残酷な描写あり
R-15
137 捜索
ビスタークはこれからどうすれば良いか考えた。元々はストロワ達を探すための旅だったが、途中からレリアの仇を探すための旅になってしまっている。
ストロワ達は試験が全て終わっているはずなのでもう都には用が無いだろうとは思うが、人探しも仇探しでも情報を得るなら人が集まる場所のほうが良い。そしてどうせなら行ったことの無い所へ行ってみたい。神の石が出なくなった都なら滅んだ鯵神の町との共通点が何かあるかもしれない――そう考えて、空の都へ行ってみることにした。
空の都は孤島にある。空の大神の石は転移石のため、孤島でも移動に全く問題が無かったのだ。そのため、転移石が降臨しなくなってからは移動がかなり大変になってしまった。
それでも思っていたより空の都は落ち着いた様子だった。石が降臨しなくなってから「大神官が石を隠している」などと言いがかりをつけられたり、大神官に問題があると言われて責任を取って辞任したりしたのだが、事態は全く好転しなかった。この時点ではまだ原因がわかっていないのだ。
神の石が出なくなったのだから大混乱であろうと思っていたが、出なくなってもう数年経っているのでどうやら住民たちは慣れてしまったらしい。空の都は島という立地のため元々漁業をしており、それは神の石とは関係無いため経済の混乱は半分程度で済んだようだ。
ただ、神官や神衛兵たちの雰囲気は悪いように感じた。全員が罪過石を額に埋め込まれているのだ。おそらく石が出なくなった原因を探るため、いわゆる犯人探しをしているのだろう。しかし殆どの者が灰色だったので、原因判明には時間がかかりそうだなと思った。数年経ってようやくこれか、とも思ったが、大神官が退いたり色々と調べた後でやっとこの調査が出来るようになったのかもしれない。一人一人、一つひとつ罪を省みなければならないのでかなりの時間がかかりそうだった。
空の神殿には転移石の在庫もあったようで、神殿では一回きりの他の都への転移を事業として高額で提供し資金に回しているようだった。高額でも大きく経済を回しているような人間には需要があるのだ。ビスタークは利用しなかったが。転移石の使い方について書かれた紙が近くの壁に貼られていたので使い方はそこでなんとなく覚えた。
例によってストロワ達を探したが予想通り見つからない。鯵神の町についても聞いて回ったがここからは遠いため役に立ちそうな情報は得られなかった。レリアと同じような首に傷のある者も探してみたがいなかった。都で調べたとは聞いたが、自分でも他にも同じような町が無いかと聞き込みもした。
空の都ではもう神の石が無い状況も普通になってしまったらしく、石が出なくなった共通点を探っても手がかりになるような話は聞けなかった。まあ都の神官や神衛兵たちが調べても石が出なくなった理由はわからないのだから、自分一人で調べてわかるものでもない、と考えた。あまりゆっくりしていても得るものが無いと思い、ビスタークは納得するまで聞き込みをするとすぐに次の都へ向かうことにした。途中の町でも当然聞き込みをしながら。
世界を時計回りに巡っている。次の都は大きい半島にある土の都だ。土の大神の石である養土石は埋めて理力を流すと土の養分を保ってくれるというものだ。よってこの半島は農業が盛んである。いつもと同じように聞き込みをしたが、何も情報は得られなかった。
星、水、命、炎、と次々に都を巡った。もうこれでレリアが亡くなってから全ての都へ行ったことになる。主要な港町でも聞き込みをしてまわった。しかし新しい情報は得られない。もう一度光の都と時の都へも行ってみたが同様だった。息子のフォスターが生まれてから既に三年も経っている。途方に暮れた。輝星石を握りしめ、レリアの星を眺めた。星を眺めていると心が安らいで段々と落ち着いてくる。
「……そうだな、また闇の都の孤児院へ行ってみるか」
ぼうっとしながら星を眺めるうちにそのような考えが生まれた。孤児院院長のディオファがストロワ達と再会している可能性もある。妻の顔を浮かべてふと思い付いただけだが、再度闇の都へ向かうことにした。
闇の都へ続く道には長閑な田園風景が相変わらず広がっていた。いつも通り神殿で滞在手続きをし、翌日に孤児院を訪ねた。
「あら! 貴方は、レリアの旦那さんの……ええと……」
「ビスタークです」
「そうそう、ビスタークさん!」
ディオファは歓迎してくれた。以前と同じように椅子の無い席へ案内され、冷たい麦茶を出される。
「一か月くらい前にね、ストロワが来たのよ」
「えっ!?」
こちらから聞く前に聞きたかったことを教えてくれた。やはりここへ来て正解だったと思った。
「可愛い赤ちゃんを連れていたわ。本当はここに預けるつもりだったらしいんだけど、事情が変わって無理になったとか言ってたわ」
「赤ちゃん……?」
怪訝に思った。
「……キナノスとエクレシアは一緒ではなかったのですか?」
「ええ、彼と赤ちゃんだけだったわよ」
「そうですか……」
しばらく思考を巡らせた。
まさかとは思うが、降臨が近いと言われていた、神の子?
キナノスかエクレシアの子?
何故ストロワだけで?
何か問題が起こったのか?
疑問は尽きない。他にも情報が欲しい。
「次に何処へ行くかとか、何か言ってませんでしたか?」
「あ、それでね、貴方が探してるって話を伝えたの。そうしたら、リグテュラス大陸に向かうつもりだからもし貴方が来たら伝えてくれって言ってたわ」
リグテュラス大陸とは光の都のある大陸である。入れ違いだったようだ。
「連れていた赤ちゃんというのは、誰の子なのか言ってましたか?」
「親のいない子だって言ってたから、拾い子なのかなと思ったわ。ここに預けるつもりだったって言ってたし」
「そうですか……」
やはり連れているのは神の子なのだろうか。本当のところはわからないが、ストロワの行き先がわかっただけでもかなりの収穫である。それだけでなく向こうにも自分が探していると伝わっている。今度こそ出会える可能性がある。ビスタークはディオファに礼を言って孤児院を離れた。
闇の都に来たばかりだが、次の日にすぐ滞在をキャンセルして出発した。船に乗り、リグテュラス大陸へ向かう。海路の途中、朽ちた建物のある島が遠くに見えた。寄らないところを見るとあれが鯵神の町かもしれないと思い、船員に聞いてみるとその通りだった。今はもう呪われた島として船員たちからは恐れられているのだという。
一か月かけ、リグテュラス大陸へ到着した。ここからまた聞き込みを始めた。赤ん坊を連れた色黒の壮年の男を見なかったか、と聞いて回った。人が集まる場所のほうが良いかと思い、再度光の都へ行ってみたがそこでは有力な手がかりは得られなかった。赤ん坊を連れた男など都では珍しくもないからだ。ビスタークは広い大陸の町から町へ移動し探し回った。
そして大陸内陸部にある旅神の町でようやくストロワらしき赤ん坊を連れている男を見つけた。その日は雨が降っていたが、旅神の石である手に入れたばかりの防雨石を使っていたので雨は全く気にならなかった。暗くなり始めた時間だったこともあって視界が悪い。ビスタークはストロワへ声をかけようとしたのだが、逃げられてしまった。自分を見て逃げたのかと思ったが、違った。ストロワの後ろをどこかの神衛兵らしき男が追いかけている。どうやらそれから逃げているようだった。ビスタークは反力石で飛び上がって屋根へ上り、先回りしてストロワの前へ飛び降りた。
「!」
ストロワの言葉が出るより早く、ビスタークは赤ん坊ごとストロワを抱えて屋根の上へ再度飛び上がった。レリアに再会した時と同じ状況だな、今回はおっさんと赤ん坊だが、と思った。
ストロワ達は試験が全て終わっているはずなのでもう都には用が無いだろうとは思うが、人探しも仇探しでも情報を得るなら人が集まる場所のほうが良い。そしてどうせなら行ったことの無い所へ行ってみたい。神の石が出なくなった都なら滅んだ鯵神の町との共通点が何かあるかもしれない――そう考えて、空の都へ行ってみることにした。
空の都は孤島にある。空の大神の石は転移石のため、孤島でも移動に全く問題が無かったのだ。そのため、転移石が降臨しなくなってからは移動がかなり大変になってしまった。
それでも思っていたより空の都は落ち着いた様子だった。石が降臨しなくなってから「大神官が石を隠している」などと言いがかりをつけられたり、大神官に問題があると言われて責任を取って辞任したりしたのだが、事態は全く好転しなかった。この時点ではまだ原因がわかっていないのだ。
神の石が出なくなったのだから大混乱であろうと思っていたが、出なくなってもう数年経っているのでどうやら住民たちは慣れてしまったらしい。空の都は島という立地のため元々漁業をしており、それは神の石とは関係無いため経済の混乱は半分程度で済んだようだ。
ただ、神官や神衛兵たちの雰囲気は悪いように感じた。全員が罪過石を額に埋め込まれているのだ。おそらく石が出なくなった原因を探るため、いわゆる犯人探しをしているのだろう。しかし殆どの者が灰色だったので、原因判明には時間がかかりそうだなと思った。数年経ってようやくこれか、とも思ったが、大神官が退いたり色々と調べた後でやっとこの調査が出来るようになったのかもしれない。一人一人、一つひとつ罪を省みなければならないのでかなりの時間がかかりそうだった。
空の神殿には転移石の在庫もあったようで、神殿では一回きりの他の都への転移を事業として高額で提供し資金に回しているようだった。高額でも大きく経済を回しているような人間には需要があるのだ。ビスタークは利用しなかったが。転移石の使い方について書かれた紙が近くの壁に貼られていたので使い方はそこでなんとなく覚えた。
例によってストロワ達を探したが予想通り見つからない。鯵神の町についても聞いて回ったがここからは遠いため役に立ちそうな情報は得られなかった。レリアと同じような首に傷のある者も探してみたがいなかった。都で調べたとは聞いたが、自分でも他にも同じような町が無いかと聞き込みもした。
空の都ではもう神の石が無い状況も普通になってしまったらしく、石が出なくなった共通点を探っても手がかりになるような話は聞けなかった。まあ都の神官や神衛兵たちが調べても石が出なくなった理由はわからないのだから、自分一人で調べてわかるものでもない、と考えた。あまりゆっくりしていても得るものが無いと思い、ビスタークは納得するまで聞き込みをするとすぐに次の都へ向かうことにした。途中の町でも当然聞き込みをしながら。
世界を時計回りに巡っている。次の都は大きい半島にある土の都だ。土の大神の石である養土石は埋めて理力を流すと土の養分を保ってくれるというものだ。よってこの半島は農業が盛んである。いつもと同じように聞き込みをしたが、何も情報は得られなかった。
星、水、命、炎、と次々に都を巡った。もうこれでレリアが亡くなってから全ての都へ行ったことになる。主要な港町でも聞き込みをしてまわった。しかし新しい情報は得られない。もう一度光の都と時の都へも行ってみたが同様だった。息子のフォスターが生まれてから既に三年も経っている。途方に暮れた。輝星石を握りしめ、レリアの星を眺めた。星を眺めていると心が安らいで段々と落ち着いてくる。
「……そうだな、また闇の都の孤児院へ行ってみるか」
ぼうっとしながら星を眺めるうちにそのような考えが生まれた。孤児院院長のディオファがストロワ達と再会している可能性もある。妻の顔を浮かべてふと思い付いただけだが、再度闇の都へ向かうことにした。
闇の都へ続く道には長閑な田園風景が相変わらず広がっていた。いつも通り神殿で滞在手続きをし、翌日に孤児院を訪ねた。
「あら! 貴方は、レリアの旦那さんの……ええと……」
「ビスタークです」
「そうそう、ビスタークさん!」
ディオファは歓迎してくれた。以前と同じように椅子の無い席へ案内され、冷たい麦茶を出される。
「一か月くらい前にね、ストロワが来たのよ」
「えっ!?」
こちらから聞く前に聞きたかったことを教えてくれた。やはりここへ来て正解だったと思った。
「可愛い赤ちゃんを連れていたわ。本当はここに預けるつもりだったらしいんだけど、事情が変わって無理になったとか言ってたわ」
「赤ちゃん……?」
怪訝に思った。
「……キナノスとエクレシアは一緒ではなかったのですか?」
「ええ、彼と赤ちゃんだけだったわよ」
「そうですか……」
しばらく思考を巡らせた。
まさかとは思うが、降臨が近いと言われていた、神の子?
キナノスかエクレシアの子?
何故ストロワだけで?
何か問題が起こったのか?
疑問は尽きない。他にも情報が欲しい。
「次に何処へ行くかとか、何か言ってませんでしたか?」
「あ、それでね、貴方が探してるって話を伝えたの。そうしたら、リグテュラス大陸に向かうつもりだからもし貴方が来たら伝えてくれって言ってたわ」
リグテュラス大陸とは光の都のある大陸である。入れ違いだったようだ。
「連れていた赤ちゃんというのは、誰の子なのか言ってましたか?」
「親のいない子だって言ってたから、拾い子なのかなと思ったわ。ここに預けるつもりだったって言ってたし」
「そうですか……」
やはり連れているのは神の子なのだろうか。本当のところはわからないが、ストロワの行き先がわかっただけでもかなりの収穫である。それだけでなく向こうにも自分が探していると伝わっている。今度こそ出会える可能性がある。ビスタークはディオファに礼を言って孤児院を離れた。
闇の都に来たばかりだが、次の日にすぐ滞在をキャンセルして出発した。船に乗り、リグテュラス大陸へ向かう。海路の途中、朽ちた建物のある島が遠くに見えた。寄らないところを見るとあれが鯵神の町かもしれないと思い、船員に聞いてみるとその通りだった。今はもう呪われた島として船員たちからは恐れられているのだという。
一か月かけ、リグテュラス大陸へ到着した。ここからまた聞き込みを始めた。赤ん坊を連れた色黒の壮年の男を見なかったか、と聞いて回った。人が集まる場所のほうが良いかと思い、再度光の都へ行ってみたがそこでは有力な手がかりは得られなかった。赤ん坊を連れた男など都では珍しくもないからだ。ビスタークは広い大陸の町から町へ移動し探し回った。
そして大陸内陸部にある旅神の町でようやくストロワらしき赤ん坊を連れている男を見つけた。その日は雨が降っていたが、旅神の石である手に入れたばかりの防雨石を使っていたので雨は全く気にならなかった。暗くなり始めた時間だったこともあって視界が悪い。ビスタークはストロワへ声をかけようとしたのだが、逃げられてしまった。自分を見て逃げたのかと思ったが、違った。ストロワの後ろをどこかの神衛兵らしき男が追いかけている。どうやらそれから逃げているようだった。ビスタークは反力石で飛び上がって屋根へ上り、先回りしてストロワの前へ飛び降りた。
「!」
ストロワの言葉が出るより早く、ビスタークは赤ん坊ごとストロワを抱えて屋根の上へ再度飛び上がった。レリアに再会した時と同じ状況だな、今回はおっさんと赤ん坊だが、と思った。