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作者: 古今いずこ
残酷な描写あり
第14回 絶望を知る 希望を悟る:3-1
 離れには高級な調度は置いていないようだった。だから貸せるのだろうし、借りる方としても気を張らなくて済む。

 室内を一べつして、トシュが片眉を上げた。

「贅沢を言うようだが、おひいさんには別の部屋を用意してもらうわけにゃいかねえか」

「またまた」

 案内の僧侶は妙な笑みを浮かべた。

「三人ぎりで旅をなさっておいでなのでしょう? お若い方々の間で、何もないことはございますまい」

 僧侶はもう少し続けそうだったし、トシュもさえぎって何か言い返しそうだった。が、実際のところは、湯は借りられるかとジョイドが口を挟んでどちらにも喋らせなかった。それで僧侶は出ていき、後には苦虫を噛み潰したようなトシュと、苦笑いを浮かべたジョイドが残った。

 セディカは首を傾げた。

「どういうこと?」

「俺らのどっちかが君と恋仲だと思ってるみたいねえ」

「……主人と従者なのに?」

 何故そんな仮定が成立するのだろう。

「……うん、おまえが気になんないならいいわ」

 トシュに何だか脱力されたらしいのも腑に落ちなかったが、何かよくわからない勘繰りをされたらしいとは辛うじて理解した。それで大方、正しくはあった。

「あの……何だか……ごめんなさい。マントのこと」

「ああ、なんか変なことになったね。まあ、最悪られても俺らんじゃないし」

「まあな」

 自分のものなのか、と思う。〈錦鶏〉国王がセディカを指名してあのマントを贈ったのは、二人の主人であるという建前を信じていたためにすぎないはずだが。

「何だか……」

 表現に迷って言いよどむ。

「しばらく、いい人たちばっかりだったから。ちょっとびっくりしちゃった」

 トシュとジョイドも、〈神宝多き寺〉の人々も、太子も国王も王妃も、間違えて斬りつけてきた将軍さえ、接して気持ちのよい人々ばかりだった。閉口するような、やり返したくなったような相手は久しぶりだ。

「世間は悪い人ばっかりじゃないよって教えられた後には、いい人ばっかりでもないよって教えられることになってるのかな」

 そう受け取ればよいのか。

「長居は無用だな。夜が明けたらさっさと出てこうぜ」

 げんなりした様子でトシュが言った。
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