残酷な描写あり
R-15
154 医者
気を失っていた風鳥木神の神衛兵アドバロは半日経ってから意識を取り戻したらしい。最初は動揺していたが、神官たちから事細かに説明されて状況を把握した後は協力する気になったそうだ。当たり前のことだが町に残してきた妻や家族が心配とのことだった。
それから三日経ってから大神官リジェンダと話し合う機会を得た。やはりまたリューナの眠った後、夜中だった。
「風鳥木神の町、鮭神の町、鳥神の町や他の町は空の都方面の半島に位置している。もしかしたらその半島全部が何かの陰謀に巻き込まれているかもしれないね。あ、もちろん空の都に調査を依頼しているよ」
この世界での「半島」とは世界の果ての崖から生えているような面積の小さい陸地のことである。フォスターたちの地元があるアークルス半島もそうだ。都の存在しない半島は田舎といえる。件の半島は世界の果ての崖に対し平行にくっつく形の横長の半島なので、謀をするなら都合が良いのかもしれない。
「で、そのアドバロだけど、記憶を消された当時のことを覚えてたんだ」
「本当ですか!?」
『お前のあんな言い回しでも石に通じたんだな……』
今は大神官の部屋でリジェンダとティリューダ、フォスター、鉢巻きに取り憑いているビスタークの三人と一魂で話をしている。ビスタークの鉢巻きは額から外されて端をリジェンダに渡していた。
「それで医者のことを聞いてみたんだ」
フォスターは頷いてリジェンダの次の言葉を待った。
「医者かどうかはわからないが、丸眼鏡をかけた細目で背の高い金髪の男が色んな鎧を着けた神衛兵らしき者達を率いていたと」
「……!」
『もっと詳しく教えろ』
「じゃあ順に聞いたことを話そう」
ある日風鳥木神の町で騒ぎがあった。仕事をしていた神衛兵たちが皆で確認に騒ぎのあった場所へ向かうと、そこには様々な鎧を纏った神衛兵らしき集団が町民を乱暴に捕らえているところだった。死人こそいなかったが抵抗すると暴力を振るわれていたという。応戦したが元々田舎で神衛兵の数が少ないことに加え相手の数が多く、結局アドバロたちも捕らえられてしまった。敵の神衛兵は皆無表情だったらしい。
その後しばらくは個別に閉じ込められていたが、半日くらいで眼鏡の男がやって来て注射をされた。神衛兵たちは無表情で殆ど喋らなかったがその男だけは普通に喋っていたので印象に残っていたという。そして、その後から記憶が無いとのことだった。
「で、準備が整ったから、例の作戦を明日決行するよ」
「……はい」
ごくりと喉が鳴った。自分が行うわけでもないのに緊張する。
『大丈夫なのか?』
ビスタークが懸念を伝える。するとリジェンダは紙の束を渡してきた。それは会話の想定がいくつも書いてある台本のような物だったのだが、量が多かった。アドバロには複写石で写し取った複製のほうを渡してあるという。
複写石はヨマリーたちの住んでいる図書神の町の神の石だ。複写石の流通は制限されているようなことを言っていたが神殿には卸しているのだろう。
「こんなにたくさんあるんですか?」
「それでもアドバロは全部覚えてくれたよ。ざっくりだけどね。あと、演技指導もしたよ」
「指導?」
「あの無表情な感じで対応しないと怪しまれるから、他の捕らえている奴らの反応を見せてこんな感じでってお願いしたよ」
「なるほど……」
自分ではとても務まらないなとフォスターは思った。絶対に覚えきれない自信があるし、演技も自分には無理だろうと思う。
『でもここに書かれていない想定外のことを聞かれたらどうするんだ』
「その辺も考えてあるよ。その為に側で私たちが待機する。即座にその場で紙に書いてアドバロに見せるつもりだ」
「登録した人にしか使えないから相手の声はこっちには聞こえないんじゃないんですか?」
「いや、繋ぐのは本人しか出来ないが、繋いでしまえば他の人にも使えるんだ。映像は正面にいる人にしか見えないが、声は周りにも聞こえるよ」
ずっと黙って側で待機しているティリューダも頷いた。
「あと、記録石を使ってやり取りを保存する。通信石を使う本人が持ってくっつけていれば通信石の映像もそのまま写し取れることは確認済みだ。向こうから見えないように位置も決めてある。背景に何かしら映っていれば居場所の手がかりが得られるかもしれないから、後からしっかり検証する」
記録石とは以前眼神の町でコーシェルが選挙の不正証拠映像を映し出していた神の石である。
「しかし彼を正気に戻して正解だったよ。やはり頭が良かった。神官になるつもりだったのに同年代に神衛の成り手がいなくて仕方なく神衛になったらしいんだ」
「ということはうちの町のような田舎なんでしょうね……」
少し親近感がわいた。
「あと、医者に関してだがやはり命の都で免許を取って登録されていた。偽名は使っていないようでザイステル=ゴーントという名前だったよ」
ザイステルの姓は知らないが名は同じである。特に隠す必要もないのだろうか。
「五年くらい前までは命の都に住んでいたようなんだが……」
リジェンダは一瞬言い淀んだが、すぐに真っ直ぐフォスターの目を見て続けた。
「奥方を通り魔に殺されたらしく、それから行方不明となったそうだ」
『……』
「……殺されたって……」
「犯人は不明なままらしい」
フォスターは複雑な気持ちになった。愛する妻がいなくなって自暴自棄にでもなったのだろうか。しかしザイステルに同情できる過去があったとしても、リューナにしたことは許せない。もやもやとした気持ちが胸の中で渦巻いて行く。
「おっと。言い忘れていた。リューナにも協力を頼んである」
「どんなことですか?」
「その紙の内容は読んでないよね?」
「はい。今渡されたばかりですし」
その紙とは先ほど渡された想定した会話が書かれている紙の束のことだ。すぐに話が始まったのに読む暇などあるわけがない。
「リューナを捕まえたという設定でいくつもりなんだ」
「はあ」
「そう言ったら向こうはたぶん確認したいと言い出すと思うんだ」
「まあ、そうでしょうね」
「だからちょっと彼女を縛り上げる」
「ええっ!?」
『いい趣味してんな』
フォスターたちが引いているのも構わずリジェンダは続ける。
「だって捕まえたんなら身体の自由を奪うために縛ったり閉じ込めたり眠らせたりするだろう」
「そうかもしれないですけど、流石にそれは……リューナが何て言うか」
「いやそれはもうお礼をたくさん用意するし! それに既に今日、ティリューダが説得してる」
「快く引き受けてくださいました」
「……」
また食べ物で釣ったんだな、とフォスターとビスタークは思った。
「本人から何も聞いてないんですけど」
「高級料理の存在をちらつかせて交渉したので、お兄さんには言いにくかったのかもしれません」
「はあ……そうですか……」
小言を言われるのが嫌だったのかもしれない。リューナが食いついて了承する姿が容易に思い浮かんだ。心配になって他にもリューナが酷い目にあわされないかフォスターは慌てて台本のような書類を確認する。その間にビスタークが懸念に思ったことを聞く。
『ということはリューナを近くで待機させるってことだよな。聞かれちゃマズイ話を聞かれることにならねえか?』
「耳栓をしてもらう」
「耳栓してもリューナは耳が良いから少しは聞こえると思います」
フォスターが書類を読みながら口を挟んだ。
「でも向こうももう知ってて活動してるんだからいちいち『破壊神の子』とか言わないと思うよ? それに知らないのはアドバロもスヴィルもダスタムもそうだ。これは賭けだよ」
「そうかもしれませんが……」
『いざとなったらあいつに忘却石を使うか。神の子に通用するかはわかんねえけどな』
「そうならないことを祈るよ」
心配ではあるが捕虜役は必要なため破壊神という言葉は出ないほうに賭けることとなった。
それから三日経ってから大神官リジェンダと話し合う機会を得た。やはりまたリューナの眠った後、夜中だった。
「風鳥木神の町、鮭神の町、鳥神の町や他の町は空の都方面の半島に位置している。もしかしたらその半島全部が何かの陰謀に巻き込まれているかもしれないね。あ、もちろん空の都に調査を依頼しているよ」
この世界での「半島」とは世界の果ての崖から生えているような面積の小さい陸地のことである。フォスターたちの地元があるアークルス半島もそうだ。都の存在しない半島は田舎といえる。件の半島は世界の果ての崖に対し平行にくっつく形の横長の半島なので、謀をするなら都合が良いのかもしれない。
「で、そのアドバロだけど、記憶を消された当時のことを覚えてたんだ」
「本当ですか!?」
『お前のあんな言い回しでも石に通じたんだな……』
今は大神官の部屋でリジェンダとティリューダ、フォスター、鉢巻きに取り憑いているビスタークの三人と一魂で話をしている。ビスタークの鉢巻きは額から外されて端をリジェンダに渡していた。
「それで医者のことを聞いてみたんだ」
フォスターは頷いてリジェンダの次の言葉を待った。
「医者かどうかはわからないが、丸眼鏡をかけた細目で背の高い金髪の男が色んな鎧を着けた神衛兵らしき者達を率いていたと」
「……!」
『もっと詳しく教えろ』
「じゃあ順に聞いたことを話そう」
ある日風鳥木神の町で騒ぎがあった。仕事をしていた神衛兵たちが皆で確認に騒ぎのあった場所へ向かうと、そこには様々な鎧を纏った神衛兵らしき集団が町民を乱暴に捕らえているところだった。死人こそいなかったが抵抗すると暴力を振るわれていたという。応戦したが元々田舎で神衛兵の数が少ないことに加え相手の数が多く、結局アドバロたちも捕らえられてしまった。敵の神衛兵は皆無表情だったらしい。
その後しばらくは個別に閉じ込められていたが、半日くらいで眼鏡の男がやって来て注射をされた。神衛兵たちは無表情で殆ど喋らなかったがその男だけは普通に喋っていたので印象に残っていたという。そして、その後から記憶が無いとのことだった。
「で、準備が整ったから、例の作戦を明日決行するよ」
「……はい」
ごくりと喉が鳴った。自分が行うわけでもないのに緊張する。
『大丈夫なのか?』
ビスタークが懸念を伝える。するとリジェンダは紙の束を渡してきた。それは会話の想定がいくつも書いてある台本のような物だったのだが、量が多かった。アドバロには複写石で写し取った複製のほうを渡してあるという。
複写石はヨマリーたちの住んでいる図書神の町の神の石だ。複写石の流通は制限されているようなことを言っていたが神殿には卸しているのだろう。
「こんなにたくさんあるんですか?」
「それでもアドバロは全部覚えてくれたよ。ざっくりだけどね。あと、演技指導もしたよ」
「指導?」
「あの無表情な感じで対応しないと怪しまれるから、他の捕らえている奴らの反応を見せてこんな感じでってお願いしたよ」
「なるほど……」
自分ではとても務まらないなとフォスターは思った。絶対に覚えきれない自信があるし、演技も自分には無理だろうと思う。
『でもここに書かれていない想定外のことを聞かれたらどうするんだ』
「その辺も考えてあるよ。その為に側で私たちが待機する。即座にその場で紙に書いてアドバロに見せるつもりだ」
「登録した人にしか使えないから相手の声はこっちには聞こえないんじゃないんですか?」
「いや、繋ぐのは本人しか出来ないが、繋いでしまえば他の人にも使えるんだ。映像は正面にいる人にしか見えないが、声は周りにも聞こえるよ」
ずっと黙って側で待機しているティリューダも頷いた。
「あと、記録石を使ってやり取りを保存する。通信石を使う本人が持ってくっつけていれば通信石の映像もそのまま写し取れることは確認済みだ。向こうから見えないように位置も決めてある。背景に何かしら映っていれば居場所の手がかりが得られるかもしれないから、後からしっかり検証する」
記録石とは以前眼神の町でコーシェルが選挙の不正証拠映像を映し出していた神の石である。
「しかし彼を正気に戻して正解だったよ。やはり頭が良かった。神官になるつもりだったのに同年代に神衛の成り手がいなくて仕方なく神衛になったらしいんだ」
「ということはうちの町のような田舎なんでしょうね……」
少し親近感がわいた。
「あと、医者に関してだがやはり命の都で免許を取って登録されていた。偽名は使っていないようでザイステル=ゴーントという名前だったよ」
ザイステルの姓は知らないが名は同じである。特に隠す必要もないのだろうか。
「五年くらい前までは命の都に住んでいたようなんだが……」
リジェンダは一瞬言い淀んだが、すぐに真っ直ぐフォスターの目を見て続けた。
「奥方を通り魔に殺されたらしく、それから行方不明となったそうだ」
『……』
「……殺されたって……」
「犯人は不明なままらしい」
フォスターは複雑な気持ちになった。愛する妻がいなくなって自暴自棄にでもなったのだろうか。しかしザイステルに同情できる過去があったとしても、リューナにしたことは許せない。もやもやとした気持ちが胸の中で渦巻いて行く。
「おっと。言い忘れていた。リューナにも協力を頼んである」
「どんなことですか?」
「その紙の内容は読んでないよね?」
「はい。今渡されたばかりですし」
その紙とは先ほど渡された想定した会話が書かれている紙の束のことだ。すぐに話が始まったのに読む暇などあるわけがない。
「リューナを捕まえたという設定でいくつもりなんだ」
「はあ」
「そう言ったら向こうはたぶん確認したいと言い出すと思うんだ」
「まあ、そうでしょうね」
「だからちょっと彼女を縛り上げる」
「ええっ!?」
『いい趣味してんな』
フォスターたちが引いているのも構わずリジェンダは続ける。
「だって捕まえたんなら身体の自由を奪うために縛ったり閉じ込めたり眠らせたりするだろう」
「そうかもしれないですけど、流石にそれは……リューナが何て言うか」
「いやそれはもうお礼をたくさん用意するし! それに既に今日、ティリューダが説得してる」
「快く引き受けてくださいました」
「……」
また食べ物で釣ったんだな、とフォスターとビスタークは思った。
「本人から何も聞いてないんですけど」
「高級料理の存在をちらつかせて交渉したので、お兄さんには言いにくかったのかもしれません」
「はあ……そうですか……」
小言を言われるのが嫌だったのかもしれない。リューナが食いついて了承する姿が容易に思い浮かんだ。心配になって他にもリューナが酷い目にあわされないかフォスターは慌てて台本のような書類を確認する。その間にビスタークが懸念に思ったことを聞く。
『ということはリューナを近くで待機させるってことだよな。聞かれちゃマズイ話を聞かれることにならねえか?』
「耳栓をしてもらう」
「耳栓してもリューナは耳が良いから少しは聞こえると思います」
フォスターが書類を読みながら口を挟んだ。
「でも向こうももう知ってて活動してるんだからいちいち『破壊神の子』とか言わないと思うよ? それに知らないのはアドバロもスヴィルもダスタムもそうだ。これは賭けだよ」
「そうかもしれませんが……」
『いざとなったらあいつに忘却石を使うか。神の子に通用するかはわかんねえけどな』
「そうならないことを祈るよ」
心配ではあるが捕虜役は必要なため破壊神という言葉は出ないほうに賭けることとなった。