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作者: ビーグル
第2話 絶望を希望に変えろ!! 9 ―土足厳禁―
 9

 部屋の中に入るとモワッとしたカビくさい臭いが漂っていた。

 明かりは点いている。入り口から見て右側にリーダー格の男が居た部屋があるのだろう、そちらから弱々しくはあるが暖色系のオレンジ色をした明かりが入り口の前までを照らしている。
 入り口のすぐ目の前は玄関の様になっていて、左側には木製の古びた下駄箱が壁にくっつける形で置いてあった。

 正面の壁には掲示板が。これも木製なんだろうが、木の茶色は失われてもう真っ黒だ。
 そこには手書きの注意書きが何枚か掲示されていた。黄ばんだ色が年数を感じさせる。その注意書きの一枚に『休憩室には靴を脱いで上がること!!』と書かれていた。

 どうやらこの部屋は工場の活動時には休憩室として使われていた部屋だったみたいだ。
 明かりの灯る部屋がソレだろう。
 そっちの方は入り口のすぐ脇の壁がせり出ていて玄関を上がらないと見ることは出来ない。
 少年は注意書きを無視してそのまま玄関を上がった。靴なんか脱いでる暇はないのだ。

 そして、明かりの灯る部屋を覗き込んだ。
 扉は無くて、すぐにその部屋の全体を見渡す事が出来た。長方形の部屋。少年がいる位置から縦に長い。
 部屋の中央には電球がぶら下がっていて、 その電球の下、部屋の中心部には長テーブルとそれを囲むようにパイプ椅子が六脚並んでいる。
 部屋はそんなには広くない、椅子と壁までの距離は大人が二人やっと通れるくらい。扉はどこにも無いからこの部屋以外の部屋は無い様だ。

 テーブルの左奥には食べかけのカップ麺が一つ。そのカップ麺が視界に入った瞬間に、少年の鼻を香ばしい匂いがくすぐった。状況に似合わず腹の虫が鳴き出しそうになるのを、少年は腹を擦って静めると部屋の中に足を踏み入れた。

 古いフローリングの床がギシギシと軋む。
 少年は腕時計のりゅうずを押した。すると、さっきタマゴが送ってきた写真が飛び出てきた。

「あっちか……」
 少年は静かに呟いた。

 腕時計から顔を上げた少年が見る先は、部屋の右奥。写真を見るとリーダー格の男が居る場所の斜め向かいに子供がいる。
 少年が今居る場所から考えると、部屋の右奥がそこだ。
 部屋の入り口はその場所から対角線上の左の角にあるから、テーブルが邪魔をしていて少年がいる入り口近くからでは子供の姿はまだ確認出来ない。

 少年は腕時計のりゅうずをもう一度押して写真をしまうと、ゴクリと生唾を飲み込み、部屋の右側へ回り込もうと歩を進めた。

 再び床がギシリと軋む。その時……

「うぅ……」

 か細い呻き声が聞こえた……

 咄嗟に少年は、
ー 生きてる……
 そう思った。思ったと同時に少年は、またそんな当たり前の事に安堵する自分に悔しさを覚えた。

 少年の心に、再び焦りと怒りが沸き立つ。
 この感情は静めねばならない。タマゴからの教えだ。少年は二つの負の感情を拭い去る様に、額にかいた汗を拭った。

 早足になって、長テーブルを回り込み部屋の右側へと進む。テーブルの角を曲がる時、急ぎ過ぎて上手く曲がれずパイプ椅子の背に少年は手の甲をぶつけてしまった。
 痛いと言うには軽すぎる衝撃と、椅子が鳴らしたガチンッという音に気を取られた少年が、再び顔を上げた時、彼の目に子供の姿が映った……
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