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作者: 古今いずこ
残酷な描写あり
第2回 祈りが届く 助けが来る:5-1
作中よりも過去における死ネタが含まれます。苦手な方はご注意ください。
「寝たねえ。安心できたのか疲れ果てたのかわかんないけど」

 折り畳み式の衝立ついたての向こうをジョイドが覗いている。よくそんなものを持ち合わせていたなとトシュは思ったのだったが、正にこういうときのためだよ、ということだった。少女を拾って同室で休むような機会に、そう何度もぶつかるとは思われないが。

「ベールをナイトキャップ兼用にするって習慣は聞いたことないけどなあ」

「うん?」

「いんや。客観的に、変わった子ではあるよなと思って」

「西の血を引いて、東の三味を弾いて、南でもないのにベールをつけて、食事の前に〈慈愛天女〉の加護を祈って、だもんな」

 トシュは胡坐あぐらを組んだ足を使って頬杖を衝いた。

「起きたら茨に囲まれてたっての、〈迷いの茨〉っぽいよな。そこまでするもんか?」

「手にかけろとまでは命令できなかったんじゃないの、流石に。親子の情がなくたって、人殺しには普通に抵抗あるでしょ」

 応じながら、声を落とせとジョイドが手振りで示す。とはいえ、少女の身に今日降りかかったことを思えば、今夜は全く寝つけないか、泥のように眠り込むかのどちらかになりそうだ。つまり、現に眠れているのであれば、多少の話し声くらいで目を覚ますこともあるまい。

「お偉いさんの家なら、襲撃されたときのために元株を持っててもおかしくないし。子供一人を迷子にさせるためなら、棘一個分折り取れば足りるだろうし。そりゃあ、ちゃんと使ったら城だってまもれる道具だけども」

「結局抜け出せてるってことはその程度ってことか」

「ばっちり殺意があっただろうことに変わりはないけどね」

 示し合わせたかのように、二人は衝立へと視線を投げた。

 十三歳、と聞いた。五年前、ということは八歳のときに、母とは死に別れたと。従者たちが消えたのは父の差し金であったと疑わない様子で——疑わないような間柄であったわけで。

 無論、一方的な言い分にすぎないけれど。

「……さっさと片づけようぜ。女子なんざ長々と連れ歩くわけにもいかねえだろ、はたから見たら人さらいだ」

「あの子が心配だとか可哀想だとか言っても別にからかわないけど?」

「そうわざわざ口に出すのはからかってるって言うんだよ」

 じろりと睨みつけたが、相棒はどこ吹く風であった。
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