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作者: 山田奇え
残酷な描写あり R-15
第18話「ステータスと属性について④」

 
■■とある女勇者のコメント■■

 
 
 ステータスは『恩恵』なんて表現されているが、ボクみたいな人間に云わせれば、それはある種の呪いのようなものだ。
 
 剣で刺しても死ななかった屈強な男が、ある時は指先で軽く小突いただけで、突然その場で意識を失ってぶっ倒れる。
 
 この世界に転生して数年たった今でも、いまだに違和感を覚えずにはいられないような光景だよ。

 『HP』という数値は云わば、『可視化・強調デフォルメ化された生命エネルギー』だと考えるといい。
 
 この世界の住人は、自然の理とは別に存在するに自身の生命を預けることによって、超常的な力を行使している。
 
 それ故に、その身体もまた、肉体本来の生命維持機能とは別の――この『HP』という独立した法則によって支配されているわけだ。
 
 この世界では、肉体に損傷を受けても、『HPの自然回復』という恩恵がある限り、簡単には死に至らない。
 
 かつて、ボクらがいた世界では、『死ぬ』というのは『呼吸・血液循環・脳機能が完全に停止し、蘇生不能な状態が継続している状態』のことを指していたのだそうだ。
 
 それになぞらえて表現するのであれば、『HPが自然回復できる』ということは『蘇生が可能である』ということを意味している。

 イディアニウムにおける『死』という概念は、かつてボクらがいた世界のそれとは根本的に異なるものだと考えるべきだ。
 
 老衰や死病はもはやステータス異常の一種であり、寿命とは『HP自然回復機能の稼働限界』のことを指す。
 
 こう云うと、この世界の住人が不老不死の怪物のように思えてくるかもしれないが、実際はそこまで利の大きいことではない。
 
 先ほども云った通り、どれだけ健康な身体を持ってもHPがなくなれば、突如として行動不能となり、致命傷を負えば、【衰弱(致死)】という『HPの自動回復が行われない状態』――つまりはちゃんと『死』に向かう状態にも陥る。
 
 身体の状態がより概念的になったというだけのことだ。
 
 ボクらみたいにからやってきた人間からすれば、かえってただの面倒事だと考えることもできるかもしれない。
 
 イディアニウム人にとって、『HPを管理する』という行為は、ご飯を食べたり睡眠を取ったりすることと同じくらい生活に寄り添った習慣だが、ボクたちにとっては自身の健康維持とは別の――馴染みのない管理コストが増えるわけだからね。
 
 ――と。
 
 ボクの個人的な感想はさておいて、だ。

 勇者ターナカ、まずは手を目の前に差し出して【アーカイブ】と唱えてごらん。
 
 そう、そんな感じで。
 
 ……驚いたかい?
 
 その本は唱えてもらった呪文の通り【アーカイブ】と呼ばれていて、『この世界の基本的な情報』について記載されている。
 
 今話したステータスの説明ももちろん書かれているし、歴史や地史、博物史なんかについても言及がある。
 
 特に見る頻度が高いのは『ステータス詳細』の項目だろう。
 
 そこには自身やパーティメンバー、従者、それから倒したことのある魔物のステータスが追加されていく。
 
 【アナリシス】の魔法を覚えれば、更に範囲を広げて、初対面の村人のステータスすら記録できる。
 
 時間のある時に、なんて悠長なことは云わず、このあとすぐにでも【アーカイブ】の全てのページに目を通しておくことだ。
 
 それはせっかく第二の人生を得た君の――『生き死に』に直結してくるからね。
 
 できることなら前世では為し得なかった有意義な生活というやつを送ってみたいだろう?
 
 ……まあ、とは云っても、この場にはせっかくボクという先輩がいることだ。
 
 ここはひとつ――【勇者】という存在が心得ておくべき『強み』くらいは教示しておくとしよう。

 イディアニウムにおける【勇者】の優位性は――主に三点だ。

 
 一つ目は、自由に恩恵値の振り先が決められること。
 
 イディアニウム人の場合は修練方法や経験、魔物の場合は種族や生育環境に応じて、レベルアップ時に自動的に上昇するステータス値が決められている。
 
 レベルごとの上昇値は【勇者】と同一であるが、振り先が決められない分、その総合力は中途半端なものになりやすい。
 
 近接戦闘を得意とする者が、いたずらにMPや魔法力ばかり増やしても、せっかく増えた値を飼い殺しにするだけだからね。
 
 その点、【勇者】の場合は最終目標に応じて、一部のステータスを突出させたような成長が可能だ。
 
 物理攻撃や魔法を扱うことに特化したステータスを作ることもできれば、『鋭敏』の値を上手く調整して、『格上キラー』を目指すことも可能だ。
 
 一応、全ての値を平均的に上げると無属性や星属性という特殊な属性を得ることができるが、この利点を捨ててまで目指すことではない。
 
 実際、現在この世界で活動している【勇者】でも、特殊属性持ちは無属性が一名だけだしな。
 
 
 二つ目は、強力な『固有スキル』を持っていること。
 
 固有スキルというのは、ごく一部の人間だけに与えられた、通常の訓練や修行では手にすることのできないスキルのことだ。
 
 ボクの知り合いだと貴族の血筋に数名程度しか持っていないようなこの『天賦の才』を、【勇者】は例外なく与えられている。
 
 常時発動型のものもあれば、状況に応じてAPを消費して使用するものもあるが、その内容は大体反則じみた効果を持っていることが多い。
 
 更に云えば、【勇者】は――後ほど【アーカイブ】で確認するといいが――この固有スキルを、【女神の祝福】を獲得することで増やすこともできる。
 
 おそらくこれは【勇者】をイディアニウム人と比したときの優位点として、もっとも強力なものだと云えるだろう。
 
 
 三つ目は、レベルアップを無条件で行えること。

 イディアニウム人はレベルアップ時に『成長条件』――特定の敵を倒すとか、特定の武器を装備するとか、特定のアイテムを使用するとか――が付与されるが、【勇者】にはこの制限が存在しない。極端な話、弱い魔物を事務的に狩り続けるだけでもレベルが上昇する。
 
 レベルには『最大値60』という上限が存在するから、他の二つと比べると見劣りする部分はあるが、それでもイディアニウムには高レベル帯の難易度の高い成長条件を達成できず、途中でレベリングを諦める人間も多い。騎士職ですらほとんどがレベル50を迎えずに寿命を終えるというのだから、これだけでも充分すぎる優位性だ。
 
 あー、そうそう、【勇者】にはイディアニウム人とパーティを組んでいるやつもいるが、もし君もそうしたいのであれば、メンバーの成長条件はちゃんと気にかけてやれ。
 
 あまり厳しい課題だと協力も仰ぎづらいだろうからね。ちゃんと【アーカイブ】を日々確認して怠らないように。

 ……ちなみに、あまりイディアニウム人を乱暴には扱ってやるなよ?
 
 君はむしろ、かつてだった人間だから、そんなことは気が違ってもしないだろうが、イディアニウム人には精神的外傷を負って【魔力詰まり】なんていう――『MPの自然回復』が行えない状態になっちまった連中もいる。
 
 『抗魔力』を任意で上げられる【勇者】と違って、防御系の魔法によって属性魔法を防げなくなることは、彼らにとって死活問題だ。
 
 仲間の精神衛生を保つのも、一つの大事な務めと心がけるように。
 
 
 さて。
 
 【勇者】の『強み』についての講釈はこんなところだろうか。 

 あとは君自身の固有スキルを鑑みた上で最良のステータスを作り上げるといい。
 
 最後に一つ伝えておくと、『鋭敏』――この項目はかなりのクセモノだから気を付けてくれたまえ。
 
 稀に、格下と侮っていた相手が、それまでの愚鈍さでは考えられないような身のこなしをする瞬間があるが、これは大抵【天眼】が発動した状態だ。
 
 未来視とまではいかないし、実力差が圧倒的であればそれを覆すほどのものでもないんだが、高確率で『ラッキーパンチ』を引き起こせるようになる。
 
 実戦中、敵にこの状態を察知したら迂闊に飛び込んでいかないことだね。君も望外の傷は負いたくないだろう?

 というわけで、勇者ターナカよ。
 
 君に――よき【勇者】ライフがあらんことを。

 神の祝福と、ボクの応援を胸に、今世では最高の人生を送ってくれたまえ。

 

▲▲~了~▲▲
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