第3話 空が割れた日 8 ―終わってねぇよ!!―
8
「終わってねぇよ!! 勝手に終わらせんな!!」
弱音を吐いた勇気の耳に、突然溌剌とした勇ましい声が飛び込んできた。
「勇気!! 愛!! 聞こえてっか!! 聞こえてたら返事しろ!!」
その声は二人の名を呼んだ。
「え……」
勇気はその声を聞くと起き上がり、声の出所を探った。
それは愛も同じく。
「うそ……」
彼女は驚いた顔を浮かべて辺りを見回した。
「あ、アレ? 聞こえてないのか? もうどうなってんだ、コレ?! ……なぁ、コレってゴーグルの右端に映ってる腕時計が光ってたら、ソイツの腕時計が起動してるって事なんだろ? う~ん……ちゃんと"青"と"ピンク"の腕時計が光ってんだけどなぁ……なぁ、ボッズー! 俺、間違ってないよな?」
「うっさいなぁ!! ちょっとは静かにしろボッズー!! 俺は全速前進で飛んでんだボッズー!! さっき向こうの声が聞こえたろ、だったら向こうにもこっちの声は聞こえてるボッズーよ!!」
轟音と目映い光に遭遇し、空が割れる瞬間を見た者は誰もが脳裏に『死、破壊、滅亡……』などという絶望の言葉を思い浮かべていた。
しかし、それに反するように何処かから聞こえてくる二つの声はガヤガヤと騒がしい。
そして、何故だろう。
その声を聞いた勇気の瞳には再び希望の光が灯っていた。
「は……はは……ははは……来たか……来てくれたか……」
溌剌とした声を聞いた瞬間、勇気の心を染めようとしていた漆黒の闇は清流に流される様に消えていき、勇気の目頭には熱いものが込み上げてきた。人は悲しみに出会った時、涙を流す。でも、その逆でも流れるものなんだ。
でも、勇気は急いで目頭を拭った。『"アイツ"に涙は見られたくない……』そんな照れを覚えるくらいに、勇気の心に希望が戻ってきていたんだ。
そして、それは愛も同じくだった。
「勇気くん!! この声って!!」
萎縮震慄の驚異に凍っていた愛の顔にも、希望の花が咲いている。
「あぁ、言っただろ? アイツは必ず帰ってくるって……」
「うん! ちょっと声変わりして印象違うけど、間違いないね!」
どうやら、二人はもうこの声の主が誰なのか分かった様子だ。それに、その声の出所も。
だから、勇気と愛は左腕にはめた腕時計を見た。
「「あっ!」」
二人は同時に驚いた。だって、いつの間にか腕時計の文字盤はパカリと開いて、その中から半透明の赤い球体が飛び出していたんだから。
その球体を見た瞬間、勇気はニコリと笑った。
「久し振りだな……お前はその姿に成れたのか。戦うための姿に!」
姿……
そう、この球体は球体じゃない。
文字盤から飛び出した立体映像では、人の首から上しか映さないから、パッと見、球体にも見えてしまうが、勇気も愛も腕時計を持っているんだ。そんな勘違いはしない。立体映像で映るソレが何なのかすぐに分かった。
ソレは仮面だ。
顔だけじゃなく、頭全体も覆う真っ赤な仮面だ。目元には、目付き鋭く尖った大きなゴーグルが付いている。そのゴーグルの下には口元を覆った銀色のマスクがキラリと光る。
「へへっ! その声は!!」
勇気が腕時計に向かって話し掛けると、この赤い仮面はピクリと動いた。
「勇気! 勇気だよな!! うわぁ~~ひッッさし振りだな!! 元気してたか?? ………って違う違う! 今はお喋りしてる場合じゃねぇんだ! 勇気、愛、この通信が届いたなら話は早い、敵は俺達を待ってはくれなかった! 戦いは始まったんだ! お前らも来いッ!!」
「来いって、そっちは何処にいるの? 大木?」
今度は愛が話し掛けた。
「大木? いや、違ぇよ! 空の上さ!!」
赤い仮面はそう答えると、また「へへっ!」と笑った。
「んじゃ、待ってるぜッ!!」
赤い仮面はそう言い残すと、通信を切ったのだろう。立体映像は腕時計の中へと消えて、文字盤は勢い良く閉じた。
「お……おい! 空って……」
勇気は少し戸惑いながら空を見上げた。
その時、
「ん?」
二人の上空を何かが高速で通り過ぎた。
「あ……うわっ!!」
「キャッ!!」
その"何か"が通り過ぎる時に巻き起こった強風が、二人の髪をかき上げ、服を捲る。
その強風は勿論、町の住民達にも吹き、紅の穴や穴から現れた光体を見ていた人々もその存在に気付いた。
そして、誰かが言った。
「鳥だ!」
と、しかし他の誰かがこう言った。
「赤い流星だ!」
と。しかし、そのどちらとも違う。だが、どちらも正しくもある。何故なら、上空を通り過ぎた何者かは、大きな翼を持ち、真っ赤な体をしていたからだ。
そして、その"大きな翼を持つ赤い流星"は勇気達の真上を通り過ぎると、空に開いた紅の穴に向かって一直線に飛んで行った。
「そういう事か……」
勇気はその姿を見ると、納得した様子でコクリと頷き、飛んで行く流星を見詰めたまま勢い良く立ち上がった。
「行こう、桃井。アイツは諦めちゃいない! 俺達も諦めるにはまだ早いぞ!!」
「そうみたいだね!」
愛も凛々しい顔で立ち上がる。
「よし……まずは俺達も力を手に入れなくてはな。大木へ行くぞ! 大木へ行けば、俺達も力を掴む事が出来るかもしれない!」
勇気の顔には再び精悍さが戻っていた。"恐怖"によって絶望の淵に立たされようとしていた勇気の心は、"彼"によって希望を夢見る世界へと引き戻されたのだ。
「………フッ」
そして、勇気は天使の笑顔を浮かべると、もう一度空を振り返り、"彼"の姿を見た。
この世界を共に守ると誓い合った、親愛なる友の姿を。
「相変わらず騒がしい奴だ。でも、流石だ。一番最初に飛び出すなんて、お前らしいよ。だが、待っていろ……俺もすぐに追い付く。そして……」
勇気は照れくさそうに笑った。
「待ってたぞ………正義!!」
「終わってねぇよ!! 勝手に終わらせんな!!」
弱音を吐いた勇気の耳に、突然溌剌とした勇ましい声が飛び込んできた。
「勇気!! 愛!! 聞こえてっか!! 聞こえてたら返事しろ!!」
その声は二人の名を呼んだ。
「え……」
勇気はその声を聞くと起き上がり、声の出所を探った。
それは愛も同じく。
「うそ……」
彼女は驚いた顔を浮かべて辺りを見回した。
「あ、アレ? 聞こえてないのか? もうどうなってんだ、コレ?! ……なぁ、コレってゴーグルの右端に映ってる腕時計が光ってたら、ソイツの腕時計が起動してるって事なんだろ? う~ん……ちゃんと"青"と"ピンク"の腕時計が光ってんだけどなぁ……なぁ、ボッズー! 俺、間違ってないよな?」
「うっさいなぁ!! ちょっとは静かにしろボッズー!! 俺は全速前進で飛んでんだボッズー!! さっき向こうの声が聞こえたろ、だったら向こうにもこっちの声は聞こえてるボッズーよ!!」
轟音と目映い光に遭遇し、空が割れる瞬間を見た者は誰もが脳裏に『死、破壊、滅亡……』などという絶望の言葉を思い浮かべていた。
しかし、それに反するように何処かから聞こえてくる二つの声はガヤガヤと騒がしい。
そして、何故だろう。
その声を聞いた勇気の瞳には再び希望の光が灯っていた。
「は……はは……ははは……来たか……来てくれたか……」
溌剌とした声を聞いた瞬間、勇気の心を染めようとしていた漆黒の闇は清流に流される様に消えていき、勇気の目頭には熱いものが込み上げてきた。人は悲しみに出会った時、涙を流す。でも、その逆でも流れるものなんだ。
でも、勇気は急いで目頭を拭った。『"アイツ"に涙は見られたくない……』そんな照れを覚えるくらいに、勇気の心に希望が戻ってきていたんだ。
そして、それは愛も同じくだった。
「勇気くん!! この声って!!」
萎縮震慄の驚異に凍っていた愛の顔にも、希望の花が咲いている。
「あぁ、言っただろ? アイツは必ず帰ってくるって……」
「うん! ちょっと声変わりして印象違うけど、間違いないね!」
どうやら、二人はもうこの声の主が誰なのか分かった様子だ。それに、その声の出所も。
だから、勇気と愛は左腕にはめた腕時計を見た。
「「あっ!」」
二人は同時に驚いた。だって、いつの間にか腕時計の文字盤はパカリと開いて、その中から半透明の赤い球体が飛び出していたんだから。
その球体を見た瞬間、勇気はニコリと笑った。
「久し振りだな……お前はその姿に成れたのか。戦うための姿に!」
姿……
そう、この球体は球体じゃない。
文字盤から飛び出した立体映像では、人の首から上しか映さないから、パッと見、球体にも見えてしまうが、勇気も愛も腕時計を持っているんだ。そんな勘違いはしない。立体映像で映るソレが何なのかすぐに分かった。
ソレは仮面だ。
顔だけじゃなく、頭全体も覆う真っ赤な仮面だ。目元には、目付き鋭く尖った大きなゴーグルが付いている。そのゴーグルの下には口元を覆った銀色のマスクがキラリと光る。
「へへっ! その声は!!」
勇気が腕時計に向かって話し掛けると、この赤い仮面はピクリと動いた。
「勇気! 勇気だよな!! うわぁ~~ひッッさし振りだな!! 元気してたか?? ………って違う違う! 今はお喋りしてる場合じゃねぇんだ! 勇気、愛、この通信が届いたなら話は早い、敵は俺達を待ってはくれなかった! 戦いは始まったんだ! お前らも来いッ!!」
「来いって、そっちは何処にいるの? 大木?」
今度は愛が話し掛けた。
「大木? いや、違ぇよ! 空の上さ!!」
赤い仮面はそう答えると、また「へへっ!」と笑った。
「んじゃ、待ってるぜッ!!」
赤い仮面はそう言い残すと、通信を切ったのだろう。立体映像は腕時計の中へと消えて、文字盤は勢い良く閉じた。
「お……おい! 空って……」
勇気は少し戸惑いながら空を見上げた。
その時、
「ん?」
二人の上空を何かが高速で通り過ぎた。
「あ……うわっ!!」
「キャッ!!」
その"何か"が通り過ぎる時に巻き起こった強風が、二人の髪をかき上げ、服を捲る。
その強風は勿論、町の住民達にも吹き、紅の穴や穴から現れた光体を見ていた人々もその存在に気付いた。
そして、誰かが言った。
「鳥だ!」
と、しかし他の誰かがこう言った。
「赤い流星だ!」
と。しかし、そのどちらとも違う。だが、どちらも正しくもある。何故なら、上空を通り過ぎた何者かは、大きな翼を持ち、真っ赤な体をしていたからだ。
そして、その"大きな翼を持つ赤い流星"は勇気達の真上を通り過ぎると、空に開いた紅の穴に向かって一直線に飛んで行った。
「そういう事か……」
勇気はその姿を見ると、納得した様子でコクリと頷き、飛んで行く流星を見詰めたまま勢い良く立ち上がった。
「行こう、桃井。アイツは諦めちゃいない! 俺達も諦めるにはまだ早いぞ!!」
「そうみたいだね!」
愛も凛々しい顔で立ち上がる。
「よし……まずは俺達も力を手に入れなくてはな。大木へ行くぞ! 大木へ行けば、俺達も力を掴む事が出来るかもしれない!」
勇気の顔には再び精悍さが戻っていた。"恐怖"によって絶望の淵に立たされようとしていた勇気の心は、"彼"によって希望を夢見る世界へと引き戻されたのだ。
「………フッ」
そして、勇気は天使の笑顔を浮かべると、もう一度空を振り返り、"彼"の姿を見た。
この世界を共に守ると誓い合った、親愛なる友の姿を。
「相変わらず騒がしい奴だ。でも、流石だ。一番最初に飛び出すなんて、お前らしいよ。だが、待っていろ……俺もすぐに追い付く。そして……」
勇気は照れくさそうに笑った。
「待ってたぞ………正義!!」