残酷な描写あり
R-15
082 余話
エクレシアとフォスターが店を出て買い物に行ってしまったので店内にはキナノスとビスタークだけが残された。キナノスにはエクレシアが意図的にこの親子を離したように思えた。
「……レリアの最期の様子を聞かせてくれないか」
折角なのでキナノスはこの機会に聞きづらいことを質問してみることにした。ビスタークも聞かれるだろうと思っていたのですぐに答えた。
『ああ。予想はしていたことだったが、難産でな……。産気付いてから二日間苦しんで、頑張って三日目にどうにか産んだんだ。産んでからちゃんと初乳を与えて、ニコニコしていてなんとか大丈夫そうだ、よかったと思っていたら産んだ三日後に……』
「そうか……」
どちらも重く低い声で会話する。
『出血量が多かったのが良くなかったんだろう。本当なら産んだ直後に死んでいたのかもしれない。長命石を御守りとして持っていたんだ。それで三日間延命できたのかもしれない……』
「相当頑張ったんだな、レリアは。昔からがんばり屋だったからな」
昔のことを思い出しながらしみじみとキナノスが言った。ビスタークがそれを聞いて思わず本音をこぼす。
『……俺は、別に子どもなんかいらなかった。欲しくなかった』
「おい。お前、それ絶対に息子の前で言うなよ」
『さすがにそれは言ってねえよ』
「それならいいが」
正直な気持ちを打ち明けたビスタークにキナノスが注意した。
『レリアが絶対に子どもが欲しいというから……あいつ、こうと決めたら絶対曲げなかったからな……』
「そうだな。お前と一緒になると決めた時もそうだった」
『当時も思ったが、本当によくお前ら許可したよな』
「俺は最後まで反対してたぞ」
『そうだったな。お前には殴られたしな』
「お前が酷いことを言ったからじゃないか。普通に素直にしてればよかったんだよ。俺は謝らないぞ」
『はは、謝って欲しいなんて思ってねえよ』
少しおどけるように言った後、思い出しながら語る。
『レリアが言ったんだ。お前たちのことで、神の子の降臨のことで悪い予感がするってな。だから俺は葬儀の後すぐに旅に出たんだ。探し回ったぜ』
「よく親父に会えたな」
『なんとなくこっちのほう、とか勘でしか動いてなかった。レリアが導いてくれたのかもしれないが』
「そうかもな」
『三年くらいかかったけどな』
「それでもよく見つけて預かってくれた。親父は安心したと思うよ」
キナノスは少し笑みを浮かべながら感謝を伝えた。
『お前らは、ストロワが見つかったらどうするんだ? 神官に戻るのか?』
「まあ、そうなるだろうな」
『神殿はどうすんだ?』
「たぶん別の場所を用意することになるんじゃないか。それかどこかの大神殿の隅を借りてお世話になるか」
ビスタークは少し考えてから続けて質問した。
『もし……見つからなかったら?』
「……あまり考えたくないが……どうすればいいんだろうな……」
『お前が大神官になるっていうのは考えてないのか?』
「俺は勉強不足だよ。こういうときにどうしたらいいのかわからないってのがその証拠さ」
『ここの大神官と相談するしかねえか』
キナノスは伏し目がちに呟く。
「今の生活がわりと気に入っててな。旅生活が多くて、自分の家っていうのに定住したのは初めてだったんだよ。……無責任と言われるだろうが、正直言うとこの平穏を壊したくない。子どもも二人いるしな」
『そうなのか? 今は学校か?』
「そうだ。土の刻になったら帰ってくる」
まだ一刻ほどは時間がある。
『しかしお前らが結婚してるとはな……。まさか妹に手を出してるとは』
「言い方が悪い! 俺だってそんなつもりは無かったんだ。あの時は孤立無援状態だったからな。お互い他に頼るものがなかったんだ。だから、流れでな……こうなっちまった」
『レリアとの結婚に反対してたのはそういうことだったのか?』
「違う!」
キナノスがむきになって怒り大きな声を出した。それを見てビスタークは怪しいと思ったが今さら追及してもどうにもならないと聞き流すことにした。
「ただいまー」
そんな話をしているとフォスターとエクレシアが帰ってきた。昼食として買ってきたのはこの辺でよく食べられているもので、ビスタークも食べたことのある思い出深いものだった。フォスターには知る由もなかったが。
キナノス達と昼食を食べた後、手持ちの石をエクレシアに鑑定してもらった。
「えーと、こっち側はみんな作物系の石ね。こっちは農業用で、こっちが水産用、畜産用は無いね」
一つひとつ鑑定石で確認し、紙に何の石かを書いて机の上に置いていく。
「これ……硝子石なんて一個あっても意味無いよ。四つで使うヤツだから」
四隅に置いて理力を流すと硝子を作ることが出来るのだという。全部の石の名前を書き出してもらい、質問した。
「家守石ってどんな効果ですか?」
「それね、玄関辺りに埋め込んで毎日理力を流しておくと家の中に虫とかネズミなんかが入って来なくなるんだよ。元々いるのも出て行ってくれる。カビみたいなのは無理だけど」
「すごい便利じゃないですか! なんで親父把握してないんだよ!」
『だからいちいち覚えてねえっての』
以前ビスタークは「礼にもらった」と言っていた。神殿の寄付のお返しであれば何処の町なのかがわかれば大体わかるはずである。人助けでもしたのだろうか。そんなことをするとは思えなかったのであまり想像できなかった。
「旅に出る前に知ってれば父さんたちが助かったのに」
『あいつら虫ダメだからなあ』
「じゃあそれは買い取り止めとく?」
「はい」
買い取ってもらいたいものだけ机の上に残した。
「これを売ったお金で格納石か守護石買えませんかね……」
「うーん……ちょっと足りないけど甥っ子のためだ、おまけしてあげるよ。両方持っていきな」
「ありがとうございます!」
「君は素直だねー。父親と違って」
それを聞いてビスタークが悪態をついた後、フォスターへ釘を刺す。
『旅費に少し取っておかなくていいのか』
「うーん、一度家に戻ろうかと思うんだ。それで聖堂でお祈りさせてもらってまた反力石もらえないかと思って」
『折角ここまで来たのにか?』
「リジェンダさんに頼んだら転移石か複製石融通してもらえないかなって」
『あー……なんとかしてくれそうではあるが……ちょっとなあ……』
奥歯にものが挟まったような言い方である。
「何かあるのか?」
『そのくらい察しろよ! またあいつそれを盾に俺をおもちゃにするだろうが!』
「ああー……」
「なんだそれ」
「気になるね」
フォスターはビスタークが昨日動物に取り憑いた話をした。
「取り憑けるんだ……」
「やることが悪霊っぽいぞ」
エクレシアとキナノスがあきれたように言うのでフォスターが便乗する。
「俺はよく身体を勝手に使われてます」
『最近はそうでも無いだろ』
「じゃあ俺が寝てるときに取り憑いたりも出来るのか」
『取り憑かれてみたいのか?』
「冗談じゃない」
「……すみません、話を戻したいんですけど」
話がそれたのでフォスターが少し気まずそうに言葉を挟んだ。
「盾も壊れたし、格納石も新しいのが手に入ったから盾を手首にしまっておきたいんだよ。石を付け替えなきゃならないから一度帰ってカイルに預けたいんだ」
『ああ、確かにそれはそうだな』
「まあ、この先どうするか話がまとまらないと次どう動けばいいかわからないから、今のところはただの願望だけどな」
ストロワがいないので急にリューナと別れることにならなかったのは良かったが、本当にどうすればいいのか目標を失ってしまった。それなら一度帰ってもいいのではないかと思う。
『じゃあ今日のところは神殿に戻るか』
「そうだな。じゃあ、後で打ち合わせする日を伝えに来ます。俺じゃなくて神官の人かもしれませんけど」
「うん。じゃあまたね」
「次は神の子に会わせてくれよ」
今日のところは夫婦と別れ、フォスター達は店を後にした。
「……レリアの最期の様子を聞かせてくれないか」
折角なのでキナノスはこの機会に聞きづらいことを質問してみることにした。ビスタークも聞かれるだろうと思っていたのですぐに答えた。
『ああ。予想はしていたことだったが、難産でな……。産気付いてから二日間苦しんで、頑張って三日目にどうにか産んだんだ。産んでからちゃんと初乳を与えて、ニコニコしていてなんとか大丈夫そうだ、よかったと思っていたら産んだ三日後に……』
「そうか……」
どちらも重く低い声で会話する。
『出血量が多かったのが良くなかったんだろう。本当なら産んだ直後に死んでいたのかもしれない。長命石を御守りとして持っていたんだ。それで三日間延命できたのかもしれない……』
「相当頑張ったんだな、レリアは。昔からがんばり屋だったからな」
昔のことを思い出しながらしみじみとキナノスが言った。ビスタークがそれを聞いて思わず本音をこぼす。
『……俺は、別に子どもなんかいらなかった。欲しくなかった』
「おい。お前、それ絶対に息子の前で言うなよ」
『さすがにそれは言ってねえよ』
「それならいいが」
正直な気持ちを打ち明けたビスタークにキナノスが注意した。
『レリアが絶対に子どもが欲しいというから……あいつ、こうと決めたら絶対曲げなかったからな……』
「そうだな。お前と一緒になると決めた時もそうだった」
『当時も思ったが、本当によくお前ら許可したよな』
「俺は最後まで反対してたぞ」
『そうだったな。お前には殴られたしな』
「お前が酷いことを言ったからじゃないか。普通に素直にしてればよかったんだよ。俺は謝らないぞ」
『はは、謝って欲しいなんて思ってねえよ』
少しおどけるように言った後、思い出しながら語る。
『レリアが言ったんだ。お前たちのことで、神の子の降臨のことで悪い予感がするってな。だから俺は葬儀の後すぐに旅に出たんだ。探し回ったぜ』
「よく親父に会えたな」
『なんとなくこっちのほう、とか勘でしか動いてなかった。レリアが導いてくれたのかもしれないが』
「そうかもな」
『三年くらいかかったけどな』
「それでもよく見つけて預かってくれた。親父は安心したと思うよ」
キナノスは少し笑みを浮かべながら感謝を伝えた。
『お前らは、ストロワが見つかったらどうするんだ? 神官に戻るのか?』
「まあ、そうなるだろうな」
『神殿はどうすんだ?』
「たぶん別の場所を用意することになるんじゃないか。それかどこかの大神殿の隅を借りてお世話になるか」
ビスタークは少し考えてから続けて質問した。
『もし……見つからなかったら?』
「……あまり考えたくないが……どうすればいいんだろうな……」
『お前が大神官になるっていうのは考えてないのか?』
「俺は勉強不足だよ。こういうときにどうしたらいいのかわからないってのがその証拠さ」
『ここの大神官と相談するしかねえか』
キナノスは伏し目がちに呟く。
「今の生活がわりと気に入っててな。旅生活が多くて、自分の家っていうのに定住したのは初めてだったんだよ。……無責任と言われるだろうが、正直言うとこの平穏を壊したくない。子どもも二人いるしな」
『そうなのか? 今は学校か?』
「そうだ。土の刻になったら帰ってくる」
まだ一刻ほどは時間がある。
『しかしお前らが結婚してるとはな……。まさか妹に手を出してるとは』
「言い方が悪い! 俺だってそんなつもりは無かったんだ。あの時は孤立無援状態だったからな。お互い他に頼るものがなかったんだ。だから、流れでな……こうなっちまった」
『レリアとの結婚に反対してたのはそういうことだったのか?』
「違う!」
キナノスがむきになって怒り大きな声を出した。それを見てビスタークは怪しいと思ったが今さら追及してもどうにもならないと聞き流すことにした。
「ただいまー」
そんな話をしているとフォスターとエクレシアが帰ってきた。昼食として買ってきたのはこの辺でよく食べられているもので、ビスタークも食べたことのある思い出深いものだった。フォスターには知る由もなかったが。
キナノス達と昼食を食べた後、手持ちの石をエクレシアに鑑定してもらった。
「えーと、こっち側はみんな作物系の石ね。こっちは農業用で、こっちが水産用、畜産用は無いね」
一つひとつ鑑定石で確認し、紙に何の石かを書いて机の上に置いていく。
「これ……硝子石なんて一個あっても意味無いよ。四つで使うヤツだから」
四隅に置いて理力を流すと硝子を作ることが出来るのだという。全部の石の名前を書き出してもらい、質問した。
「家守石ってどんな効果ですか?」
「それね、玄関辺りに埋め込んで毎日理力を流しておくと家の中に虫とかネズミなんかが入って来なくなるんだよ。元々いるのも出て行ってくれる。カビみたいなのは無理だけど」
「すごい便利じゃないですか! なんで親父把握してないんだよ!」
『だからいちいち覚えてねえっての』
以前ビスタークは「礼にもらった」と言っていた。神殿の寄付のお返しであれば何処の町なのかがわかれば大体わかるはずである。人助けでもしたのだろうか。そんなことをするとは思えなかったのであまり想像できなかった。
「旅に出る前に知ってれば父さんたちが助かったのに」
『あいつら虫ダメだからなあ』
「じゃあそれは買い取り止めとく?」
「はい」
買い取ってもらいたいものだけ机の上に残した。
「これを売ったお金で格納石か守護石買えませんかね……」
「うーん……ちょっと足りないけど甥っ子のためだ、おまけしてあげるよ。両方持っていきな」
「ありがとうございます!」
「君は素直だねー。父親と違って」
それを聞いてビスタークが悪態をついた後、フォスターへ釘を刺す。
『旅費に少し取っておかなくていいのか』
「うーん、一度家に戻ろうかと思うんだ。それで聖堂でお祈りさせてもらってまた反力石もらえないかと思って」
『折角ここまで来たのにか?』
「リジェンダさんに頼んだら転移石か複製石融通してもらえないかなって」
『あー……なんとかしてくれそうではあるが……ちょっとなあ……』
奥歯にものが挟まったような言い方である。
「何かあるのか?」
『そのくらい察しろよ! またあいつそれを盾に俺をおもちゃにするだろうが!』
「ああー……」
「なんだそれ」
「気になるね」
フォスターはビスタークが昨日動物に取り憑いた話をした。
「取り憑けるんだ……」
「やることが悪霊っぽいぞ」
エクレシアとキナノスがあきれたように言うのでフォスターが便乗する。
「俺はよく身体を勝手に使われてます」
『最近はそうでも無いだろ』
「じゃあ俺が寝てるときに取り憑いたりも出来るのか」
『取り憑かれてみたいのか?』
「冗談じゃない」
「……すみません、話を戻したいんですけど」
話がそれたのでフォスターが少し気まずそうに言葉を挟んだ。
「盾も壊れたし、格納石も新しいのが手に入ったから盾を手首にしまっておきたいんだよ。石を付け替えなきゃならないから一度帰ってカイルに預けたいんだ」
『ああ、確かにそれはそうだな』
「まあ、この先どうするか話がまとまらないと次どう動けばいいかわからないから、今のところはただの願望だけどな」
ストロワがいないので急にリューナと別れることにならなかったのは良かったが、本当にどうすればいいのか目標を失ってしまった。それなら一度帰ってもいいのではないかと思う。
『じゃあ今日のところは神殿に戻るか』
「そうだな。じゃあ、後で打ち合わせする日を伝えに来ます。俺じゃなくて神官の人かもしれませんけど」
「うん。じゃあまたね」
「次は神の子に会わせてくれよ」
今日のところは夫婦と別れ、フォスター達は店を後にした。