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作者: 特攻君
残酷な描写あり R-15
第14話 (幕間)エウィ王国にて
 エウィ王国首都、城塞都市ソフィア。
 聖女の名前が付けれらた都市の中心には、多くの軍事施設が建てられた王城が存在する。一般的な王城と違って、敷地面積は町が一つ入るほど広い。
 王族が住まう場所は、この都市だと王宮にあたる。
 そして城塞と呼ばれるように、二重の防壁によって守れていた。
 まず第一に、都市を囲む壁。
 城塞都市全体を囲むように造られており、その長さは相当なものだ。三百年という歴史を持ち、広大な領地を有する王政国家だからこそであった。
 第二に、王城を守護する壁。
 フォルトたちが使ったロッジや教会も、この壁の内側にある。他にも様々な施設が存在して、王城だけで一つの都市と言えるだろう。
 
「今日はここまでだ!」

 その王城にある騎士訓練所。
 訓練所では下級騎士たちに混じって、三人の異世界人が訓練に励んでいた。
 日本から召喚された勇者候補のシュンである。他にも従者のアーシャやノックスも汗を流していた。

「「ありがとうございました!」」
「明日もみっちりと鍛えるからな! 疲れが残らないように休め!」

 聖女ソフィアの隣に座っていた騎士ザインが、シュンたちの面倒を見ていた。
 同様の騎士が他の勇者候補の面倒を見ているが、まだ対面したことはない。しかしながらその者たちも、訓練に励んでいるはずだ。
 ともあれ三人は、その場に座り込んで雑談に花を咲かせる。

「疲れたあ」
「召喚されてどれぐらいだ?」
「一年ぐらいかな」
「もうそんなに経つんだあ」
「俺のレベルは二十になったぜ」
「たかっ! あたしは十だよ」
「僕は十二だね」
「別のメニューもやってるんだっけね」
「勇者候補だしな」
「でもシュンが拾ってくれて良かったよぅ」
「だね。たまに都市に出るけど生活が大変そうだったしね」

 エウィ王国での生活は、日本と大違いだ。格差が酷く人権など無い。
 それに、技術力が段違いに低い。日本での生活に慣れている三人では、まさに地獄のような生活だと思われた。
 異世界人でも勇者候補でなければ、一般の国民である。搾取される側であって、王城から放り出されていれば苦労しただろう。

「一緒に召喚されてさ。はい、さよならじゃな」
「おっさんは拾わなかったよね?」
「きゃは! キモいから要らないっしょ」
「レベルも三だったしな。国民の平均より低いんだぜ?」
「魔物もいるしね。足手まといがいると一緒に死んじゃうよ」
「そうだぜ。おっさんと心中なんて御免だ」

 シュンは人間の倫理観から、二人を拾ったと勘違いされている。
 本当のところは、アーシャだけを狙っていた。彼女だけ拾うと体裁が悪いので、仕方なくノックスも従者にしたのだ。

「称号のおかげでさ。簡単な火属性魔法を使えるようになったよ」
「ノックスは「初級魔法使い」だっけ?」
「うん。本来は魔法学園で勉強するらしいけどね」
「学園なんてあるんだ?」
「あるみたいだよ」

 魔法学園。
 その名称どおり、魔法の勉強をする施設だ。魔法使いを志す者は、学園に入学して知識を学びながら習得を目指す。
 卒業すれば、駆け出しの魔法使いとして認められる。

「ノックスは学園に入るの?」
「どうしようか悩んでるんだ」
「入れよ。魔法使いとして、俺の従者になってもらわねぇとな」
「そうすると二人から離れちゃうし……」
「大丈夫だって。他の異世界人も入ってんだろ?」

 他の勇者候補も、同時に召喚された者を従者としている。
 フォルトのように、レベルが極端に低い者はいなかったようだ。もちろん戦えない者は城から放り出されて、新しい人生を歩んでいる。
 その内の何名かは魔法使い系の称号を持っており、魔法学園に入学した者もいた。卒業後は勇者候補と共に行動するか、兵士に取り立てられているらしい。

「そうするかな」
「おっさんのように捨てられたくねぇだろ?」
「アーシャは?」
「あたしは城に残るよ。学園とかマジ勘弁って感じぃ」
「中退したんだっけ?」
「おっさんのような先生から言い寄られてさあ。マジ、キモすぎ」
「よく聞いた話だね」
「それに「舞姫」だからね!」
「学園は関係ないってか?」
「簡単な風属性魔法を覚えたけど、あたしは剣を使うほうだわ」

 アーシャは風の魔法が使える剣士のような成長をしていた。
 身軽なので、舞うように戦う感じだ。ゆえに「舞姫」である。称号に適した訓練を積んでいくのが一般的であった。
 彼女の魔法は補助的なものだ。今は剣での訓練が第一である。

「じゃあ学園に入るよ」
「そうしろ。強くなって戻ってこい!」
「なら手続きをしてくるね」

 ノックスが二人から離れていく。
 魔法学園に入学するためには、事務手続きを行う必要があった。すぐには入学できないが、早いに越したことはない。
 手続きが完了次第、数日後には入学することになる。
 彼の離れていく背中を眺めながら、アーシャがポツリとつぶやいた。

「戻すつもりはないっしょ?」
「分かる? アーシャがいりゃいいよ」
「きゃは! ノックスが可哀想だね!」

 まったく可哀想だと思っていないアーシャが、シュンの腕に絡みついた。
 彼女からしたら、どちらでも良い話だ。

「しょうがねぇだろ。男なんて邪魔なだけだぜ」
「さっすがホスト。でも、あたしは捨てないでね!」
「当たり前だぜ。オメエは俺の女だからな」
「きゃは! うれしい!」

 ノックスは知る由もないが、シュンとアーシャは恋人同士になっていた。当然のように、体の関係も持っている。
 ホストとギャルという単純明快なカップルであった。

「なぁアーシャ、抱かせろよ」
「いいよ。お風呂に入ったら部屋に行くね!」
「じゃあ俺も風呂に入るか」

(オメエも要らなくなったら捨てるけどな。ソフィアを落とすまでの女だ。いや、遊びとして取っておいてもいいか?)

 シュンは勇者候補だが、その性格は下衆げすだった。
 日本では売れっ子のホストとして、女性には困っていなかった。常に彼女を用意しておき、独り身になることはなかった。
 しかも、簡単に捨てられる女性だけを狙っていた。

「へへっ。行こっ!」

 二人は恋人つなぎをしながら、騎士訓練所を後にして風呂場に向かう。
 シュンの本性を知らないアーシャは、満足そうな笑顔を浮かべているのだった。


◇◇◇◇◇


 エウィ王国の王宮には、貴族たちがティータイムを楽しむ部屋が存在する。一般的にサロンと呼ばれる場所だ。
 豪華で気品があふれ、高級な酒も用意されている。しかしながら貴族でも、男爵から子爵までの下級貴族たちしか集まらない。
 なぜかと言うと、貴族でなくても要職に就いている者が使えるからだ。
 他にも騎士が利用している。同席を嫌がる伯爵以上の上級貴族には、別のサロンが用意されていた。
 その下級貴族たちが使うサロンで、二人の男女が会話をしている。

「ジェシカさんが発見された、と?」
「魔の森を縄張りにしているオークの巣から発見されました」

 二人の男女とは、騎士ザインと聖女ソフィアである。
 フォルトとカーミラが暮らしている森は、「魔の森」と呼ばれていた。
 多数の魔物が棲息せいそくする危険な森だ。エウィ王国は森の資源を確保するために、冒険者を雇って魔物の討伐を開始していた。
 その過程において、今まで行方不明だったジェシカが発見されたらしい。

「無事なのですか?」
「何と申しましょうか……」
「死亡したのですか?」
「一緒に発見された冒険者の女性は、残念ながら死んでおります」
「では?」
「体の傷は神殿の信仰系魔法で治りましたが……」

 オークの巣で発見されたジェシカは、かろうじて生きていたらしい。
 一緒に行方不明となっていた冒険者アイナは、上半身だけを残して無残な姿で発見された。死んだ後に食べられたのだろう。
 そして二人とも、オークの苗床になっていたという話だ。

「もしかして精神ですか?」
「はい」

 信仰系魔法を受けたジェシカは、一命を取り留めている。しかしながら、精神が激しく壊されていた。
 まともに会話するのは不可能である。

「それと……。大変言いづらいのですが……」
「何でしょうか?」
「ジェシカ殿はオークの子供を身籠っています」
「っ!」

 こちら世界に、中絶の技術が無い。ゆえに、望まぬ出産も多い。
 望まれない子供のほとんどは、都市や町にある孤児院に放り込まれる。だからと言って、ジェシカが産んだオークの子供を入所させることは無理だった。
 人間からすると魔物なのだ。

「何体も産んだと思われます」
「あぁ……。ジェシカさん……」
「ソフィア様……」
「ジェシカさんはどうなりますか?」
「恐らくは……」
「処分、ですか」
「魔物をはらんだ神官。神殿勢力は許さないでしょう」
「聖神イシュリルよ。ジェシカさんの魂を救い給え……」

 ソフィアは聖女と呼ばれているが、神殿勢力での権限は無い。神官ではなく、召喚魔法が使える魔法使いだからだ。
 エウィ王国の切り札となる異世界人を、国王からの命令で召喚するだけの人物。異世界からの召喚を可能にする称号、「聖女」を持っているだけなのだ。
 ゆえに神殿勢力から見れば、ただの信者であった。

「嘆かわしいことです」
「致し方ありませんな」
「では彼女の行動を無駄にしてはなりません」
「と申しますと?」
「ジェシカさんが魔の森に向かった理由は何でしょうか?」
「森で暮らす異世界人の確認をするためです」
「なぜ異世界人と分かったのですか?」
「ジェシカ殿が記憶する異世界人と名前が同じという話でした」

 ソフィアが召喚した異世界人は多い。
 聖女の務めとして、すべての異世界人を把握している。とはいえ、どの人物が該当するか分からない。
 そこで、ザインに問いかけた。

「はて? どなたでしょう」
「シュンたちと一緒に召喚された者です」
「なるほど。ですが三人は、城に残って訓練中でしたよね?」
「ソフィア様に無礼を働いた男です」
「フォルトさん、でしたか?」
「はい」
「そう言えば……。二回目の面会がまだでした」

 ジェシカは奇跡が起きないかぎり、神殿勢力に処分されるだろう。
 ソフィアは彼女の死を無駄にしないために、情報を集めることにした。

「城から出た後は、都市で暮らしてるのでは?」
「捜索しましたが、都市にはいないようなのです」
「他の町は?」
「門衛の記録では、都市を出た形跡がありません」

 城塞都市ソフィアは、堅固な高い壁で囲まれている。
 エウィ王国の中枢である王城が存在する首都なのだ。他国からの侵攻や魔物の侵入を阻む必要があった。
 都市から出るには、通行門を通過する必要がある。門ではカードを使って、通行人をチェックしている。
 その中に、フォルトの名前は無かった。

「都市におらず出た形跡も無い、ですか」
「死亡届も提出されておりません」
「空を飛んだ?」
「まさか。彼はレベル三ですぞ」
「これは確認する必要がありますね」
「ですが案内役がおらねば向かえませんぞ」

 魔の森では多数の魔物が、人間の侵入を阻んでいた。
 異世界人が暮らす場所は、森の奥地である。何の準備もせずに向かっても、道に迷った挙句、魔物に殺されるだけだった。
 案内役がいれば良いが、それを引き受けた冒険者アイナは死亡している。

「案内役は死亡した女性冒険者だけですか?」
「いえ。他に二名おります。ですが道を覚えていないそうです」
「困りましたね」
「それに、たががレベル三の異世界人のために戦力を割けませんぞ!」
「危険ですか?」
「魔物が多すぎます。森の奥地など、どれだけの被害が出るか」
「そう、ですか……」

 ソフィアは悲しそうな表情になる。
 これでは、ジェシカが無駄死だった。異世界人の確認だけであっても、彼女の目的は達成させたい。
 それが生きた証になるのだから……。

「シュン様は出られませんか?」
「レベルが二十になったばかりですぞ」
「不十分ですか?」
「せめて三十。いや……。二十五は欲しいですな」
「一般兵の平均レベルは十五ですよね?」
「数でモノを言わせられるレベルです」

 魔の森で一番強いとされる魔物はオーガだ。
 推奨討伐レベルは二十五で、一般兵では太刀打ちできない。ゴブリンやオークであれば対処できるが、これらも群れると推奨討伐レベルが跳ね上がる。
 森の奥地に向かうならば、最低でもオーガを倒せるレベルは欲しい。

「小規模では?」
「厳しいですな。一体のオークでも複数人が必要です」
「世界は残酷ですね」
「それゆえの勇者召喚です」
「であれば、時を待つしかありませんか」
「残念ながら……」

 ソフィアとザインの会話が終わって暫く経った頃。救出されたジェシカが、神殿勢力によって処分された。
 その話を聞いたとしても、フォルトは罪悪感を持たないだろう。
 魔人に変わって、人間を見限ったのだから……。
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