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作者: 犬物語
女子の部屋の扉は必ずノックしましょう
デリカシーのないパパをお持ちのアナタへ
「ウワサをすれば影、というやつか」

 村の宿に入って、オジサンはそんなことを口にした。その視線はだれかに向いているようだった。

「なになに何のはなし?」

「気にするな」

 その視線の先を追う前に、オジサンはカウンターにいるおじちゃんに話しかける。

「すまない、空き部屋はどの程度残っているかな?」

「ふたつ空いてるが、けっこうな人数で起こしのようで。ベッドの数が足らなくなるがそれでも?」

「構わない」

「おいオッサン、ベッドの数足らねーって言ってんじゃん」

「気にするな。どうせ使わん」

「なんでだよ!?」

「部屋は男女で使い分けよう。それでいいな?」

「賛成だ」

「はーい!」

「アタイはどっちでもいーけどな」

 オジサンが支払いを済ませ、わたしたちは階段を登りそれぞれの部屋に入っていく。

 木造の階段はギシギシと音を立てて軋み、このお宿が長いことこの村にあることを教えてくれた。

「わーひっさしぶりのベッドだーぁ」

 ボフン。おへやに入ってさいしょにやることと言ったらコレだよね!

「お行儀がわるいぞ」

「えへへーごめんなさーい」

 でもキモチーんだからしかたない。ビーちゃんも「まったく」なんて言いつつふかふか感触を楽しんでおられるよーです。

「ベッドはふたりで使っていいぜ。アタイは慣れてっから」

 サっちゃんは床にマットをひろげた。エルフお手製の草を編んで作ったもので、これまでの旅路でたくさんお世話になった。

「いいの?」

「こっちのが慣れてる」

「そうだな、今のうちに眠っておいたほうがいいかもしれない」

 このまま女子トークはじめちゃう? なんて考えてたけどビーちゃんがその流れをせき止めた。

「え、なんで?」

「チャールズ殿の態度がおかしかったので……ちょっと宿を見回してたんだ。そうしたら不審な男を見つけた」

「ちょうどその話をしようとしていたところだ」

 ギィ。木が軋む音を立て開かれると、その向こうにはオジサンとスプリットくんが立っていた。

「気付いていたなら話が早い。つまるところ、今から作戦会議というヤツを始めたいんだがどうだ?」

「そうだな、やるなら早いほうがいい」

(え? え?)

 まーたわたし置いてけぼり食らってるのですがそれは。

 あ、でも今回はサっちゃんも頭の上に"?"がある。サっちゃんなかーま。

「それはいいとして……だ」

 それまで物腰やわらかなビーちゃんが、とたんに氷のような視線をヤロウふたりに向けた。

 突き刺したって言ってもいいかも。

「女性の部屋にノックもなしに入ってくるのは常識がなさすぎるのではないか?」

「ああ、いやぁスマンこういうのは慣れなくて――な、あ、いや、その」

(……うわお)

 さいしょは片手を頭にもってって「いやーゴメンゴメン☆」みたいな態度だったオジサン。だけど、そのうちビーちゃんのマジ具合に気づいてきたっぽい。

 んじゃわたしも乗っかっちゃお。

「そーだそーだ! 着替え中だったらどーするんだ!」

「アタイは見られて恥ずかしい身体してないけど、さすがにデリカシーってのが要ると思うぜ?」

「……すまん」

「すみません、ですよね?」

「すみません」

(なるほど、オトコのヒトにはこーやって反省させるのがいいんだ)

 うしろでオロオロしてたスプリットくんにもしっかり謝ってもらいました。こら少年「オレかんけーねーじゃん!」じゃないんだよ?





 夜。

 みんなが寝静まったころ、廊下の木が軋む音がした。

「…………おトイレかな?」

「ばか、どう考えたって例の男だろ」

 わたしはドアに耳をくっつけて、スプリットくんはそのとなりでいつでも出られるよう準備している。

「まだ出るなよ? しばらく泳がせてヤツの目的を探らなきゃならん」

 うしろにはオジサン、サっちゃん、そして窓際から外を眺めているビーちゃんがいる。

「外に出た。情報通り裏山へ入っていくようだ」

「あまり覗き込むなよ? こっちから見えてるってことはあっちからも見えてるってことだ」

「わかってる」

 ビーちゃんはエルフ直伝? の隠密ムーブでこそこそしてる。周囲を気にしてるらしい男の人がたまにこっちを振り返るけど、ビーちゃんに気づいた様子はないっぽい。

 たぶんみんなで"だるまさんが転んだ"したらサイキョーキャラになると思う。

「確かに怪しい。だが個人的な用があるだけかもしれないだろう?」

「いや、ヤツは重要なナニカを隠してる」

(どーして"あのトココはアヤシイ"ってわかるの?)

「どーしてわかるの?」

 だから聞いてみた。

「私のカンだ」

 根拠なんてなかった!

「いや、もちろんヤツの行動も怪しいのだが、薬屋のばーさんから得た情報を実際に確かめてさらに確信をもてた」

「はいはーい。じゃあどういうトコロがあやしーんでしょうか?」

「それは……後を追いかければわかる」

 やっぱり根拠なんてなくて、だけどオジサンは自信満々なドヤ顔で部屋のドアに手をかけた。
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