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作者: 特攻君
残酷な描写あり R-15
第3話 召喚されし者たち2
 豪華な部屋に入ってきた男女。
 彼らはソファーに座って、対面に座るよう促してきた。とはいえフォルトは立ち上がって出迎えたので、他の三人に席を取られる。
 おっさんに譲ってもらいたいところだが、性格的に言い出せなかった。

「初めまして、聖女のソフィアです。こちらの者はザイン」
「よろしく頼む」
「皆様に今回の件を説明するために参りました」

 ソフィアは聖女と名乗ったので、シュンの言っていた女性に違いない。
 好みと言っていたが、確かに万人受けする顔立ちで奇麗だった。アイドルと言っても過言ではない。年齢も若そうに見える。
 その隣にいるザインは、剣やよろいを装備している。屈強そうな顔つきと体格で、中世時代の騎士を彷彿ほうふつさせた。
 とりあえずは、話を聞かないと始まらない。

「お願いします」
「まずシュン様が説明されたと思いますが……」
「俺が聞いた内容は伝えたぜ。納得したかは知らねぇけどな」
「そちらを踏まえての話になります」
「分かりました」
「まずは勇者に成り得る者かを判定させてください」

 納得しようにも、どうしようもない状況である。とはいえシュンからは、勇者候補が当たりと聞いていた。
 ソフィアの言った勇者に成り得る者とは、それを指すのだろう。フォルトは人と会話することが苦手なため、ここからは成り行きを見守る。
 場に少し沈黙が訪れたところで、シュンが疑問を呈した。

「どうやって確認するんだ?」
「お手持ちのカードを御覧ください」
「名前の横に称号が書かれているのだ」
「確かにあるな」
「指を当てていただくと称号が分かります」
「ほう」
「スマホみたいだね」

 何かのゲームのようだが、フォルトたちは言われたとおりに指を当てる。すると、カードの上に透明な板が現れた。
 よく見ると、文字が表示されている。

「俺は「召喚されし者」と「聖なる騎士」だってよ」
「あたしは「召喚されし者」と「舞姫」だって。クラブで踊ってたから?」
「僕は「召喚されし者」と「初級魔法使い」って書いてあるね」
「俺は……」

 フォルトは言葉に詰まる。
 カードに書いてある内容が、他の三人と違った。「召喚されし者」はデフォルトのようだが、自身には別の称号が表示された。

「俺は「帰ってきた者」と、二項目は空欄ですね」
「「帰ってきた者」? それと空欄ですか」
「はい。お見せします」

 ソフィアはフォルトのカードを受け取って、称号を確認する。
 首を傾けているが、興味を失くしたようにカードを返してきた。

「このカードは身分証明書になるものです」
「再発行には金が必要だ。紛失するな!」
「身分証?」
「名前や称号。レベルやスキルの他に、職業や犯罪歴などが登録されます」
「提示を求められるときがあるからな!」

(マイナンバーカードの進化版みたいな感じか? って、レベル? スキル? そのゲームみたいなものは何だよ!)

 ソフィアから言われた内容に、全員が驚いた。
 ロールプレイングゲームで遊んだことがあれば知っている内容だが、現実の人間にレベルなどは無いのだ。
 そこでフォルトは口を開いた。

「レベルやスキルですか。ゲームなのですか?」
「いえ。こちらの世界には存在します」
「は?」
「他に召喚された方々からも、同様の質問をされましたね」
「レベルは身体能力を数値にしたものだぞ。強さの基準になる」
「へぇ」

 存在するというのであれば、きっと存在するのだろう。
 身体能力を数値化したものであれば、測定できる何かがあると思われた。しかしながら、いま聞くべき内容でもない。
 そしてザインが、目を鋭くさせた。

「お前らのレベルはいくつだ?」
「俺は十二だぜ」
「あたしは五よ」
「僕は八だね」
「おっ俺は……。三だ」
「国民の平均は七だ。一般兵の平均が十五くらいだ」

 アーシャとノックスは平均的で、シュンが少し強いくらいか。
 フォルトのレベルは話にならない。子供、もしくはお年寄りレベルか。さすがに詳しく聞くと、心が折れそうだった。

(引き籠っていたし体力なんて無いからなぁ。でも相当低いぞ。こちらの世界だと、すぐに死ねそうだな)

「おっさん、キモいうえに弱っ!」
「あ、ははっ……」

 どうもフォルトは、アーシャに嫌われているようだ。
 若者だからなのか、遠慮会釈がなく罵倒してくる。さすがに憤りを感じるが、彼女と言い争っても仕方ない。

「話が逸れましたね。それでシュン様」
「なんだ?」
「あなたが勇者候補です」
「俺が当たりか!」
「なに? あたしはハズレってこと? マジ最悪なんだけどぉ」
「ハズレかぁ。残念」
「当たり? ハズレ? それは何でしょうか?」
「こっちの話だ。ソフィアさんは気にしないでいいぜ」

 三人は気楽に構えているようだが、フォルトはハズレについて気になった。
 ソフィアたちが望まぬ者ということで、今後の扱いが怖い。

「シュン様は城に残っていただきます」
「残ってどうすんだ?」
「訓練をしていただき、魔物の討伐をお願いすることになります」
「そんなことが俺にやれるのか?」
「はい。「聖なる騎士」はまれに見る騎士の称号です」
「良い称号なのか?」
「もちろんです。神が判定されたのですから……」
「神なんているのか!」
「聖神イシュリル。勇者召喚の儀は神の御力によるものです」

 ソフィアの口から、神の存在と名前が飛び出した。
 先ほどシュンから聞いたが、こちらの世界には魔法があるらしい。日本からフォルトたちを召喚したので、その話は信じても良いかもしれない。ならば、神が存在していても不思議ではないだろう。
 そんなことを考えていると、フォルトは名前について思い出した。

「えっと。全員が名前を覚えてないのは、何か理由でも?」
「元来名前とは、世界に個人をつなぎ止める糸なのです」
「それで?」
「その糸を断ち切って、異世界から召喚します」
「糸を切られることで、名前を忘れてしまうんですね?」
「はい」

 ソフィアから勇者召喚の特性を聞いて、フォルトは納得する。
 いや、納得するしかないと言ったほうが正しいか。神や魔法が存在する世界で、科学的根拠を聞いても意味が無いからだ。
 ここで若者の三人が、顔を見合わせる。

「もう名前は思い出せないんだねぇ」
「名前なんてどうでもよくね?」
「そうだね」
「アーシャっていいよね! 気に入ったからもういいや!」
「ノックスかぁ。名前は変えたいな」
「シュンだぜ。名前も当たりじゃね?」

 三人は楽観的で、日本での名前は気にしていないらしい。
 実のところフォルトも同様だが、彼らとは違って悲観的だ。存在を抹消されたような気持ちになり、少しだけ気が重くなった。
 そして、一番気になっていた件を問いかけた。

「確認したいのですが?」
「どうぞ」
「俺たちは日本に帰れないのでしょうか?」
「申しわけありません。一方通行ですので帰すことがかないません」
「今までの人たちは?」
「元の世界に帰ったという話は聞きませんね」
「勝手に俺たちを召喚しておいてですか?」
「申しわけありません」

 ソフィアは悲しそうに謝罪する。
 それに対して、強く文句を言えなかった。諦めの境地とでもいうのか。そもそも自殺を考えるまで落ちぶれていた。
 もはや何が起きても、フォルトはどうでも良いとさえ思っていた。

「勇者候補になれない者はどうなるのでしょう?」
「召喚した者の責任として、一定期間は面倒を見ます」
「一定期間?」
「その間に仕事を探していただいて、自力で生活してもらいます」
「勝手ですね」
「申しわけありません」
「貴様! 先ほどからソフィア様に対して無礼であろう!」
「ひっ!」

 ソフィアが責められていると思ったのか、ザインが怒声を浴びせてきた。
 考えてみれば、彼女は聖女と呼ばれている人物だ。言葉は選んだつもりだったが、一言多かったかもしれない。
 怒鳴られることに慣れていないフォルトは、ビックリして後ずさった。

「よしなさい!」
「ですが……」
「この人の言っていることは当たり前の話なのです」
「ソフィア様は聖女であらせられるのですぞ!」
「私たちは謝罪することしかできないのですよ?」
「わっ分かりました」

 ソフィアには謝罪しかできないのだ。
 王国ということは、フォルトたちを召喚すると決めたのは国王である。聖女の彼女は、それに対して何も言えなかったと思われた。
 ならばこれ以上は、何を言っても無駄なのだ。
 そして何かを感じ取った三人の若者は、真面目な顔に変わった。

「本当に帰れねえんだな」
「超サイアク……」
「異世界へ来て職探しかぁ」

 ノックスだけ少しズレていたが、フォルトは渋い表情を浮かべた。
 氷河期世代の引き籠りで、当然のように無職だったのだ。働く必要性を感じても、精神的な問題で職探しができなかった。
 ソフィアも職を探してもらうと言っていたので、気が重くなったのだ。
 口をつぐんで、質問も出なくなった。するとシュンがホストスマイルを浮かべて、ソファーに座りながら前に乗り出した。

「なぁ聞きてえんだが?」
「なんでしょう?」
「勇者候補ってことは仲間が必要だよな?」
「他の勇者候補と組まれるのが良いと思っております」
「ソフィアさんとザインさん、ちょっといいか?」
「構いませんが……」
「うむ」

 シュンは立ち上がり、ソフィアとザインを連れて席を離れた。
 続けてボソボソと、会話を始める。しかしながら内容については、フォルトの耳には届かなかった。
 それには首を傾げるが、暫くすると三人とも戻ってきた。

「お待たせしました。当面の食事と住居は用意してあります」
「助かります」
「それと世話役の神官を付けます。分からないことは聞いてください」
「はい」

 もっと細かい話を聞きたかったが、どうやら二人は忙しいようだ。会話を打ち切ったところで、シュンを連れて部屋から出ていってしまった。
 その後は世話役の女神官が訪れて、部屋に残った三人は城外に連れていかれる。光を灯すものが無くても、月明かりで問題なく歩けた。
 そして目的の場所に到着すると、小さなロッジが建ち並んでいるのだった。
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