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作者: ビーグル
第1話 大木の中へ 3 ―大木の中へ―
 3

「なにこれぇ~~~!!!」

「お……おぉ……」

 愛と勇気は叫んだ。

 低層階から高層階へ一気に上がるエレベーターに乗った事があるだろうか?その経験がある人には分かる。愛と勇気は体が浮き上がっていく"あの感覚"を味わっているんだ。
 それもそのはず、愛と勇気は大木の中に隠されていたエレベーターに乗っているのだから。
 そう、文字盤を当てて大木に現れる扉の向こうはエレベーターになっていたんだ。でも、普通のエレベーターの様に灯りは無い。真っ暗で狭い空間。だから愛も勇気もエレベーターに乗っているとは分からずに、大分混乱していた。

「ボ……ボッズー、これは……一体何が起こっているんだ」

 しかし、それもほんの数秒。ものの数秒もすると、チーンッ! という音と共にエレベーターは止まった。

「ん? 止まった……」

 そして、愛が出現させた扉とは反対側に、また別の扉が現れる。
 その扉もまたひとりでに開く。今度はそれこそエレベーターの自動ドアの様に横にスライドする形で。

「え………」

「何これ……」

 開いた扉の先からは煌々とした明かりが差し込まれる。その明かりに誘われ、二人は扉の方に振り向いた。

「ようこそ! これが《英雄たちの秘密基地》だボッズーよ!!」

 ふわふわと浮遊するボッズーはそう言いながら"秘密基地"の中へと入っていった。

「英雄たちの……秘密基地?」

 勇気の方はボッズーの言葉を繰り返しながら、基地に足を踏み入れた。この時勇気は、いや愛も、暗闇からの反動で煌々とした明かりにまだ適応出来ずにいて、瞼をしばたたせていたからまだ基地の中を見れずにいた。

「あ………」

 だが、そんな勇気でも基地に足を踏み入れた瞬間、暖かい空気を感じた。
 エレベーターの中は外の気温とさほど変わらずで寒かったのだが、ここは違う。しかも暖房機器の暖かさとは違う、春の優しい日差しの様な自然な暖かさだ。

「え!! ちょっと待って! ちょっと待って! なにこれっ!! スゴい、スゴい!!」

 愛は扉からすぐの所で立ち止まった勇気の脇を通って、扉から数歩先まで進むと、瞳を輝かせ基地の天井を見上げた。愛は若い。すぐに基地の中の明るさに慣れていた。

「ほらほら、勇気くん見て!」

 愛は『自分が驚いた物を勇気にも見せたい』と思って、天井を指差した。

「ん? ……えっ!!」

 勇気は驚いた。だって、愛は天井を指差した筈なのに、その指の先には天井が無かったのだから。あるのは空、朝から続く快晴の空が、変わらず勇気達を見守っていた。

「ねぇ、スゴくない? 開放的じゃない?」

「あ……あぁ……いや、それよりボッズー、なんだよこれ……雨が降ったらどうする?」

 しかし、勇気の口から真っ先に飛び出たのはネガティブな言葉。

「えぇ~~!! 屋上庭園みたいじゃん! いいじゃん! いいじゃん!」

 でも愛は逆だ。ただ幼い子供の様にキラキラと瞳を輝かせている。

「ふへへへっ! 勇気ぃ~~! 心配するなよボッズー!」

 ボッズーはヘラヘラと笑った。そして、そのまま、すぅ~~! っと空に向かって飛んでいった。

「ほらほら、見てみてぇ~~!」

 ボッズーは3m……4m……5mと上がっていった。そして、コツンっ! ボッズーの頭が何かにぶつかった。

「痛てててぇ~~! へへへっ! どう驚いたぁ? 実はこの秘密基地にはバリヤーが張ってあるですボッズー!! だからぁ~雨が降ろうが、雪が降ろうが、槍が降ろうが、大丈夫なんだボッズーよぉ!! なんてったってここは秘密基地だからな!敵の攻撃も防げるモンじゃないとねボッズー!」

 まるで自分の事のようにボッズーは自慢気に話した。
 しかし、ボッズーの笑顔とは正反対に勇気の顔は未だ渋いままだ。

「はぁ……成る程。バリヤー……バリヤーねぇ。そんなのが……あるのか」

 納得する様な言葉を返してみたが、勇気はボッズーが言う『バリヤー』が明らかにSF映画やアニメ等に登場するモノを言っていると考え、『そんな非科学的な空想的なモノが目の前にあるなんて……』とすぐに受け入れる事が出来なかった。

 ― まぁ、この基地自体が元々非科学的か……。というか、ボッズーもだ。いや、今日起こった事全てがそうか。それに、俺達の英雄としての力も全て。まぁ……そうか、今更戸惑う事自体が馬鹿だな……

 そう勇気は心の中で呟くと、

 ― 切り替えよう。これから俺達の周りで起こる事は全て現実だ。今までの常識は全て捨てなければ。受け入れよう……受け入れなければ……

「ん? 勇気、渋い顔だなボズ? どうしたんだボッズー?」 

「え……? あぁ……なんでもないよ。それにしても、基地と言うからもっと無機質で物騒な感じだと思っていたが、なんだか少し意外だな」

 勇気は基地内をグルグルと見回した。

「うん。なんか森の中にいるみたい!」

 愛も勇気の感想に同意する。

 約150平米程の広さの基地の中には、天井と同じく、じつをいうと壁もない。
何本も生えた3mくらいの大きな木が壁の代わりに周囲をグルリと囲み、基地内を隠してくれているのだ。
 だから、愛が言う様に『森の中にいるみたい』だった。因みに基地内は四角くもない。大木の中なのだから、丸い。円形だ。

「でも、私気付いちゃった事があるんだ!」

 そう言いながら愛は、基地を囲む木の内の一本に近付いてそっと手で触れてみた。

「ほらぁ、やっぱそうだ! これ、本物の木じゃないでしょ!」

「お! 気付いたかボッズー!」

「うん! だって大木の中にまた別の木が生えてるなんて変だし、それに……」

 愛は足元を爪先でコンコンっと叩いた。

「土が無いもん。フローリング? ちょっと違うね、何だろこれ? でも、こんな床から木が生える訳ないでしょ! だから気付いちゃった!」

「なるほどね! 流石英雄だボッズー! 洞察力が素晴らしいボズね!」

 褒めるボッズーに、愛は手を振って否定した。

「ちょっとボッズー、おだてないで! そんな褒める事じゃないよ! ほら、勇気くんが馬鹿にした顔で見てるし……」

「え……? なんだそれは? そんな顔はしてないぞ……」

「うそ! めっちゃしてる!」

「いや……してないって」

 本当だ。勇気はしてない。冤罪だ。全くの冤罪だ。勇気はただ、自分もある事に気が付いたからソレをボッズーに話したくてニヤニヤしていただけだ。

「はぁ……」

 勇気は溜め息を吐くと『訂正するのはメンドクサイ』と言う様に、別の話題に切り替えた。

「そんな事はどうでも良い! それよりも、コイツはフローリングじゃないな。もっと自然な感じだ。ボッズー、コレ……年輪だろ?もしかして俺達は巨大な切り株の上にでも居るのか?」

 勇気は同心円状の床面の模様を見てその事に気が付いた。そしてソレを話したかったんだ……

「ほほほ! 勇気も洞察力が鋭いボズね! その通り、ご名答!! 流石だボズ! へへっ……ここはね、輝ヶ丘の大木の一番天辺なんだボズよ!! ………ヨイショ!」

 ボッズーは勇気を褒め称えながら、基地の中央にあるテーブルの上にちょこんっと降り立った。

「まだまだこの《英雄たちの秘密基地》には秘密がいっぱいあるボズよ! さぁ勇気、正義をここに寝かせるボズ。そろそろ腕が疲れてきたでしょボッズー!」

「いやいや……まだ疲れちゃいないよ。それにしても、これもまた大きな切り株だな。目には入っていたが、これは何だ? ただのテーブルにしては少しデカイぞ」

 基地の中央にあるテーブル、それはそれこそ切り株の形をしていた。

「ふふふふん! さぁさぁ、いいから正義をここに寝かせるだボズよ!」

「フッ……あぁ、分かったよ……」

 勇気はボッズーに促されるまま正義を切り株のテーブルの上に降ろした。

「……それにしても、良く寝る奴だ」

「えぇ~~! そういう事言う? あんなに頑張ったんだもん。疲れてるよ。いっぱい寝かせてあげようよ!」

 愛は優しい眼差しで、眠る正義を見下ろした。

「あぁ、分かってるよ。そうだな……寝たいだけ寝かせといてやるか。ん……? あぁ、そうだ。ボッズー、お前この秘密基地に入る前に、ここは『病院よりももっと良い場所』って言ったよな? って事は、正義の体を癒せる何かがここにはあるって事だろ?早く何かしてあげてくれないか?」

 勇気の期待はその眼差しに溢れていた。『ボッズー、さぁ君は何をしてくれるのだ?』という期待が……

 でも、

「………」

 ボッズーは無言にしかなれなかった。

 ボッズーは困った。ボッズーはこの基地内にさえ入れば、何かしら"分かる"と踏んでいた。でも実際は違った。未だにどうすれば正義を癒してあげられるのかが"分かっていない"。

「どうしたの? ボッズー?」

 突然のボッズーのだんまりに、当然愛も問い掛けてきた。
 そりゃそうだ、今までのボッズーの言動を聞いてればこの基地に関しての事をボッズーは何でも知ってると思って当然。それにボッズーは正義の体を癒す方法も全て分かってる風に言っていた。それなのに、まさか『分からない』という回答が待っていようなんて一ミリたりとも思う筈がなかった。

「ご……ごめんボズ。あのねぇ……」

 そうボッズーが小さな声で告白しようとした瞬間、何処かからか声がした。

「それなら僕が教えてあげる!!」

「「え?!」」

 勇気と愛、二人の声が重なった。

 そして、もう一回。

「「だ……誰?」」
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