く言う人を見かけたことがない。それも貴方たちの尽力あってのことでしょう」
「うむ、トゥーサとビシェルの言うとおりだ。アニスよ、キミはまだ若いのにすばらしいウデをもっている。きっと日頃の信心の成せる業だろう」
「そんな、わたくしは皆様にできるかぎりのことをしてるに過ぎません」
「謙遜してくれなくて良い……まったく、その姿勢をあの司教に見習ってもらいたいものだ」
また、彼女の顔が悲痛なものにゆがむ。
「アニスさま。まだ人が残っています」
「……そうですね」
「職務中に失礼した」
「いえ、ここに居合わせたのも神の思し召し。これを終えたらゆっくりお話でもしませんか?」
「それはいい提案だ。神官とテーブルを挟んで酒飲みもまた一興」
「うふふ、もちろんアルコールはなしですよ?」
人差し指で口にフタ。いたずらっぽい笑みのアニスさんも魅力的だった。