第1話 大木の中へ 5 ―穏やかな時間―
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「なるほど……それで、お前はこの子を助けた」
「ほいほい!」
「それで、この大木の下へ来た時に《王に選ばれし民》が現れ、避難場所を探している暇は無いと思い、無理矢理この子をこの基地へと避難させた……こういう事だな?」
正義から話を聞いた勇気は、事のあらましを整理をする為に正義へ質問を投げていた。
何故こんな事をしているのか、それは簡単だ。正義の話が脱線しまくったからだ。
「その通り!」
「はぁ……」
勇気は正義の話を聞いているうちに疲れてしまった。本来なら、希望との出会いからこの基地に避難させるまでを説明するのに15分もあれば足りるところを、正義は脱線に脱線を繰り返し、気付けば一時間近くも使っていた。『まぁ、それだけ正義が元気になったって事だろう』と勇気は何度も心の中で呟いていたが、勇気はその軌道を元に戻すのに根気を尽くし、もうクタクタだ。正義が話し終わる頃には怒る気力すら失ってしまっていた。
「はぁ……起きてしまった事を今更言っても仕方がないが、余りにも秘密をバラし過ぎだな……この子に」
勇気は正面に座る正義と話しながら、真横に座る希望の顔をチラリと見た。
「いやぁ……確かにそうなんだけどさ。後から考えても、前から考えてもさ、あの時はああするしかしょうがなかったんだよな!」
正義はあっけらかんとした調子で言う。
「はぁ………」
それを聞いた勇気はまた溜め息を吐いた。
「いや、でもねボズ! 実際正義は、あの時はその場その場の咄嗟の出来事に一生懸命考えて、答えを出したボズよ!! 俺はそれをすぐ傍で見てたボッズー! あの時は本当に、秘密を捨ててでもやるしかなかったんだボッズー!!」
ボッズーは、勇気の顔が『正義がいい加減をした』と言っている様に思えて、黙っている事が出来なかった。
しかし、
「いや、ボッズーそれは分かってるよ。緊急事態だったという事は十分に理解出来た。もし俺が正義の立場だったなら、俺も同じ判断をしたかも知れない」
そして、勇気は再び希望の顔を見る。
「それに……君も黙っていてくれるんだろ?」
さっきまで厳しかった勇気の顔が柔らかい表情に変わる。勇気は思いやりのある奴だ。希望が誘拐されたという事実、そして誘拐犯から受けたであろう心の傷を思うと、希望の明るい口調や振る舞いが健気に思え『この子には優しく接しなければ』という気持ちが知らず知らずに芽生えていたんだ。
そして、勇気に問い掛けられた希望は、
「はい! 僕、絶対に誰にも言いません!」
その目を見ながらニッコリと笑顔を返した。
「そうか……なら、頼むぞ」
その笑顔を見た勇気にも笑顔が浮かぶ。その笑顔は勿論、天使の笑顔だ。そんな天使の笑顔を浮かべながら、勇気は左の人差し指を立てて唇をトントンっと叩いた。『秘密……』という意味だ。
「へへっ! んじゃ、問題は解決ってとこだな!」
そう言って正義が立ち上がろうとすると、
「いや……まだだ」
また勇気の顔が厳しく変わった。
「へぇ??」
「お前に、一言釘を刺しておく……。ボッズーもよく聞いといてくれ。今回のお前達の判断は間違いだとは言わない。だがな……これ以上ルール違反は犯すな。俺達はチームだ。一人の行動が、チーム全体に影響を及ぼす。それと……俺達の力が何故秘密なのかも考えろ」
「何故……秘密なのかボズか?」
「そうだ。一つは敵に正体を知られると、狙われやすくなるからだと俺は思う。まぁ……正義、お前はもうバレてしまったけどな」
「う……う~ん……」
正義は頭をポリポリと掻いた。
「それともう一つ、お前は《王に選ばれし民》が現れてすぐに"あの男の子"にまた会ったと言っていたな?」
勇気が言う『あの男の子』、それは正義達に力を与えたという、あの"声だけの男の子"の事だ。脱線していく話の途中で、正義はその男の子と再会した事を話していたのだ。
「あぁ……」
「で、"あの男の子"は、もしかしたら自分が俺達に未来を教えてしまったから《王に選ばれし民》が現れる時間が変わったのかも……そう言っていたのだろ?」
「あぁ……そう言ってた」
正義の返答の声は段々小さくなる。勇気に叱られていると思って、その顔も段々と悲しげになってきた。
「では、考えてみろ。俺達の秘密を知る人が増えれば増える程、この先の未来を察する人が現れる可能性も拡がる。そうなればまた未来が変わってしまうかも知れない。それが良い方向に進むなら良いが、今日の様に悪い方向に進む場合もある……それにだな」
まだ勇気の"釘刺し"は続く。
「未来の科学で作られた物を一介の高校生が持っていると知られてみろ? 自分の欲を満たす事しか考えない奴等が狙ってくるかもしれないぞ……もし、この力をそんな奴等に取られてみろ、どうなる? この力は、核爆弾の様にしてはいけないんだ!」
「………」
「………」
勇気の言い分は正しかった。正義もボッズーもぐうの音も出なかった。
勿論、正義だって勇気の言った事を全く考えていなかった訳ではない。そして、希望を助けた事に1ミリ足りとも後悔はない。
だが、
「そうだな……勇気、お前の言う通りだ。俺はそこまで考えられてなかった。ありがとう、気付かせてくれて。ごめん!!」
正義は勇気に向かって頭を下げた。
「いや、俺に謝ることではない……」
そう言いながら勇気は足を組み、腕を組んだ………が、
「フッ……フハハハハハッ!!」
「え??」
勇気は何故だか突然笑い出した。
「な……なんだよ?」
正義はキョトンとした顔で頭を上げた。
「ハハハハハッ!! いやいや、違うんだ。お前のつむじを見るのも久しぶりだなぁ~~と思ったら、なんだか笑えてきてしまってな!」
「お、俺の……つむじ?なんだよそれ?」
自分のつむじがどうしたのか、正義は全く意味が分からなかった。ピンとも来ない。
「ハハッ! だってお前、あの頃凄い小さかったろ。背の順も一番前だったんじゃないか?あの頃はお前と喋ってるのか、お前のつむじと喋ってるのか分からなくなる時があったぞ! それが今じゃ少しは背が伸びたな! 頭を下げなければ、もうつむじは見えない」
「お……おい! なんだよ、真面目に話してる思ったのによ。それに、俺は一番前じゃない! 二番目だ! なぁ、愛?」
暗く悲しげになっていた正義の顔が再び明るく変わる。
「え? そうだっけ? 一番前じゃなかった?」
「なぁ~~に!! 違うよ、俺は二番目!! 松下くんが一番だったろ!」
「それは三年の一学期だけじゃなかったか?その後はずっと正義が一番だ」
勇気の厳しい顔も完全に消えた。楽しそうに笑ってる。
「いやいや!」
正義は泳ぐクリオネの様に手を振った。
「俺は二番目! つか、俺本人が言ってんだから信じろって!」
「いや……どうだろうな? ちょっと待ってろ。今お前の横に立ってあの頃を思い出してみる」
そう言って勇気は立ち上がり、正義に近付いた。
「いや! 良いって! 来んな! 横に立つな!」
「いや、立たせろ! お前の横に立たせろ」
「なんだよそれ気持ち悪い!」
「アハハハハハハッ!!」
愛が笑った。嫌がる正義に。無理矢理横に立とうとする勇気。
気が合わない様で、気の合う二人、正義と勇気のこんなやり取りが、愛にはとっても懐かしかった。
「ありゃりゃ……真面目な話をしてた筈なのに。急にはしゃぎ出して、子供みたいボズね?」
ボッズーははしゃぐ三人を横目に、テーブルの上を歩き希望に近付いた。
「ワハっ! みんな、仲良しなんだね! でもさぁ、ボッズー。正義さんて小さいの気にしてるんだ? 僕も背小さい方だけど、背の順の一番目ってけっこー好きだよ! 前習え、リーダーっぽくてカッコ良くない?」
「フハッ! 確かに!」
「ねぇ~~! カッコいいよね!」
ボッズーと希望は笑い合った。和やかな空気。4人はほんわかした空気に包まれた。………と、思った矢先。
「痛ェ………イテテテテ」
突然正義が胸を押さえ出した。
「お……おい! どうした?」
遂に勇気は正義の横に立てた……いや、もうそんな事はどうでも良い。それよりも正義が心配だ。
「おい……正義、大丈夫か?」
「あぁ大丈夫……また胸がちょっとだけ痛くなっちまったみたいだ」
そう言って正義はTシャツの襟元を引っ張って自分の胸を覗いた。
「クッソ……なんだよ。まだここの痣、残ってやがる」
「良くなったんじゃなかったの?」
愛も心配で椅子から立ち上がり正義に向かって歩き出した。
「あぁ、ちょっと筋肉痛っぽさはあったけど……あ、ダメだ! 痛ェ……」
「だ……大丈夫かよ」
勇気は少し腰を屈めて正義の腕を取り、自分の肩に正義の腕を回した。
「椅子まで行こう……いや、そうだ、希望くん! 君、さっきの果物がまだあるって言ってたよね? それは何処にあるんだ?」
悶絶する正義を支えながら勇気は希望に聞いた。
「あっ! は……はい!」
正義を心配そうな目で見ていた希望は、勇気に突然話し掛けられて少しビクッとしたが、すぐに椅子から立ち上がると
「えっと……こっちです!」
勇気を手招きして駆け出した。
「イッチィーーー!! クッソぉ……でも、ちょっ、ちょっと治まってきたぜ……」
「いや、無理をするな」
「そうだよ、せっちゃん!」
勇気の反対側に立った愛も、正義の腕を取り自分の肩に回した。
「ありがとな、愛。あぁ~~クソ! 情けねぇ」
「静かにしてろ! さぁ、行くぞ……」
勇気は正義を支えながら歩き出した。
「よいっしょ!!」
それに愛も続く。
「ありがとな、勇気、愛」
「なるほど……それで、お前はこの子を助けた」
「ほいほい!」
「それで、この大木の下へ来た時に《王に選ばれし民》が現れ、避難場所を探している暇は無いと思い、無理矢理この子をこの基地へと避難させた……こういう事だな?」
正義から話を聞いた勇気は、事のあらましを整理をする為に正義へ質問を投げていた。
何故こんな事をしているのか、それは簡単だ。正義の話が脱線しまくったからだ。
「その通り!」
「はぁ……」
勇気は正義の話を聞いているうちに疲れてしまった。本来なら、希望との出会いからこの基地に避難させるまでを説明するのに15分もあれば足りるところを、正義は脱線に脱線を繰り返し、気付けば一時間近くも使っていた。『まぁ、それだけ正義が元気になったって事だろう』と勇気は何度も心の中で呟いていたが、勇気はその軌道を元に戻すのに根気を尽くし、もうクタクタだ。正義が話し終わる頃には怒る気力すら失ってしまっていた。
「はぁ……起きてしまった事を今更言っても仕方がないが、余りにも秘密をバラし過ぎだな……この子に」
勇気は正面に座る正義と話しながら、真横に座る希望の顔をチラリと見た。
「いやぁ……確かにそうなんだけどさ。後から考えても、前から考えてもさ、あの時はああするしかしょうがなかったんだよな!」
正義はあっけらかんとした調子で言う。
「はぁ………」
それを聞いた勇気はまた溜め息を吐いた。
「いや、でもねボズ! 実際正義は、あの時はその場その場の咄嗟の出来事に一生懸命考えて、答えを出したボズよ!! 俺はそれをすぐ傍で見てたボッズー! あの時は本当に、秘密を捨ててでもやるしかなかったんだボッズー!!」
ボッズーは、勇気の顔が『正義がいい加減をした』と言っている様に思えて、黙っている事が出来なかった。
しかし、
「いや、ボッズーそれは分かってるよ。緊急事態だったという事は十分に理解出来た。もし俺が正義の立場だったなら、俺も同じ判断をしたかも知れない」
そして、勇気は再び希望の顔を見る。
「それに……君も黙っていてくれるんだろ?」
さっきまで厳しかった勇気の顔が柔らかい表情に変わる。勇気は思いやりのある奴だ。希望が誘拐されたという事実、そして誘拐犯から受けたであろう心の傷を思うと、希望の明るい口調や振る舞いが健気に思え『この子には優しく接しなければ』という気持ちが知らず知らずに芽生えていたんだ。
そして、勇気に問い掛けられた希望は、
「はい! 僕、絶対に誰にも言いません!」
その目を見ながらニッコリと笑顔を返した。
「そうか……なら、頼むぞ」
その笑顔を見た勇気にも笑顔が浮かぶ。その笑顔は勿論、天使の笑顔だ。そんな天使の笑顔を浮かべながら、勇気は左の人差し指を立てて唇をトントンっと叩いた。『秘密……』という意味だ。
「へへっ! んじゃ、問題は解決ってとこだな!」
そう言って正義が立ち上がろうとすると、
「いや……まだだ」
また勇気の顔が厳しく変わった。
「へぇ??」
「お前に、一言釘を刺しておく……。ボッズーもよく聞いといてくれ。今回のお前達の判断は間違いだとは言わない。だがな……これ以上ルール違反は犯すな。俺達はチームだ。一人の行動が、チーム全体に影響を及ぼす。それと……俺達の力が何故秘密なのかも考えろ」
「何故……秘密なのかボズか?」
「そうだ。一つは敵に正体を知られると、狙われやすくなるからだと俺は思う。まぁ……正義、お前はもうバレてしまったけどな」
「う……う~ん……」
正義は頭をポリポリと掻いた。
「それともう一つ、お前は《王に選ばれし民》が現れてすぐに"あの男の子"にまた会ったと言っていたな?」
勇気が言う『あの男の子』、それは正義達に力を与えたという、あの"声だけの男の子"の事だ。脱線していく話の途中で、正義はその男の子と再会した事を話していたのだ。
「あぁ……」
「で、"あの男の子"は、もしかしたら自分が俺達に未来を教えてしまったから《王に選ばれし民》が現れる時間が変わったのかも……そう言っていたのだろ?」
「あぁ……そう言ってた」
正義の返答の声は段々小さくなる。勇気に叱られていると思って、その顔も段々と悲しげになってきた。
「では、考えてみろ。俺達の秘密を知る人が増えれば増える程、この先の未来を察する人が現れる可能性も拡がる。そうなればまた未来が変わってしまうかも知れない。それが良い方向に進むなら良いが、今日の様に悪い方向に進む場合もある……それにだな」
まだ勇気の"釘刺し"は続く。
「未来の科学で作られた物を一介の高校生が持っていると知られてみろ? 自分の欲を満たす事しか考えない奴等が狙ってくるかもしれないぞ……もし、この力をそんな奴等に取られてみろ、どうなる? この力は、核爆弾の様にしてはいけないんだ!」
「………」
「………」
勇気の言い分は正しかった。正義もボッズーもぐうの音も出なかった。
勿論、正義だって勇気の言った事を全く考えていなかった訳ではない。そして、希望を助けた事に1ミリ足りとも後悔はない。
だが、
「そうだな……勇気、お前の言う通りだ。俺はそこまで考えられてなかった。ありがとう、気付かせてくれて。ごめん!!」
正義は勇気に向かって頭を下げた。
「いや、俺に謝ることではない……」
そう言いながら勇気は足を組み、腕を組んだ………が、
「フッ……フハハハハハッ!!」
「え??」
勇気は何故だか突然笑い出した。
「な……なんだよ?」
正義はキョトンとした顔で頭を上げた。
「ハハハハハッ!! いやいや、違うんだ。お前のつむじを見るのも久しぶりだなぁ~~と思ったら、なんだか笑えてきてしまってな!」
「お、俺の……つむじ?なんだよそれ?」
自分のつむじがどうしたのか、正義は全く意味が分からなかった。ピンとも来ない。
「ハハッ! だってお前、あの頃凄い小さかったろ。背の順も一番前だったんじゃないか?あの頃はお前と喋ってるのか、お前のつむじと喋ってるのか分からなくなる時があったぞ! それが今じゃ少しは背が伸びたな! 頭を下げなければ、もうつむじは見えない」
「お……おい! なんだよ、真面目に話してる思ったのによ。それに、俺は一番前じゃない! 二番目だ! なぁ、愛?」
暗く悲しげになっていた正義の顔が再び明るく変わる。
「え? そうだっけ? 一番前じゃなかった?」
「なぁ~~に!! 違うよ、俺は二番目!! 松下くんが一番だったろ!」
「それは三年の一学期だけじゃなかったか?その後はずっと正義が一番だ」
勇気の厳しい顔も完全に消えた。楽しそうに笑ってる。
「いやいや!」
正義は泳ぐクリオネの様に手を振った。
「俺は二番目! つか、俺本人が言ってんだから信じろって!」
「いや……どうだろうな? ちょっと待ってろ。今お前の横に立ってあの頃を思い出してみる」
そう言って勇気は立ち上がり、正義に近付いた。
「いや! 良いって! 来んな! 横に立つな!」
「いや、立たせろ! お前の横に立たせろ」
「なんだよそれ気持ち悪い!」
「アハハハハハハッ!!」
愛が笑った。嫌がる正義に。無理矢理横に立とうとする勇気。
気が合わない様で、気の合う二人、正義と勇気のこんなやり取りが、愛にはとっても懐かしかった。
「ありゃりゃ……真面目な話をしてた筈なのに。急にはしゃぎ出して、子供みたいボズね?」
ボッズーははしゃぐ三人を横目に、テーブルの上を歩き希望に近付いた。
「ワハっ! みんな、仲良しなんだね! でもさぁ、ボッズー。正義さんて小さいの気にしてるんだ? 僕も背小さい方だけど、背の順の一番目ってけっこー好きだよ! 前習え、リーダーっぽくてカッコ良くない?」
「フハッ! 確かに!」
「ねぇ~~! カッコいいよね!」
ボッズーと希望は笑い合った。和やかな空気。4人はほんわかした空気に包まれた。………と、思った矢先。
「痛ェ………イテテテテ」
突然正義が胸を押さえ出した。
「お……おい! どうした?」
遂に勇気は正義の横に立てた……いや、もうそんな事はどうでも良い。それよりも正義が心配だ。
「おい……正義、大丈夫か?」
「あぁ大丈夫……また胸がちょっとだけ痛くなっちまったみたいだ」
そう言って正義はTシャツの襟元を引っ張って自分の胸を覗いた。
「クッソ……なんだよ。まだここの痣、残ってやがる」
「良くなったんじゃなかったの?」
愛も心配で椅子から立ち上がり正義に向かって歩き出した。
「あぁ、ちょっと筋肉痛っぽさはあったけど……あ、ダメだ! 痛ェ……」
「だ……大丈夫かよ」
勇気は少し腰を屈めて正義の腕を取り、自分の肩に正義の腕を回した。
「椅子まで行こう……いや、そうだ、希望くん! 君、さっきの果物がまだあるって言ってたよね? それは何処にあるんだ?」
悶絶する正義を支えながら勇気は希望に聞いた。
「あっ! は……はい!」
正義を心配そうな目で見ていた希望は、勇気に突然話し掛けられて少しビクッとしたが、すぐに椅子から立ち上がると
「えっと……こっちです!」
勇気を手招きして駆け出した。
「イッチィーーー!! クッソぉ……でも、ちょっ、ちょっと治まってきたぜ……」
「いや、無理をするな」
「そうだよ、せっちゃん!」
勇気の反対側に立った愛も、正義の腕を取り自分の肩に回した。
「ありがとな、愛。あぁ~~クソ! 情けねぇ」
「静かにしてろ! さぁ、行くぞ……」
勇気は正義を支えながら歩き出した。
「よいっしょ!!」
それに愛も続く。
「ありがとな、勇気、愛」