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作者: 結城貴美
残酷な描写あり R-15
058 恋愛談義
 男子二人が部屋から出ていき、部屋には女子二人だけとなった。

「お兄さん、心配症だね。神衛かのえだから職業病みたいな感じなのかな?」
「あ……実は前に攫われそうになったことがあったから……」

 リューナが言っていいものか少し躊躇しながらヨマリーに伝えた。

「そうなの!? ヤバいじゃん! あ、だからお兄さん鎧着けたまんまなの?」
「うん、たぶん、そうだと思う」
「じゃあ不安だから鍵だけじゃなくて、念のためにつっかえ棒みたくしとこうか」

 ヨマリーがベッドから下りて、フォスターのベッド側に立て掛けてある盾を手にした。

「ちょっと盾借りるね。うっわ、軽い! これじゃ駄目かなあ」

 そう言いながらドアへと運び、横にしてドアの前に置き、両側のベッドと壁の隙間に入れて挟んだ。ドアが内開きだからできる対応である。

「これでよし。ベッドが重いから大丈夫だよね」
「何したの?」
「うーん、口では説明しにくいな。下りて触ってみて」

 リューナもベッドから下りた。ヨマリーはリューナの手を取り、盾に触らせた。

「こうやっとけばつっかえ棒の代わりになるでしょ?」
「うん。これなら無理矢理入って来られないね」
「じゃあ、女子会始めるから戻って戻って」

 また強引にベッドへと戻らされた。

「さあ、じゃあ聞かせてもらいましょうか」
「何を?」
「そんなの決まってるじゃない! 恋バナだよ!」
「えっ、いきなり!? ……えーっと、ヨマリーから先にお願いします……」

 リューナは動揺した。そういう恋愛系の話もするのかもとは思っていたが、いきなり最初からその話をするとは思っていなかったからだ。

「私、特にいないんだよねー。強いて言えば、物語の中にいる人かな!」
「物語の中にいる人?」
「うん。うちの町で流行ってる本があってね。殺人事件を解決していくお話なんだけど、その解決する神衛がさあーかっこいいんだよね! 頭が良くて、強くてさあ~」

 ヨマリーはとても嬉しそうに興奮気味で話している。

「実在してる人……じゃないんだよね?」
「うん」
「うーん……それは『恋』なの?」
「たぶん。だってその人のこと考えると顔がニヤニヤするし、ドキドキもするし、どんだけ格好いいか周りの人に語りたくなるし、なんかいてもたってもいられなくなるし、毎日が楽しいもの! あー、続きが読みたいなあ! 町に戻ったら多分話の続きが出てる頃じゃないかと思うんだ!」
「そ、そうなんだ……」
「本持って来てるから後で読ませてあげる! どうせ船にいる間は暇なんだから時間潰しに読書はもってこいだよ!」
「う、うん」

 リューナは推しを語る人間に初めて出会ったのでその勢いにあっけにとられていた。

「じゃあ、リューナの番!」
「え……」
「私は言ったんだから、リューナも言わないと不公平でしょう!」
「う、うん。そうだね……」

 言葉にするのは恥ずかしいが、実在しない人物相手でも恋の対象になるのだからいいか、と考えて想いを口にしようとした。

「ええとね……あー……えーっと、んー……」

 しかし、恥ずかしくてなかなか言えない。

「頑張れ! 私しか聞いてないし、絶対誰にも言わないから!」

 ヨマリーが励ます。リューナは一度大きく息を吸い込み、覚悟を決めて小さな声で言葉を発した。

「私ね、フォスターが好きなの……」
「ん?」

 ヨマリーは一瞬意味が理解出来なかった。

「んん? んー……それって、お兄さんと同じ名前の人ってこと……ではなく?」

 そして困惑したように確認する。

「うん……今さっき部屋から出てった……」

 とても小さい声でリューナは呟くようにそう言った。

「え、えーっと……お兄さんが好きっていうのは、その、家族愛ってやつなんじゃ、ないのかな……」
「それもあるけど……でもそれだけじゃないと、思う」

 顔が熱い。恥ずかしくて下を向きっぱなしだ。

「んー、そういうことも、ある……のかなあ? 自分は兄貴にそう思うことなんて絶対にないからなあ……私たち嫌になるくらいすごい顔似てるし……」
「やっぱり言わなきゃよかった……」

 恥ずかしくて涙が出そうだった。一般的におかしいことだと認識はしている。

「ううん! 興味ある! 実はね、私は作家志望なんだ。こうなったらとことん聞くよ! 事実は小説よりも奇なりってね。創造の刺激になる情報は大歓迎だよ!」
「作家志望?」
「うん。恋愛系の話書きたいんだ! だから詳しく聞かせてもらうよ!」
「え、えと……」

 リューナが戸惑っているのもお構い無しにヨマリーは色々聞いてくる。

「意識し始めたのはいつくらいから?」
「え……いつだろう……子どもの頃からだと思う。うちの近所の人が若いときに、幼なじみの好きな人に妹のように思われたくなくて、それまで『お兄ちゃん』って呼んでたのを名前呼びにしたって話を聞いたの。それを聞いて自分も名前で呼ぶようにし始めたの。いくつの時かは忘れたけど子どもの時だったから、その頃には……」
「ほほーう」

 ヨマリーはニヤニヤしながら聞いている。

「あー! 恥ずかしいー!」

 リューナは自分の顔を手で覆った。

「まだまだこれからですよ!」
「なんで敬語……」
「じゃあ、ドキドキするのはどんなとき?」
「えっと……向こうから触れられたとき……自分からのときはそうでもないんだけど……」
「やー、いいねー! 青春だねー!」
「か、からかわないで!」

 少し真面目な顔になってヨマリーが言う。

「いや、でもホントに好きなんだね。私が兄貴に触れられたら『触んな』って振り払うもん」
「う……それ、フォスターからの反応はそんな感じだ……」

 悲しそうな顔をするリューナにヨマリーは焦って言葉を続ける。

「や、別に嫌いってわけじゃないんだよ? 子ども扱いされるのがムカつくっていうだけで」
「子ども扱いは私もされてるなあ……」

 リューナは不満げに呟く。

「まあお兄さんリューナとあまり似てないし、格好いいもんね。そういう人が兄貴だったら私もそうなったかなあ?」
「似てないってよく言われる。……あのね、もしかしたら、私達血が繋がってないかもしれないんだ……」
「えー! そうなのー!? いいねそれ!」

 ヨマリーは興奮して続きを促した。

「『かもしれない』ってのはどうして?」
「なんかわからないことが色々あるらしくて、水の都シーウァテレスに行けばお父さんの昔の知り合いがいるからはっきりわかるらしいんだ」
「お父さんも死んじゃったって前に言ってたね。だからわからないことが多いのかー」

 死んでも霊魂として存在しているビスタークが嘘をつくからなのだがヨマリーに言うことでは無いと考えてそれは伝えなかった。

「お母さんは絶対に違うのね。フォスターのお母さんは産んですぐ亡くなったから。で、私は死んだお父さんが外から連れてきた子どもなの。お父さん、自分の子どもだとは言ってなかったんだって」
「じゃあ自分の出生を探す旅をしているんだね。 んー、色んな人生があるなあ!」

 リューナは先ほど気になったことを思い出して聞いた。

「あの……フォスターって、他の人から見て格好いいの?」
「ああ、見えないからそういうのわからないのかー。格好いいと思うよ?」
「町に女の子いないからそういうの聞いたことが無くて……」

 ヨマリーはふと思ったことを口にした。

「ねえ、もしお兄さんに恋人が出来たらどうする?」
「えっ……」

 リューナは青ざめた。

「やだ! そんなのやだ! 考えたくない!」

 さっきまで恥ずかしくて顔が熱かったはずなのに一気に冷えていった。恥ずかしかったさっきとは別の理由で泣きそうになった。

「あー、ごめん。不安にさせちゃったね。町に女の子がいなかったんならそういう相手はいなかったんでしょ?」
「うん……」
「リューナが一緒にいれば言い寄ってくる子もいないだろうし、当分は大丈夫じゃない?」
「うん……でも……美人に見惚れたりしてるらしいし……」
「それはまあ、男の人はそんなもんだよ」
「そんなもんなの?」
「兄貴なんてしょっちゅうだよ」
「そ、そうなんだ」

 疑問が浮かんだヨマリーはリューナに聞いてみた。

「リューナは可愛いんだからさ、男の子に言い寄られたりしなかったの?」
「え、無いよ。……私、可愛い?」
「可愛いよ! スタイルも良いし、めっちゃモテそう」
「モテたことなんて無いよ。小さい頃はいじめられてたし。だから同じ年頃の男の人が苦手」
「あー、それで余計にお兄さんにべったりなのかー。女の子がいなくてそれだったら、友達もいなかった?」
「うん。だからヨマリーと仲良くなれて嬉しいんだ」

 リューナはとても嬉しそうに微笑んだ。

「やだーそんなこと言われたら、私がリューナに惚れそうだよ!」

 ヨマリーはそう言って笑いながらリューナの肩をぺしぺしと叩いた。
リューナの言っている「近所の人が若いときのことを聞いた話」は以前漫画で描いて無料配布していました。
pixiv、タイッツー、Twitterに載せたので「盲目乃者」か私の名前で検索したら出てくると思います。
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