第5話 入学式、開始
「わぁ……間近で見ると本当に豪華だな……」
僕は今、幾多の装飾によって彩られた学園内で立ち尽くしていた。
プリ庭における最初の大きなイベントである入学式が始まろうとしていた。新入生と在校生の全員が余裕で収まるとんでもなく広いホールに集まり、交流を深める事が目的だ。これから学友となる皆が友達作りや憧れの人と対面したりと、生徒達は皆目を輝かせながら交友関係を広げている。主人公リリアはこのイベント内で、関係を進めたいヒーローを三人の内から選択することになる。
(まさか僕自身がここへ来ることになるとは思わなかったけど……うぅ、肩身が狭い)
前世では庶民的な暮らしだった僕にとってはハルトの日常は全て非日常に感じてしまう。今朝も朝食を急いで食べ終えた後に自分で食器を片付けようとした所を使用人達に慌てて止められてしまった。この生活に慣れるのにも練習が必要そうだ。
(今着てる白いスーツ一体いくらするんだろう……着るのがこれっきりとかありえないよ)
新品のパリッとしたスーツを汚さない様に行動をするというプレッシャーに押し潰されてしまいそうになる。値段は怖くて聞けなかったものの、内側の肌触りの良さから全然知識の無い僕でも高級であることはわかる。
「それでは、在校生代表の挨拶です」
「あっ、シリウス様だ!」
「全員静粛に!今うるさくしたら重罪だぞ!」
(あなたが一番うるさいけど……)
会場の後方でシリウスの熱狂的なファンが高ぶっていた。高貴な学園の中にもああいう人はいるんだな、と知ってほんの少しだけ強張っていた体の力を抜くことができた。
カツ……カツ……カツ……。
シリウス兄さんが壇上に上がる足音がよく響く。先程までの喧騒は凪の様に収まっていた。広間にいる全員が視線を彼に向けて襟を正す。
「新入生諸君、我々在校生一同は皆の入学を歓迎している」
低く透き通る声が響き渡る。堂々とした姿は彼が学生である事を忘れる程に大人びていて、さながら国王の様に思えた。
(本当にハルトと一歳しか違わないんだよね……?)
同じ家系に生まれたにも関わらず、僕と兄さんの立ち位置はあまりにも差が開いている。壇上で羨望の眼差しを一手に受ける兄と、在校生に埋もれる僕では、比べることすら烏滸がましい。かつてのハルトがずっと抱き続けていた兄へのやっかみが、だんだん諦めに変わっていくのを感じた。
挨拶が終わり、壇上には会場全員からの拍手がシリウスに送られる。僕も周囲に合わせて控えめに拍手を送っておく。皆が羨望の眼差しを向けている光景を見て、僕はハッとする。
(ああいうのが、『代わりのいない存在』ってことなのかな)
誰にでも出来ることしか出来ない僕なんかとは、まるで住む世界が違う。同じ世界に来たというのに、僕の居場所は切り離されたままな気分に苛まれていた。
僕は今、幾多の装飾によって彩られた学園内で立ち尽くしていた。
プリ庭における最初の大きなイベントである入学式が始まろうとしていた。新入生と在校生の全員が余裕で収まるとんでもなく広いホールに集まり、交流を深める事が目的だ。これから学友となる皆が友達作りや憧れの人と対面したりと、生徒達は皆目を輝かせながら交友関係を広げている。主人公リリアはこのイベント内で、関係を進めたいヒーローを三人の内から選択することになる。
(まさか僕自身がここへ来ることになるとは思わなかったけど……うぅ、肩身が狭い)
前世では庶民的な暮らしだった僕にとってはハルトの日常は全て非日常に感じてしまう。今朝も朝食を急いで食べ終えた後に自分で食器を片付けようとした所を使用人達に慌てて止められてしまった。この生活に慣れるのにも練習が必要そうだ。
(今着てる白いスーツ一体いくらするんだろう……着るのがこれっきりとかありえないよ)
新品のパリッとしたスーツを汚さない様に行動をするというプレッシャーに押し潰されてしまいそうになる。値段は怖くて聞けなかったものの、内側の肌触りの良さから全然知識の無い僕でも高級であることはわかる。
「それでは、在校生代表の挨拶です」
「あっ、シリウス様だ!」
「全員静粛に!今うるさくしたら重罪だぞ!」
(あなたが一番うるさいけど……)
会場の後方でシリウスの熱狂的なファンが高ぶっていた。高貴な学園の中にもああいう人はいるんだな、と知ってほんの少しだけ強張っていた体の力を抜くことができた。
カツ……カツ……カツ……。
シリウス兄さんが壇上に上がる足音がよく響く。先程までの喧騒は凪の様に収まっていた。広間にいる全員が視線を彼に向けて襟を正す。
「新入生諸君、我々在校生一同は皆の入学を歓迎している」
低く透き通る声が響き渡る。堂々とした姿は彼が学生である事を忘れる程に大人びていて、さながら国王の様に思えた。
(本当にハルトと一歳しか違わないんだよね……?)
同じ家系に生まれたにも関わらず、僕と兄さんの立ち位置はあまりにも差が開いている。壇上で羨望の眼差しを一手に受ける兄と、在校生に埋もれる僕では、比べることすら烏滸がましい。かつてのハルトがずっと抱き続けていた兄へのやっかみが、だんだん諦めに変わっていくのを感じた。
挨拶が終わり、壇上には会場全員からの拍手がシリウスに送られる。僕も周囲に合わせて控えめに拍手を送っておく。皆が羨望の眼差しを向けている光景を見て、僕はハッとする。
(ああいうのが、『代わりのいない存在』ってことなのかな)
誰にでも出来ることしか出来ない僕なんかとは、まるで住む世界が違う。同じ世界に来たというのに、僕の居場所は切り離されたままな気分に苛まれていた。