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作者: ビーグル
第1話 大木の中へ 4 ―魔法の果物―
 4

 それは少年の声だった。まだ声変わりもしていない幼い少年の声。
「「だ……誰?」」
 勇気と愛は声を合わせながら少年の声が聞こえた基地の隅っこを見た。
 すると、壁の代わりに生えた木と木の間から小学生くらいの男の子が顔を出していた。

「僕、小野寺おのでら希望のぞむって言います! こんにちわ!」

「お……おのでら?」

「のぞむ……君?」

 二人は戸惑いを隠せなかった。だってここは秘密基地。『自分達以外は誰も居てはならない場所』……の筈だから。

「そうです! のぞむって呼んでください! 宜しくお願いします!」

 そう言うとその少年……というか、希望のぞむは木の間から抜け出して、ダダダダッ!っと足音鳴らして中央の切り株のテーブルに近付いた。

「ボッズー、ちょっと良い? ヨイショ!」

 そう言うと希望はテーブルの上に乗っ掛かり、正義の口にプラムくらいの大きさのリンゴに似た赤い何かを放り込んだ。

「おいっ! 希望、急に何するんだボズ!」

 ボッズーは希望の突然の行動に驚いた。

「お……おい、何なんだよ」

 希望を知らない勇気は、その存在自体に驚く。

 そして、愛は

「せっちゃん……」

 別の事に驚いていた。

「せっちゃん……食べてる!!」

 そうだ、正義はリンゴに似た何かを寝ながらにしてムニャムニャと食べ始めた。

「ワハっ!」
 それを見た希望は、瞳をキラキラと輝かせて笑った。
「さすが正義さん! この果物が魔法の果物くだものだって分かってるんだね!」

「え? 何だボズ?? 魔法の果物???」

「そうだよ! 今、正義さんにあげたのは魔法の果物!!」

「魔法……」
 今度聞き返したのは勇気だ。

「そうです! ほら、ボッズーなら分かるよね?僕の顔を見てよ! ここに切り傷あったでしょ? それがほら、もう無いよ!」
 希望は自分の額を指差した。確かに、そこに斜めに走っていた3cm程の傷が跡形もなく無くなっている。
「この果物を食べたらすぐに無くなっちゃったんだぁ! スッゴいでしょ? だから多分正義さんもすぐに良くなると思うよ!」
 そして、その傷だけじゃない。希望にあった他の傷も痣も全部無くなっていた。

「おい……ボッズー、本当なのか? この子の傷……」

「う、うん……本当に無くなってるボズよ」
 ボッズーの瞳は驚きでまんまると大きくなっている。ゆで卵みたいに。

「マジかよ…………信じ難いが……」
 そんなボッズーの顔と返答に、勇気の顔も驚きで満ちた。
「じゃ……じゃあ……これが、ボッズーが言っていた『病院よりももっと良い場所』って言葉の意味って事か……」

 そんな勇気の質問にボッズーは、
「そ、そうボズ! これがそうボズ!!」
 まるで最初から全て知っていたかの様な振る舞い。

「え?? でも、さっきボッズー驚いてなかった?」

 これは愛の指摘だ。流石、女性だ。鋭い。

「え! いやいや、そんな事ないボズよぉ~~!! へへへへへへへへっ!!」

「えぇ~~本当?」
 ボッズーが笑って誤魔化しても、愛の訝しそうな顔は消えない。

「あ……いやぁ……」
 ボッズーの頭からは冷や汗がタラリと垂れた。

 でも、
「ま、どっちでも良いっか! せっちゃんが良くなるなら!」
 カラッとした調子で愛はすぐに切り替えた。だって正義を癒す方法が本当にこの基地にあったのなら、愛にとっては何も問題は無い。
 そして、
「あ、そうだ! 希望くんって言ったよねぇ~~?」
 ニコリと笑顔を浮かべながら、愛はテーブルを回って希望に近付いた。
「ありがとね、教えてくれて! 私、桃井愛ヨロシクね!」
 愛はそう言いながら希望に手を差し出した。握手だ。

「あ、はい! ヨロシクです!」
 愛の手を取った希望の顔にはニッコリとした笑顔が浮かぶ。

「ねぇ、この果物ってまだあるのかな?」
 愛は腰を屈ませ、目線を希望と同じ高さまで下げながら優しい口調で問い掛けた。

「うん! ありますよ! えっとね、あっちにいっぱい……」

 質問を受けた希望が、愛の手を取ったまま愛を何処かへ連れて行こうとすると……

「いや、ちょっと待ってくれるか」

 少し厳しい口調。歩き出そうとした希望の前に勇気が立ち塞がった。

「桃井……俺はまだこの子が何者なのか知らない。教えてくれるか、ボッズー。ここは俺達以外は入ってはならない場所だ。そうだろう? なのに、何故この子はここにいる?」

 希望を厳しい目で見詰めながら、勇気はボッズーを問い詰めた。

「あぁ~っと、それはボズねぇ……」


「へへっ! それなら、俺が答えるぜ!」


「え………?」

 勇気は声の聞こえた方向を見た。正義が眠るテーブルがある方だ。

「へへっ! おはようさん!」

 すると、テーブルの上にはニカッとした笑顔を勇気に向けた正義が胡座をかいて座っていた。
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