残酷な描写あり
R-15
36 「不意打ち」
巨大ヤモリの魔物に見事ルークの火炎魔法が全弾命中し、巨大ヤモリは悲鳴を上げて怯んでいた。
ルークは息を大きく吐きながら、呼吸を整える。
初級レベルである『ファイアボール』という魔法をあれだけ大きい火球に作り上げ、複数放ち、的が大きいとはいえ全弾命中させるには、よほど魔力を消費し、そしてよほど集中力を要したんだろう。
疲労を隠せないルークは、舌打ちしながら膝に手をついていた。
その様子を見たウィルが心配そうに声をかける。
「大丈夫、ルーク? 僕は魔法を使えないからわからないけど、相当疲れてしまったんじゃ?」
「平気だ……」
とてもそうは見えない。
私ははぁ……とため息をつきながら、仕方なしでルークの背中をポンと叩いてから声をかけた。
「ルーク、お疲れ様。この演習が終わったら、今夜は私が手料理を振る舞ってあげる。だから頑張って励め」
「E……」
ルークはすっくと立ち上がるけど、さすがに食べ物で釣ろうとしても疲労が完全に回復するわけじゃない。
急に立ち上がって目が眩んだのかウィルに支えられてもらう始末だ。
サラの治癒術は、怪我は治せても疲労ばかりは治せない。私がちらりと見やると、その思惑に気付いたのか申し訳なさそうにしていた表情から一変、怒ったような表情になると頬を膨らませる仕草をする。
だが頬に含ませた空気は、すぐに吐き出されて悲鳴へと変わった。
「まだよ! あいつまだ生きてるわ!」
魔法が当たって皮膚の焼け焦げた臭いと煙を上げながら、地面に放り出された私の足元のバナナにはもはや見向きもせず、明らかにここにいる私達に狙いを定めているようだった。
爬虫類の顔から表情を読み取るのは困難なはずなのに、こればかりは魔物が怒り狂っているようにしか見えない。
大きく吠えながら突進しようとしていた時だった。
「俺の存在忘れてんじゃねぇぞボケナスがぁっ!」
そう叫びながらすでに紡がれていた魔力の塊、エドガーの上級火炎魔法が魔物に襲いかかる。
「悶え苦しみながら焼かれろやぁ! インフェルノ!」
エドガーの怒りの言葉と共に放たれた火炎魔法は、魔物の全身を激しく包み込んだ。
炎は魔物が暴れ回っても勢いが衰えることなく、灰塵となるまで消えることはなかった。
ふんっと鼻を鳴らしながら仁王立ちするエドガーは、多少呼吸が荒くなる程度でルーク程の疲労感は見られない。いや、あれは多分痩せ我慢だ。
初級魔法でも威力が増してる『ファイアボール』と、上級魔法である『インフェルノ』とでは消費する魔力も体力も疲労も、ルークとは桁違いのはずだった。
それでも自分はこの場に君臨するトップだとでも言うように、エドガーは自分の足でその地に立ち続ける。
エドガーの凄まじい火炎魔法を目にした他のチームは唖然としている。それもそのはず。
ここにいる生徒は全員が同年代だ。同い年のクラスメイトが、自分の実力を遥かに上回る魔法を放って余裕たっぷりの表情と態度をしているのだから、驚かない方がおかしい。
こういうところは確かな実力を持っている。それだけは確かなんだけど。性格がね……。
エドガーがいつまで経っても追いついて来ない私達の元へズンズン歩いて近寄ってくると、またしてもふんっと鼻を鳴らしてルークを挑発する。
「俺の魔法でトドメを刺した!」
「お、おう……」
「あいつを殺ったのは俺の魔法だからな!」
「……」
サラもウィルも呆気に取られている。
こんな時に誰がやったかなんてどうでもいいんだけど、それだけは譲れないんだろうなこいつは。
そんな風に私も呆れていると、目の前を何かが通り過ぎた。
ヒュッという音と共に。
「……っ!?」
一瞬だった。
見ると、いつの間にか腰に手を当てて仁王立ちしていたエドガーの左肩に、ナイフが突き刺さっている。
その場にいた全員が凍りついた。
誰もが何が起きたのかわかっていない。
「ぐ……っ!」
短い声を上げながら膝をつくエドガーに、サラが慌てて駆け寄る。
今のナイフは私達の背後から飛んできた。ーー先生は!?
後方に視線を走らせると、先生は岩陰から周囲を警戒している様子だった。
それから私に向かって腕を横に振る。その顔は切羽詰まっていた。
多分、逃げろという合図……。
とにかくこんな場所では、格好の的にしかならない。
最初はどうかと思ったけど、結局のところ死角の多い森の中に逃げ込むしか……。
他に道はなさそうだった。
「みんな! 周囲を警戒しながら森へ走るわよ!」
私が先生の方に注意を向けていた間に、エドガーの怪我はサラが治癒していた。
いきなり怪我を負わされた屈辱でエドガーは悔しそうに震えている。
それでもこんな場所で敵の攻撃を迎え撃つということはしないようで安心した。エドガーもまた私の掛け声と同時に、森へ向かって走り出している。
「今のはエキストラさんのか!?」
「わからない! でも一歩間違えたら心臓に刺さっていたかもしれない! そんな危険な攻撃、学園に雇われた人がするかな!?」
「さっきのナイフ、毒も塗ってあったわ! 私の治癒術で解毒も同時にしておいたけど。これ、本気で殺しに来てる攻撃みたいだった! どうして!?」
「クソが……っ! 見つけたら俺がぶっ殺してやる!」
ここはかなり見晴らしの良い草原、それは何度も思っていたことだ。
しかも後方には先生も見守っていた。
魔物に気を取られていたからって、先生の目を盗んでナイフを放つなんて……っ、プロの仕業としか思えない。
邪教信者って、言ってみれば幹部以外は一般人の集まりだったはず。
戦闘経験のある実力者は、幹部四人しかいない。
ゾフィもまだ少女ながらその幹部に入ってるんだけど、もしかしてこれ……割り振ったメンバーにたまたま幹部が当たりを引いちゃったりしてます!?
邪教宗派の戦闘員である幹部は、全部で四人。
一人は学園に潜入してる生徒、ゾフィ・ブラッドリー。
もう一人はゲーム内で攻略対象でもある二十歳の男、ヴォルフラム・フリードリヒ。
そして人間に対して憎しみの炎を燃やす元・暗部の男、ジン・レンブラント。
同じく異種族として差別を受け、人間に恨みのある獣人、ジェヴォーダン。
正確な投げナイフ、そしてずっと見守っていた先生すら出し抜く隠密能力。
これ、もしかして幹部の中でもトップクラスに強い元・暗部出身のジン・レンブラントだったりしません!?
プロの仕業となれば話は別!
若者で未熟な生徒に敵うはずもない!
多分優秀な騎士でも、不意を突かれたらただじゃ済まない相手よ!?
先生!
即刻、演習中止の合図をくださいいい!!
ルークは息を大きく吐きながら、呼吸を整える。
初級レベルである『ファイアボール』という魔法をあれだけ大きい火球に作り上げ、複数放ち、的が大きいとはいえ全弾命中させるには、よほど魔力を消費し、そしてよほど集中力を要したんだろう。
疲労を隠せないルークは、舌打ちしながら膝に手をついていた。
その様子を見たウィルが心配そうに声をかける。
「大丈夫、ルーク? 僕は魔法を使えないからわからないけど、相当疲れてしまったんじゃ?」
「平気だ……」
とてもそうは見えない。
私ははぁ……とため息をつきながら、仕方なしでルークの背中をポンと叩いてから声をかけた。
「ルーク、お疲れ様。この演習が終わったら、今夜は私が手料理を振る舞ってあげる。だから頑張って励め」
「E……」
ルークはすっくと立ち上がるけど、さすがに食べ物で釣ろうとしても疲労が完全に回復するわけじゃない。
急に立ち上がって目が眩んだのかウィルに支えられてもらう始末だ。
サラの治癒術は、怪我は治せても疲労ばかりは治せない。私がちらりと見やると、その思惑に気付いたのか申し訳なさそうにしていた表情から一変、怒ったような表情になると頬を膨らませる仕草をする。
だが頬に含ませた空気は、すぐに吐き出されて悲鳴へと変わった。
「まだよ! あいつまだ生きてるわ!」
魔法が当たって皮膚の焼け焦げた臭いと煙を上げながら、地面に放り出された私の足元のバナナにはもはや見向きもせず、明らかにここにいる私達に狙いを定めているようだった。
爬虫類の顔から表情を読み取るのは困難なはずなのに、こればかりは魔物が怒り狂っているようにしか見えない。
大きく吠えながら突進しようとしていた時だった。
「俺の存在忘れてんじゃねぇぞボケナスがぁっ!」
そう叫びながらすでに紡がれていた魔力の塊、エドガーの上級火炎魔法が魔物に襲いかかる。
「悶え苦しみながら焼かれろやぁ! インフェルノ!」
エドガーの怒りの言葉と共に放たれた火炎魔法は、魔物の全身を激しく包み込んだ。
炎は魔物が暴れ回っても勢いが衰えることなく、灰塵となるまで消えることはなかった。
ふんっと鼻を鳴らしながら仁王立ちするエドガーは、多少呼吸が荒くなる程度でルーク程の疲労感は見られない。いや、あれは多分痩せ我慢だ。
初級魔法でも威力が増してる『ファイアボール』と、上級魔法である『インフェルノ』とでは消費する魔力も体力も疲労も、ルークとは桁違いのはずだった。
それでも自分はこの場に君臨するトップだとでも言うように、エドガーは自分の足でその地に立ち続ける。
エドガーの凄まじい火炎魔法を目にした他のチームは唖然としている。それもそのはず。
ここにいる生徒は全員が同年代だ。同い年のクラスメイトが、自分の実力を遥かに上回る魔法を放って余裕たっぷりの表情と態度をしているのだから、驚かない方がおかしい。
こういうところは確かな実力を持っている。それだけは確かなんだけど。性格がね……。
エドガーがいつまで経っても追いついて来ない私達の元へズンズン歩いて近寄ってくると、またしてもふんっと鼻を鳴らしてルークを挑発する。
「俺の魔法でトドメを刺した!」
「お、おう……」
「あいつを殺ったのは俺の魔法だからな!」
「……」
サラもウィルも呆気に取られている。
こんな時に誰がやったかなんてどうでもいいんだけど、それだけは譲れないんだろうなこいつは。
そんな風に私も呆れていると、目の前を何かが通り過ぎた。
ヒュッという音と共に。
「……っ!?」
一瞬だった。
見ると、いつの間にか腰に手を当てて仁王立ちしていたエドガーの左肩に、ナイフが突き刺さっている。
その場にいた全員が凍りついた。
誰もが何が起きたのかわかっていない。
「ぐ……っ!」
短い声を上げながら膝をつくエドガーに、サラが慌てて駆け寄る。
今のナイフは私達の背後から飛んできた。ーー先生は!?
後方に視線を走らせると、先生は岩陰から周囲を警戒している様子だった。
それから私に向かって腕を横に振る。その顔は切羽詰まっていた。
多分、逃げろという合図……。
とにかくこんな場所では、格好の的にしかならない。
最初はどうかと思ったけど、結局のところ死角の多い森の中に逃げ込むしか……。
他に道はなさそうだった。
「みんな! 周囲を警戒しながら森へ走るわよ!」
私が先生の方に注意を向けていた間に、エドガーの怪我はサラが治癒していた。
いきなり怪我を負わされた屈辱でエドガーは悔しそうに震えている。
それでもこんな場所で敵の攻撃を迎え撃つということはしないようで安心した。エドガーもまた私の掛け声と同時に、森へ向かって走り出している。
「今のはエキストラさんのか!?」
「わからない! でも一歩間違えたら心臓に刺さっていたかもしれない! そんな危険な攻撃、学園に雇われた人がするかな!?」
「さっきのナイフ、毒も塗ってあったわ! 私の治癒術で解毒も同時にしておいたけど。これ、本気で殺しに来てる攻撃みたいだった! どうして!?」
「クソが……っ! 見つけたら俺がぶっ殺してやる!」
ここはかなり見晴らしの良い草原、それは何度も思っていたことだ。
しかも後方には先生も見守っていた。
魔物に気を取られていたからって、先生の目を盗んでナイフを放つなんて……っ、プロの仕業としか思えない。
邪教信者って、言ってみれば幹部以外は一般人の集まりだったはず。
戦闘経験のある実力者は、幹部四人しかいない。
ゾフィもまだ少女ながらその幹部に入ってるんだけど、もしかしてこれ……割り振ったメンバーにたまたま幹部が当たりを引いちゃったりしてます!?
邪教宗派の戦闘員である幹部は、全部で四人。
一人は学園に潜入してる生徒、ゾフィ・ブラッドリー。
もう一人はゲーム内で攻略対象でもある二十歳の男、ヴォルフラム・フリードリヒ。
そして人間に対して憎しみの炎を燃やす元・暗部の男、ジン・レンブラント。
同じく異種族として差別を受け、人間に恨みのある獣人、ジェヴォーダン。
正確な投げナイフ、そしてずっと見守っていた先生すら出し抜く隠密能力。
これ、もしかして幹部の中でもトップクラスに強い元・暗部出身のジン・レンブラントだったりしません!?
プロの仕業となれば話は別!
若者で未熟な生徒に敵うはずもない!
多分優秀な騎士でも、不意を突かれたらただじゃ済まない相手よ!?
先生!
即刻、演習中止の合図をくださいいい!!