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作者: 特攻君
残酷な描写あり R-15
第13話 堕ちた魔人3
 日本から召喚されて、一年が経過した頃。
 スキルの『変化へんげ』で若者の姿に変わっているフォルトは、屋根の上に寝そべりながら、カーミラの膝枕を堪能していた。
 彼女は細身だが、太ももは柔らかい。非常に気持ち良かった。

「ゲームがやりたい」
「ゲームですかぁ?」
「そう。パソコンが欲しい」
「御主人様が言っていた箱ですよねぇ?」
「そうそう。多くの情報が詰まった箱だ」
「よく分かりませーん!」

 こちらの世界の住人に、パソコンのことを一から説明するのは難しい。
 一応は、魔法としての電気が存在する。とはいえ化学技術は進んでおらず、電力を発生させるような機械は無かった。
 カーミラに説明しても、イメージができないようだ。

「俺の説明下手もあるんだけどな」
「欲しければ奪えばいいと思いまーす!」
「そうなんだが、こっちの世界には無いんだよな」
「御主人様のいた世界の技術ですかぁ」
「まぁ諦めてるけどな」
「奪いに行けませんしねぇ」

(日本で引き籠ってたときは、パソコンが無いと人生が終わるとすら思っていた。やはりゲームをやりたい。AVは……。まぁカーミラがいるし……)

 夜の情事を思い出したフォルトは、カーミラの口元を見てほほを赤らめた。
 自分は猿であると改めて思う。
 惰眠を貪るが、彼女も貪っている。まるで、若い女性にハマってしまったモテない中年のようだった。いや、他人事ではないか。
 ともあれ、魔人の体力に感謝である。

「御主人様?」
「い、いや。何でもない」
「こっちの世界でゲームですと……」
「ですと?」
「賭博や闘技場とかですねぇ」
「闘技場?」
「エウィ国には無いですよぉ」
「へぇ」
「御主人様が出場すれば、絶対に優勝でーす!」
「嫌だ! 面倒臭いだろ?」
「じゃあ人間でも捕まえて、代わりに出場させますかぁ?」
「人間を捕まえるねぇ……」

 カーミラの一言で、フォルトは考え込む。
 非常に良い案なのだが、何かが足りない。もう少し、あと一歩という提案だ。ならばと、日本のゲームを思い出す。

(闘技場、対戦、人間。そこから導き出される答えは……。育成か! レベルやスキル、魔法が存在する世界だ。美少女育成ゲーム!)

「でへ」
「御主人様、何かイヤらしい顔をしていますよぉ?」
「あ……。すまん」
「とっても素敵な顔でしたぁ!」
「そっそうか……」
「カーミラちゃんと寝室で起きてるときにしてる顔でーす!」
「あぁうん。そうだな」
「えへへ」

 リリスのカーミラらしい答えである。
 あちらの世界のリリスは、赤子を殺す女性型の悪魔と定義されていた。しかしながら、こちらの世界ではサキュバスに近いようだ。
 日本のゲームでも似たような捉えられ方をしている。
 そのサキュバスは、性行為を通じて男性を誘惑する悪魔だ。似たような悪魔であれば、もともと堕落しているフォルトだと物足りないかもしれない。

「カーミラは天才だな」
「え?」
「一緒に召喚された人間で、勇者候補のシュンという若者がいる」
「そうなんですねぇ」
「今は城で訓練中だと聞いた」
「オークにあげた女が言っていましたねぇ」
「そこで、だ。俺も人間を育てる!」
「ええっ!」

 怠惰なフォルトが、人間の育成を思いついた。
 これにはさすがに、カーミラは驚きの声を上げた。面倒な仕事はすべて、召喚した魔物にやらせているからだ。
 彼女の結論としては……。

「御主人様には無理でーす!」
「カーミラ、よく考えろ」
「え?」
「俺の育てたキャラが人間を倒す!」
「なるほどぉ」
「これを日本では対戦ゲームと言う」

 対戦ゲーム。
 キャラクターを選んで、他人と対戦するゲームだ。とはいえフォルトの考えているものは、育成を伴っていた。

「本来なら仮想世界のキャラ同士を戦わせるのだ」
「それを現実世界でやるとぉ?」
「不満か?」
「御主人様には難しいかな、と思いましてぇ」
「まぁ飽きたらやめればいいだろう」
「そうですね!」

(問題は育てるキャラだな。俺の知ってるゲームではガチャが主流だった。でもレア度の低いキャラは弱い。まずは最上級レア度のキャラを手に入れる!)

 ゲーム脳。
 本来は脳神経学を称している仮説なのだが、広義の意味で使われている造語だ。現実とゲームの区別がつかない人を指すこともある。
 フォルトの場合は、現実とゲームは区別していた。ゲーム脳としては、思考回路の中に組み込むことで、物事や環境に対する理解を早めている。
 こちらの世界に順応・適応している要因の一つだ。

「異世界から人間を召喚できるのは聖女だけなのか?」
「他の国では聞きませんねぇ」
「こっちの世界の人間と異世界人の差は何?」
「えっとですねぇ……」

 カーミラの話だと、それは成長のスピードだ。
 異世界人が持つ「召喚されし者」という称号が、その効力を発揮する。要はレベルの上昇が速いため、勇者級の強さを目指しやすくなるのだ。 

「前の御主人様から聞きましたぁ!」
「じゃあ俺も知ってるんだな」
「そうでーす! でも面倒だから引き出さないんですよねぇ?」
「あっはっはっ!」

 カーミラの元主人から受け継いだアカシックレコード。
 キーワードさえあれば引き出せるのだが、怠惰なフォルトはサボっている。

「もぅ!」
「カーミラと話したいのさ」
「きゃー! 御主人様、大好き! ちゅ!」

 おっさんのフォルトは、カーミラの愛情表現にデレてしまう。
 四十代の中年が、見た目が若い彼女を相手にするのだから無理もない。日本にいた頃は、一万パーセントあり得ない状況である。
 それ以上に、警察に捕まる可能性が高い。

「まぁ差は分かったが、一つ問題がある」
「何ですかぁ?」
「キャラだ! どの人間を育てるかが問題だ」
「対戦ってことは戦闘ができる人間ですねぇ」
「ゲームに関して、俺は負けず嫌いだ!」
「なら強い人間ですねぇ」
「最後に、男は嫌だ!」

 オンラインゲームだと、フォルトは常に女性キャラクターを使っていた。
 モニター越しとはいえ、男性キャラクターの尻を見るのが嫌だったからだ。俗にいうネカマではない。
 それを聞いたカーミラの頬が膨れた。

「ぶぅ! カーミラちゃんがいるのに女ですかぁ?」
「ソレはソレ。コレはコレだ」
「じゃあ女騎士とかになりますかねぇ?」
「闘技場は魔法が禁止か?」
「色々とあるみたいですよぉ」
「魔法が禁止でなければ、魔法剣士とか良いな」
「器用貧乏じゃないですかぁ?」
「あぁ。そうかもな」

 ゲームの内容にもよるが、魔法剣士を選択する人は少ない。ステータスは専門職に負ける設定なので、立ち回りが重要な職業だった。
 他にも同じ職業を並べたほうが、戦闘を早く終了できる。といった事情もあって、パーティメンバーに入るのも大変だった。

「だが! それはゲームの話。今は現実世界にいる!」
「そうですねぇ」

 召喚された世界は、現実の世界である。
 レベルという概念があっても、ステータスと呼ばれる数値は無い。しかも、上限があるかも分からない。
 育て方によっては、専門職以上の強さを身に付けられるかもしれない。

「剣と魔法が両方使える最強職に成り得るな」
「その人間次第じゃないですかぁ?」
「なら……」

(人間を確保したいが、カーミラガチャよりは自分でスカウトしたい。レアキャラ選択チケットのようなものだな。好きなキャラを選ばねばならない!)

 カーミラに任せると、フォルトの希望通りになるかは分からない。
 ゲームの趣旨を理解できても、キャラクターの選択にはこだわりがあるのだ。説明するには難しい類の話なので、ここは自分の目で確かめたいところだ。
 そうは言っても、基本的なものは教えておく。

「アカシックレコードには個人の情報は無い」
「食料でしたからねぇ」
「天才と呼ばれる人間が欲しい! もしくは情報だ!」
「調べればいいですかぁ?」
「最後に重要な話だが、若い人間じゃないと育てる期間が短くなる」
「それは御主人の趣味ですよねぇ?」
「あっはっはっ!」
「もぅ!」

 人間を見限ったフォルトには、人間は玩具になった。
 今まで持っていた常識と倫理観は壊れたのだ。魔法でエジムを殺して、ジェシカとアイナを再起不能まで壊した。
 そして、あろうことかオークの苗床としてあげてしまった。
 すでに人間を殺害することや犯すことに抵抗は無い。しかしながら、まだ完全には壊れていない。
 さすがに出会っただけで殺すことはない。

「調べたいが、俺は人間嫌いで怠惰だ」
「カーミラちゃんが行きますよぉ?」
「いや。キャラの選択は自らがやらなければつまらない」
「そういうものですかぁ?」
「自分で育てるキャラだからな」
「じゃあ早速、人間の都市に行きますかぁ?」
「そうだなぁ。とりあえず寝るか!」
「はあい! さすがは御主人様です!」

 ここまで考えたところで、フォルトは面倒臭くなった。ならばとカーミラを連れて寝室に入り、いつものように惰眠を貪る。
 そして、目覚めてから再び考える。
 現在の生活で堕落しきっているので、自分からは動きたくない。とはいえ動かなければ、キャラクターが手に入らない。
 なかなか悩ましい問題だ。

(さて、どうしようか。動きたくないが、俺は娯楽のためなら家を出られるはず。引き籠りと言っても、外に出られなかったわけじゃないしな)

 買い物をするために、コンビニエンスストアやスーパーへ行くことはできた。免許の更新や選挙の投票も行っていた。病院通いもしていた。
 人間を嫌っているのは、人間不信が原因である。対人恐怖症ではない。人間という存在が信用できなくなった。
 これは様々な要素が絡み合った結果だが、人間が怖いわけではなかった。
 自分も人間だったので、自分自身も嫌いだったが……。

「仕方ないな。城塞都市ソフィアに行ってみるか」
「ふぁ………。御主人様、起きましたかぁ?」
「俺が都市に行くと言ったらどう思う?」
「カーミラちゃんはついて行くだけですよぉ」
「好きにすればいいんだっけ?」
「都市に向かいたければ向かってぇ……」
「帰りたくなったら帰ればいい。だったな」
「そうでーす!」
「はははっ」
「えへへ」

 寝起きの笑顔を浮かべたカーミラが、フォルトの体に密着してくる。
 彼女の頭をでた後、食事をするために起き出した。昼か夜か分からないが、暴食が悲鳴を上げ始めたからだ。
 そして一息ついた後は、城塞都市ソフィアに向かう準備を始めるのだった。


◇◇◇◇◇


 フォルトは一人で、寝室のベッドの上で横になっていた。
 暫くすると部屋の扉をあけて、カーミラが入ってくる。

「御主人様、奪ってきたよぉ!」
「ありがとな」
「えへへ。簡単簡単」

 カーミラには、金銭を奪ってきてもらうことを頼んだ。
 人間の都市に向かうなら、金が無ければ何もやれないだろう。人間社会というものは、そういうものだ。

「キラキラした服を着てる人間からもらったよぉ」
「予想通りだ。金持ちはそういう服を着てるんだな」
「ですねぇ。魅了したら全部くれましたぁ!」
「そうか。金貨に銀貨。後は……。白い硬貨?」
「カーミラちゃんには価値が分かりませーん!」
「だろうな。俺も分からん」

 フォルトが日本にいた頃の知識である。
 どのような人間が、金銭を持っているかを予想したのだ。王国と言うからには、貴族がいるだろう。彼らは見栄を張るので、豪華な服を着ているはずだと……。
 そういった人物を、カーミラに狙い撃たせた。

「カーミラ、行こうか」
「はあい!」
「ではブラウニーたち、家の管理は任せた」
「「分カリマシタ」」

 何日か留守にするので、ブラウニーを召喚しておいた。
 出発の準備を終えたフォルトは自宅を出て、『変化へんげ』のスキルで翼を出す。
 これから向かう場所は城塞都市ソフィア。エウィ王国の首都にあたり、自身が召喚された城が存在する。
 良い思い出は皆無だが、城のロッジが頭に浮かんだ。
 それには額に眉を寄せて、渋い表情に変わる。とはいえ、予定に変更は無い。以降はカーミラと手をつないで、空に舞い上がるのだった。
Copyright©2021-特攻君
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