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作者: ビーグル
第2話 絶望を希望に変えろ!! 22 ―俺の名前は―
 22

「ほいっと!」

 少年は草原に足が着くと、男の子を抱き締めたその手を離した。

「うわ~! 暖か~い!」

 男の子の足をふかふかに生い茂った草が包み込む。まるで羽毛の様なその柔らかさと暖かさに感動した男の子の頬は自然と緩んだ。

 そして、それは少年も同じく。

「へへっ! あったけぇなぁ! 俺はなこの草っぱの上だったら何時間でも寝てられるぜ!」

「おいおい、そんなの自慢にならないぞボッズー!」

「へへっ! 良いじゃん良いじゃん……おっと!」

 少年がタマゴのツッコミを笑っていなしていると、草原に吹く風が三人を歓迎するようにその頬に触れた。

「くうぅ~~ッ! 良い匂いだぁ~!」

 少年は両手を大きく広げて、深呼吸をする様に草原に吹く風の匂いを嗅いだ。

「そうだなぁボッズぅ~!」

「うん! 優しい匂い! 僕、ここに吹く風も、風が運んでくる匂いも、全部が全部大好きなんだ!」

 男の子はそう言いながら目を瞑って風にそよがれる草花の様に体を左右に揺らした。

「へへっ! 分かるぜ! 俺もだ!」

「俺もボッズー!」

 男の子の言葉に少年とタマゴが同意をすると、男の子は目を半分開いて後ろに立つ少年に顔を傾けた。
「ねぇねぇ、さっきからお兄ちゃん達、ここの事知ってる感じだけど、もしかしてお兄ちゃん達もここに来た事あるの?」 

 男の子に問い掛けられた少年の顔はニカッと笑った。

「あぁ、もしかしても何も昔はここでよく遊んだもんだぜ!」

「えっ! 本当に?」

「あぁ、本当さ! 俺が君くらいの歳の頃かな?へへっ! それにしても、懐かしいなぁ! 懐かしいけど、何にも変わっちゃいない!」
 少年はそう言うと草原の先に立つ大きな大きな木を見上げた。
「へへっ!! 帰ってきたぜ! 久しぶり!! また、ヨロシクなっ!!」

 少年はそう木に呼び掛けた。

 少年の目の前に立つ木はそれはそれは大きい。空から見ても大きいのだから地上からだとより大きい。そんじゃそこらのビルには負けない程に。
 胴体から伸びる枝たちも勿論大きい。一本一本が普通の木と同じくらいの太さを持っているだろう。
 枝から生える葉っぱは、枝に止まりに来る鳥や虫たちを優しく包み込む様に生え、その色はとても色濃く、とてもとても生命力にあふれている。
 地面から少し顔を出した木の全体を支える太い太い根っこは、象の足に似ていて力強い。

 これが男の子が言っていた《輝ヶ丘の大木》だ。

 大木が立つその場所は町に面した高台で、輝ヶ丘に住む住民達からは『町を見守る守護神のようだ』と言われ親しまれていて、逆にその巨大さから町のどの場所からでも大木を見る事が出来る。
輝ヶ丘を象徴する存在と言っても過言ではないだろう。

「へへっ! 相変わらずデッケェ~!!」
 少年は関心する様な声でそう言うと、大木に向かって歩き始めた。

 男の子とタマゴも少年と一緒に大木に近付く。

「はぁ~~~」
 男の子は大木の足下まで来ると、ため息の様な声を漏らしながら、まるで大木に吸い寄せられるかの様に大きな大きな幹の斜めに滑ったその"足"に抱きついた。

 大の字になって抱きついた男の子は、大木の巨体と比べると実際よりももっともっと小さく見える。

「君もこの木が好きなんだボッズーね!」
 タマゴはスッーと飛んで、男の子の頭のすぐ近くに止まった。

「うん……」
 男の子は目を瞑って、まるで大木から溢れるエネルギーを感じている感じ。それは端から見ると母親の胸で眠る赤子の様だ。
「こうやって耳を寄せるとね、聞こえる気がするんだ。大木の声が……ふふ、変な事言ってると思ったでしょ?でもね、本当なの。ふふ……照れちゃうけど、うん、君の言う通りだよ。僕はこの木が大好き……」

 男の子は目を瞑りながらタマゴに言った。

「いや、変だなんてそんな事無いぜ! へへっ! 大木の声かぁ……なんか分かる気がする。それに、俺たちもコイツが大好き!! なぁ……《ボッズー》?」
 男の子の真横に来た少年がそう言った。

 少年は男の子の頭をポンっと触ると、大木に背中を向ける形で腰掛けた。

「ボッズー? それって、もしかして……」
 男の子は片目を開けてタマゴを見た。

 タマゴも男の子を見ていた。
「うん! ハハッ! 俺のことだボッズー! 俺の名前は《ボッズー》! ヨロシクだボッズー!」

 タマゴはフワッと浮かぶと、寝返りをうつように回転して少年と同じ様に大木に背中をつけて止まった。

 そんなタマゴを見ながら、男の子は両目を開いてニコッと笑った。
「ボッズーってそのままだね! 僕の名前はノゾム! 希望って書いて希望のぞむ!」

 すると、

希望のぞむかぁ……めっちゃ良い名前だな! へへっ! じゃあ次は俺の番だな!」
 少年はまたニカッとした笑顔を男の子……いや、希望のぞむに向けた。

「俺の名前は正義せいぎ赤井正義あかいせいぎだ! ヨロシクな!」
 少年はそう言うと、希望の頭をクシャクシャっと撫でた。




 その時だ………




 この穏やかな時間を壊すように雷鳴に似た轟音が鳴り響いたのは。



「え………」



 この日の事を人類は忘れはしない、


 戦いの始まりを告げる轟く鐘が鳴り、



 目映き光が空を割ったこの日の事を………


 正義の英雄と、悪に選ばれし王の戦いが始まったこの日の事を………




第2話『絶望を希望に変えろ!!』 完
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