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8.(4)
 半分位は僕のせいだけど、いじけてそっぽを向いたトリオに僕は聞いてみる。ちなみに残り半分はトリオの顔面のせいだ。

「そういえば、さっき宮仕えって言ってたけど、トリオって冒険者じゃなかったの? 勤め人?」

 旅の仲間が随分少ないことと、ニルレンとトリオの道中から考えて、冒険者かと思っていた。随分旅慣れている様子だったしね。
 トリオは首を横に振る。

「違うぞ。引っ越す時に辞めてもうたが、一応騎士学校を出た国所属の騎士じゃったぞ。故郷がのうなって離れることになったとき、騎士学校なら一応金もいらんし、定職につけるし、食うに困らんと思って一応入っただけじゃが」
「え、知らなかった」
「……それもご両親とは話したんじゃけど」

 呆れたようにトリオは言う。
 僕は息をふっと吐く。

 思春期を甘く見るな。親の話をまともに聞くと思うなよ。反抗しなくても聞き流すぞ。普段流されてる分、気合い入れて聞き流して他人事と判断するぞ。

 トリオについて、何か他にも親は知っていて僕が聞き流していることがあるのではという気もふとしたけれど、今はとりあえず目の前の話を聞くことにした。

「まあ、地方の少数民族出身じゃから配属先も騎士とは言えん内容じゃし、騎士らしいことは何もしたことないけどのう。ニルレンも一応学校出させたから、身分は一応王立研究所の魔術師じゃった。ワシとニルレンは元々は王の勅命で倒しに行く班の一つじゃぞ。一応」
「えー、何だか一応ばっかりだけど、そうなんだ。知らなかった」
「まあ、わざわざ知る知識でもないからのぅ」

 受験用には頭にたたき込んでたけど、そんなに歴史好きじゃないし、歴史の授業は内職の時間だったし、必須単語以外はそれほど入っていなかった。そもそもニルレンとトリオの職業についてなんて教科書には載ってないかもしれないけどね。

 本人が話すとよく頭に入るね。
 彼が騎士出身ということで、納得できることもあった。

「そっか。騎士だから教えてくれる剣筋が王道なんだ」
「教えるなら学校で習う正統派じゃろ。基本くらいなら出来るわ。ワシ自身はそこまで剣が得意ではないから、もう少し邪道じゃけどな」

 本人はさらっと言っているが、魔法混ぜたりとか、自分とは違う剣術教えたりとか、随分器用な鳥だな。やっぱりこの鳥は能力が高いのか。

「まあ、立場が保証されているのはええんじゃが、やってることは冒険者とあまり変わらんかったからのう。王の使いが来るのも最初だけじゃったし、多分ワシらのことは忘れられていたな」
「何それ、随分雑なんだね」
「ワシもニルレンも数あわせでどうせ期待されちょらんかったし、別に構わんのじゃけどな」

 卑屈な様子もなく、淡々と言う。

「最後は国なんぞ全く関係のない仲間もおったし、遠くに行った時は申請も面倒じゃから、路銀は仮名でギルドで稼ぐときもあったな」
「ふーん」
「この前ユウも手伝っていた魔法玉とかな。当時はギルドで売ることが出来たから作らされたのぅ」

 世界の救世主について随分な対応だな。それ。トリオとニルレンがとっとと城を出て、二人+二匹で暮らし始めた理由が何となく分かった。まあ、単に結婚前のいちゃいちゃただれた同棲生活楽しみたかっただけかもしれないけど。

 そして。
 見つけた。

 たまたまなのか、何かが働いていたのかは僕には分からない。トリオが固有名詞を一切出さなかったため、今まで触れられた記憶のない人物の話が出てきた。
 考えてみると、トリオは最初に話した時から今までずっと、タマとベンしか仲間がいないとは言っていなかった。
 トリオが不在の時に誰かがニルレンの対応をしていたような気がする話もしていた。

 僕が勝手に思い込んでいただけだ。

 ニルレン、トリオ、マグスをよく知る人物。
 この人しかいないか。
 僕はトリオの頭の側で小声で言った。

「その、全く関係のない、魔法玉を作らせた仲間がアリア?」
「ユウ!」

 何かから僕の声を隠すように、トリオは僕の顔に飛びついてきた。

 確かに。
 アルバートさんの言う通りだ。この鳥は気付いた。この舞台には話してはいけない何かがあることを。

 そして、トリオはそのことについてアリアと話したのだろう。アリアもトリオが気付いたことを知っている。僕が帰らないと言った時、トリオは僕を支援すべくアリアに指摘した。

 その二人の会話は、僕が倒れる前とは全く違っていた。それまでもアリアの話にトリオが呆れているのを見かけたことはあったけど、凄く親しいというほどではなかった。
 でも、さっきは旧知の気の置けない人間に対するものだった。旅路の果てに強敵を倒した時の仲間だったら、それはそうだろう。

 どんなタイミングで話したのかは僕には分からない。
 マチルダさんは知らなさそうだったけど、ひょっとして寝てたりしたのかな。
 ……まさかね。

 僕はトリオを引き剥がして、床に置いた。

「大丈夫だよ。トリオ。今は無礼講までいくかは分からないけど、今夜中は多少は話しても大丈夫だってさ。寝る前に話したいことがあれば話しておけとアルバートさんに言われた。僕も伝えたいことがあるし、話そうよ」
「……じゃあ、あいつをもう少し詰めることできたのか。くそっ」

 トリオはため息を一つつき、翼でくちばしを軽くこすった。

「今日は疲れる話ばかりじゃったが。まあ、そうじゃな。話すか。ゆっくり話せるのもこれで最後かもしれんしの」
「やった!」
「ただ、決定的な固有名詞は使うな。用心せんといかん」

 寝台に腰かけ、両手で強く握りこぶしを作った僕を、トリオは下からじろりと睨んできた。何となく、アルバートさんが言っていたことを思い出した。確かに、彼は戦う前に色々と下調べや準備をしてきたのかもしれない。

 基本的に根暗で消極的で発想が後ろ向きな彼だけど、だからこそ用心するのだろう。

 僕は彼の言葉に頷いた。
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