残酷な描写あり
R-15
第2話「うろんな勇者、異世界へ降り立つ」
■■そして、異世界へ■■
気付いたら僕は見知らぬ世界に立っていた。
目にするもの全てが新しく、五感を通じてありとあらゆる情報が流れ込んでくる。
その場所で僕の心には純粋な好奇心だけが渦巻いていた。
突如として空に現れた【女神】と名乗る存在が、僕に語りかける。
彼女は、僕に『【勇者】となって世界を救うこと』を望んでいるらしい。
「――話は以上です。さあ勇者ターナカよ、世界を救うのです!」
「……あ、ご、ごめんなさい。最初のほうしか話聞けてませんでした……」
「えっ、なぜそんな不敬なことを……」
「いや、聞く気はあったんですけど、途中から『この女神様は話し終わったあと、どういうパターンの姿の消し方をするんだろう』ってことが気になってしまって……」
「なんですかその私の話と全然関係ない思考は!」
「すみません、こういう脳味噌なもので……」
なんの因果か僕は異世界で【勇者】になった。
思えば、この職業は僕にとって天職だったのかもしれない。苦労することも苦労をかけることも、いまだあるにはあるのだけども。
あ、それとあのあと、【女神】とはそれなりに打ち解けた。『バラを口に咥えて情熱的なタンゴを踊り切り、締めのカスタネットを一回鳴らして消えるパターン』を見せてもらって、二人で腹を抱えて笑ったのはいい思い出だ。
彼女は今でもちょくちょく僕のところに、奉納品の一升瓶を携えて愚痴をこぼしにやってくる。最近は芋のソーダ割にハマっているらしい。
「――今日も予定が思い出せない……シアさんに訊くか」
僕は先日購入したばかりの自宅の窓から、外に広がる『異世界』を眺める。
この場所には煩雑な秩序はなく、ただ自由な混沌という活気だけが満ちていた。
使命はあっても、気楽にしていれば、案外、楽しく生きられる。
僕はそのことをこの世界に教えられた。
▲▲~了~▲▲