残酷な描写あり
R-15
081 相談
『そっちの状況は大体わかったが、これからどうするかだ』
「そうだな。正直、うちの神殿にはもう戻れないと思ってる」
『破壊神の神殿って結局どこにあるんだ?』
キナノスは一瞬迷った様子を見せたが、自嘲気味に笑って答えた。
「闇の都と風の都の中間地点くらいだな。山岳地帯で人が滅多に来ないような場所にある」
神官見習いだったレリアも場所を知らなかったくらいなのでおそらく秘密だったのだろうが、もう黙っている意味も無くなったのだろう。
『いざとなったらそこに攻め込めばいいか?』
「ああいった奴らが大勢いるのにか? 都の神衛部隊でも送り込まないと無理じゃないか?」
『敵の正体が知りたいんだよ。お前らもさっき言ってただろ。リューナが目的なのはわかるが、攫った後どうしたいのか何をしたいのかがさっぱりわからない』
確かにそうである。敵の情報が殆ど無いのだ。自由意思の無い神衛兵達と医者のザイステル、それに裏切った神官のアイサ。それくらいしかわからない。
『空の都周辺が怪しいって話だった』
「そうなのか?」
「昨日、水の大神官がそう言ってました。うちの町に来た神衛や医者は流通が殆ど無い転移石を持っていたので、横流ししたっていう神官から何か辿れるかもしれませんね」
そう言葉にしてからフォスターは思い付いたことがあった。
「……最初に拾った転移石をこっちで使わずにいきなり転移したら敵の本拠地に行けたのかな?」
『無理だろ。書いた場所を思い浮かべないとならないからな』
「無理か」
「転移石持ってるの?」
エクレシアが神の石を扱う店員として興味を持って聞いてきた。
「はい。持ってます」
『最初に襲ってきた奴が落としたのをもらった』
「いいなあー。それ高くて滅多に手に入らないんだよ」
「今いくらくらいするんですか?」
「んー、五百万くらい?」
「そんなに!?」
フォスターの気持ちが揺れる。それだけあれば旅費の心配は当分無いのにと。
『売るなよ。最後の手段はあったほうがいいぞ』
「売るつもりはないよ。緊急脱出用だしな。ただ、海に落ちてった石のことを考えるとな……」
『……あれか』
「勿体無いことをした……」
以前船で襲ってきた神衛兵が持っていたのだが、おそらく海の中へと落ちていってしまったのだ。
『話を戻すぞ。大神官も交えて今後の話がしたい。いつなら都合が良い?』
「どっちかだけでいいならいつでもいいぞ。店を閉める必要が無いからな」
『わかった。向こうにも伝えておく』
そこでフォスターは大きな溜め息をついた。
「……リューナに何て言おう……」
『お前、嘘が苦手だからな。ストロワがいないからよくわからないでいいんじゃねえか』
「襲われる理由に関してはそれでいいけど……母親は誰かって聞かれてるほうだよ。色々聞きたいけどストロワさんに会えるまで我慢するようなこと言ってたからな」
ストロワがいないとなると、我慢していた分の反動があるのではと思う。
「神の子の自覚が無いんじゃ自分の親は誰なのか知りたいだろうね。ビスタークの子ってことになってるの?」
『ああ。ストロワは祖父ってことにしてある』
「じゃあ私たちの姉妹が母親って設定になるね」
「でも前にそれは否定したんだろ」
『関係ある、とは言った』
「うーん……」
じゃあこういうのはどうかな、とエクレシアが以下のような話を考えた。
ストロワは大金持ちで、慈善事業で身寄りの無い子どもをあちこちで育てる支援をしているため血縁の無い子どもが多い。唯一の血縁者である一人娘がビスタークと結ばれて産まれたのがリューナで、遺産目当てで狙われている。自由意思の無い神衛兵は医者がついているので何かの薬で洗脳されている。リューナも攫われたらそうなってしまうだろう、という内容だ。
「唯一の血縁者って、俺は違うのか」
「あー、そこは私たちみたいに養子って設定で」
「まあいいけど、遺産ってことは親父が死んでる前提かよ」
「そこはお父さんも命を狙われて逃げてるんだよ。だからみんなで探してるの」
エクレシアの案にビスタークは前向きである。
『んー……まあ悪くはないんじゃないか。もっと設定を詰めないと突っ込まれたときにボロが出そうだが』
「設定をもっとしっかりねえ……生まれた町とか母親の名前とか?」
『前に嘘をついた時は旅神の町生まれで母親の名前はルナだと言ったな』
忘却神の町でリューナから問い詰められたときのことだ。
「そこでお前が親父から赤ん坊を受け取ったからか」
「ルナって名前はどこから?」
『俺があいつを受け取った後に取り敢えずつけた名前だ。ルーイナダウスだから省略してルナ』
「適当だなー」
「そういう意味だったのか」
フォスターはあの時、その場しのぎに考えた名前だと思っていたが、一応関係のあるものだったのである。
『そういうほうが忘れずに済むだろ。赤ん坊かかえてると町の婆さんとかに名前聞かれるんだよ。偶然似たような名前になってたし問題ないだろ』
リューナという名前は育ての両親がつけた名前だ。
『お前らからリューナにその設定で話をしてくれれば信じてもらえるかもしれん。俺じゃダメだ。信用されてない』
「神の子だって教えるのは無し?」
『自覚を持たれると神の力がどういうことになるかわからねえからな。教えないほうが無難だろ』
「そうだな」
キナノスもビスタークに同意したがこうも言ってきた。
「しかし……大神殿にずっと預かってもらうほうが安心なんじゃないか? 警備もちゃんとしてるだろ」
「それは……本人が嫌がると思います」
「軟禁されるようなもんだよね、それ」
『リューナへの説明はどうすんだよ』
「そうか、ダメか」
確かに安全性を考えるとそれが一番良いのだろうとは思うが、自由が無くなってしまう。リューナは旅を楽しんでいたので束縛することは避けたいと考えている。最後になるかもしれないこの旅は良い思い出となって欲しかった。
「あ、もうお昼過ぎたね。何か買ってこようか」
「そろそろ帰りますよ。また来ます」
「いいっていいって、折角会えたんだから甥っ子に奢らせてよ」
エクレシアが気を遣ってくれる。
「あ、じゃあさ、荷物持ち手伝ってくれる?」
「はい。お手伝いします」
「じゃ、ちょっと行ってくるね」
そう言ってエクレシアはフォスターを連れて外へ出た。
「男二人で話したいこともあるかもしれないしね」
「そういうことでしたか」
「まあ、それだけじゃないけど」
何か含むような言い方をしたので何を言われるのかと構えていると、エクレシアはフォスターの腕を指差した。
「それ。ビスタークの前では言いづらかったんだ」
「え? あ、これですか?」
それはいつも二の腕に着けている用途のよくわからないベルトだった。
「なんか戦争の時に使われた死体を見分けるための神の石だって聞いたんですけど、実際何の石なのかわからないんですよ。わかるんですか?」
「鑑定石で見れば確実にわかるけど、たぶん、それは昔の記憶石だよ。一回扱ったことがあるから」
「記憶石?」
「死んだ人の一生分の記憶が見れる石だよ」
記憶を見て死体を判別していたのだろうか。
「故人の秘密を暴くような石だから、今の記憶石は別の効果になってるんだ。それ希少価値があるものだよ」
「そうなんですか……じゃあ、つまり」
「うん。ビスタークの記憶が見れる」
「……」
それは自分が見ても良いものなのだろうか、と考える。
「あいつ肝心なことを言わなかったりするでしょ。余計なひとことは言うくせに」
「そうですね」
肝心なことかどうかはわからないが、はぐらかされたことは何回かあった。余計なひとことはよく言ってリューナを怒らせたりしているので納得である。
「私たちが見るより息子が見たほうがいいでしょ。それにレリアに会えるよ。お母さんの顔見てみたくない?」
「それは……」
育ての両親には申し訳ない気持ちもあるが、とても見てみたいと思った。神の石の中には空間を切り取って精巧な絵を作り出す物もあるらしいがそんな石は地元に無かったので、母親の顔は一度も見たことがなかった。記憶石の使い方を聞くと、ただ握って眠ればいいだけだという。夢として記憶が見られるらしい。自分の意思で見たくないところは飛ばしたりもできるのだとか。
「あ、そういえば、鑑定石持ってるんですか?」
「うん。それが無いと石屋やってけないからね」
「じゃあ後で手持ちの石を見てもらえませんか? 親父が生前持ってた石でわからないものがたくさんあって」
「いいよ。サービスでただで見てあげるよ」
「助かります」
いらない石は売ってしまおうと思った。普通に店に頼めば鑑定料を取られるのでとても助かる。それに思い付いたことがありついでに頼んでみた。
「複製石って入ることありますか?」
「あー、たまーに行商人が持ってくることがあるね。でも高いよ?」
「やっぱりそうですか……」
「転移石に比べたら安いけどね」
「その転移石を複製したいと思ってまして」
「ああ、なるほど」
「家へすぐ戻れるようにしてあるんですけど、できればここにもすぐ来れるようにしておきたいんですよ」
「うーん、それは大神官に言ったほうが早いかもね」
確かに大神官は最低でも二つ持っていると思うが譲ってもらうことなど出来るだろうか。
そんな話をしながら真ん中が空洞になった丸いパンを半分にした中へ色々な具材が入れたものを六つ買い、店へと戻った。
「そうだな。正直、うちの神殿にはもう戻れないと思ってる」
『破壊神の神殿って結局どこにあるんだ?』
キナノスは一瞬迷った様子を見せたが、自嘲気味に笑って答えた。
「闇の都と風の都の中間地点くらいだな。山岳地帯で人が滅多に来ないような場所にある」
神官見習いだったレリアも場所を知らなかったくらいなのでおそらく秘密だったのだろうが、もう黙っている意味も無くなったのだろう。
『いざとなったらそこに攻め込めばいいか?』
「ああいった奴らが大勢いるのにか? 都の神衛部隊でも送り込まないと無理じゃないか?」
『敵の正体が知りたいんだよ。お前らもさっき言ってただろ。リューナが目的なのはわかるが、攫った後どうしたいのか何をしたいのかがさっぱりわからない』
確かにそうである。敵の情報が殆ど無いのだ。自由意思の無い神衛兵達と医者のザイステル、それに裏切った神官のアイサ。それくらいしかわからない。
『空の都周辺が怪しいって話だった』
「そうなのか?」
「昨日、水の大神官がそう言ってました。うちの町に来た神衛や医者は流通が殆ど無い転移石を持っていたので、横流ししたっていう神官から何か辿れるかもしれませんね」
そう言葉にしてからフォスターは思い付いたことがあった。
「……最初に拾った転移石をこっちで使わずにいきなり転移したら敵の本拠地に行けたのかな?」
『無理だろ。書いた場所を思い浮かべないとならないからな』
「無理か」
「転移石持ってるの?」
エクレシアが神の石を扱う店員として興味を持って聞いてきた。
「はい。持ってます」
『最初に襲ってきた奴が落としたのをもらった』
「いいなあー。それ高くて滅多に手に入らないんだよ」
「今いくらくらいするんですか?」
「んー、五百万くらい?」
「そんなに!?」
フォスターの気持ちが揺れる。それだけあれば旅費の心配は当分無いのにと。
『売るなよ。最後の手段はあったほうがいいぞ』
「売るつもりはないよ。緊急脱出用だしな。ただ、海に落ちてった石のことを考えるとな……」
『……あれか』
「勿体無いことをした……」
以前船で襲ってきた神衛兵が持っていたのだが、おそらく海の中へと落ちていってしまったのだ。
『話を戻すぞ。大神官も交えて今後の話がしたい。いつなら都合が良い?』
「どっちかだけでいいならいつでもいいぞ。店を閉める必要が無いからな」
『わかった。向こうにも伝えておく』
そこでフォスターは大きな溜め息をついた。
「……リューナに何て言おう……」
『お前、嘘が苦手だからな。ストロワがいないからよくわからないでいいんじゃねえか』
「襲われる理由に関してはそれでいいけど……母親は誰かって聞かれてるほうだよ。色々聞きたいけどストロワさんに会えるまで我慢するようなこと言ってたからな」
ストロワがいないとなると、我慢していた分の反動があるのではと思う。
「神の子の自覚が無いんじゃ自分の親は誰なのか知りたいだろうね。ビスタークの子ってことになってるの?」
『ああ。ストロワは祖父ってことにしてある』
「じゃあ私たちの姉妹が母親って設定になるね」
「でも前にそれは否定したんだろ」
『関係ある、とは言った』
「うーん……」
じゃあこういうのはどうかな、とエクレシアが以下のような話を考えた。
ストロワは大金持ちで、慈善事業で身寄りの無い子どもをあちこちで育てる支援をしているため血縁の無い子どもが多い。唯一の血縁者である一人娘がビスタークと結ばれて産まれたのがリューナで、遺産目当てで狙われている。自由意思の無い神衛兵は医者がついているので何かの薬で洗脳されている。リューナも攫われたらそうなってしまうだろう、という内容だ。
「唯一の血縁者って、俺は違うのか」
「あー、そこは私たちみたいに養子って設定で」
「まあいいけど、遺産ってことは親父が死んでる前提かよ」
「そこはお父さんも命を狙われて逃げてるんだよ。だからみんなで探してるの」
エクレシアの案にビスタークは前向きである。
『んー……まあ悪くはないんじゃないか。もっと設定を詰めないと突っ込まれたときにボロが出そうだが』
「設定をもっとしっかりねえ……生まれた町とか母親の名前とか?」
『前に嘘をついた時は旅神の町生まれで母親の名前はルナだと言ったな』
忘却神の町でリューナから問い詰められたときのことだ。
「そこでお前が親父から赤ん坊を受け取ったからか」
「ルナって名前はどこから?」
『俺があいつを受け取った後に取り敢えずつけた名前だ。ルーイナダウスだから省略してルナ』
「適当だなー」
「そういう意味だったのか」
フォスターはあの時、その場しのぎに考えた名前だと思っていたが、一応関係のあるものだったのである。
『そういうほうが忘れずに済むだろ。赤ん坊かかえてると町の婆さんとかに名前聞かれるんだよ。偶然似たような名前になってたし問題ないだろ』
リューナという名前は育ての両親がつけた名前だ。
『お前らからリューナにその設定で話をしてくれれば信じてもらえるかもしれん。俺じゃダメだ。信用されてない』
「神の子だって教えるのは無し?」
『自覚を持たれると神の力がどういうことになるかわからねえからな。教えないほうが無難だろ』
「そうだな」
キナノスもビスタークに同意したがこうも言ってきた。
「しかし……大神殿にずっと預かってもらうほうが安心なんじゃないか? 警備もちゃんとしてるだろ」
「それは……本人が嫌がると思います」
「軟禁されるようなもんだよね、それ」
『リューナへの説明はどうすんだよ』
「そうか、ダメか」
確かに安全性を考えるとそれが一番良いのだろうとは思うが、自由が無くなってしまう。リューナは旅を楽しんでいたので束縛することは避けたいと考えている。最後になるかもしれないこの旅は良い思い出となって欲しかった。
「あ、もうお昼過ぎたね。何か買ってこようか」
「そろそろ帰りますよ。また来ます」
「いいっていいって、折角会えたんだから甥っ子に奢らせてよ」
エクレシアが気を遣ってくれる。
「あ、じゃあさ、荷物持ち手伝ってくれる?」
「はい。お手伝いします」
「じゃ、ちょっと行ってくるね」
そう言ってエクレシアはフォスターを連れて外へ出た。
「男二人で話したいこともあるかもしれないしね」
「そういうことでしたか」
「まあ、それだけじゃないけど」
何か含むような言い方をしたので何を言われるのかと構えていると、エクレシアはフォスターの腕を指差した。
「それ。ビスタークの前では言いづらかったんだ」
「え? あ、これですか?」
それはいつも二の腕に着けている用途のよくわからないベルトだった。
「なんか戦争の時に使われた死体を見分けるための神の石だって聞いたんですけど、実際何の石なのかわからないんですよ。わかるんですか?」
「鑑定石で見れば確実にわかるけど、たぶん、それは昔の記憶石だよ。一回扱ったことがあるから」
「記憶石?」
「死んだ人の一生分の記憶が見れる石だよ」
記憶を見て死体を判別していたのだろうか。
「故人の秘密を暴くような石だから、今の記憶石は別の効果になってるんだ。それ希少価値があるものだよ」
「そうなんですか……じゃあ、つまり」
「うん。ビスタークの記憶が見れる」
「……」
それは自分が見ても良いものなのだろうか、と考える。
「あいつ肝心なことを言わなかったりするでしょ。余計なひとことは言うくせに」
「そうですね」
肝心なことかどうかはわからないが、はぐらかされたことは何回かあった。余計なひとことはよく言ってリューナを怒らせたりしているので納得である。
「私たちが見るより息子が見たほうがいいでしょ。それにレリアに会えるよ。お母さんの顔見てみたくない?」
「それは……」
育ての両親には申し訳ない気持ちもあるが、とても見てみたいと思った。神の石の中には空間を切り取って精巧な絵を作り出す物もあるらしいがそんな石は地元に無かったので、母親の顔は一度も見たことがなかった。記憶石の使い方を聞くと、ただ握って眠ればいいだけだという。夢として記憶が見られるらしい。自分の意思で見たくないところは飛ばしたりもできるのだとか。
「あ、そういえば、鑑定石持ってるんですか?」
「うん。それが無いと石屋やってけないからね」
「じゃあ後で手持ちの石を見てもらえませんか? 親父が生前持ってた石でわからないものがたくさんあって」
「いいよ。サービスでただで見てあげるよ」
「助かります」
いらない石は売ってしまおうと思った。普通に店に頼めば鑑定料を取られるのでとても助かる。それに思い付いたことがありついでに頼んでみた。
「複製石って入ることありますか?」
「あー、たまーに行商人が持ってくることがあるね。でも高いよ?」
「やっぱりそうですか……」
「転移石に比べたら安いけどね」
「その転移石を複製したいと思ってまして」
「ああ、なるほど」
「家へすぐ戻れるようにしてあるんですけど、できればここにもすぐ来れるようにしておきたいんですよ」
「うーん、それは大神官に言ったほうが早いかもね」
確かに大神官は最低でも二つ持っていると思うが譲ってもらうことなど出来るだろうか。
そんな話をしながら真ん中が空洞になった丸いパンを半分にした中へ色々な具材が入れたものを六つ買い、店へと戻った。