なんで物語に出てくる教会はだいたい堕落してるんだろーね?
かんけーないけど空飛ぶスパゲッティ・モンスター教ってごぞんじ?
多くの人に救いの手を指し示し、感謝や喜びのことばをもらっていたアニスさん。彼女がひとしごと終えて、待っていたこちらのテーブルにイスを寄せた。
「すみません、同席をたのんだ身でじかんをかけてしまって」
「かまわんさ。どうせこちらも行くアテはない、時間だけたっぷり持て余した御一行だ」
アニスさんは礼儀正しくイスに腰掛ける。そのうしろに隠れるようにして少女もついてきた。
「たのしく懇談会ついでにささやかながら」
言って、オジサンは手にグラスをひとつ持つ。かくいうわたしも大容量ジョッキで、えっとなんだっけ? なんか血みたいななまえのジュースをいただいております。
ぜんぶオジサンのおかね。やったぜ。
「メシもあるぜ。そっちのも食えよ」
「スプリット、もうすこし行儀よく食べたらどうだ? 困ってるじゃないか」
「ビシェルは細かすぎんだよ」
「そんなこと――」
口論をはじめたふたりに苦笑しつつ、サっちゃんはうしろの少女に声をかけた。
「ごめんな、うるさいのばっかで。ほら、こっちに座りなよ」
「……」
「アタイがこわいかい? ――こんな身体してるけど、べつになんでも壊しちまうことはないよ」
「グウェン。せっかくのお誘いなのですからよろこんで享受しましょう?」
少女はちょっとだけ考えた。
「はい」
誘いを受けてちょこんと着席するグウェンちゃん。サっちゃんとの比較でさらにちいさく見える。とても同じ人類とは思えないなぁ。
「ん? なんか失礼なこと考えてないかい?」
「ううんぜんぜん! あ、ほらグウェンちゃんこれ食べて!」
わたしは取り皿に食材を乗せた。今日は鶏肉と魚の丸焼きがあるのだ! 自分で食べてめっちゃおいしい! って思ったものをおすすめするのはとーぜんだよね。
「あたしはあまり……どうぞお気遣いなく」
「そう? おいしーのに」
「だれもおめーほど食わねぇだろ」
「言えてる。まさかアタイとタメ張るとは思わなかったぜ」
「ぶー、スプリットくんだっておーぐいじゃん」
「金がなくなるまで食い尽くすなよ?」
「それを言うなら店の備蓄すべてなくなるまで、だな」
「ビーちゃんそれわたしに言ってる!?」
「うふふ、とてもにぎやかな方々ですね」
テーブルで舌戦を繰り広げる様を眺めつつ、アニスさんはグラス片手に、オジサンによって注がれたジュースを一口飲んだ。
(この世界にはお酌の文化があるのかー)
みんな好き勝手に呑んでたように見えたけど。それともこういうトクベツなときだけやるのかな?
「ふぅ……人といっしょに食卓を囲むのは良いことですね」
アニスさんは顔を紅潮させながらグラスを傾けた。ちょっと、それほんとにお酒じゃないんだよね?
それからしばらくは教会についての話になった。この世界には唯一の神がいて、全知全能であるが故に名前がないんだとか、男女どっちかわかんないからあっちこっちの教会でいろんな像があるとか、そのほかいろいろ教えてもらったけど忘れちゃった。
かみさまがどーってよくわかんないけど、もし神様がいるんだったらいーっぱい、毎日おいしいもの食べたいなぁって。
アニスさんはオジサンととても楽しそうにお話してるし、わたしたちとも笑顔で接してくれた。グウェンちゃんはちょっぴり引っ込み思案だったけど、サっちゃんがかまってるうちにちょっとずつ心の氷が溶けていって、最後にはアニスさんに負けない笑顔を見せてくれるようになってた。
スプリットくんやオジサンにはツンとした感じだったけど。
「それはありがたい。教会の支援があればアインマラハの観光事業もプラス成長してくれるだろう」
「支援策は以前より計画していたのですが、ここ数年は不作によって進展がなかったようです。詳しくは司教様のみ知るところで」
「いやいや、私は国の使者でもなんでもない。そのうち公式な使者や軍部の者でもやってくるからそいつにでも言えばいいさ。もしキミがユージーンという人と出会ったのなら同じ話を伝えておいてくれ」
「ユージーンさまですね。わかりました」
「それにしてもあの司教がそのような計画を進めていたとは……以前はあんな人間じゃなかった。そう言っていたな?」
何気なく口にしたそのことば。サっちゃんがそれを隣で聞いてて、口に含んでたささみチキンをノドに通した。
「それを聞いてどーするつもりだい?」
「好奇心だよトゥーサ。とくに何がどうというワケじゃぁない」
そう言いつつ、オジサンの目はしっかりアニスさんを射抜いている。
「以前お伝えしたとおりです」
「いつからだ?」
「それは……わたくしとグウェン、そして数人の神官の協力で行っている活動ですが、これはもともと司教様がはじめられたことなのです。それが数ヶ月ほど前からでしょうか」
彼女は思い出すように宙を見上げる。
「とつぜんわたくしたちに任せるようになって、本人は私室にこもるようになったり、司教様だけしか入れない部屋に入り浸るようになって」
「ほう? 司教だけしか入れない部屋とは?」
「司教様の私室から地下へつながる通路が。そこには専用のカギが必要で、それは司教様がいつもたいせつに持っておられます」
「うーむ、まあ別段怪しいことではないんだが」
「それだけではないのです」
せきを切ったように彼女は語りはじめた。
「わたくしは見てしまいました。司教様が見たこともない宝物を地下へ運び込む姿を。それだけではありません。地方巡業者への施しを少なくしてそのお金で絹などをあつめそれを本部の方に献上していたり、とつぜん周辺貴族を招待して集会を開いたり、挙げ句の果にはあのような妙な男を教会の内部に入れ込んで――恐ろしい、あのようなケモノの目をした者はじめて見ました」
「妙な男?」
「ツ! ああ、わたくしは司教様を疑うような言動を……神よ、どうか罪深いわたくしをお許しください」
「アニスさま!」
「アニスさんよ、自分を責めることはないだろう?」
両手で自分の顔を覆うアニスさんを、サっちゃんが大きな手が背中から包みこんだ。
「そうです。アニスさまになんら責任はありません。すべてはあのヘンタイ司教が悪いんです」
「ヘンタイって、なんでだよ」
スプリットくんのデリカシー無き発言にグウェンちゃんはキッとした顔をした。
「……あのひと。あたしの身体を舐め回すように」
それを耳にした途端、ここにいる女性陣すべてが嫌悪感マシマシの表情をつくる。わたしだってそうだ。
「それヤだ!」
「うげっ、そりゃあひでぇ」
「最低だな」
「教会に関係する者としてなんとお詫びすればよいか……わたくし個人のちからでは、司教様にお考えを改めさせるにはあまりにも」
「アニスさま」
グウェンちゃんはきっとアニスさんの力になりたいんだと思う。だからこそ、アニスさんが辛い立場にいることをわかって力になりたいと思ってる。
(どうにかしてふたりを助けられないかな?)
気まずい空気が流れるなか、とっっっても言いにくそうにオジサンが唇を開いた。
「アニスどの。その妙な男とやらの特徴は覚えておられるか?」
「とおめで見ただけなので詳しくは――ですが、やせ細っていて背中が大きく曲がっていて、遠くからでもわかる邪悪な気配に満ちていました」
「痩せ型で猫背。似ているな」
「オレもそう思うぜ」
スプリットくんが癒えた腕に手を当て険しい視線をしている。ビーちゃんもガマンならないといった表情だ。
「特徴が一致する。グレースに汚い手で触れた不届き者だ」
「龍脈を調べ、グレースにその水を飲ませた正体不明の男が、こんどは教会の司教とねんごろか……あーまったく」
心底めんどくさそうにオジサンはアタマを抱えた。
でも、目つきは戦士のソレになっている。
「これは調査しなきゃイカンよなあ?」
「すみません、同席をたのんだ身でじかんをかけてしまって」
「かまわんさ。どうせこちらも行くアテはない、時間だけたっぷり持て余した御一行だ」
アニスさんは礼儀正しくイスに腰掛ける。そのうしろに隠れるようにして少女もついてきた。
「たのしく懇談会ついでにささやかながら」
言って、オジサンは手にグラスをひとつ持つ。かくいうわたしも大容量ジョッキで、えっとなんだっけ? なんか血みたいななまえのジュースをいただいております。
ぜんぶオジサンのおかね。やったぜ。
「メシもあるぜ。そっちのも食えよ」
「スプリット、もうすこし行儀よく食べたらどうだ? 困ってるじゃないか」
「ビシェルは細かすぎんだよ」
「そんなこと――」
口論をはじめたふたりに苦笑しつつ、サっちゃんはうしろの少女に声をかけた。
「ごめんな、うるさいのばっかで。ほら、こっちに座りなよ」
「……」
「アタイがこわいかい? ――こんな身体してるけど、べつになんでも壊しちまうことはないよ」
「グウェン。せっかくのお誘いなのですからよろこんで享受しましょう?」
少女はちょっとだけ考えた。
「はい」
誘いを受けてちょこんと着席するグウェンちゃん。サっちゃんとの比較でさらにちいさく見える。とても同じ人類とは思えないなぁ。
「ん? なんか失礼なこと考えてないかい?」
「ううんぜんぜん! あ、ほらグウェンちゃんこれ食べて!」
わたしは取り皿に食材を乗せた。今日は鶏肉と魚の丸焼きがあるのだ! 自分で食べてめっちゃおいしい! って思ったものをおすすめするのはとーぜんだよね。
「あたしはあまり……どうぞお気遣いなく」
「そう? おいしーのに」
「だれもおめーほど食わねぇだろ」
「言えてる。まさかアタイとタメ張るとは思わなかったぜ」
「ぶー、スプリットくんだっておーぐいじゃん」
「金がなくなるまで食い尽くすなよ?」
「それを言うなら店の備蓄すべてなくなるまで、だな」
「ビーちゃんそれわたしに言ってる!?」
「うふふ、とてもにぎやかな方々ですね」
テーブルで舌戦を繰り広げる様を眺めつつ、アニスさんはグラス片手に、オジサンによって注がれたジュースを一口飲んだ。
(この世界にはお酌の文化があるのかー)
みんな好き勝手に呑んでたように見えたけど。それともこういうトクベツなときだけやるのかな?
「ふぅ……人といっしょに食卓を囲むのは良いことですね」
アニスさんは顔を紅潮させながらグラスを傾けた。ちょっと、それほんとにお酒じゃないんだよね?
それからしばらくは教会についての話になった。この世界には唯一の神がいて、全知全能であるが故に名前がないんだとか、男女どっちかわかんないからあっちこっちの教会でいろんな像があるとか、そのほかいろいろ教えてもらったけど忘れちゃった。
かみさまがどーってよくわかんないけど、もし神様がいるんだったらいーっぱい、毎日おいしいもの食べたいなぁって。
アニスさんはオジサンととても楽しそうにお話してるし、わたしたちとも笑顔で接してくれた。グウェンちゃんはちょっぴり引っ込み思案だったけど、サっちゃんがかまってるうちにちょっとずつ心の氷が溶けていって、最後にはアニスさんに負けない笑顔を見せてくれるようになってた。
スプリットくんやオジサンにはツンとした感じだったけど。
「それはありがたい。教会の支援があればアインマラハの観光事業もプラス成長してくれるだろう」
「支援策は以前より計画していたのですが、ここ数年は不作によって進展がなかったようです。詳しくは司教様のみ知るところで」
「いやいや、私は国の使者でもなんでもない。そのうち公式な使者や軍部の者でもやってくるからそいつにでも言えばいいさ。もしキミがユージーンという人と出会ったのなら同じ話を伝えておいてくれ」
「ユージーンさまですね。わかりました」
「それにしてもあの司教がそのような計画を進めていたとは……以前はあんな人間じゃなかった。そう言っていたな?」
何気なく口にしたそのことば。サっちゃんがそれを隣で聞いてて、口に含んでたささみチキンをノドに通した。
「それを聞いてどーするつもりだい?」
「好奇心だよトゥーサ。とくに何がどうというワケじゃぁない」
そう言いつつ、オジサンの目はしっかりアニスさんを射抜いている。
「以前お伝えしたとおりです」
「いつからだ?」
「それは……わたくしとグウェン、そして数人の神官の協力で行っている活動ですが、これはもともと司教様がはじめられたことなのです。それが数ヶ月ほど前からでしょうか」
彼女は思い出すように宙を見上げる。
「とつぜんわたくしたちに任せるようになって、本人は私室にこもるようになったり、司教様だけしか入れない部屋に入り浸るようになって」
「ほう? 司教だけしか入れない部屋とは?」
「司教様の私室から地下へつながる通路が。そこには専用のカギが必要で、それは司教様がいつもたいせつに持っておられます」
「うーむ、まあ別段怪しいことではないんだが」
「それだけではないのです」
せきを切ったように彼女は語りはじめた。
「わたくしは見てしまいました。司教様が見たこともない宝物を地下へ運び込む姿を。それだけではありません。地方巡業者への施しを少なくしてそのお金で絹などをあつめそれを本部の方に献上していたり、とつぜん周辺貴族を招待して集会を開いたり、挙げ句の果にはあのような妙な男を教会の内部に入れ込んで――恐ろしい、あのようなケモノの目をした者はじめて見ました」
「妙な男?」
「ツ! ああ、わたくしは司教様を疑うような言動を……神よ、どうか罪深いわたくしをお許しください」
「アニスさま!」
「アニスさんよ、自分を責めることはないだろう?」
両手で自分の顔を覆うアニスさんを、サっちゃんが大きな手が背中から包みこんだ。
「そうです。アニスさまになんら責任はありません。すべてはあのヘンタイ司教が悪いんです」
「ヘンタイって、なんでだよ」
スプリットくんのデリカシー無き発言にグウェンちゃんはキッとした顔をした。
「……あのひと。あたしの身体を舐め回すように」
それを耳にした途端、ここにいる女性陣すべてが嫌悪感マシマシの表情をつくる。わたしだってそうだ。
「それヤだ!」
「うげっ、そりゃあひでぇ」
「最低だな」
「教会に関係する者としてなんとお詫びすればよいか……わたくし個人のちからでは、司教様にお考えを改めさせるにはあまりにも」
「アニスさま」
グウェンちゃんはきっとアニスさんの力になりたいんだと思う。だからこそ、アニスさんが辛い立場にいることをわかって力になりたいと思ってる。
(どうにかしてふたりを助けられないかな?)
気まずい空気が流れるなか、とっっっても言いにくそうにオジサンが唇を開いた。
「アニスどの。その妙な男とやらの特徴は覚えておられるか?」
「とおめで見ただけなので詳しくは――ですが、やせ細っていて背中が大きく曲がっていて、遠くからでもわかる邪悪な気配に満ちていました」
「痩せ型で猫背。似ているな」
「オレもそう思うぜ」
スプリットくんが癒えた腕に手を当て険しい視線をしている。ビーちゃんもガマンならないといった表情だ。
「特徴が一致する。グレースに汚い手で触れた不届き者だ」
「龍脈を調べ、グレースにその水を飲ませた正体不明の男が、こんどは教会の司教とねんごろか……あーまったく」
心底めんどくさそうにオジサンはアタマを抱えた。
でも、目つきは戦士のソレになっている。
「これは調査しなきゃイカンよなあ?」