残酷な描写あり
R-15
151 青髪
フォスターたちはキナノス一家の石屋から神殿へ暗くなり始める前に戻った。神殿の借りている部屋に入って一息ついたところで大神官の副官であるタトジャに呼び出された。どうやら待っていたらしい。
「リューナ様にご協力いただきたいのですが」
操られている神衛兵にリューナを見せてかつらを被っている場合とそうでない場合の変化を見るそうだ。まだティリューダが戻ってきていないので事情を知っているタトジャが待っていたらしい。伝えるとすぐにリジェンダの元へ戻っていった。
牢の近くにある取調室へ行くとのことでダスタムが先導する。リューナだけでは不安がるのでフォスターもついていった。リューナのかつらと眼鏡は着けたままである。先日仕事で行った地下の水源石の部屋とは繋がっていない別の地下に牢と取調室はある。おそらく警備上の理由でそうしているのだろう。
取調室に入るとスヴィルがいた。ダスタムの父親で警備隊長である。過去を見た今、ビスタークとの関係もわかった。もし、過去で何か一つでも食い違っていたらダスタムと自分はこの場に存在していなかったかもしれないのかと思うと、フォスターは何とも言い様の無い気持ちになった。
部屋は二つに別れていて今いる場所のさらに奥が取調室となっていた。こちらは上部にある小さい横長の窓から奥の様子を見るための部屋らしい。
「父ちゃん、どう?」
「仕事中は隊長と呼べっつってんだろ」
「あ、ごめん。で、どう?」
「全然だ。変わらず大したことは言わねえ」
スヴィルはそこでダスタムとフォスターの後ろに隠れていたリューナに気付いた。
「お、嬢ちゃん来てくれたのか! かつら被ってるけど嬢ちゃんだよな?」
「はい、そうです」
人見知りするリューナの代わりにフォスターが応えた。リューナはフォスターの後ろに隠れながら軽く頷いただけだ。
「じゃあ、早速だが、そのままこっちの窓から顔を出してみてくれるか?」
リューナはフォスターに先導され言われるまま窓へ近づいた。
窓の向こう側では水の神衛兵がリューナを捕まえようとした鮭神神衛兵に聞き取りをしているところだった。小さい机を挟んで対面に座っている。窓から平行に、真横から見る形となっていた。
まず水の神衛兵が気付いてこちらを見た。鮭神神衛兵もそれにつられてリューナを見たが一瞥しただけだった。
「じゃあ窓から離れてかつらを取って眼鏡をつけてもう一度近づいてくれ」
スヴィルにそう言われ一度離れてかつらを外しまた窓に近づいた。すると、今度は目を見開いてリューナを凝視した。眼鏡をかけてもかけていなくても同じであった。フォスターも顔を出してみたが特に反応は無かった。
「うん、やっぱり嬢ちゃんの髪の色で判断してるみたいだな」
「そうですね」
「青髪の神官や神衛兵でも試してみたんだが、さすがに男には反応しなかったな。女でも短い髪型だともう少し反応が薄かった」
「じゃあ、かつら被ってれば観光してもいいってことかな?」
リューナが弾んだ声でフォスターに聞いてきた。神殿に籠りっぱなしが相当嫌になっているらしい。
「まあ、目が見えないんだから一人でどこかに行くことはないよな? 神衛と一緒ならいいよ」
「やったあ! ありがとうございます!」
スヴィルに許可をもらい機嫌が良くなった。きっと何か美味しいものの食べ歩きでもしたいんだろうな、とフォスターは考えて手持ちの金が不安になった。
「俺はもう髪を隠さなくても大丈夫ってことですよね?」
「そうだな。何も反応しなかったしな」
スヴィルにそう言われほっとしたところでノックの音が聞こえた。
「お連れしました」
ティリューダの声だった。ダスタムがドアを開ける。そこにはティリューダと車椅子に乗った青いくせっ毛の髪の女性、車椅子を押して来たと思われる水の神衛兵がいた。ティリューダはフォスター達に軽く会釈をし、小さな声で伝えてきた。
「さっきの子のお母さんですよ」
予想通りキナノス達の店で万引きをしたビヨシュの母親であった。くせっ毛ではあるが、リューナの髪よりはふわふわしていなかった。足を怪我しているため車椅子に乗せられている。自分と似たような髪だとでも思ったのかリューナのほうをちらりと見ていた。
「あの子は今別の部屋で遊ばせています」
ティリューダが疑問に思っていたことを先に教えてくれた。確かに子どもをこんな場所には連れて来られないだろう。
「他の者にも見せて反応を確認しました。予想通りでした」
「そうか」
連れてきた神衛兵がスヴィルに報告する。
「じゃあそこもよろしく」
「はい。ちょっと失礼」
そう言うと連れてきた神衛兵がビヨシュの母親を抱き上げて窓から顔を出させ、神衛兵達が中の様子を確認した。
「嬢ちゃんのときと同じ反応だな」
「では青髪で長髪、くせのある髪の女性を狙っている、ということで間違いありませんね。大神官に報告します」
ティリューダが確認した。
「一応、嬢ちゃんも他の奴らに見せておいてくれ。それから報告を頼む」
「はい」
ティリューダがスヴィルとやりとりした後、ビヨシュの母親は軽く会釈して連れてきた神衛兵と共に出ていき、ティリューダは部屋に残った。そして思い出したようにフォスターに近づいた。
「こちらお返しします」
「ああ……」
ビスタークの鉢巻きだった。
『こいつ人使いが荒い!』
触れるなり文句が聞こえてきた。
「大変便利に使わせていただきました。あの子は呪いが怖くて逃げられなかったようで助かりました。ありがとうございます」
「は、はあ」
『俺のこと呪いとか失礼にもほどがあるだろこいつ。それに働いてやったんだから対価をよこせよな!』
ビスタークが当然だと言わんばかりに要求する。するとティリューダはにっこりと笑ってこう言った。
「もちろんです。キナノスさんにお支払いしておきますね」
『なんであいつに!?』
「だって借金してましたよね? 今回の働きで全額払えるとは思えませんが足しにはなりますよ」
ビスタークとティリューダがやりとりしている間にフォスターは大事なことを思い出した。エクレシアから預かった手紙を大神官であるリジェンダに渡してもらわなければならない。
「あ、あの、すみません。これエクレシアさんから預かりました。大神官に渡しておいてください」
ティリューダは何か察したらしい。
「はい。戻り次第すぐに渡します」
ビスタークの鉢巻きからすぐ手を離し手紙を受け取った。ビスタークはまだ文句を言っていたがその気になればくっついたままでいられるのにそうしないところを見ると執着しているわけでは無いようだ。
「お父さん帰って来ちゃったんだ。戻ってこなくて……えっと、ゆっくりしてて良かったのに」
リューナが本音をこぼしてあまり隠す気もない感じで言い直した。フォスターは少しだけ気の毒に感じた。過去を見た限りビスタークはリューナのことを結構可愛がっていたからだ。年頃の女の子に対する態度が良くないため嫌われているので本当に少しだけだが。
そこでスヴィルが割って入ってきた。
「なあ、それ本当にビスタークなのか?」
「え? は、はい」
『こいつにも知られてたか』
息子のダスタムが知っているのだからそこから伝わったのだろう。フォスターは鉢巻きの端をスヴィルに渡した。
「えーと、俺だ。覚えてるか?」
『覚えてねえ』
「うっわ、本当に聞こえるな! 久しぶりだな! 覚えてるんだろ? 友達だったじゃねえか!」
『友達になった覚えはねえよ』
「ほらやっぱ覚えてんじゃねえか!」
『……』
「ちょっとこいつ一晩貸してくれねえか? うちのも懐かしがっててな」
うちの、とは妻でダスタムの母親であるフレリのことだろうとフォスターは過去で見てきた顔を思い浮かべた。フレリもまだ神衛兵をしているらしく、先ほどのビヨシュの母親の事情聴取をしているそうだ。
「どうぞどうぞ。あ、でも秘蔵のお酒とかあったら勝手に飲まれるかもしれないので気をつけてくださいね」
「そんなとっておきの酒なんかねえよ。俺はすぐに飲んじまうからな!」
『俺はいいって言ってねえぞ。勝手に話を進めるな』
「いいじゃねえか。お前の話も聞いてやるからよ。何年ぶりだっけか?」
『……二十年くらいだ』
「じゃあ色々聞かせろよ。死んだって聞いてこっちは悲しかったんだからな」
『……一晩だけだぞ』
こうしてビスタークはもう一晩フォスター達から離れることになった。
「リューナ様にご協力いただきたいのですが」
操られている神衛兵にリューナを見せてかつらを被っている場合とそうでない場合の変化を見るそうだ。まだティリューダが戻ってきていないので事情を知っているタトジャが待っていたらしい。伝えるとすぐにリジェンダの元へ戻っていった。
牢の近くにある取調室へ行くとのことでダスタムが先導する。リューナだけでは不安がるのでフォスターもついていった。リューナのかつらと眼鏡は着けたままである。先日仕事で行った地下の水源石の部屋とは繋がっていない別の地下に牢と取調室はある。おそらく警備上の理由でそうしているのだろう。
取調室に入るとスヴィルがいた。ダスタムの父親で警備隊長である。過去を見た今、ビスタークとの関係もわかった。もし、過去で何か一つでも食い違っていたらダスタムと自分はこの場に存在していなかったかもしれないのかと思うと、フォスターは何とも言い様の無い気持ちになった。
部屋は二つに別れていて今いる場所のさらに奥が取調室となっていた。こちらは上部にある小さい横長の窓から奥の様子を見るための部屋らしい。
「父ちゃん、どう?」
「仕事中は隊長と呼べっつってんだろ」
「あ、ごめん。で、どう?」
「全然だ。変わらず大したことは言わねえ」
スヴィルはそこでダスタムとフォスターの後ろに隠れていたリューナに気付いた。
「お、嬢ちゃん来てくれたのか! かつら被ってるけど嬢ちゃんだよな?」
「はい、そうです」
人見知りするリューナの代わりにフォスターが応えた。リューナはフォスターの後ろに隠れながら軽く頷いただけだ。
「じゃあ、早速だが、そのままこっちの窓から顔を出してみてくれるか?」
リューナはフォスターに先導され言われるまま窓へ近づいた。
窓の向こう側では水の神衛兵がリューナを捕まえようとした鮭神神衛兵に聞き取りをしているところだった。小さい机を挟んで対面に座っている。窓から平行に、真横から見る形となっていた。
まず水の神衛兵が気付いてこちらを見た。鮭神神衛兵もそれにつられてリューナを見たが一瞥しただけだった。
「じゃあ窓から離れてかつらを取って眼鏡をつけてもう一度近づいてくれ」
スヴィルにそう言われ一度離れてかつらを外しまた窓に近づいた。すると、今度は目を見開いてリューナを凝視した。眼鏡をかけてもかけていなくても同じであった。フォスターも顔を出してみたが特に反応は無かった。
「うん、やっぱり嬢ちゃんの髪の色で判断してるみたいだな」
「そうですね」
「青髪の神官や神衛兵でも試してみたんだが、さすがに男には反応しなかったな。女でも短い髪型だともう少し反応が薄かった」
「じゃあ、かつら被ってれば観光してもいいってことかな?」
リューナが弾んだ声でフォスターに聞いてきた。神殿に籠りっぱなしが相当嫌になっているらしい。
「まあ、目が見えないんだから一人でどこかに行くことはないよな? 神衛と一緒ならいいよ」
「やったあ! ありがとうございます!」
スヴィルに許可をもらい機嫌が良くなった。きっと何か美味しいものの食べ歩きでもしたいんだろうな、とフォスターは考えて手持ちの金が不安になった。
「俺はもう髪を隠さなくても大丈夫ってことですよね?」
「そうだな。何も反応しなかったしな」
スヴィルにそう言われほっとしたところでノックの音が聞こえた。
「お連れしました」
ティリューダの声だった。ダスタムがドアを開ける。そこにはティリューダと車椅子に乗った青いくせっ毛の髪の女性、車椅子を押して来たと思われる水の神衛兵がいた。ティリューダはフォスター達に軽く会釈をし、小さな声で伝えてきた。
「さっきの子のお母さんですよ」
予想通りキナノス達の店で万引きをしたビヨシュの母親であった。くせっ毛ではあるが、リューナの髪よりはふわふわしていなかった。足を怪我しているため車椅子に乗せられている。自分と似たような髪だとでも思ったのかリューナのほうをちらりと見ていた。
「あの子は今別の部屋で遊ばせています」
ティリューダが疑問に思っていたことを先に教えてくれた。確かに子どもをこんな場所には連れて来られないだろう。
「他の者にも見せて反応を確認しました。予想通りでした」
「そうか」
連れてきた神衛兵がスヴィルに報告する。
「じゃあそこもよろしく」
「はい。ちょっと失礼」
そう言うと連れてきた神衛兵がビヨシュの母親を抱き上げて窓から顔を出させ、神衛兵達が中の様子を確認した。
「嬢ちゃんのときと同じ反応だな」
「では青髪で長髪、くせのある髪の女性を狙っている、ということで間違いありませんね。大神官に報告します」
ティリューダが確認した。
「一応、嬢ちゃんも他の奴らに見せておいてくれ。それから報告を頼む」
「はい」
ティリューダがスヴィルとやりとりした後、ビヨシュの母親は軽く会釈して連れてきた神衛兵と共に出ていき、ティリューダは部屋に残った。そして思い出したようにフォスターに近づいた。
「こちらお返しします」
「ああ……」
ビスタークの鉢巻きだった。
『こいつ人使いが荒い!』
触れるなり文句が聞こえてきた。
「大変便利に使わせていただきました。あの子は呪いが怖くて逃げられなかったようで助かりました。ありがとうございます」
「は、はあ」
『俺のこと呪いとか失礼にもほどがあるだろこいつ。それに働いてやったんだから対価をよこせよな!』
ビスタークが当然だと言わんばかりに要求する。するとティリューダはにっこりと笑ってこう言った。
「もちろんです。キナノスさんにお支払いしておきますね」
『なんであいつに!?』
「だって借金してましたよね? 今回の働きで全額払えるとは思えませんが足しにはなりますよ」
ビスタークとティリューダがやりとりしている間にフォスターは大事なことを思い出した。エクレシアから預かった手紙を大神官であるリジェンダに渡してもらわなければならない。
「あ、あの、すみません。これエクレシアさんから預かりました。大神官に渡しておいてください」
ティリューダは何か察したらしい。
「はい。戻り次第すぐに渡します」
ビスタークの鉢巻きからすぐ手を離し手紙を受け取った。ビスタークはまだ文句を言っていたがその気になればくっついたままでいられるのにそうしないところを見ると執着しているわけでは無いようだ。
「お父さん帰って来ちゃったんだ。戻ってこなくて……えっと、ゆっくりしてて良かったのに」
リューナが本音をこぼしてあまり隠す気もない感じで言い直した。フォスターは少しだけ気の毒に感じた。過去を見た限りビスタークはリューナのことを結構可愛がっていたからだ。年頃の女の子に対する態度が良くないため嫌われているので本当に少しだけだが。
そこでスヴィルが割って入ってきた。
「なあ、それ本当にビスタークなのか?」
「え? は、はい」
『こいつにも知られてたか』
息子のダスタムが知っているのだからそこから伝わったのだろう。フォスターは鉢巻きの端をスヴィルに渡した。
「えーと、俺だ。覚えてるか?」
『覚えてねえ』
「うっわ、本当に聞こえるな! 久しぶりだな! 覚えてるんだろ? 友達だったじゃねえか!」
『友達になった覚えはねえよ』
「ほらやっぱ覚えてんじゃねえか!」
『……』
「ちょっとこいつ一晩貸してくれねえか? うちのも懐かしがっててな」
うちの、とは妻でダスタムの母親であるフレリのことだろうとフォスターは過去で見てきた顔を思い浮かべた。フレリもまだ神衛兵をしているらしく、先ほどのビヨシュの母親の事情聴取をしているそうだ。
「どうぞどうぞ。あ、でも秘蔵のお酒とかあったら勝手に飲まれるかもしれないので気をつけてくださいね」
「そんなとっておきの酒なんかねえよ。俺はすぐに飲んじまうからな!」
『俺はいいって言ってねえぞ。勝手に話を進めるな』
「いいじゃねえか。お前の話も聞いてやるからよ。何年ぶりだっけか?」
『……二十年くらいだ』
「じゃあ色々聞かせろよ。死んだって聞いてこっちは悲しかったんだからな」
『……一晩だけだぞ』
こうしてビスタークはもう一晩フォスター達から離れることになった。