第16話 ハルト、相談を受ける
この世界に来てから、僕は二人目の相談に乗っていた。人から相談を持ち掛けられがちな性分は、前世からそのまま持ってきてしまっているようだ。僕も僕で、人に頼られているという実感を得て少し気分が浮き立つ。
「ここなら、話ができそうですね」
「はい」
(……といけない。人の悩みを聞くのに浮かれてちゃ駄目だよね)
学園の敷地は広く、一周すれば授業が一つ終わってしまうほどである。敷地の隅のほうにあるベンチには人がほとんど来ないため、相談にはうってつけだった。
「それで、相談というのは……?」
「その……最近、男の人に話しかけられることが多くて」
「あぁ、そ、そういう……」
「あ、その! 私にはその気は無いですよ!」
「え!? そ、そうなんですね」
リリアが謎の念を押してくるが、僕にはどういう意味なのかが分からなかった。それにしても男に言い寄られやすいという事は、リリアはやはり男たちから異性として注目を浴びているのだろう。
「まあ、リリアさん綺麗だからなぁ……」
「……えっ!? ハルト君、今なんと?」
「あ、い、今のは聞かなかった事にしてくださいっ」
「は、はい……今確かに綺麗って……」
思ったことが口に出てしまい、慌てて訂正する。リリアが顔を赤くしている辺り聞かなかったことになっていなかったような気がするが、無視して話を進めることにした。
「ええと、リリアさんとしてはあまり言い寄られてほしくないって事ですよね?」
「そうですね。元々あまり目立ちたくないと言いますか……」
「ああ、その気持ちはよくわかります」
「やはり、ハルト君はわかってくれますか!」
「は、はいっ」
(や、やっぱり距離が近い気がする……)
急に顔を近づけられる事が何度目かは数えていないけれど、刺激が強すぎてまだまだ心臓に悪い。おかげで鼓動は早くなりっぱなしである。
思考を相談のほうに移して、ゲームではどうしていたかを思い出してみる。リリアのこの悩みは、本来シリウスと一緒に解決するイベントだ。シリウスと行動を共にする時間を増やすことで、他の男が言い寄れないようにする。
けれど最初はそういう目的で一緒にいたのだが、いつの間にか一緒にいる事が当たり前になっていく……という展開になるのである。それならば、あまり直接は言わずにこの方向で動くように促せば良い。
「そうですね……信頼できる男性が常に隣にいたりすれば、他の男たちは近づきづらくなるとかはどうですか?」
「なるほど……それなら効果があるかもしれませんね」
「例えばシリウス兄さんとか。あの人が隣にいたら誰も寄り付かなくなりそうだし、効果は覿面だと思いますけど」
「……」
一瞬、リリアが僕の少し上を見て眉をしかめたような気がした。そして首を横に振って改めて僕の目を見つめてくる。その行動の意図はわからないが、考える間も無く僕の両手が彼女の両手に包み込まれた。
「では、ハルト君が隣にいてください!」
「えっ」
「信頼できる男の人であれば、私にとって貴方が適任です!」
「……!」
(また……彼女はヒーロー達じゃなくて、僕を選んだ)
「で、でも……僕は中等部だし、常に一緒にいられるわけじゃ」
「……駄目、でしょうか?」
「駄目じゃ……ないです」
「決まりですね! 私がハルト君のいる中等部へ行くようにしますので安心してください!」
そろそろ授業が始まるから、とこの話はここで終わりになった。悩みが解決したリリアはご機嫌で歩いていくが、僕はまたベンチから立ち上がれずにいた。次の授業には間に合いそうにないけれどそれどころじゃない。気分が舞い上がって戻ってこない。
初めて、明確に僕を選んでくれる人がいる。前世でも感じることの無かった初めての経験。
(僕なんかが……彼女にとっての『代わりのいない存在』になれたりするんだろうか?)
最上級の望みが、僕の中に生まれたのを感じたのだった。
「ここなら、話ができそうですね」
「はい」
(……といけない。人の悩みを聞くのに浮かれてちゃ駄目だよね)
学園の敷地は広く、一周すれば授業が一つ終わってしまうほどである。敷地の隅のほうにあるベンチには人がほとんど来ないため、相談にはうってつけだった。
「それで、相談というのは……?」
「その……最近、男の人に話しかけられることが多くて」
「あぁ、そ、そういう……」
「あ、その! 私にはその気は無いですよ!」
「え!? そ、そうなんですね」
リリアが謎の念を押してくるが、僕にはどういう意味なのかが分からなかった。それにしても男に言い寄られやすいという事は、リリアはやはり男たちから異性として注目を浴びているのだろう。
「まあ、リリアさん綺麗だからなぁ……」
「……えっ!? ハルト君、今なんと?」
「あ、い、今のは聞かなかった事にしてくださいっ」
「は、はい……今確かに綺麗って……」
思ったことが口に出てしまい、慌てて訂正する。リリアが顔を赤くしている辺り聞かなかったことになっていなかったような気がするが、無視して話を進めることにした。
「ええと、リリアさんとしてはあまり言い寄られてほしくないって事ですよね?」
「そうですね。元々あまり目立ちたくないと言いますか……」
「ああ、その気持ちはよくわかります」
「やはり、ハルト君はわかってくれますか!」
「は、はいっ」
(や、やっぱり距離が近い気がする……)
急に顔を近づけられる事が何度目かは数えていないけれど、刺激が強すぎてまだまだ心臓に悪い。おかげで鼓動は早くなりっぱなしである。
思考を相談のほうに移して、ゲームではどうしていたかを思い出してみる。リリアのこの悩みは、本来シリウスと一緒に解決するイベントだ。シリウスと行動を共にする時間を増やすことで、他の男が言い寄れないようにする。
けれど最初はそういう目的で一緒にいたのだが、いつの間にか一緒にいる事が当たり前になっていく……という展開になるのである。それならば、あまり直接は言わずにこの方向で動くように促せば良い。
「そうですね……信頼できる男性が常に隣にいたりすれば、他の男たちは近づきづらくなるとかはどうですか?」
「なるほど……それなら効果があるかもしれませんね」
「例えばシリウス兄さんとか。あの人が隣にいたら誰も寄り付かなくなりそうだし、効果は覿面だと思いますけど」
「……」
一瞬、リリアが僕の少し上を見て眉をしかめたような気がした。そして首を横に振って改めて僕の目を見つめてくる。その行動の意図はわからないが、考える間も無く僕の両手が彼女の両手に包み込まれた。
「では、ハルト君が隣にいてください!」
「えっ」
「信頼できる男の人であれば、私にとって貴方が適任です!」
「……!」
(また……彼女はヒーロー達じゃなくて、僕を選んだ)
「で、でも……僕は中等部だし、常に一緒にいられるわけじゃ」
「……駄目、でしょうか?」
「駄目じゃ……ないです」
「決まりですね! 私がハルト君のいる中等部へ行くようにしますので安心してください!」
そろそろ授業が始まるから、とこの話はここで終わりになった。悩みが解決したリリアはご機嫌で歩いていくが、僕はまたベンチから立ち上がれずにいた。次の授業には間に合いそうにないけれどそれどころじゃない。気分が舞い上がって戻ってこない。
初めて、明確に僕を選んでくれる人がいる。前世でも感じることの無かった初めての経験。
(僕なんかが……彼女にとっての『代わりのいない存在』になれたりするんだろうか?)
最上級の望みが、僕の中に生まれたのを感じたのだった。