第2話 絶望を希望に変えろ!! 21 ―輝ヶ丘の大木へ―
21
少年と男の子とタマゴは、快晴の暖かい太陽の光を浴びながら風を切って飛んでいた。
その真下には木々が広がっている。《輝ヶ丘の大木》に向かって山の上を飛んでいるからだ。
「輝ヶ丘の大木が思い出の場所だボズか?」
「うん! 小1までは、お父さんとお母さんがよく遊びに連れて行ってくれたんだ! 輝ヶ丘の大木に!」
タマゴの飛行は安定している。いつしか三人は談笑を楽しんでいた。
「へぇ~! そうなんだ! あそこ良いよな! 君のお父さんとお母さんは見る目がある!」
「おいおい、見る目があるって何だその言い方……失礼だボズよ!」
少年のドヤ顔は背後にいるタマゴにも伝わったんだろう。タマゴはくちばしを少年の頭にチョンっと当てて、少年に注意をした。
「おっとっと……そう?そう聞こえた?ごめん、ごめん」
「ワハハッ!」
でも、男の子の方は少年の言葉を何とも思っていない様子。
「ううん! 見る目があるのは本当だよ。スッゴい楽しかったもん。だからさ、たまに行きたくなるの。でも今日は失敗……」
「失敗? 何で?」
「だって、その前に誘拐されちゃったから! ワハハッ!」
「おいおい、ソレ、笑うところじゃないだろう?」
「え~! だって、笑ってないとやってらんないじゃん! でも、良いんだ! あの人達にはこの後警察にぎゅ~って首締めてもらうから!」
男の子は歯を剥き出しのふざけた顔をした。
「ハハッ! 君、意外とポジティブだボッズーね!」
タマゴがそう言うと、
「ふふ、友達とかおじさんやおばさんにもよくそう言われる! 僕の長所はポジティブで明るい所だって! スゴいでしょ!」
男の子は『えっへん!』と腰に手を当てた。
「へへっ! 確かにポジティブだな! 俺、そういうの良いと思うぜ!」
「そ……そう? ははっ!」
男の子は少年に褒められると頬を染めた。でも、少年からはその顔は見えない。
「はぁ~! でもさ、警察に行くのちょっと緊張してきたなぁ……」
「え? なんで?」
「だってさ、知らない大人の人たちに囲まれて話しとかしなきゃいけないんでしょ? ヤダなぁ……」
「へへっ! それは大丈夫だよ! そん時は、お父さんかお母さんが一緒の筈だからさ! 安心しな!」
「お父さんか、お母さんが……?」
「あぁ!」
「ふーん……じゃあ、やっぱり僕一人か。僕のお父さんとお母さん死んでるからさ」
「え………」
男の子の思わぬ言葉に少年は絶句した。
「小1の時に交通事故で二人一緒に死んじゃったんだ。だから今僕はおじさんとおばさんと一緒に住んでるの」
しかし、絶句する少年とは反対に、男の子はあっけらかんとした調子で続けた。
「だったら、おじさんかおばさんが一緒に行ってくれる筈だボズよ。ねぇ?」
無神経だからか、それとも敢えて驚きを見せない様にしようとしたのか、タマゴは普通に会話を続けた。
だが、少年の方はタマゴからの問いにすぐに答える事が出来なかった。
― だからか……
少年は心の中で呟いていた。
― 『行きたくなる……』ってそういう事か……
「………。」
「おい!」
少年が押し黙っていると、
「おい! 返事しろ!」
タマゴがくちばしで少年の頭をツンっと突いた。
「うわっ!! と……あ、あぁ、そうだな。おじさんかおばさんが一緒だよ。だから大丈夫!!」
「う~ん……おじさんかおばさんがねぇ……」
少年とタマゴが勇気付けようとしても、男の子の顔はまだ浮かない。
「何だ? ダメなのか? おじさんかおばさんじゃ? もしかして、苛められてるとか……」
と少年は嫌な想像が浮かんで、眉間に皺を寄せた。
しかし、
「ううん、それは違う」
男の子は少年の発言を否定した。
「全然仲良いよ。たださ、子供ながらに気を使うんだ。二人共いつも優しいけど、いつもやり過ぎるんだもん。多分、僕が誘拐された事を知ったら今晩はステーキとケーキを用意すると思うよ。二人共、お父さんとお母さんの代わりになろうってし過ぎるんだ。僕を大事にしようとし過ぎるんだよ……だから、僕は逆に気を使っちゃう。もっと普通で良いのに。二人の事大好きだしさ」
「好きなら良いじゃない、やり過ぎちゃうのはおじさんとおばさんの優しさだボッズーよ!」
「うん……それは分かってるよ。はぁ……でも、やっぱり憂鬱は憂鬱だよね。警察に行くのも、今夜の夕飯も。やっぱり誘拐なんかされなきゃ良かった。おじさんとおばさん騒ぐだろうなぁ……」
と男の子はため息を吐いた。でも、
「あっ!!」
次の瞬間には突然明るい声になった。その理由は簡単だ。
「見て見て! 大木が見えてきたよ!!」
そう、男の子が連れていってほしいと頼んだ《輝ヶ丘の大木》が見えてきたからだ。
「ほら、ほら!!」
男の子は前方に向かって指を差した。
「ん? お~~ッ!!」
少年の目にもソレは映る。
「うわぁ! ひっさびさだなぁ!!」
「僕、空から見るなんて初めてだよ! やっぱり他の木と違って全然大きいね!」
「あぁ、空から見てもめっちゃ目立つ! 他の木に全然隠れてねぇわ!!」
少年達の真下に広がる木々と比べても、男の子が指差したその木は、頭一つ、二つ、三つ………否、それ以上に大きくて、『大木』の"大"の文字だけでは足りない。"巨"の文字が足りない。『巨大木』という言葉が相応しい。
「近くなってきたなぁ!」
男の子が大木を指差してから暫くすると、少年達の真下の木々の広がりは無くなってきて、代わりに草原が広がり始めた。
「そろそろ降ろすかボッズー?」
草原が見えるとタマゴはそう言った。
「そうだな! 良いか? 下ろしても?」
「うん!」
「OK! じゃあ下ろすぞボッズー!」
タマゴはゆっくりと飛ぶ速度を緩め、三人はゆらゆらとパラシュートで降りていく様に草原へと降り立った。
少年と男の子とタマゴは、快晴の暖かい太陽の光を浴びながら風を切って飛んでいた。
その真下には木々が広がっている。《輝ヶ丘の大木》に向かって山の上を飛んでいるからだ。
「輝ヶ丘の大木が思い出の場所だボズか?」
「うん! 小1までは、お父さんとお母さんがよく遊びに連れて行ってくれたんだ! 輝ヶ丘の大木に!」
タマゴの飛行は安定している。いつしか三人は談笑を楽しんでいた。
「へぇ~! そうなんだ! あそこ良いよな! 君のお父さんとお母さんは見る目がある!」
「おいおい、見る目があるって何だその言い方……失礼だボズよ!」
少年のドヤ顔は背後にいるタマゴにも伝わったんだろう。タマゴはくちばしを少年の頭にチョンっと当てて、少年に注意をした。
「おっとっと……そう?そう聞こえた?ごめん、ごめん」
「ワハハッ!」
でも、男の子の方は少年の言葉を何とも思っていない様子。
「ううん! 見る目があるのは本当だよ。スッゴい楽しかったもん。だからさ、たまに行きたくなるの。でも今日は失敗……」
「失敗? 何で?」
「だって、その前に誘拐されちゃったから! ワハハッ!」
「おいおい、ソレ、笑うところじゃないだろう?」
「え~! だって、笑ってないとやってらんないじゃん! でも、良いんだ! あの人達にはこの後警察にぎゅ~って首締めてもらうから!」
男の子は歯を剥き出しのふざけた顔をした。
「ハハッ! 君、意外とポジティブだボッズーね!」
タマゴがそう言うと、
「ふふ、友達とかおじさんやおばさんにもよくそう言われる! 僕の長所はポジティブで明るい所だって! スゴいでしょ!」
男の子は『えっへん!』と腰に手を当てた。
「へへっ! 確かにポジティブだな! 俺、そういうの良いと思うぜ!」
「そ……そう? ははっ!」
男の子は少年に褒められると頬を染めた。でも、少年からはその顔は見えない。
「はぁ~! でもさ、警察に行くのちょっと緊張してきたなぁ……」
「え? なんで?」
「だってさ、知らない大人の人たちに囲まれて話しとかしなきゃいけないんでしょ? ヤダなぁ……」
「へへっ! それは大丈夫だよ! そん時は、お父さんかお母さんが一緒の筈だからさ! 安心しな!」
「お父さんか、お母さんが……?」
「あぁ!」
「ふーん……じゃあ、やっぱり僕一人か。僕のお父さんとお母さん死んでるからさ」
「え………」
男の子の思わぬ言葉に少年は絶句した。
「小1の時に交通事故で二人一緒に死んじゃったんだ。だから今僕はおじさんとおばさんと一緒に住んでるの」
しかし、絶句する少年とは反対に、男の子はあっけらかんとした調子で続けた。
「だったら、おじさんかおばさんが一緒に行ってくれる筈だボズよ。ねぇ?」
無神経だからか、それとも敢えて驚きを見せない様にしようとしたのか、タマゴは普通に会話を続けた。
だが、少年の方はタマゴからの問いにすぐに答える事が出来なかった。
― だからか……
少年は心の中で呟いていた。
― 『行きたくなる……』ってそういう事か……
「………。」
「おい!」
少年が押し黙っていると、
「おい! 返事しろ!」
タマゴがくちばしで少年の頭をツンっと突いた。
「うわっ!! と……あ、あぁ、そうだな。おじさんかおばさんが一緒だよ。だから大丈夫!!」
「う~ん……おじさんかおばさんがねぇ……」
少年とタマゴが勇気付けようとしても、男の子の顔はまだ浮かない。
「何だ? ダメなのか? おじさんかおばさんじゃ? もしかして、苛められてるとか……」
と少年は嫌な想像が浮かんで、眉間に皺を寄せた。
しかし、
「ううん、それは違う」
男の子は少年の発言を否定した。
「全然仲良いよ。たださ、子供ながらに気を使うんだ。二人共いつも優しいけど、いつもやり過ぎるんだもん。多分、僕が誘拐された事を知ったら今晩はステーキとケーキを用意すると思うよ。二人共、お父さんとお母さんの代わりになろうってし過ぎるんだ。僕を大事にしようとし過ぎるんだよ……だから、僕は逆に気を使っちゃう。もっと普通で良いのに。二人の事大好きだしさ」
「好きなら良いじゃない、やり過ぎちゃうのはおじさんとおばさんの優しさだボッズーよ!」
「うん……それは分かってるよ。はぁ……でも、やっぱり憂鬱は憂鬱だよね。警察に行くのも、今夜の夕飯も。やっぱり誘拐なんかされなきゃ良かった。おじさんとおばさん騒ぐだろうなぁ……」
と男の子はため息を吐いた。でも、
「あっ!!」
次の瞬間には突然明るい声になった。その理由は簡単だ。
「見て見て! 大木が見えてきたよ!!」
そう、男の子が連れていってほしいと頼んだ《輝ヶ丘の大木》が見えてきたからだ。
「ほら、ほら!!」
男の子は前方に向かって指を差した。
「ん? お~~ッ!!」
少年の目にもソレは映る。
「うわぁ! ひっさびさだなぁ!!」
「僕、空から見るなんて初めてだよ! やっぱり他の木と違って全然大きいね!」
「あぁ、空から見てもめっちゃ目立つ! 他の木に全然隠れてねぇわ!!」
少年達の真下に広がる木々と比べても、男の子が指差したその木は、頭一つ、二つ、三つ………否、それ以上に大きくて、『大木』の"大"の文字だけでは足りない。"巨"の文字が足りない。『巨大木』という言葉が相応しい。
「近くなってきたなぁ!」
男の子が大木を指差してから暫くすると、少年達の真下の木々の広がりは無くなってきて、代わりに草原が広がり始めた。
「そろそろ降ろすかボッズー?」
草原が見えるとタマゴはそう言った。
「そうだな! 良いか? 下ろしても?」
「うん!」
「OK! じゃあ下ろすぞボッズー!」
タマゴはゆっくりと飛ぶ速度を緩め、三人はゆらゆらとパラシュートで降りていく様に草原へと降り立った。