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作者: 特攻君
残酷な描写あり R-15
第15話 血濡れの令嬢1
 エウィ王国城塞都市ソフィア。
 この都市に向かったフォルトは、カーミラと新たな屋敷に引き籠っていた。よく手入れされた大きな庭と彫刻の立つ噴水がある。
 もちろん、日本から召喚されたときに宛がわれたロッジではない。

「カーミラ、飯!」
「はあい! ただいまあ!」
「カーミラ、風呂!」
「はあい! 一緒に入りまーす!」
「カーミラ、寝る!」
「はあい! ダーイブ!」
「むぐっ!」

 その屋敷の一室で、フォルトはベッドの上に寝転んでいた。
 今はカーミラのダイブを受け止めて、隣に置いたところだ。いつものように、大人しくちょこんと置かれていた。
 実に可愛い。

「御主人様は寝てばかりじゃないですかぁ」
「家に入ると……。つい、な」
「人間の品定めをやるんですよねぇ?」
「あぁそうだったな」
「忘れていましたかぁ?」
「忘れてないけど面倒臭くてな」
「だから御主人様じゃ無理だって言ったじゃないですかぁ」
「言ってたな」

 フォルトが思いついた遊びは、美少女育成型の対戦ゲームである。
 そのキャラクターになり得る人間を見定めるために、わざわざ城塞都市ソフィアに来たのだ。とはいえ、寝所が確保できたら面倒になった。
 そして、魔の森と変わらない自堕落生活をしている。
 くつろぐと動きたくなくなるのだ。

「カーミラ用のカードはできたのか?」
「はい! できましたよぉ!」
「見せて!」
「きゃ! 恥ずかしいでーす」

 上体を起こしたフォルトは、カーミラが取り出したカードを受け取る。
 少し温かいので、どこから取り出したかは察していた。きっと、二つの柔らかいモノを隠した部分のどちらかだろう。
 これは、彼女の秘密が詰まったカードである。
 恥ずかしがるのも無理はない。

「カーミラのレベルは百五十か」
「そうでーす!」
「称号は「魅惑の小悪魔」と「フォルトのシモベ」か」
「やあだ。もう!」
「他にも「魔界のアイドル」か。分かるなあ」
「えへへ。御主人様だけのアイドルでーす!」
「スキルは『精神系魔法せいしんけいまほう』と『闇属性魔法やみぞくせいまほう』。エトセトラっと……」
「凄い? 凄いでしょ?」
「作り直し」
「ええっ! なぜですかぁ?」

 カーミラのカードを見て、フォルトはあきれてしまった。
 城塞都市ソフィアは、多くの人間が暮らしている。情報収集を行うなら、人間に成りすまさないと拙いのだ。
 このカードでは、衛兵などに提示を求められたらアウトである。

「そういうわけだ」
「でもでも。偽造なんて無理ですよぉ」
「偽造じゃないのか?」
「裏ルートで作りましたけど、カード自体は本物でーす!」
「なるほど」

(カーミラのカードだと、大っぴらに町を歩けない。まぁそれは俺も同じこと。「魅惑の小悪魔」なら可愛らしいが「神々の敵対者」とかヤバいだろ!)

 フォルトは現在、『変化へんげ』を解除しておっさんに戻っていた。
 その理由は、知り合いと出会ったときのためだ。知人など数人しかいないが、いつどこで誰と会うか分からない。
 実際に魔の森の自宅には、ジェシカやアイナが訪れたのだ。
 カードの持ち主と姿が違ってしまうと面倒なことになるだろう。

「あっ! 御主人様」
「どうした?」
「『人形マリオネット』が解けそうなのでぇ。かけ直してきますねぇ」
「あぁ……」

 フォルトがカードを返すと、カーミラが部屋から出ていった。
 彼女は屋敷の住人を、スキルの『人形マリオネット』を使って操っているのだ。
 このスキルは、効果中の記憶は失われる。同じような効果の魅了や支配の魔法は、残念ながら記憶が残ってしまう。
 この差は小さいようで大きい。
 香辛料を奪う程度なら、魅了で十分だろう。しかしながら、まったく知らない人間の屋敷に居座るには不十分である。
 彼女はその使い分けを分かっていた。

「戻りましたあ! とぅ!」
「ほいさ!」

 フォルトは再びダイブしてきたカーミラを抱きしめる。
 それから隣に置くと、二つの柔らかいモノを隠した部分から羊皮紙を取り出した。きっと先ほどのカードは、もう片方に入れているのだろう。
 ともあれ、受け取った羊皮紙を開いた。

「名前が書かれてるな」
「見所がありそうな人間のリストでーす!」
「おおっ!」
「こうなると思って、屋敷の人間に調べてもらいましたあ!」
「気が利くな。偉い偉い」
「えへへ」

 フォルトは満面の笑みを浮かべたカーミラの頭をでる。
 これは、とても良いものだ。都市で調査する必要が無くなったのだから……。

「ふむふむ。なるほど……」
「良い玩具はいましたかぁ?」
「ちょっと待て。ふんふん……」
「わくわく」
「レイナスって奴が気になる。ローイン伯爵家令嬢で十七歳だ」

 羊皮紙には他にも、コメント付きで名前が書かれていた。と言っても、フォルトが気になる人間は書かれていない。
 とりあえずレイナスのコメントを、カーミラに聞こえるように読み上げる。

「魔法学園の生徒会長で、文武両道の天才だそうだ」
「文武両道ってことは、きっと剣と魔法ですねぇ」
「多分な。魔法剣士にぴったりかもしれん」
「じゃあその女に決定でーす!」

 確かに他の人間は興味がそそらない。
 ならばレイナスで良さそうだが、フォルトには一抹の不安があった。

「うーん。コメントは屋敷の持ち主の主観だろ?」
「そうですねぇ」
「レイナスのカードを見たいな」
「カードですかぁ?」

 レベルやスキルが記載されているカードは良い判断材料になる。
 おおよその強さが分かるため、ハズレを引かないで済むだろう。ならば、どうにかしてレイナスのカードを確認したい。

「カーミラちゃんが『人形マリオネット』で見てきますねぇ」
「頼む。というわけで寝る!」
「あっ! 御主人様!」
「ぐぅぐぅ」
「むぅ。御主人様の色欲はもっと強くても良いと思いまーす!」
「ぐぅぐぅ」
「もう! じゃあ行ってきまーす。ちゅ」
「んごっ! ぐぅぐぅ」

 フォルトのほほに口付けしたカーミラは、屋敷を出てレイナスを探しにいった。
 「果報は寝て待て」と言う。
 すでに惰眠に入っているので、彼女の行動は分からない。とはいえ起きる頃に戻ってくるだろう。
 そして夢の中では、まだ見ぬゲームキャラクターを思い浮かべるのだった。


◇◇◇◇◇


 フォルトは深い眠りに入っていたが、徐々に目が覚めてくる。
 薄く目を開けると周囲が静かで、寝る前と何も変わっていないようだ。ならばと目を閉じて、二度寝に入った。

「ぐぅぐぅ」
「………………」
「んんっ!」

 時間の経過は分からないが、フォルトは二度寝から目覚めた。
 少し眠いが、三度寝に入るほどではない。寝ぼけまなこを擦りながら上体を起こして、隣にいるであろうカーミラを見る。

「すぅすぅ」
「カーミラ?」
「すぅすぅ」

(カーミラが俺より寝てるとは珍しいこともあるものだ。いつもは俺より先に起きてるんだがな。ちょっと悪戯でも……)

 フォルトは手を開いて、カーミラが起きないようにソッと近づける。
 もちろん悪戯とは、大人の悪戯だ。起きたら情事を始めても良いかもしれない。いや起きなくても始めて良いだろう。
 そう思ってイヤらしい表情に変わると、周囲にガタッという音が響いた。

「ん?」

 フォルトはカーミラに向けていた視線を、ベッドの周囲に動かした。すると、部屋の隅でモゾモゾと動いている何かを発見する。
 しかも、苦しそうな声を発していた。

「んー! んー!」
「何だ?」
「ふあぁ」
「カーミラ、おはよう。」
「御主人様、おはようございまーす!」
「ところで、あれは何だ?」
「レイナスちゃんでーす!」
「は?」
「カードが見られなかったので連れてきちゃいましたあ!」
「なっ何ぃ!」

 部屋の隅で動いている何かは、なんとレイナスだった。
 ひもで硬く縛られた状態で、猿轡さるぐつわまでされている。フォルトに対して非難の目を向けながらうなっていた。
 見た目は奇麗なお嬢様だ。手入れの行き届いた金髪を、腰まで伸ばしている。着用している服は、魔法学園の制服だろう。
 少しスカートがめくれており、黒のニーハイソックスがそそられる。

「だって、魅了が効かなかったんだもーん」
「効かないだと?」
「精神魔法無効の指輪を持っていましてぇ」
「なるほど」
「御主人様が気に入りそうだったから連れてきちゃった。テヘッ!」
「テヘッじゃない!」
「だってだってぇ!」
「はぁ……。連れてきたものは仕方ない」
「さすがは御主人様です!」

 フォルトは諦めたように溜息ためいきを吐いた。
 当初の目的とは違うが、キャラクターを引いたことには違いない。カーミラガチャが、当たりだと祈るのみだ。

「あれ? 縛れるなら指輪を取れるんじゃ……」
「取れないでーす!」
「なぜだ?」
「キーワードが必要のようでしたぁ」
「なるほど。魅了が効かないうえにロック機能があるのか」
「そうでーす!」
「高級そうな指輪だな」
「伯爵令嬢ですからねぇ」
「無効化系の装備は高いだろうなあ」
「そうですねぇ」

 基本的に魔法が付与された装備は高い。
 国家予算でも買えない装備もあるほどだ。効果次第だろうが、レイナスの指輪は相当な値打ちものだろう。
 とりあえず話が進まないので、フォルトはカーミラに命令する。

「では猿轡を取ってやれ」
「騒がれますよぉ?」
「貴族の屋敷だし平気だろ? よろしく!」
「はあい!」

 カーミラがベッドから下りて、レイナスに近づいていく。
 そして猿轡に手を伸ばした瞬間を見計らって、フォルトは耳に指を入れる。このパターンは、確実に怒声が飛んでくるからだ。

「貴方たち! こんなことをしてタダで済むと思ってるの!」
「………………」
「ちょっと! 聞きなさいよ!」
「………………」
「絶対に死刑だわ!」
「………………」
「だから聞きなさい!」
「………………」

 予想通りにレイナスが怒鳴る。しかしながらフォルトには、彼女が何を言っているか分からない。
 それでも、予想はついている。

「はぁはぁ」
「終わったか?」
「もう声が枯れたようですよぉ」
「じゃあ話を聞くとするか」
「貴方たちはふざけてるのかしら?」
「うるさいのが苦手でな」
「今すぐに私を解放しなさい!」
「お前のカードを見たらな」
「見たければどうぞ。スカートのポケットの中よ」
「カーミラ」
「はあい!」

 レイナスは諦めたのか、カードの在処を素直に明かした。断ったところで、体じゅうを調べられるのが分かっているのだろう。
 そしてフォルトは、カーミラが持ってきたカードを操作した。
 若い女性の秘密を知るようで、とても恥ずかしくなってくる。

「えっと。レベルは十二。称号は「剣士」と「氷の魔女」か」
「ふん!」
「スキルは……。ん? 『素質そしつ』とは何だ?」
「成長が早くなるスキルですねぇ」
「なるほど。称号の「召喚されし者」と同じか」
「そうでーす!」

 カードの内容から察すると、レイナスはかなり優秀のようだ。魔法剣士になり得る称号も持っており、育成キャラクターとして申し分無い。
 「カーミラガチャは当たりか?」と思っていると、彼女が問いかけてきた。

「目的は何かしら? 身代金なら払うわ」

 レイナスは落ち着いたようだ。
 おそらくだが伯爵令嬢として、誘拐などに対する教育を受けているのだろう。
 そういった話は、フォルトが日本にいた頃に聞いたことがあった。本当のところは定かではないが、「あり得る」とは思っている。

「貧乏そうに見えるか?」
「そういう意味ではありませんわ」
「ハッキリ言おう。貧乏だ!」
「なっ! ふざけないで!」
「俺が持っている金は奪ったものだからな」
「盗賊かしら?」
「御主人様へ向かって盗賊とか言うなあ!」

 カーミラが両手をあげて抗議する。主人であるフォルトを、下賤げせんな盗賊と一緒にされたくないだろう。
 言われて当然なことをやっているが……。

「あら失礼。それで? 私はカードを見せましたわ」
「そうだな」
「なら解放してもらえるかしら?」
「俺の目的は……。レイナス、おまえ自身だ!」
「え?」

 フォルトは言いきった。
 ゲームキャラクターとして、レイナスを育てるのだ。身代金など必要無く、彼女の言ったように貧乏だろうが魔の森で生活できている。
 他には何の目的も無いが、彼女には勘違いされてしまった。

「おじさんに抱かれるなんて嫌よ!」
「お、じ、さん……」
「そうよ。おじさん」
「まっまぁ……。確かに俺はおっさんだ」
「分かっているのなら、歳相応の女性を抱きなさい!」

 レイナスはうら若き伯爵令嬢である。
 そして隣に座るカーミラは、肌の露出が激しい服を着ている。ほとんど下着と言っても過言ではないので、そう受け取られても仕方ないか。

「分かりましたか?」
「お前の考えてることは否定できんが、な。目的は違うぞ?」
「どういう意味かしら?」
「俺のゲームキャラになってもらう!」
「はい?」
「俺がレイナスを育てる。そして、人間と対戦してもらうのだ」
「私を剣奴にする気ですか!」

(剣奴ってなんだっけ? 剣闘士奴隷か。まぁ当たらずといえども遠からずだな。俺に忠実な魔法剣士キャラになってもらうのだから……)

 グラディエーターと呼ばれる剣闘士奴隷は、闘技場などで見世物として戦闘を強要される奴隷のことだ。
 養成所で育成され、観客の前で人間や猛獣と戦わされる。
 解放されることはまれで、基本的には死ぬまで戦わされるのだ。

「似たようなものだ」
「嫌ですわ!」
「だろうな。だが俺の玩具になってもらうぞ。ニンゲン!」
「ニン、ゲン?」
「カーミラ!」
「はあい! カーミラちゃんにお任せでーす!」

 フォルトの言葉を察したカーミラは、レイナスの首筋に手刀を入れる。
 以降は気絶した彼女を肩に担いで、「良い玩具が手に入った」とほくそ笑む。おそらくは騒ぎになるだろうが、そんな些細ささいなことは気にしない。
 そして居座った貴族の屋敷を出た後は、魔の森の自宅に帰るのだった。
Copyright©2021-特攻君
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