第2話 絶望を希望に変えろ!! 10 ―絶望を希望に変えろ!!―
10
目に飛び込んできたその姿はあまりにも痛ましかった。
年齢は小学3年か4年生くらいだろうか、その年頃に見える男の子が手足を縛られ、床に力無く横たわっていた。
目隠しもされていて、猿轡にしていたのだろうか、口元には白いタオルが落ちている。
耳を澄ますと「すぅ……すぅ……」と呼吸が聞こえた。確実に生きている。それだけは救いだった。
「この子に……何をしたんだ……」
少年の口から自然と溢れ出た言葉。
少年には妹がいた、その妹とそう変わらない年齢のこの子が何故こんな目に合わなきゃならないのか……そう考えると、少年の手はわなわなと震え出した。
『何故、この子がこんな酷いめを、痛い思いをしなければならないのか……』
何故?何故?何故?何故?疑問が止まらず、タマゴにどんなに止められても、怒りが沸き上がってきそうになる。
叫び出しそうになる自分を抑えようと、少年は拳を握り締め、唇を噛み締めた。
目を瞑って、大きく息を吸う。そして吐き出す。目を瞑ったまま、もう一度大きく息を吸う……
少年は瞑想をする様に、心に刻み込んだタマゴの言葉を、自分の言葉にしてもう一度自分自身に言い聞かせ始めた。
― 怒りよりも、優しさや勇気、未来を夢見る心、そして愛。その心を大切にしろ。その心が、俺の正義になる。その心が俺の正義を強くする。正義を暴走させず、怒りを制して、絶望を希望に変えるんだ。あの子の絶望を、正義の心で希望に変えるんだ……
少年は息を吐き出しながらゆっくりと目を開いた。
開いたその目には再び炎が宿っていた……
暗く淀んだ色の、怒りに燃える炎ではない、真っ赤に燃える正義の炎が。
― まだまだ修業が足りないな……俺はすぐにカッとなっちまう。この子を助けるのに必要なのは、あの三人への怒りじゃない。この子を想う、優しさと、愛だ……
少年は握った拳を開いた。
男の子に近付いて、しゃがみこみ、その肩にそっと触れる。
少年が触れた瞬間、ビクッと男の子が体を震わせた。
「そうだよな……怖かったよな。大丈夫。俺は味方だ。安心して。君を助けにきたんだ……遅くなってごめん」
少年は触れた時と同じ様に、男の子の肩からそっと手を離すと、男の子の目隠しをゆっくりと外した。
目隠しが外れると、男の子の目蓋がピクピクと動く。久しぶりの光なのだろう、電球一つのほんのりと薄暗いこの部屋の明かりでさえとても眩しそうだ。
暫くすると、男の子の目がゆっくりと開いた。
少年は男の子と目が合うと、
「へへっ!」
ニカッと笑った。
少年の笑顔とは反対に、男の子の顔はまだ恐怖に満ちている。まだ少年の言葉が信じられないのだろう。
そんな男の子に少年はもう一度「へへっ!」と笑いかけると、立ち上がって男の子の後ろへ回り込み
「よっと……ごめんな。こりゃかなり固く縛ってんなぁ……ちょっと痛いかも、なるべく優しくやるけど、ちょっと我慢してな」
手足を縛った縄をほどきにかかった。
男の子を縛る縄はかなりきつく結ばれていて、目隠しの様に簡単に外す事は不可能だった。
ー どうしようか?
と、少年が縄の結び目を探っていると、
「かっ……かはっ……」
突然、男の子が咳き込んだ。
「おっ……おい、大丈夫か?」
少年が驚いて聞くと、男の子は苦しい顔をしながらもコクリコクリと頷いた。
少年は縄をほどく手を一旦止めた。男の子の背中を擦ってあげる事にしたんだ。
優しくゆっくりゆっくり擦ってあげていると、次第に男の子の咳は治まってきた。
「喉、乾いちまったか? ちょっと待ってな、すぐに助けるからな。したら、旨いジュースでも奢ってあげっから」
少年が励ます様に男の子に喋りかけると、男の子は少年に向けて顔を傾けた。
男の子は何かを言いたそうに口をパクパクと動かす。
「え? どうした?」
少年が聞き返すと、男の子は絞り出す様な声で言った。
「本当に………本当に、味方?」
久しぶりに言葉を発したのだろう、男の子の声は痰が絡まる感じで少しガラついていた。でも、その表情からは恐怖は消え、今は"ただ驚いている"そんな風に見える。
少年は男の子が喋った事に驚きそうになったが、それをすぐに笑顔が打ち消した。驚きよりも嬉しいという感情の方が勝ったんだ。
そして、優しさを込めた目で男の子を見詰めると少年は
「そうだよ。味方だ!」
力強く頷いた。
少年の笑顔に励まされたのか、男の子の表情が和らいだ。薄っすらと目元が綻んでいる様にも見える。
その顔を見た少年は、パンッ!と手を叩いた。
「ヨシッ!」
少年は何かを決意した様子。
「へへっ……ヨッシャ! 早く脱出しちゃおうぜ! こんな所、いつまでも居たって仕方ねぇからな!」
少年はまたニカッと笑った。
そして、男の子に
「ちょっと前を向いててくれないか?」
とお願いをすると、勢いよく立ち上がった。
「すぐにその縄、取ってやるからな!」
そして、腕時計を手のひらでポンっと叩いた。
ほんのりと薄暗いオレンジ色の明かりの中に、目映い白い光が輝いた。
目に飛び込んできたその姿はあまりにも痛ましかった。
年齢は小学3年か4年生くらいだろうか、その年頃に見える男の子が手足を縛られ、床に力無く横たわっていた。
目隠しもされていて、猿轡にしていたのだろうか、口元には白いタオルが落ちている。
耳を澄ますと「すぅ……すぅ……」と呼吸が聞こえた。確実に生きている。それだけは救いだった。
「この子に……何をしたんだ……」
少年の口から自然と溢れ出た言葉。
少年には妹がいた、その妹とそう変わらない年齢のこの子が何故こんな目に合わなきゃならないのか……そう考えると、少年の手はわなわなと震え出した。
『何故、この子がこんな酷いめを、痛い思いをしなければならないのか……』
何故?何故?何故?何故?疑問が止まらず、タマゴにどんなに止められても、怒りが沸き上がってきそうになる。
叫び出しそうになる自分を抑えようと、少年は拳を握り締め、唇を噛み締めた。
目を瞑って、大きく息を吸う。そして吐き出す。目を瞑ったまま、もう一度大きく息を吸う……
少年は瞑想をする様に、心に刻み込んだタマゴの言葉を、自分の言葉にしてもう一度自分自身に言い聞かせ始めた。
― 怒りよりも、優しさや勇気、未来を夢見る心、そして愛。その心を大切にしろ。その心が、俺の正義になる。その心が俺の正義を強くする。正義を暴走させず、怒りを制して、絶望を希望に変えるんだ。あの子の絶望を、正義の心で希望に変えるんだ……
少年は息を吐き出しながらゆっくりと目を開いた。
開いたその目には再び炎が宿っていた……
暗く淀んだ色の、怒りに燃える炎ではない、真っ赤に燃える正義の炎が。
― まだまだ修業が足りないな……俺はすぐにカッとなっちまう。この子を助けるのに必要なのは、あの三人への怒りじゃない。この子を想う、優しさと、愛だ……
少年は握った拳を開いた。
男の子に近付いて、しゃがみこみ、その肩にそっと触れる。
少年が触れた瞬間、ビクッと男の子が体を震わせた。
「そうだよな……怖かったよな。大丈夫。俺は味方だ。安心して。君を助けにきたんだ……遅くなってごめん」
少年は触れた時と同じ様に、男の子の肩からそっと手を離すと、男の子の目隠しをゆっくりと外した。
目隠しが外れると、男の子の目蓋がピクピクと動く。久しぶりの光なのだろう、電球一つのほんのりと薄暗いこの部屋の明かりでさえとても眩しそうだ。
暫くすると、男の子の目がゆっくりと開いた。
少年は男の子と目が合うと、
「へへっ!」
ニカッと笑った。
少年の笑顔とは反対に、男の子の顔はまだ恐怖に満ちている。まだ少年の言葉が信じられないのだろう。
そんな男の子に少年はもう一度「へへっ!」と笑いかけると、立ち上がって男の子の後ろへ回り込み
「よっと……ごめんな。こりゃかなり固く縛ってんなぁ……ちょっと痛いかも、なるべく優しくやるけど、ちょっと我慢してな」
手足を縛った縄をほどきにかかった。
男の子を縛る縄はかなりきつく結ばれていて、目隠しの様に簡単に外す事は不可能だった。
ー どうしようか?
と、少年が縄の結び目を探っていると、
「かっ……かはっ……」
突然、男の子が咳き込んだ。
「おっ……おい、大丈夫か?」
少年が驚いて聞くと、男の子は苦しい顔をしながらもコクリコクリと頷いた。
少年は縄をほどく手を一旦止めた。男の子の背中を擦ってあげる事にしたんだ。
優しくゆっくりゆっくり擦ってあげていると、次第に男の子の咳は治まってきた。
「喉、乾いちまったか? ちょっと待ってな、すぐに助けるからな。したら、旨いジュースでも奢ってあげっから」
少年が励ます様に男の子に喋りかけると、男の子は少年に向けて顔を傾けた。
男の子は何かを言いたそうに口をパクパクと動かす。
「え? どうした?」
少年が聞き返すと、男の子は絞り出す様な声で言った。
「本当に………本当に、味方?」
久しぶりに言葉を発したのだろう、男の子の声は痰が絡まる感じで少しガラついていた。でも、その表情からは恐怖は消え、今は"ただ驚いている"そんな風に見える。
少年は男の子が喋った事に驚きそうになったが、それをすぐに笑顔が打ち消した。驚きよりも嬉しいという感情の方が勝ったんだ。
そして、優しさを込めた目で男の子を見詰めると少年は
「そうだよ。味方だ!」
力強く頷いた。
少年の笑顔に励まされたのか、男の子の表情が和らいだ。薄っすらと目元が綻んでいる様にも見える。
その顔を見た少年は、パンッ!と手を叩いた。
「ヨシッ!」
少年は何かを決意した様子。
「へへっ……ヨッシャ! 早く脱出しちゃおうぜ! こんな所、いつまでも居たって仕方ねぇからな!」
少年はまたニカッと笑った。
そして、男の子に
「ちょっと前を向いててくれないか?」
とお願いをすると、勢いよく立ち上がった。
「すぐにその縄、取ってやるからな!」
そして、腕時計を手のひらでポンっと叩いた。
ほんのりと薄暗いオレンジ色の明かりの中に、目映い白い光が輝いた。