残酷な描写あり
R-15
176 検証
「じゃあ、ちょっと待ってろ」
フォスターの身体に取り憑いているビスタークはカイルをからかうのに飽きると、その身体をベッドに寝かせ鉢巻きを取ってカイルへ渡した。そのとたんフォスターの身体から力が抜ける。
「面白いなあ。昨日の夜は俺がこんな感じだったのか。全然覚えてないや。酒飲んで寝ただけ?」
『ああ。口浄石で口の中はすすいでやったぞ』
「親父さん意外と気遣いしてくれるんだ。えーと、じゃあさ、みんな起きるまで暇だし色々質問いい?」
『確かに暇潰しにはなるな』
その言葉を了承と受け取ったカイルは早速質問を始めた。
「俺のときもフォスターも寝てるときに取り憑いたんだよね? 起きてる間は取り憑けないの?」
『取り憑いたことあるぞ。身体の負担が大きいようだから緊急時以外はやらないことにした。試しにお前の身体でやってみるか?』
「んー……それだと今やると移動に支障がありそうだからなあ……夜寝る前にやってみるよ」
『それがいいかもな。こいつのときもすごい疲れたってすぐ寝てたしな』
「じゃあそれは後にするとして」
好奇心を隠せない様子でカイルはビスタークに要求する。
「生き物じゃないと取り憑けないって話だったけど念の為試してみてもいい?」
『無駄だと思うけどな』
「この盾に取り憑ければ自分で移動できるようになるんじゃないかと思って」
『盾ねえ……』
カイルはビスタークと話しながら盾を格納石から出して組み立て始めた。持ち手に鉢巻きを巻き、そこへ手を乗せて話す。
「どうかな? 手、離すよ」
組み立てた盾の一番下は大きな反力石である。いつもなら手を離すと浮かなくなり、形状的にも不安定なため傾いて倒れてしまう。今回もそうなるだろうとカイルは思っていた。
「あれっ?」
『……これは驚いたな』
予想外であった。盾は浮いていたのだ。
「え? 取り憑けたってこと?」
『取り憑いたっていうのか? これ?』
巻いた鉢巻きの端を持ちビスタークと会話している。二人とも戸惑いの気持ちが大きかった。
「動かすことは出来る?」
『やってみるから一旦手を離せ』
カイルが鉢巻きから手を離すと、盾がゆっくり進み始める。
「うわー! すげー! すげえ! すごいよ親父さん!」
思わず手を叩いて大声を出してしまった。
「うるさい……」
カイルの声でフォスターが起きた。
「何騒いでんだよ」
「あ、ごめん! でもでも、すごいんだよ!」
「……何が」
「親父さんだけで盾動かせたんだ!」
「あ?」
カイルが指さす方向を見ると盾がひとりでに浮いていた。持ち手にはビスタークの鉢巻きが巻かれている。
「なんで浮いてんだ? …………あー……夢か……」
ベッドへ戻ろうとするフォスターをカイルは止める。
「寝ぼけてんのか? 夢じゃないから! 親父さんだけで操縦出来てるんだよ!」
「あー?」
そう言った途端、盾が倒れた。
「あ! 親父さん!」
カイルが駆け寄り、鉢巻きを外した。
『これ、疲れる』
「幽霊も疲れるんだね」
『やろうと思えばまだ出来るが、今頑張る価値があるとは思えないしな』
「まあ試しにやってもらっただけだしね」
『でも何となく動ける原因はわかったぞ』
その言葉を聞くとカイルは興奮して食いついた。
「え! 教えて!」
『神の石だ』
「石のおかげ?」
『そもそも、俺は魂と理力だけの存在なんだ。物理的な力は無い』
「うん」
『神の石は理力を使うだろ』
「あー! この盾は反力石が融かしてあるから!」
『どうやらそういうことらしい』
起きたばかりのフォスターは鉢巻きに触れていないためカイルの声しか聞こえていない。それでも神の石を使うことで動かせたのはわかった。
「そういや忘却神の町で親父、契約石に触れて契約してたな」
「そうなんだ」
カイルがそう言いながらビスタークの鉢巻きを盾から外す。
「じゃあ、格納石から剣は出せるかな?」
鎧の場所まで移動し、手首についている格納石に鉢巻きを当てる。すぐに剣が現れた。
「やっぱり! 神の石なら動かせるんだ!」
『動かすって……これは動かしてはいないだろ』
「あ、そっか」
フォスターも鉢巻きの端を握った。
『それに当ててもらったから取り出せただけで、ここまで誰かに移動してもらわなきゃいけねえんだぞ。意味ないだろ』
「確かにそうだな」
「そっかあ。残念」
カイルはそう言いながら今度は自分の荷物をあさり始めた。だいぶ騒いでいるが、リューナは起きる気配がない。まだ起こすには少し早い時間のためフォスターはそのまま放置することにした。
「じゃあ光源石はどうかな」
自分の石袋の中から光源石を出して机の上に置き、その上に鉢巻きを乗せる。
『無理だな。これ触って起動する石じゃねえだろ。俺は叩いたりつついたり出来ねえし』
「あー、そうだったね」
そしてカイルはふと気づいたように石袋ではなく昨日着ていた服のポケットから別の石を出した。反力石のペンダントである。石に触ると浮いてしまうので紐の部分を掴んで机に置く。
「じゃあ乗せるよー」
ビスタークの鉢巻きを乗せると鉢巻きごと石が浮いた。長いので石からはみ出た部分は垂れ下がっている。
「やっぱり。触れると発動する石ならいけるんだね」
『実用はできねえだろうがな』
「風吹いたら落ちるよな、これ」
鉢巻きが風に飛ばされれば反力石は落ち、ビスタークは行方不明となりそうである。
「風!」
カイルは自分の石袋をあさり今度は換気石を出した。小さな円筒状の石の周りに鉢巻きを巻き付け縛る。
「親父さん、理力止められる?」
『生きてたときは出来たぞ』
「じゃあこっちも縛ろう」
カイルは反力石にも鉢巻きを巻いて縛ると、換気石のすぐそばに置いた。
「理力流してみて」
『俺はいつになったら解放されるんだ?』
ビスタークが渋々という様子で反力石に理力を流して浮いた。その際、換気石に反力石がこつんと当たる。途端に換気石が起動し石から空気が出る。鉢巻きは宙に浮いたままその推進力で動き始めた。
「やった! 動いた!」
「いやー……これが街中にいたら気持ち悪いだろ……」
「確かに、なんか変な生き物っぽいなあ」
『あのなあ……』
遠目に見たら空飛ぶ蛇や長く大きな虫に見えなくもない。ビスタークの機嫌を損ねたようで反力石が落ち、鉢巻きと換気石も落ちた。
『もうやらねえ!』
「ごめんごめん! あとちょっとだけ! 後で買い出しするときにお酒買ってあげるから!」
まるで子どもの機嫌をとるようにカイルが言うとビスタークは仕方ないという様子で了承した。
『絶対だぞ!』
「高すぎるのは無理だからね? 旅費は取っとかないと」
カイルはめげずにまた自分の石袋を物色している。
「なんか良い石無いかな……あ! これならどうだろ?」
妙案を思いついたらしく何かの神の石を持ってビスタークの鉢巻きに取り付けようとした。
『ちょっと待て! お前何くっつける気だ!?』
「え、排泄石だけど……大丈夫だよ、使ってないから!」
排泄石はおむつのように股に当てて使う神の石である。
「そういう問題じゃねえ!」
「それに使ってたとしても神様の力で清潔になってるから」
『だから、そういう問題じゃねえ!』
ビスタークの矜持が許さないらしく、ものすごく嫌がっている。
「これ柔らかいからさ、親父さんが動けるようになるんじゃないかと思って」
カイルは排泄石を粘土のように人の形に変えていく。フォスターは二人のやりとりを半笑いで傍観していた。
「んー、頭部分だと重みで倒れそうだから胴体部分に巻くか」
『やめろー!』
ビスタークの抵抗むなしく胴体部分に巻かれ軽くひと結びされてしまった。
「どうかな? 動ける?」
ビスタークの文句など全く聞いていなかったようにわくわくしながらカイルが訊く。排泄石の人形は項垂れているように見えたが、腕と脚の部分が少し動いた。
『動ける……』
ビスタークの取り憑いた排泄石人形はがっくりと肩を落としたように膝にあたる部分を床についた。
フォスターの身体に取り憑いているビスタークはカイルをからかうのに飽きると、その身体をベッドに寝かせ鉢巻きを取ってカイルへ渡した。そのとたんフォスターの身体から力が抜ける。
「面白いなあ。昨日の夜は俺がこんな感じだったのか。全然覚えてないや。酒飲んで寝ただけ?」
『ああ。口浄石で口の中はすすいでやったぞ』
「親父さん意外と気遣いしてくれるんだ。えーと、じゃあさ、みんな起きるまで暇だし色々質問いい?」
『確かに暇潰しにはなるな』
その言葉を了承と受け取ったカイルは早速質問を始めた。
「俺のときもフォスターも寝てるときに取り憑いたんだよね? 起きてる間は取り憑けないの?」
『取り憑いたことあるぞ。身体の負担が大きいようだから緊急時以外はやらないことにした。試しにお前の身体でやってみるか?』
「んー……それだと今やると移動に支障がありそうだからなあ……夜寝る前にやってみるよ」
『それがいいかもな。こいつのときもすごい疲れたってすぐ寝てたしな』
「じゃあそれは後にするとして」
好奇心を隠せない様子でカイルはビスタークに要求する。
「生き物じゃないと取り憑けないって話だったけど念の為試してみてもいい?」
『無駄だと思うけどな』
「この盾に取り憑ければ自分で移動できるようになるんじゃないかと思って」
『盾ねえ……』
カイルはビスタークと話しながら盾を格納石から出して組み立て始めた。持ち手に鉢巻きを巻き、そこへ手を乗せて話す。
「どうかな? 手、離すよ」
組み立てた盾の一番下は大きな反力石である。いつもなら手を離すと浮かなくなり、形状的にも不安定なため傾いて倒れてしまう。今回もそうなるだろうとカイルは思っていた。
「あれっ?」
『……これは驚いたな』
予想外であった。盾は浮いていたのだ。
「え? 取り憑けたってこと?」
『取り憑いたっていうのか? これ?』
巻いた鉢巻きの端を持ちビスタークと会話している。二人とも戸惑いの気持ちが大きかった。
「動かすことは出来る?」
『やってみるから一旦手を離せ』
カイルが鉢巻きから手を離すと、盾がゆっくり進み始める。
「うわー! すげー! すげえ! すごいよ親父さん!」
思わず手を叩いて大声を出してしまった。
「うるさい……」
カイルの声でフォスターが起きた。
「何騒いでんだよ」
「あ、ごめん! でもでも、すごいんだよ!」
「……何が」
「親父さんだけで盾動かせたんだ!」
「あ?」
カイルが指さす方向を見ると盾がひとりでに浮いていた。持ち手にはビスタークの鉢巻きが巻かれている。
「なんで浮いてんだ? …………あー……夢か……」
ベッドへ戻ろうとするフォスターをカイルは止める。
「寝ぼけてんのか? 夢じゃないから! 親父さんだけで操縦出来てるんだよ!」
「あー?」
そう言った途端、盾が倒れた。
「あ! 親父さん!」
カイルが駆け寄り、鉢巻きを外した。
『これ、疲れる』
「幽霊も疲れるんだね」
『やろうと思えばまだ出来るが、今頑張る価値があるとは思えないしな』
「まあ試しにやってもらっただけだしね」
『でも何となく動ける原因はわかったぞ』
その言葉を聞くとカイルは興奮して食いついた。
「え! 教えて!」
『神の石だ』
「石のおかげ?」
『そもそも、俺は魂と理力だけの存在なんだ。物理的な力は無い』
「うん」
『神の石は理力を使うだろ』
「あー! この盾は反力石が融かしてあるから!」
『どうやらそういうことらしい』
起きたばかりのフォスターは鉢巻きに触れていないためカイルの声しか聞こえていない。それでも神の石を使うことで動かせたのはわかった。
「そういや忘却神の町で親父、契約石に触れて契約してたな」
「そうなんだ」
カイルがそう言いながらビスタークの鉢巻きを盾から外す。
「じゃあ、格納石から剣は出せるかな?」
鎧の場所まで移動し、手首についている格納石に鉢巻きを当てる。すぐに剣が現れた。
「やっぱり! 神の石なら動かせるんだ!」
『動かすって……これは動かしてはいないだろ』
「あ、そっか」
フォスターも鉢巻きの端を握った。
『それに当ててもらったから取り出せただけで、ここまで誰かに移動してもらわなきゃいけねえんだぞ。意味ないだろ』
「確かにそうだな」
「そっかあ。残念」
カイルはそう言いながら今度は自分の荷物をあさり始めた。だいぶ騒いでいるが、リューナは起きる気配がない。まだ起こすには少し早い時間のためフォスターはそのまま放置することにした。
「じゃあ光源石はどうかな」
自分の石袋の中から光源石を出して机の上に置き、その上に鉢巻きを乗せる。
『無理だな。これ触って起動する石じゃねえだろ。俺は叩いたりつついたり出来ねえし』
「あー、そうだったね」
そしてカイルはふと気づいたように石袋ではなく昨日着ていた服のポケットから別の石を出した。反力石のペンダントである。石に触ると浮いてしまうので紐の部分を掴んで机に置く。
「じゃあ乗せるよー」
ビスタークの鉢巻きを乗せると鉢巻きごと石が浮いた。長いので石からはみ出た部分は垂れ下がっている。
「やっぱり。触れると発動する石ならいけるんだね」
『実用はできねえだろうがな』
「風吹いたら落ちるよな、これ」
鉢巻きが風に飛ばされれば反力石は落ち、ビスタークは行方不明となりそうである。
「風!」
カイルは自分の石袋をあさり今度は換気石を出した。小さな円筒状の石の周りに鉢巻きを巻き付け縛る。
「親父さん、理力止められる?」
『生きてたときは出来たぞ』
「じゃあこっちも縛ろう」
カイルは反力石にも鉢巻きを巻いて縛ると、換気石のすぐそばに置いた。
「理力流してみて」
『俺はいつになったら解放されるんだ?』
ビスタークが渋々という様子で反力石に理力を流して浮いた。その際、換気石に反力石がこつんと当たる。途端に換気石が起動し石から空気が出る。鉢巻きは宙に浮いたままその推進力で動き始めた。
「やった! 動いた!」
「いやー……これが街中にいたら気持ち悪いだろ……」
「確かに、なんか変な生き物っぽいなあ」
『あのなあ……』
遠目に見たら空飛ぶ蛇や長く大きな虫に見えなくもない。ビスタークの機嫌を損ねたようで反力石が落ち、鉢巻きと換気石も落ちた。
『もうやらねえ!』
「ごめんごめん! あとちょっとだけ! 後で買い出しするときにお酒買ってあげるから!」
まるで子どもの機嫌をとるようにカイルが言うとビスタークは仕方ないという様子で了承した。
『絶対だぞ!』
「高すぎるのは無理だからね? 旅費は取っとかないと」
カイルはめげずにまた自分の石袋を物色している。
「なんか良い石無いかな……あ! これならどうだろ?」
妙案を思いついたらしく何かの神の石を持ってビスタークの鉢巻きに取り付けようとした。
『ちょっと待て! お前何くっつける気だ!?』
「え、排泄石だけど……大丈夫だよ、使ってないから!」
排泄石はおむつのように股に当てて使う神の石である。
「そういう問題じゃねえ!」
「それに使ってたとしても神様の力で清潔になってるから」
『だから、そういう問題じゃねえ!』
ビスタークの矜持が許さないらしく、ものすごく嫌がっている。
「これ柔らかいからさ、親父さんが動けるようになるんじゃないかと思って」
カイルは排泄石を粘土のように人の形に変えていく。フォスターは二人のやりとりを半笑いで傍観していた。
「んー、頭部分だと重みで倒れそうだから胴体部分に巻くか」
『やめろー!』
ビスタークの抵抗むなしく胴体部分に巻かれ軽くひと結びされてしまった。
「どうかな? 動ける?」
ビスタークの文句など全く聞いていなかったようにわくわくしながらカイルが訊く。排泄石の人形は項垂れているように見えたが、腕と脚の部分が少し動いた。
『動ける……』
ビスタークの取り憑いた排泄石人形はがっくりと肩を落としたように膝にあたる部分を床についた。