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作者: 古今いずこ
残酷な描写あり
第10回 奇跡を妬む 摂理を嘆く:3-2
 と、ジョイドはトシュを睨んだ。話を逸らされたか、話が通じなかったときのように。

「あのね、わかってないと思うから言うけど。俺は、マオのときにはどこからも出てこなかった、死者を蘇らせる仙薬なんてものを任されたから、気持ちの行き場がなくなってるわけじゃないの」

 仙薬を手に帰ってきてから初めて、はっきりと顔がゆがむ。

「おまえが試されてるからだよ。どうするべきか言わないでおいて、おまえがどう出るか試してる。……おまえが判断を誤るのを待ってる」

 まじまじと見返したのは、何をわかりきったことを、と思ったためだった。

 父親譲りの強大な力をたのんで、いずれ問題を起こすのではないかと警戒されるのは、今に始まったことではない。口実を作って早いうちに討ってしまおうと考えている者も、口実すら作らずに討とうとした者もいる。

 わかりきっていることだ。一々口にするまでもない。

 ……が、確かに、だからこそ、口に出して互いの認識を共有したことはなかったかもしれない。

 悟って、今度は苦笑した。つまり、まさかわかってないわけじゃないだろうねと、言われたのだ。マオのことで俺を気にしてる場合じゃないよ、と。

「〈神前送り〉はいい案だろ?」

 そう返せば軽い瞠目の後に、認めざるをえないという具合の困った笑みがやってきた。

「そうね。胸が空いた」

 神に委ねる。神に決めさせる。自分では裁かない。自分では答えを出さない。

 はっきり言って、意趣返しだ。謙虚なわけでも何でもない。

 ジョイドは一つ、息を吐いた。

「下描きくらい何枚でも描くし、事情が変われば何回でも直すよ。呪符本体を何枚も描くのは実力的に厳しいけど」

「全部おまえにやらそうとは思っとらんぞ」

「俺は全部おまえにやらせる気だよ、明日は」

 そんなことを言うが、誇張である。偽国王との直接対決は任せるだろうけれども、周りのことは気にかけてくれるはずだ。

 真剣なまなざしがトシュを射た。

「明日。間違っても、死んじゃ嫌だよ」

 まっすぐに見返してから——歩み寄り、右手を伸ばしてその肩をつかむ。

「マオにおまえを託されてんだ。勝手にいなくなりやしないさ」

 そうでなくたって、赤の他人の事情に首を突っ込んで、自分の命を落とすつもりはないけれど。

「おまえはマオのことだけいたんでりゃいい」

 目を細めた相棒は、気持ちでどうにかなるものではないと呆れたのかもしれないし、マオを持ち出せば黙ると思って、と諦めたのかもしれないし——決意は決意として、受け入れたのかもしれなかった。
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