残酷な描写あり
第14回 絶望を知る 希望を悟る:4-1
「見れば見るほど性格悪いなあ」
「まだ持ってたのかよ」
ジョイドが矯めつ眇めつしているのが見覚えのある小刀だと気づいて、トシュは顔を顰めた。獅子がこっそり空へ投げ上げてトシュの腕に落とした、あれだ。
「処分する前に、できるとこまで読み解いておこうと思って。……何でもない場所より寺院でやった方がいいかと思ってたんだけど、ここじゃあ法力は期待できそうにないなあ」
「全くだ。〈慈愛天女〉が怒らねえからって調子に乗りやがって」
「君がそれを言うかな?」
トシュが紙切れを変えて作った仕切りの向こうで、セディカは既に眠っている。セディカが寝るからと灯りも消してあった。衝立なら〈小人の作品〉である例の小屋の中にあるのだが、小屋を展開しないと取り出せない。
ジョイドは小刀を横向きにして、自分の、というより二人の目の高さに掲げた。
「おまえにはどこまで見える?」
「そうだな」
じっとみつめてから、見て取れる限り、仕込んである呪術を挙げた。記号や文字を柄や刃に彫り込んだり描き込んだりしてあるものはわかりやすいが、「力を込めて」あるようなものはそうもいかない。
ジョイドはそのうちの幾つかに同意し、幾つかは少し違うと思うと訂正し、またトシュには見抜けなかったものを幾つか指摘した。鷹と狼では目が違うのだ、それは仕方ない。
「じゃあね、見えないって言ったけど、答えがわかったら——見るんじゃなければ、感じ取れる?」
神通力と仙術、または妖力と妖術を用いて、ということだ。自力では見分けられなかった呪術の気配を、集中してトシュは探し出そうとした。
混血とはいえ妖怪の、長くなるだろう生涯を、別にこの二人でひしと寄り添って送るつもりはない。いずれはジョイドの目に頼れなくなるときが来る。それまでにジョイドに追いついておけば、安心して別れられるというものだ。
そうして起きていた二人は、やがて——異変を感じ取って、顔を見合わせた。
トシュは蜜蜂に化けると、窓からすいと外に出た。
「まだ持ってたのかよ」
ジョイドが矯めつ眇めつしているのが見覚えのある小刀だと気づいて、トシュは顔を顰めた。獅子がこっそり空へ投げ上げてトシュの腕に落とした、あれだ。
「処分する前に、できるとこまで読み解いておこうと思って。……何でもない場所より寺院でやった方がいいかと思ってたんだけど、ここじゃあ法力は期待できそうにないなあ」
「全くだ。〈慈愛天女〉が怒らねえからって調子に乗りやがって」
「君がそれを言うかな?」
トシュが紙切れを変えて作った仕切りの向こうで、セディカは既に眠っている。セディカが寝るからと灯りも消してあった。衝立なら〈小人の作品〉である例の小屋の中にあるのだが、小屋を展開しないと取り出せない。
ジョイドは小刀を横向きにして、自分の、というより二人の目の高さに掲げた。
「おまえにはどこまで見える?」
「そうだな」
じっとみつめてから、見て取れる限り、仕込んである呪術を挙げた。記号や文字を柄や刃に彫り込んだり描き込んだりしてあるものはわかりやすいが、「力を込めて」あるようなものはそうもいかない。
ジョイドはそのうちの幾つかに同意し、幾つかは少し違うと思うと訂正し、またトシュには見抜けなかったものを幾つか指摘した。鷹と狼では目が違うのだ、それは仕方ない。
「じゃあね、見えないって言ったけど、答えがわかったら——見るんじゃなければ、感じ取れる?」
神通力と仙術、または妖力と妖術を用いて、ということだ。自力では見分けられなかった呪術の気配を、集中してトシュは探し出そうとした。
混血とはいえ妖怪の、長くなるだろう生涯を、別にこの二人でひしと寄り添って送るつもりはない。いずれはジョイドの目に頼れなくなるときが来る。それまでにジョイドに追いついておけば、安心して別れられるというものだ。
そうして起きていた二人は、やがて——異変を感じ取って、顔を見合わせた。
トシュは蜜蜂に化けると、窓からすいと外に出た。