残酷な描写あり
R-15
145 再訪
リューナは変装するとかなり雰囲気が変わる。
「この格好に変えて正解だったかもな」
フォスターはまじまじとリューナを見た。光の加減で水色から青に見える長いふわふわとした髪は茶色の肩までのかつらに隠して丸眼鏡をかけている。
「その辺も検証予定だ。今は同じような髪をしてる女の子を探してるところだよ」
「探してどうするんですか?」
リューナが疑問に思ってダスタムに聞いた。
「青いふわふわした長い髪の女の子、を誘拐対象にしてるんなら、他の似たような女の子を見せても反応するんじゃないかなって」
「だからそういう話はもうやめなさいって。一応静寂石は使ってるけど、近くにいたら聞こえちゃうんだから」
ティリューダがダスタムをたしなめているときにフォスターがふと思い付いたことを口にした。
「……まさかとは思うけど、もう既に攫われたりしてませんよね?」
「え」
ティリューダとダスタムの動きが止まった。
「ちょ、ちょっと待っててください! 私、母に進言してきます!」
まだ神殿の中なので慌ててティリューダは上の階に戻って行った。もし既に巻き添えで誘拐されていたら……そう考えると恐ろしい。あのザイステルのことだ。自由意思を奪われるくらいなら良いほうで、最悪の場合生きては帰れないだろう。見ず知らずの同じ髪色の女性を案じ、皆黙ってしまった。リューナが思い詰めた表情をしていたので慰める。
「もし何かあってもお前のせいじゃないから」
「……でも……」
そこへティリューダが戻ってきた。
「誘拐や未遂事件の報告を各町に依頼するそうです。今はこちらでは何も出来ることがありません。自分の身を守ることに集中しましょう」
「はい……」
もし巻き添えで被害にあった者がいたとしても、ティリューダの言うとおり何も出来ることがない。周りに気を配りながらキナノスの店へと向かった。フォスターとリューナが前を歩き、ティリューダとダスタムは後ろについている。ダスタムは神殿の中では兜を脱いでいたが、外へ出るときに装着した。フォスターも何かあったときのために鎧は着けている。その上から髪の色を隠すためフード付きのマントを被っていた。
街中を見回すと青髪の者はそれなりにいた。しかし性別や年齢の違い、髪質や長さの違いがありリューナと同じ髪型は見つからなかった。向こうもある程度こちらの動向はわかっていたはずで、だからこそ神衛兵の訓練時にリューナを攫おうとしたのだ。
「多分、大丈夫だよ。巻き添えで攫われてたらもっと前に事件として神衛が動いてるはずだ。そんな話は入ってこないし、大丈夫」
リューナを安心させるように優しく言うと身体を密着してしっかりと力を入れて腕を組んできた。
「歩きづらいだろ」
「……でも、また急に脇から出てきて捕まれたら嫌だから」
船で一瞬のうちに捕まったことを思い出したようである。あの時と同じように守護石は持っているのだが、それだけでは不安らしい。
「腹違いの兄妹なんだよな?」
「……そうよ」
「兄ちゃんっ子なんだな。うちの妹なんか俺のこと汚いモノ扱いだぜ。羨ましい……」
後ろでダスタムとティリューダがそう会話していた。ダスタムはリューナが神の子だとは知らないが、ティリューダは知っている。エクレシアが提案した嘘の設定で話を合わせてくれているようだ。
リューナが暗い表情をしているので気分を上げようとフォスターは話題を振った。
「エクレシアさんに台所を貸してもらえるようにお願いしたんだよ」
「そうなの?」
「こっちの大陸に来てからろくに料理してないから、とにかく料理したくて」
最後にちゃんとした料理を作ったのは船に乗る前である。
「やったー! 楽しみ! 何作るの?」
「あー、それなんだけどな。この辺で売ってる食材がよくわからないから、どうしようかなあと思ってるとこなんだ」
「フォスターの作るチーズソースは何にかけても美味しいから何を買っても大丈夫だよ」
「ん? それが食べたいのか?」
「うん! 最近食べてないし」
「じゃあそうするか。チーズならあるだろうし」
リューナはやはり食べ物で誤魔化せる。元気が出たようで食べたいものを楽しそうに話しながらキナノス達の店へ到着した。店の面積があまり大きくないため四人入ると狭い。
「ああ、いらっしゃい!」
エクレシアが店の奥から出てきた。
「お邪魔します」
「通路狭いからぶつかって売り物落とさないように気を付けろよ」
「うん」
リューナに気を付けるよう忠告したあと、エクレシアの後ろに子どもがいることに気がついた。
「あれ、お子さんですか?」
「うん。今日は学校が休みでね。ほら、お兄ちゃんとお姉ちゃんにあいさつしな!」
「こんにちは!」
「こんにちは」
「こっちが姉ケトレン、十二歳。こっちは弟のシーカフ、十歳。一応あんた達とはいとこってことになるね」
「俺はフォスター。よろしくな」
「私はリューナ。よろしくね」
紹介された姉弟二人は、姉のケトレンは興味津々といった様子で、弟のシーカフは少し人見知りをしているような感じでフォスターとリューナを見ていた。
「リューナお姉ちゃんは目が見えないんだ。優しく部屋に案内してあげな」
「うん! こっちだよー」
姉ケトレンのほうがすぐリューナの手をとって奥の部屋へ連れていってくれたが、弟のシーカフは少し戸惑っていた。
「ほら、早く奥に行きな。ここ狭いんだから」
シーカフはエクレシアの声で慌てて奥の部屋へと駆け出した。
奥の居間、先日フォスターが通された部屋へ入りリューナは勧められるまま席に座った。
「……ここにいる間はかつら取ってもいい? 帰るときはまた着けるから」
「えーと?」
フォスターはそうリューナに言われてティリューダを見た。
「一応外から見えない位置に座ってもらえれば。こちらの窓は道側ではないから大丈夫だとは思いますが、念のため」
「だってさ」
「ここの席なら良いのではないかと」
ティリューダがリューナを外から見えない位置に座らせた。
「ありがとうございます」
リューナはティリューダに礼を言うとまず眼鏡を外してテーブルの上へ置き、それからかつらのほうも外した。
「ふうー、良かった。やっぱりかつらって被ってると落ち着かなくて」
窮屈だったらしく自分の髪の毛をほどいてかきあげながら安堵したようにリューナは呟いた。
弟のシーカフが不思議そうにリューナがかつらを取るところを見ていた。変装を解いたのを見たとたん顔を赤くして少し口を開いたままリューナをずっと見ている。フォスターは人が恋におちた瞬間を見てしまった。
先日の罠をしかけたときにもリューナは神衛兵見習い達に囲まれていた。訓練で顔見知りになったレグンもリューナのことを可愛いと気に入っているようだった。幼なじみのカイルもおそらくリューナのことを好いている。
フォスターはリューナのことを可愛い妹で大切な存在だと思っている。リューナには幸せになって欲しいし、妹が幸せになるのを見守るのが兄としての幸せだと考えている。
ここ最近、妹は随分もてるんだなという驚きの気持ちでいっぱいである。可愛いと感じているのは家族の贔屓目からだと思っていた。でも確かに隣に住む幼なじみがリューナだったら自分も惚れていたのかもしれないな、とは思う。血縁が無いのだから結婚できる可能性もあるにはあるが、フォスターには妹としか思えないのだ。
もし結婚するなら目が見えなくても支えてくれる頼れる優しい相手を選ばなくてはという思いと、神の子なのだから、いなくなるのだから結婚も何も無いのだというやるせなさがいっぺんに押し寄せてくる。フォスターはとても一言では言い表せない複雑な心境となっていた。
「この格好に変えて正解だったかもな」
フォスターはまじまじとリューナを見た。光の加減で水色から青に見える長いふわふわとした髪は茶色の肩までのかつらに隠して丸眼鏡をかけている。
「その辺も検証予定だ。今は同じような髪をしてる女の子を探してるところだよ」
「探してどうするんですか?」
リューナが疑問に思ってダスタムに聞いた。
「青いふわふわした長い髪の女の子、を誘拐対象にしてるんなら、他の似たような女の子を見せても反応するんじゃないかなって」
「だからそういう話はもうやめなさいって。一応静寂石は使ってるけど、近くにいたら聞こえちゃうんだから」
ティリューダがダスタムをたしなめているときにフォスターがふと思い付いたことを口にした。
「……まさかとは思うけど、もう既に攫われたりしてませんよね?」
「え」
ティリューダとダスタムの動きが止まった。
「ちょ、ちょっと待っててください! 私、母に進言してきます!」
まだ神殿の中なので慌ててティリューダは上の階に戻って行った。もし既に巻き添えで誘拐されていたら……そう考えると恐ろしい。あのザイステルのことだ。自由意思を奪われるくらいなら良いほうで、最悪の場合生きては帰れないだろう。見ず知らずの同じ髪色の女性を案じ、皆黙ってしまった。リューナが思い詰めた表情をしていたので慰める。
「もし何かあってもお前のせいじゃないから」
「……でも……」
そこへティリューダが戻ってきた。
「誘拐や未遂事件の報告を各町に依頼するそうです。今はこちらでは何も出来ることがありません。自分の身を守ることに集中しましょう」
「はい……」
もし巻き添えで被害にあった者がいたとしても、ティリューダの言うとおり何も出来ることがない。周りに気を配りながらキナノスの店へと向かった。フォスターとリューナが前を歩き、ティリューダとダスタムは後ろについている。ダスタムは神殿の中では兜を脱いでいたが、外へ出るときに装着した。フォスターも何かあったときのために鎧は着けている。その上から髪の色を隠すためフード付きのマントを被っていた。
街中を見回すと青髪の者はそれなりにいた。しかし性別や年齢の違い、髪質や長さの違いがありリューナと同じ髪型は見つからなかった。向こうもある程度こちらの動向はわかっていたはずで、だからこそ神衛兵の訓練時にリューナを攫おうとしたのだ。
「多分、大丈夫だよ。巻き添えで攫われてたらもっと前に事件として神衛が動いてるはずだ。そんな話は入ってこないし、大丈夫」
リューナを安心させるように優しく言うと身体を密着してしっかりと力を入れて腕を組んできた。
「歩きづらいだろ」
「……でも、また急に脇から出てきて捕まれたら嫌だから」
船で一瞬のうちに捕まったことを思い出したようである。あの時と同じように守護石は持っているのだが、それだけでは不安らしい。
「腹違いの兄妹なんだよな?」
「……そうよ」
「兄ちゃんっ子なんだな。うちの妹なんか俺のこと汚いモノ扱いだぜ。羨ましい……」
後ろでダスタムとティリューダがそう会話していた。ダスタムはリューナが神の子だとは知らないが、ティリューダは知っている。エクレシアが提案した嘘の設定で話を合わせてくれているようだ。
リューナが暗い表情をしているので気分を上げようとフォスターは話題を振った。
「エクレシアさんに台所を貸してもらえるようにお願いしたんだよ」
「そうなの?」
「こっちの大陸に来てからろくに料理してないから、とにかく料理したくて」
最後にちゃんとした料理を作ったのは船に乗る前である。
「やったー! 楽しみ! 何作るの?」
「あー、それなんだけどな。この辺で売ってる食材がよくわからないから、どうしようかなあと思ってるとこなんだ」
「フォスターの作るチーズソースは何にかけても美味しいから何を買っても大丈夫だよ」
「ん? それが食べたいのか?」
「うん! 最近食べてないし」
「じゃあそうするか。チーズならあるだろうし」
リューナはやはり食べ物で誤魔化せる。元気が出たようで食べたいものを楽しそうに話しながらキナノス達の店へ到着した。店の面積があまり大きくないため四人入ると狭い。
「ああ、いらっしゃい!」
エクレシアが店の奥から出てきた。
「お邪魔します」
「通路狭いからぶつかって売り物落とさないように気を付けろよ」
「うん」
リューナに気を付けるよう忠告したあと、エクレシアの後ろに子どもがいることに気がついた。
「あれ、お子さんですか?」
「うん。今日は学校が休みでね。ほら、お兄ちゃんとお姉ちゃんにあいさつしな!」
「こんにちは!」
「こんにちは」
「こっちが姉ケトレン、十二歳。こっちは弟のシーカフ、十歳。一応あんた達とはいとこってことになるね」
「俺はフォスター。よろしくな」
「私はリューナ。よろしくね」
紹介された姉弟二人は、姉のケトレンは興味津々といった様子で、弟のシーカフは少し人見知りをしているような感じでフォスターとリューナを見ていた。
「リューナお姉ちゃんは目が見えないんだ。優しく部屋に案内してあげな」
「うん! こっちだよー」
姉ケトレンのほうがすぐリューナの手をとって奥の部屋へ連れていってくれたが、弟のシーカフは少し戸惑っていた。
「ほら、早く奥に行きな。ここ狭いんだから」
シーカフはエクレシアの声で慌てて奥の部屋へと駆け出した。
奥の居間、先日フォスターが通された部屋へ入りリューナは勧められるまま席に座った。
「……ここにいる間はかつら取ってもいい? 帰るときはまた着けるから」
「えーと?」
フォスターはそうリューナに言われてティリューダを見た。
「一応外から見えない位置に座ってもらえれば。こちらの窓は道側ではないから大丈夫だとは思いますが、念のため」
「だってさ」
「ここの席なら良いのではないかと」
ティリューダがリューナを外から見えない位置に座らせた。
「ありがとうございます」
リューナはティリューダに礼を言うとまず眼鏡を外してテーブルの上へ置き、それからかつらのほうも外した。
「ふうー、良かった。やっぱりかつらって被ってると落ち着かなくて」
窮屈だったらしく自分の髪の毛をほどいてかきあげながら安堵したようにリューナは呟いた。
弟のシーカフが不思議そうにリューナがかつらを取るところを見ていた。変装を解いたのを見たとたん顔を赤くして少し口を開いたままリューナをずっと見ている。フォスターは人が恋におちた瞬間を見てしまった。
先日の罠をしかけたときにもリューナは神衛兵見習い達に囲まれていた。訓練で顔見知りになったレグンもリューナのことを可愛いと気に入っているようだった。幼なじみのカイルもおそらくリューナのことを好いている。
フォスターはリューナのことを可愛い妹で大切な存在だと思っている。リューナには幸せになって欲しいし、妹が幸せになるのを見守るのが兄としての幸せだと考えている。
ここ最近、妹は随分もてるんだなという驚きの気持ちでいっぱいである。可愛いと感じているのは家族の贔屓目からだと思っていた。でも確かに隣に住む幼なじみがリューナだったら自分も惚れていたのかもしれないな、とは思う。血縁が無いのだから結婚できる可能性もあるにはあるが、フォスターには妹としか思えないのだ。
もし結婚するなら目が見えなくても支えてくれる頼れる優しい相手を選ばなくてはという思いと、神の子なのだから、いなくなるのだから結婚も何も無いのだというやるせなさがいっぺんに押し寄せてくる。フォスターはとても一言では言い表せない複雑な心境となっていた。