第2話 バケモノッッッッッ!!!!! 6 ―母の話題は逸らしたい話題―
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「母さん、これで良いかな?」
勇気は助手席のドアを開けると、買ってきた花を母に手渡した。
「あら、良いお花ぁ。さすが勇ちゃん、センス良いわね。これならパパも喜んでくれるわぁ」
麗子はその花を抱き締める様にして持つと、満足そうに満面の笑みを浮かべた。
だけど、そんな母に勇気はツッコむ。
「何言ってるんだ、母さん。それ、ただの仏花だよ……」
「あら、そうでした……ふふふ……」
「な、なんだよそれ……本気か?」
「ふふふ……」
麗子のリアクションは冗談なのか、それとも本気なのか、勇気にも分からなかった。
だから、勇気も『やれやれ……』といった感じで笑うしかない。
「ハハハッ……」
「ふふふ………」
そしてまた、
「ふふふ……」
そして、麗子は後部座席に花をそっと置くと、膝の上に置いていたスマホを手に取った。
「あ、あれ……母さん、車……出さないのか?」
「うん……もうちょっとだけ待ってね。ちょっとねぇ、勇ちゃんに見せたいものがあるのよ」
「見せたいもの?」
「うん。勇ちゃん、まだ見てないでしょう?"あの人"の写真?? さっきから探してるのよぉ……」
『探してる』……確かに、勇気が車の外から麗子を見た時、麗子は首を傾げながらスマホの画面を何度もスクロールしていた。そして今、勇気がチラリと麗子のスマホを覗くと、彼女はSNSを見ている様だ。いったい麗子は何を探しているのか……
「あの人?」
「うん。あの人よ、あの人。ほら、さっき言ったじゃない? ピカリちゃんの屋上で大きな手と戦ってくれた人の事……」
どうやら麗子が言う『あの人』とは、ガキセイギの事らしい。
「……その人の姿をね、避難する前に見た人が大勢いるのよ。ママは残念ながら見損ねちゃったんだけど。でも今日ね、ネットでいっぱい写真が出回ってるみたいなの。う~ん……朝にはすぐに探し出せたんだけどぉ、勇ちゃんに見せようと思ったのに、見付からないわねぇ……保存しておけばっ……あっ!」
スマホをいじる麗子の手が止まった。
「あ、ほらほら! あったわよぉ! わぁ、スッゴく真っ赤!! 見てぇ、勇ちゃん!」
「真っ赤……ハハッ、真っ赤か、確かに……」
勇気は母の率直な感想に笑った。
「……いいよ、いいよ、母さん。それなら、ガキセイギの事だろ? 見るまでもないよ。俺は知ってる」
そうだ。勇気はよく知っている。その正体までも。
「あら、勇ちゃんもしかして昨日見てたのぉ?? スゴいわねぇ!」
でも、麗子は上手く勘違いしてくれた。
「へぇ~この人ガキセイギって言うのね。あっ! そう言えば、そんな事言ってたかもねぇ! 『正義の心で悪を斬る! 赤い正義! ガキセイギ!』って!」
言わずもがな、コレは正義が王に向かって啖呵を切った言葉だ。その言葉は全人類の耳にも届いていた。勿論、麗子の耳にも。
「へぇ~~それにしても、セイギって良い名前ね、正義ちゃんみたい! あ……そういえば昨日正義ちゃん帰ってきたのよね? もしかしてぇ……ふふふ」
「え……!!」
勇気の心臓はドキリとした。母が突飛ながらも鋭い推理を繰り出したのかと思った。
「あ、あぁ……そうだな、昨日だ。でもアイツ、俺と一緒に居たから……」
勇気がそう言うと、麗子はまた
「ふふふ……」
と笑った。
この笑顔、やっぱり冗談なのか本気なのか勇気には分からない。
「は……ははは」
まさかとは思うが、勇気は笑って誤魔化した。
「ふふふ……」
そして、またまた麗子は笑う。
「ふふ……あらあら、勇ちゃん。やっぱ正義ちゃんの話が出ると嬉しそうね!そうなの、昨日一緒だったのね」
「え……そ、そうだよ。そう、一緒にいた……」
「そう言えばぁ、正義ちゃん元気してた?」
麗子が話題を変えた。
「あ、あぁ……元気、元気、相変わらずだったよ」
でも、話題を逸らしたかった勇気からしたら丁度良い。
「そう、それじゃあ勇ちゃん、これからまた毎日楽しくなっちゃうわねぇ」
「え、な……なんだよその言い方」
「ふふ……だって、正義ちゃんと出会ってからでしょ? 勇ちゃんが学校楽しくなったの? その前までは毎日暗い顔をして……」
『あぁ……これはまた、逸らしたい話題になってしまった』と勇気は思った。
「いい、いい! そんな昔の話は! それより、正義が母さんのサンドイッチ喜んでたよ。『ありがとう』ってさ」
「あら、そうなのぉ! 嬉しいわねぇ~! だったらもっと作ってあげれば良かったわぁ! はぁ、私も正義ちゃんに会いたかったわぁ」
そう言いながら麗子はやっとスマホの画面を閉じた。
「う、うん……そ、そうだな。それじゃあ、今度……」
「ふふふ……今度と言わず、それなら今日一緒に行けたら良かったのにね。勇ちゃんも正義ちゃんと一緒の方が楽しかったでしょう?」
「えっ……今日? おいおい……墓参りに友達呼ぶ訳にはいかないだろ」
「あら! 確かにそうでしたぁ」
母はまた「ふふふ……」と笑うと、スマホをダッシュボードの上に置いて、やっとハンドルを握った。
「それに、今日は無理だ。今頃アイツは新しく出来た友達に会いに行ってるからさ……」
「母さん、これで良いかな?」
勇気は助手席のドアを開けると、買ってきた花を母に手渡した。
「あら、良いお花ぁ。さすが勇ちゃん、センス良いわね。これならパパも喜んでくれるわぁ」
麗子はその花を抱き締める様にして持つと、満足そうに満面の笑みを浮かべた。
だけど、そんな母に勇気はツッコむ。
「何言ってるんだ、母さん。それ、ただの仏花だよ……」
「あら、そうでした……ふふふ……」
「な、なんだよそれ……本気か?」
「ふふふ……」
麗子のリアクションは冗談なのか、それとも本気なのか、勇気にも分からなかった。
だから、勇気も『やれやれ……』といった感じで笑うしかない。
「ハハハッ……」
「ふふふ………」
そしてまた、
「ふふふ……」
そして、麗子は後部座席に花をそっと置くと、膝の上に置いていたスマホを手に取った。
「あ、あれ……母さん、車……出さないのか?」
「うん……もうちょっとだけ待ってね。ちょっとねぇ、勇ちゃんに見せたいものがあるのよ」
「見せたいもの?」
「うん。勇ちゃん、まだ見てないでしょう?"あの人"の写真?? さっきから探してるのよぉ……」
『探してる』……確かに、勇気が車の外から麗子を見た時、麗子は首を傾げながらスマホの画面を何度もスクロールしていた。そして今、勇気がチラリと麗子のスマホを覗くと、彼女はSNSを見ている様だ。いったい麗子は何を探しているのか……
「あの人?」
「うん。あの人よ、あの人。ほら、さっき言ったじゃない? ピカリちゃんの屋上で大きな手と戦ってくれた人の事……」
どうやら麗子が言う『あの人』とは、ガキセイギの事らしい。
「……その人の姿をね、避難する前に見た人が大勢いるのよ。ママは残念ながら見損ねちゃったんだけど。でも今日ね、ネットでいっぱい写真が出回ってるみたいなの。う~ん……朝にはすぐに探し出せたんだけどぉ、勇ちゃんに見せようと思ったのに、見付からないわねぇ……保存しておけばっ……あっ!」
スマホをいじる麗子の手が止まった。
「あ、ほらほら! あったわよぉ! わぁ、スッゴく真っ赤!! 見てぇ、勇ちゃん!」
「真っ赤……ハハッ、真っ赤か、確かに……」
勇気は母の率直な感想に笑った。
「……いいよ、いいよ、母さん。それなら、ガキセイギの事だろ? 見るまでもないよ。俺は知ってる」
そうだ。勇気はよく知っている。その正体までも。
「あら、勇ちゃんもしかして昨日見てたのぉ?? スゴいわねぇ!」
でも、麗子は上手く勘違いしてくれた。
「へぇ~この人ガキセイギって言うのね。あっ! そう言えば、そんな事言ってたかもねぇ! 『正義の心で悪を斬る! 赤い正義! ガキセイギ!』って!」
言わずもがな、コレは正義が王に向かって啖呵を切った言葉だ。その言葉は全人類の耳にも届いていた。勿論、麗子の耳にも。
「へぇ~~それにしても、セイギって良い名前ね、正義ちゃんみたい! あ……そういえば昨日正義ちゃん帰ってきたのよね? もしかしてぇ……ふふふ」
「え……!!」
勇気の心臓はドキリとした。母が突飛ながらも鋭い推理を繰り出したのかと思った。
「あ、あぁ……そうだな、昨日だ。でもアイツ、俺と一緒に居たから……」
勇気がそう言うと、麗子はまた
「ふふふ……」
と笑った。
この笑顔、やっぱり冗談なのか本気なのか勇気には分からない。
「は……ははは」
まさかとは思うが、勇気は笑って誤魔化した。
「ふふふ……」
そして、またまた麗子は笑う。
「ふふ……あらあら、勇ちゃん。やっぱ正義ちゃんの話が出ると嬉しそうね!そうなの、昨日一緒だったのね」
「え……そ、そうだよ。そう、一緒にいた……」
「そう言えばぁ、正義ちゃん元気してた?」
麗子が話題を変えた。
「あ、あぁ……元気、元気、相変わらずだったよ」
でも、話題を逸らしたかった勇気からしたら丁度良い。
「そう、それじゃあ勇ちゃん、これからまた毎日楽しくなっちゃうわねぇ」
「え、な……なんだよその言い方」
「ふふ……だって、正義ちゃんと出会ってからでしょ? 勇ちゃんが学校楽しくなったの? その前までは毎日暗い顔をして……」
『あぁ……これはまた、逸らしたい話題になってしまった』と勇気は思った。
「いい、いい! そんな昔の話は! それより、正義が母さんのサンドイッチ喜んでたよ。『ありがとう』ってさ」
「あら、そうなのぉ! 嬉しいわねぇ~! だったらもっと作ってあげれば良かったわぁ! はぁ、私も正義ちゃんに会いたかったわぁ」
そう言いながら麗子はやっとスマホの画面を閉じた。
「う、うん……そ、そうだな。それじゃあ、今度……」
「ふふふ……今度と言わず、それなら今日一緒に行けたら良かったのにね。勇ちゃんも正義ちゃんと一緒の方が楽しかったでしょう?」
「えっ……今日? おいおい……墓参りに友達呼ぶ訳にはいかないだろ」
「あら! 確かにそうでしたぁ」
母はまた「ふふふ……」と笑うと、スマホをダッシュボードの上に置いて、やっとハンドルを握った。
「それに、今日は無理だ。今頃アイツは新しく出来た友達に会いに行ってるからさ……」