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作者: ビーグル
第1話 大木の中へ 6 ―ゴゴゴゴ……ドスンッ―
 6

「こっちです! こっち!」
 希望は基地の隅っこで立ち止まり、勇気達を手招きした。

 その場所はさっき希望が現れた木のすぐ近く。希望はその木に背中を向けて、基地の中心を見る形で立ち止まった。

「ここ?」
 希望の傍に立った愛が聞いた。

「はい! ここです!」

 と希望は言うが、どう見てもそこはただの平地。

「何かがある様には思えないが、確かにここなのか?」

 勇気の質問に、希望が頷く。

「はい! 見つけたのは凄く偶然なんですけどね。その時、僕そこの木と木の間から正義さんの戦いを見てたんです……」
 希望は後ろに生えるさっき隠れていた木を指差した。

 希望は『木と木の間から正義の戦いを見ていた』と言うが、この基地には壁が無く、壁の代わりに基地内を隠す様に木が生えている。その木々の間に入り込めば外が覗ける様になっているのだ。

「……それで、ピエロが出てきた時に僕驚いちゃって、基地の中に逃げようとしたんです。そしたら、躓いちゃってここに手を着いたんですよ。そしたらね……」

 そこまで話すと、希望は突然足で床をドンッ!と叩いた。

 すると、

 ゴッ……ゴゴゴゴゴゴ……

 希望が叩いた場所のそのすぐ先の床が、何やら揺れ出した。それは限られた範囲、目視で縦30cm、横1mくらい。

 始めは横に揺れていた。

 ゴゴ……ゴゴゴ……

 でも、すぐにその揺れは上下に変わる。

 いや、上には行かない下にだけだ。いや、ならば、これは揺れているのではない、沈んでいるのだ……

 数cm沈んではまた元の位置に戻り、更に深く沈んでは元の位置に戻り……その繰り返し。

 徐々に、徐々に、その深度は増していく。


 そして遂に、


 ドスンッ!!

 と音を立てて、床は完全に沈んだ。
 深さは15cm位。そして、今度は沈んだ場所の向こう側が動き出した。また縦30cm、横1mくらいの幅で。

「な……なんだよこれ??」

 正義が不思議そうにそう言うと、希望が答えた。

「すぐに分かります。ここからは早いんで!」

「早い?」

「そうです!」

 希望の言う通りだった。こっからはさっきのスピードの半分ぐらいの時間しか掛からなかった。

 何の時間か……それは簡単、沈むための時間だ。


 ドスンッ!!


 次に動き出した床が沈んだ。

 今度は深さ30cm。そして今度はその向こう側が動く。またまた同じ幅。そして、そこはすぐに沈んだ、45cm。

 またその向こう側が沈む。今度は60cm。次は75cm。その次は90cm……ドンドン沈む深さが増していく。

「これは……」

 今度は勇気が呟いた。

「これは……階段……」

「そうです!」

 希望が頷く。

「本当だ……隠し階段って事?」
 愛だ。

 そして、更に、更に、一段ずつ増えていく。

「へへっ! さっすが秘密基地って場所なだけあるぜ……面白れぇ! この先にさっきの果物があるのか?」

「ううん、それはもう少し先! 多分、ビックリするよ!」

 含みを持たせた言い方で希望は答えた。

「ビックリ……??」

「はい、勇気さん! きっと勇気さんもビックリする筈です!」
 そう言って希望は自信満々に腕を組んで階段を見下ろした。

「おいおい……勿体振るなよな、希望くん。早く言ってくれ」
 急かす勇気、でも正義は真逆だ。
「へへっ! 良いじゃねぇか勇気、俺はワクワクしてきたぜ! 何だか痛みを忘れられそうだ!」

「忘れられそう? 何を言っているんだ……痛みは痛み、こんな事で忘れられる訳がないだろ」

「へへっ! でもさっきより痛くないぜ!」

「それは、痛みに波があるだけだろ……」

 勇気は『やれやれ……』と言った様子で答えると、正義から視線を外し、再び階段を見下ろした。

 まだまだ階段は出現し続けていく。

 その階段を見る愛が呟く。
「これ……どこまで続くのかな?」

「ふふっ……それはね!!」

 その疑問に希望が答えようとすると……

「うぅっ!!!」

 突然ボッズーが呻いた。

「ん? どうした、ボッズー?」

 正義は後ろを振り向く。ボッズーは正義達四人を見守る様に少し後ろからついて来ていたのだが、今その顔は何故か"こしょばゆそう"な顔をしていた。

「ボ、ボッズー……どうしたんだ? 大丈夫か?」
 勇気が聞くと、

「う……うん大丈夫ボズ!! ちょ……ちょっと……ゾワゾワ……ゾワゾワがぁ!!」
 そう言いながらボッズーは体を震わせた。

「あ……もしかして」
 どうやら正義は気付いた様だ。ボッズーに何が起こっているのかを。

「ハッ!!!」
 全身をブルブルと二、三回震わせたかと思うと、ボッズーは突然『ハッ!!!』と何かを"思い出した顔"をした。そして、"思い出した顔"をしたかと思うと、突然ピューンと飛んで希望のもとへ。
「ちょっと良いボズか?」
 そう言って希望の肩に止まる。その顔はもう真剣な表情になっている。

「どうしたの、ボッズー?」
 希望もボッズーの挙動に驚いて問い掛けた。

「希望、この階段、次で終わりだろボッズー?」

「えっ!! なんで? なんで分かったの??」

 希望が驚くと……


 ドスンッ!!


 何度目かの床が沈む音が聞こえた。

 しかし、その後に続く床の揺れが始まらない。

「うぇ? 止まった……のか??」

「そうだボズよ、正義。これで最後ボズ」

 希望の肩に止まりながらボッズーは、正義、勇気、愛の三人に振り向いた。

 そして……

「これからこの階段を降りるボズ。この先には扉がある。そうでしょ? 希望?」

「う……うん。なんで分かるの?」

「へへっ! それは秘密ボズ!」
 ボッズーは人差し指を上げて希望に向かって『シーッ』と形を作った。
「勇気と愛の二人には後で訳を話すからなボズ。正義、お前は分かるよな?」

「え……? あぁ、勿論!! へへへっ!!」
 ボッズーと過ごす時間の長かった正義にはピンっと来ていた。ボッズーが"分かった"事が。
「んで、この先には何があるんだよ?」

 そう問い掛けられたボッズーは、
「それはだなぁボズ……この先には《願いの木》があるボズよ!」
『ふふふん』と笑いながらそう答えた。

「願いの木?」

「なんだそれ?」

「また、木があるのか?」

 肩を並べた正義達三人は、愛、正義、勇気の順でドミノ倒しの様に首を傾げた。
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