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作者: タアアタ
残酷な描写あり
第5話 悪文
悪文とはなんだろうか?
この世界を闇で覆ってしまうパワア?
あるいはすべての人の期待を裏切るもの?
少なくとも一等文士ともなれば、
悪文か悪文でないかの違いは分かる。
遠景、シルエットになって荒れ狂うドギャースギャ、
読み連ねれば何語ともとれぬ咆哮を眺めても。
「生きて悪竜に食われねば名文士」
たったこれだけの言葉で紡がれた伝説で、
さも善人のように文士という職はあるが、
その本性、外道にして、人の命を、
もてあそぶものにちかしい。
 名文さえあればありとあらゆる敵を、
するりするりと討ち果たし、
最強を満たすことも可能であろうに、
喉をうるおす水も無い砂漠。
 乾き、ただその字面のみがあった。
「もっと面白いことにならなければ、ヒヒヒ!」
とうの昔に一等文士という肩書など関係なくなったそいつは、
ゆすり。
たかり。
ゆすりとたかりのコンビネーション。
「一等文士さまあよう!
 こんどはどいつから
 ふんだくるんです??」
「決まっておるだろう!?」
「!!クシ王国はクシ国王!!」

「国王陛下!! 悪竜、勢いを増して王城に迫ります!」
「なんと!? 止めるものはおらぬのか!!
 勇士を、勇士を募るのだ!!」
「既に竜騎士が一名向かいましたが」
「どうなった? 文士から知らせは無いが」
「あいにく敗走して既にいなくなってしまいました」
「なんと!!」
こう、伝えるだけで奪われる希望!
なんとも小気味のいい なんと!
「国王陛下、急ぎ出陣の準備を」
「無礼者! 文士ごときが進言などを!!」
「よいのだ」
「陛下!!」「陛下!!」「陛下!!」
立ち居並ぶ家臣団、無能の集団。
「これも文民の法、
 シビリアンコントロールを護るためにも、
 文士どのは記録をたのむ」
「はっ、で、ご出陣は?」
「陛下!私めにおまかせを」
「おおっ歴戦のトマフがか」
「はっ! わが家より名槍ジマーフを持ちて
 かの悪竜めを打ち取ってみせましょう!!」
悪竜の名も知らずにか?
「トンベンマガスガトリクト」
「なに?」
「かの悪竜の名です、王よ」
「ふーむ、なんとも恐ろしい名だ、
 トマフよ! 心して挑め!!!!」
「はっ! 国王陛下万歳!」

さてと
「トマフ様、して文士は」
「貴様のようなゴロに頼まずとも、
 我家にはお抱えの文士がおるわ!
 シテイ!マイ!」
「はっ」「はっ」
「ゆくぞ!勇士トマフの出陣だ!!」
「家臣団はトマフに続け!!
 武具馬具整え兵装前へ構え!」
ラッパなど鳴らして、
その数いくつほどであろうか、
もっとも悪竜に通じるものであろうか、
ここから眺め記録してやることとしよう。

トマフ一行とその部隊は威勢よく、
悪竜の待つ荒野を決戦場として、
お抱えのシテイとマイという文士をもって、
かの場へと馬を進めた。
 「悪竜トンベンマガスガトリクト!覚悟!」
竜騎士よりも数を増して挑むその歩並、歩列、
竜を打ち取るために火砲も弩砲も用意した。
その様子を数合わせ、すべて丁寧に記録する。
シテイとマイ文士。
 「準備は万端、ひとつとして記録間違いはなし!」
 「荒野にて打ち取る陣はたしかにその数は」
集いし五百の兵団とそれに控える800の弓兵。
勝つも当然と進む一隊は悪竜を仕留めるため。
 ここでシテイとマイ文士の見た目だが、
才女というやつはいつの時代も強きの分を事細かに、
まめに姿を整えていどむというところ、
文士姿はローブひとつで充分であろうを、
どこぞの当世風に飾り立てて十分なこと、
宝石めかしこんだか、ククク。
 「トマフさま! 悪竜です!」
「その丈、ゆうに防護柵を越え、
 攻城搭のようにそそり立つ山脈!
 迎え撃つは精鋭揃いのトマフ軍!」
シテイとマイの二人で進める記録と発話に、
陣は進み、舞台は整った。
「狙いを定めろ!!悪竜に全火力を注げ!!!」
悪竜に放たれた矢の数、砲弾の数知れず!
「効き目は!!?」
「悪竜、止まりません!力強く進撃を!!」
「トマフ軍、第二射に備え前衛戦で、
 悪竜を引き付ける! 進軍!進軍!!」
「トンベンマガスガトリクトめ!!!」
勇士トマフの駆る騎馬隊が素早く悪竜を、
まわり込んで誘い出すものの、
「勢い止まらぬか!! 鎖を!!錨をうちこめ!」
大岩とつないだ錨を弩砲で狙い定め打ち込む!!
かくてトンベンマガスガトリクト、
鎖ではりつけとなったが、
「悪竜、未だ、威勢よく土煙を上げて進撃!」
「くっ!化け物め!竜騎士がよく一騎打ちを!」

そろそろ決着という具合である。
まともな文士は自らの意志が尊重されることを、
前に進めて勝利を演出するものだが、
元来、貴族気質で生真面目に教育を受けた文士は、
「悪竜に陣形を崩されました!!」
見た光景をまま描く、故に手柄を逃し見積もり損ねる。
「これまでか!!! 退け!! 無駄死にはするな!」
悪竜トンベンマガスガトリクトの強い火の息を前に、
幾百かの兵が失われ、その記録さえも、

「シテイ! マイ!」
炎に掻き消えた。

こうして勇士トマフは敗れ去ったのだ。
わたしの、
記録によって。
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