謎の男
新展開は新キャラから
サっちゃんと出会って、集落を出発してから三日かけてさいしょの村にたどりつきました。
舗装された道、ちょっとゴツゴツした道、たまに人とすれ違ったり橋を渡ったり。夜はオジサンとスプリットくんが交代で見張って、わたしとビーちゃんはお料理担当。なにかをつくるってことしたこと無かったんだけど、とりあえず木の棒を突き刺して火でぐるぐるしたらいい感じになったからおっけー。
サっちゃんは二日目の朝までに食料をぜんぶ食べつくしちゃったから狩猟担当になりました。山に入ってイノシシをぶつかり合ったり、川に拳をぶちこんで魚をフライさせたり。なにそれどうやるの?
集落ではきちんとしたテントで寝られたけど、こういう旅路では野宿が当たり前。ちょっと不安だったんだけど、草に背中を預けたらどこか懐かしい安心感みたいなのを感じて、そのまままぶたが重くなってって、ビーちゃんが植物を編んだマットを敷いてくれた。
オジサンすごいんだよ? 剣だって達人級なのに猟銃の腕前もすごいの! オジサンは「剣を捨てるつもりだったのだが、どーしたもんか手持ち無沙汰になってな。試しにコレを試してみたら思いの外楽しめた」なんて笑ってた。
この世界では銃が珍しくて滅多に見られないんだって。なんか、扱いがむずかしいし当たらないとかなんとか、それなら魔法を使ったほうが確実らしくて、銃はほとんど流通してない。
なんだかんだで旅に慣れてきたころ、ようやくその場所にたどり着いた。
「さて、やっとこさ到着だ。今日はまともな宿に泊まれる」
心底ほっとしたような声でした。
「ったく、あと一日でも野宿があったらぶっ倒れてたとこだ」
「オレはまだ疲れてねーけど」
「子守りしながら先導する保護者の身にもなってみろ」
「たいへんだったね。サっちゃんの川パンチ! で水浸しになったりビーちゃんの寝袋に潜り込んだり」
「だから! あれは誤解だと何度言えば」
「いーや下心アリアリだったね」
スプリットくんはそう茶化したけど、あの時のビーちゃんけっこーシリアスだったんだよなぁ。
「あっはっは! アレは傑作だったな、ビシェルがあんな甲高い悲鳴をあげるとは思わなかった」
サっちゃんが筋肉を震わせた。
「あ、あの時はすごく眠くて、ガマンできずに寝ようとしたらチャールズ殿がそこにいて」
「あんときゃマジでハラがよじれた。はじめて会った時のおまえは氷点下の目ぇしてアタイのヒザ狙ってたのによ、それがかわいい顔して「きゃー」だぜ?」
「こンのガキどもシバくぞゴラ!」
オジサンってたまに乱暴な口調になるんだよねぇ。っていうかはじめて出会った時もそうだったかも。オジサンは「数年前までピシッとした場所にいた反動だ」とか言ってたけどこれゼッタイ"素"だよね。
「いいからさっさと歩け。私はすぐにでも腰を休めたいんだよ」
強引に話をぶった切り、オジサンは大股で村の入口へと足を踏み出した。
その村はとても平和で穏やかさに満ちていた。
商人たちが集まってできた集落のような賑やかさはない。そこにはきちんとしたおうちがあって、子どもたちが駆け回っていて、近くでは男の人が畑を耕したり、収穫できたものをまとめてたりしてた。
近くに流れる小川は底まで見えるほどキレイで、こっちでは女の人が布を洗ったり、子どもたちがそれを手伝ったりしていた。
「ここにはいい薬屋があるんだ。ついでに携帯食料も補充しておこう。ま、だれかさんがすぐ食い尽くしてしまうだろうがな」
背後の筋肉を一瞥し、オジサンは目的地へと向かった。すれ違う子どもたちがオジサンにゲンキな挨拶をしたり、ジッとこちらを見つめてきたりする。村の外からの人は珍しのかな。
「おや、久しぶりだね」
扉を開けると、そこにぶら下げられていた木製の鈴がカランとなった。
「いつも助かるよ」
オジサンが気さくな声で応える。入口から見えるカウンターの向こうにはひとりのおばあちゃんが座っている。めっちゃしわくちゃだ。
「こっちはこっちで済ませるから、お前たちはテキトーに見てろ。小遣いは銅貨10枚までだぞ?」
「マジで!? やったぜ」
少年、はしゃぐ。それぞれが店内をうろつくなか、オジサンは手慣れた様子で商品を手に取っていく。それらをカウンターに置き、必要となるお金をそこに差し出した。
「最近マモノが出現するようになってな、このヘンは平和にやってるかい?」
「平和だよ。マモノの脅威もなけりゃ人どうしの諍いもない」
おばあちゃんは懐かしむように声を漏らした。
「そうだなぁ……このあたりは辺境も辺境。国どうしたケンカしたところで戦略上の価値もない」
「同感だよ。と、言いたいところだけどね」
そこまで言って、おばあちゃんはふたりの会話を盗み聞きしてたわたしにチラリと視線を向けた。
「ずいぶん大所帯じゃないか。まさか、全員おまえの子なワケじゃないよね」
「年を考えろばーさん。旅の連れだ」
「旅の連れ、ね。確かにこのばあさんの目にも、あの子たちは旅人に見えるね」
「……さすが」
オジサンは銀貨を一枚追加した。
「相変わらず抜け目がない」
「年寄りの目をナメるんじゃないよ。これ、そこの若いのこっちへおいで」
「わたし?」
おばあちゃんに誘われカウンターへ歩み寄る。近づくにつれ、どこか安心できるような香りが漂ってきた。
「影に隠れてエモノを刺す、か。あんた、見た目とは裏腹にエグい戦い方するじゃないか」
「私がそう鍛えたんだ」
「おばあちゃんってオジサンの知り合いなの?」
「さぁて、知らないねぇ」
シワシワの顔がさらにシワシワになった。その瞳がわたしの心の奥底まで覗き込んでるような気がして、ちょっとだけ背中が寒くなったような気がした。
「さみしい薬屋の常連さんだよ。それより嬢ちゃん。あんた腕に虫刺されあるね」
「えっ」
言われて、わたしはその場所に手を触れた。
「どうしてわかったの?」
「ずっと気にしてる様子だったからねぇ。ほれサービスだよ。この軟膏を塗りなさい」
おばあちゃんが小さな木箱を差し出す。そのフタを開けると白いクリームっぽいものが詰まっていた。
「あっちの女の子も虫に刺されてるでしょ。ちょっとデリケートな箇所だからあの男っこにわからないようにね」
「ありがとう!」
おばあちゃんは親切なおばあちゃんだった! 受け取った軟膏を手に、わたしは同じくお店を回ってるビーちゃんの元へ行く。ビーちゃんはおしりの下のほうに手を当てながらいくつかの容器を見ていた。
「ビーちゃん、これ」
「ん、グレースか。なんだソレは」
「かゆいところに塗るといーんだって。ちょっと服脱いで」
「は? いや、ちょっとまって――ッ!」
あーたしかに、ココはちょっと見えちゃうからスプリットくんの前ではできないなー。
「バカッ! グレースなにしてッ」
「虫刺されに効く薬なんだって。すぐ終わるから待っててね」
「いや、そんなの後でいいから、せめて場所を考えて――」
「あん? そこで何してんだ?」
「スプリット!? く、来るな!」
「えっ、なんでだよ」
「いいの! スプリットくんはあっち行ってて!」
「はぁ?」
常連客が連れてきた見知らぬ顔。それらを眺めながら、鋭い目の老婆が唇を開いた。
「……なんていうか、物騒な見た目にマッチしない子だね」
「異世界人というのは、どうも平和な世界からやってくるらしい。冗談はそのくらいにして、さっきの言葉はどういう意味が含まれてる?」
「おとといあたりかねぇ。宿に見慣れぬ男が泊まり込んでるんだよ。だいぶ若い」
「移住者であれば村も賑わうだろうが……その顔からして違うようだな」
「怪しい、というワケじゃない。けど、いつもだまーってメシを食ってるらしい。まぁるい背中、細長い四肢、かといって肉付きが悪いわけでもない」
「……」
「ジッと黙り込んだまま周囲を観察するのさ。まるで獲物を見定めてるようにね」
「なるほど、怪しいには怪しいな」
「あたりが暗くなると、そいつは村を出て森へ入る。ガケのほう、なにかきな臭いモノを感じる」
「バレずに尾行したか、相変わらずだなばあさん」
「ソレで食ってたんだよ? バレてドンパチすることもしょっちゅうだった。お陰でいろんな傷に効く薬や――気分を良くする葉っぱにも詳しくなったからね」
「オッサン、これ買っていいか?」
「スプリットか。どれどれ」
「おう若いの、おすすめはこの葉っぱだよ」
「あん? なんだコレ変なニオイがする」
「コレをねぇ、乾燥させて砕いてこっちのクスリと混ぜればそりゃあもう、天国へご招待さね」
「てんごくって、ばーさん大げさだな」
「大げさじゃないよ? ほんとに天へ上る気分になれるのさ、用法用量を守ればね。じゃないと天国から地獄へひとっトビさ」
「それって薬なのか? オレが世話になってたトコじゃそんなの無かったけど」
「当たり前だ、それは一般的に流通してない……それは使わんよ。そいつのせいで廃人になったヤツをごまんと見てきた」
「はあ!?」
「ヒヒヒ、用法用量を守ればなんだがそれができないのが人間の性というヤツさね……その男について調べるなら気をつけなよ」
「忠告痛み入る。さて、宿をとるとするか」
五人分の空きがあればな。眉間にシワを寄せた中年のぼやきが店内に響き渡った。
舗装された道、ちょっとゴツゴツした道、たまに人とすれ違ったり橋を渡ったり。夜はオジサンとスプリットくんが交代で見張って、わたしとビーちゃんはお料理担当。なにかをつくるってことしたこと無かったんだけど、とりあえず木の棒を突き刺して火でぐるぐるしたらいい感じになったからおっけー。
サっちゃんは二日目の朝までに食料をぜんぶ食べつくしちゃったから狩猟担当になりました。山に入ってイノシシをぶつかり合ったり、川に拳をぶちこんで魚をフライさせたり。なにそれどうやるの?
集落ではきちんとしたテントで寝られたけど、こういう旅路では野宿が当たり前。ちょっと不安だったんだけど、草に背中を預けたらどこか懐かしい安心感みたいなのを感じて、そのまままぶたが重くなってって、ビーちゃんが植物を編んだマットを敷いてくれた。
オジサンすごいんだよ? 剣だって達人級なのに猟銃の腕前もすごいの! オジサンは「剣を捨てるつもりだったのだが、どーしたもんか手持ち無沙汰になってな。試しにコレを試してみたら思いの外楽しめた」なんて笑ってた。
この世界では銃が珍しくて滅多に見られないんだって。なんか、扱いがむずかしいし当たらないとかなんとか、それなら魔法を使ったほうが確実らしくて、銃はほとんど流通してない。
なんだかんだで旅に慣れてきたころ、ようやくその場所にたどり着いた。
「さて、やっとこさ到着だ。今日はまともな宿に泊まれる」
心底ほっとしたような声でした。
「ったく、あと一日でも野宿があったらぶっ倒れてたとこだ」
「オレはまだ疲れてねーけど」
「子守りしながら先導する保護者の身にもなってみろ」
「たいへんだったね。サっちゃんの川パンチ! で水浸しになったりビーちゃんの寝袋に潜り込んだり」
「だから! あれは誤解だと何度言えば」
「いーや下心アリアリだったね」
スプリットくんはそう茶化したけど、あの時のビーちゃんけっこーシリアスだったんだよなぁ。
「あっはっは! アレは傑作だったな、ビシェルがあんな甲高い悲鳴をあげるとは思わなかった」
サっちゃんが筋肉を震わせた。
「あ、あの時はすごく眠くて、ガマンできずに寝ようとしたらチャールズ殿がそこにいて」
「あんときゃマジでハラがよじれた。はじめて会った時のおまえは氷点下の目ぇしてアタイのヒザ狙ってたのによ、それがかわいい顔して「きゃー」だぜ?」
「こンのガキどもシバくぞゴラ!」
オジサンってたまに乱暴な口調になるんだよねぇ。っていうかはじめて出会った時もそうだったかも。オジサンは「数年前までピシッとした場所にいた反動だ」とか言ってたけどこれゼッタイ"素"だよね。
「いいからさっさと歩け。私はすぐにでも腰を休めたいんだよ」
強引に話をぶった切り、オジサンは大股で村の入口へと足を踏み出した。
その村はとても平和で穏やかさに満ちていた。
商人たちが集まってできた集落のような賑やかさはない。そこにはきちんとしたおうちがあって、子どもたちが駆け回っていて、近くでは男の人が畑を耕したり、収穫できたものをまとめてたりしてた。
近くに流れる小川は底まで見えるほどキレイで、こっちでは女の人が布を洗ったり、子どもたちがそれを手伝ったりしていた。
「ここにはいい薬屋があるんだ。ついでに携帯食料も補充しておこう。ま、だれかさんがすぐ食い尽くしてしまうだろうがな」
背後の筋肉を一瞥し、オジサンは目的地へと向かった。すれ違う子どもたちがオジサンにゲンキな挨拶をしたり、ジッとこちらを見つめてきたりする。村の外からの人は珍しのかな。
「おや、久しぶりだね」
扉を開けると、そこにぶら下げられていた木製の鈴がカランとなった。
「いつも助かるよ」
オジサンが気さくな声で応える。入口から見えるカウンターの向こうにはひとりのおばあちゃんが座っている。めっちゃしわくちゃだ。
「こっちはこっちで済ませるから、お前たちはテキトーに見てろ。小遣いは銅貨10枚までだぞ?」
「マジで!? やったぜ」
少年、はしゃぐ。それぞれが店内をうろつくなか、オジサンは手慣れた様子で商品を手に取っていく。それらをカウンターに置き、必要となるお金をそこに差し出した。
「最近マモノが出現するようになってな、このヘンは平和にやってるかい?」
「平和だよ。マモノの脅威もなけりゃ人どうしの諍いもない」
おばあちゃんは懐かしむように声を漏らした。
「そうだなぁ……このあたりは辺境も辺境。国どうしたケンカしたところで戦略上の価値もない」
「同感だよ。と、言いたいところだけどね」
そこまで言って、おばあちゃんはふたりの会話を盗み聞きしてたわたしにチラリと視線を向けた。
「ずいぶん大所帯じゃないか。まさか、全員おまえの子なワケじゃないよね」
「年を考えろばーさん。旅の連れだ」
「旅の連れ、ね。確かにこのばあさんの目にも、あの子たちは旅人に見えるね」
「……さすが」
オジサンは銀貨を一枚追加した。
「相変わらず抜け目がない」
「年寄りの目をナメるんじゃないよ。これ、そこの若いのこっちへおいで」
「わたし?」
おばあちゃんに誘われカウンターへ歩み寄る。近づくにつれ、どこか安心できるような香りが漂ってきた。
「影に隠れてエモノを刺す、か。あんた、見た目とは裏腹にエグい戦い方するじゃないか」
「私がそう鍛えたんだ」
「おばあちゃんってオジサンの知り合いなの?」
「さぁて、知らないねぇ」
シワシワの顔がさらにシワシワになった。その瞳がわたしの心の奥底まで覗き込んでるような気がして、ちょっとだけ背中が寒くなったような気がした。
「さみしい薬屋の常連さんだよ。それより嬢ちゃん。あんた腕に虫刺されあるね」
「えっ」
言われて、わたしはその場所に手を触れた。
「どうしてわかったの?」
「ずっと気にしてる様子だったからねぇ。ほれサービスだよ。この軟膏を塗りなさい」
おばあちゃんが小さな木箱を差し出す。そのフタを開けると白いクリームっぽいものが詰まっていた。
「あっちの女の子も虫に刺されてるでしょ。ちょっとデリケートな箇所だからあの男っこにわからないようにね」
「ありがとう!」
おばあちゃんは親切なおばあちゃんだった! 受け取った軟膏を手に、わたしは同じくお店を回ってるビーちゃんの元へ行く。ビーちゃんはおしりの下のほうに手を当てながらいくつかの容器を見ていた。
「ビーちゃん、これ」
「ん、グレースか。なんだソレは」
「かゆいところに塗るといーんだって。ちょっと服脱いで」
「は? いや、ちょっとまって――ッ!」
あーたしかに、ココはちょっと見えちゃうからスプリットくんの前ではできないなー。
「バカッ! グレースなにしてッ」
「虫刺されに効く薬なんだって。すぐ終わるから待っててね」
「いや、そんなの後でいいから、せめて場所を考えて――」
「あん? そこで何してんだ?」
「スプリット!? く、来るな!」
「えっ、なんでだよ」
「いいの! スプリットくんはあっち行ってて!」
「はぁ?」
常連客が連れてきた見知らぬ顔。それらを眺めながら、鋭い目の老婆が唇を開いた。
「……なんていうか、物騒な見た目にマッチしない子だね」
「異世界人というのは、どうも平和な世界からやってくるらしい。冗談はそのくらいにして、さっきの言葉はどういう意味が含まれてる?」
「おとといあたりかねぇ。宿に見慣れぬ男が泊まり込んでるんだよ。だいぶ若い」
「移住者であれば村も賑わうだろうが……その顔からして違うようだな」
「怪しい、というワケじゃない。けど、いつもだまーってメシを食ってるらしい。まぁるい背中、細長い四肢、かといって肉付きが悪いわけでもない」
「……」
「ジッと黙り込んだまま周囲を観察するのさ。まるで獲物を見定めてるようにね」
「なるほど、怪しいには怪しいな」
「あたりが暗くなると、そいつは村を出て森へ入る。ガケのほう、なにかきな臭いモノを感じる」
「バレずに尾行したか、相変わらずだなばあさん」
「ソレで食ってたんだよ? バレてドンパチすることもしょっちゅうだった。お陰でいろんな傷に効く薬や――気分を良くする葉っぱにも詳しくなったからね」
「オッサン、これ買っていいか?」
「スプリットか。どれどれ」
「おう若いの、おすすめはこの葉っぱだよ」
「あん? なんだコレ変なニオイがする」
「コレをねぇ、乾燥させて砕いてこっちのクスリと混ぜればそりゃあもう、天国へご招待さね」
「てんごくって、ばーさん大げさだな」
「大げさじゃないよ? ほんとに天へ上る気分になれるのさ、用法用量を守ればね。じゃないと天国から地獄へひとっトビさ」
「それって薬なのか? オレが世話になってたトコじゃそんなの無かったけど」
「当たり前だ、それは一般的に流通してない……それは使わんよ。そいつのせいで廃人になったヤツをごまんと見てきた」
「はあ!?」
「ヒヒヒ、用法用量を守ればなんだがそれができないのが人間の性というヤツさね……その男について調べるなら気をつけなよ」
「忠告痛み入る。さて、宿をとるとするか」
五人分の空きがあればな。眉間にシワを寄せた中年のぼやきが店内に響き渡った。