残酷な描写あり
R-15
第百六四話 魏冄、趙攻めの思惑
遠交近攻策に則り、魏冄は秦軍を率いて趙攻めを行おうとする。
同年 咸陽
朝議にて秦王は、張禄が考案した遠交近攻策を、国策とする旨を布告した。反発は少なく、その策は受け入れられた。
魏冄は、その近攻というものに、趙が含まれていると考えていた。
「秦王様、既に魏、韓を手中に収め、楚、斉の強国が弱体化した、今、我らは趙を攻めるべきです」
「趙は強い。それならば、魏や韓を完全に併呑し、足場を確かにすべきだ」
「併呑しているあいだに、趙に攻められるでしょう。これまでとは違い、板楯族を下した今、北方の異民族の動きは弱くなっています。秦と同じく、天下の北端に位置する趙は、ずっと匈奴族に苦しめられてきました。しかしそれが落ち着き、天下が秦の一強となっている今、趙の他に刃を向けるのは愚策です」
「確かに一理はある。そなたは本当に口が上手いな、丞相。流石に趙に攻められては、無傷ではいられない。……では武安君に攻めさせるか」
「その任は、私にお与えください」
「なに故か」
「私が秦兵を動員するならば、穣を初めとした中原地域からも、兵を動員できます」
「そなたの領地であろうとも、兵の動員は全て王の権限で行われる。そなたができるのは、領地内の兵の徴兵と訓練のみである。勘違いするな、そなたの兵ではないのだぞ」
「それでも、私が行うべきです」
魏冄はこれまで、大梁で生活できなくなった流浪者を、自分の領地へ入れていた。他にも、山林に逃げ盗賊となっていた、戸籍を持っていない人々も、私的に訓練していた。
つまり魏冄は、私兵を囲っていたのである。
秦王も、要領を得ない魏冄の返答から、私兵がいることには気づいた。しかし今すぐにその存在を暴くことは不可能であり、また、魏冄が指揮を執ることは、妥当な判断でもあった。
同盟を破り、一大攻勢をしかける。その行動に最適な国尉である白起は、義渠を滅亡させた後、再び療養に戻っていた。
今この時、最も軍を率いるのに適した人物は、他でもない大将軍魏冄であった。
魏冄に大功を立てられたくない秦王は、「しかしそなたは老齢。遠征は控えよ」といった。すると魏冄は「それもそうですな。では穣まで私が兵を率いて、その後は他の者に託しましょう」といった。
秦王は、出し抜かれた。穣で中原の兵を合流させる際、魏冄は副将として、自身の息がかかった将軍を合流させ、軍の意思決定を自身の派閥にさせるつもりなのである。
「よかろう……では中原の兵を合流させた後、誰に指揮させるかは、武安君の指示を待つ。朝議はこれにて、解散とする」
朝議にて秦王は、張禄が考案した遠交近攻策を、国策とする旨を布告した。反発は少なく、その策は受け入れられた。
魏冄は、その近攻というものに、趙が含まれていると考えていた。
「秦王様、既に魏、韓を手中に収め、楚、斉の強国が弱体化した、今、我らは趙を攻めるべきです」
「趙は強い。それならば、魏や韓を完全に併呑し、足場を確かにすべきだ」
「併呑しているあいだに、趙に攻められるでしょう。これまでとは違い、板楯族を下した今、北方の異民族の動きは弱くなっています。秦と同じく、天下の北端に位置する趙は、ずっと匈奴族に苦しめられてきました。しかしそれが落ち着き、天下が秦の一強となっている今、趙の他に刃を向けるのは愚策です」
「確かに一理はある。そなたは本当に口が上手いな、丞相。流石に趙に攻められては、無傷ではいられない。……では武安君に攻めさせるか」
「その任は、私にお与えください」
「なに故か」
「私が秦兵を動員するならば、穣を初めとした中原地域からも、兵を動員できます」
「そなたの領地であろうとも、兵の動員は全て王の権限で行われる。そなたができるのは、領地内の兵の徴兵と訓練のみである。勘違いするな、そなたの兵ではないのだぞ」
「それでも、私が行うべきです」
魏冄はこれまで、大梁で生活できなくなった流浪者を、自分の領地へ入れていた。他にも、山林に逃げ盗賊となっていた、戸籍を持っていない人々も、私的に訓練していた。
つまり魏冄は、私兵を囲っていたのである。
秦王も、要領を得ない魏冄の返答から、私兵がいることには気づいた。しかし今すぐにその存在を暴くことは不可能であり、また、魏冄が指揮を執ることは、妥当な判断でもあった。
同盟を破り、一大攻勢をしかける。その行動に最適な国尉である白起は、義渠を滅亡させた後、再び療養に戻っていた。
今この時、最も軍を率いるのに適した人物は、他でもない大将軍魏冄であった。
魏冄に大功を立てられたくない秦王は、「しかしそなたは老齢。遠征は控えよ」といった。すると魏冄は「それもそうですな。では穣まで私が兵を率いて、その後は他の者に託しましょう」といった。
秦王は、出し抜かれた。穣で中原の兵を合流させる際、魏冄は副将として、自身の息がかかった将軍を合流させ、軍の意思決定を自身の派閥にさせるつもりなのである。
「よかろう……では中原の兵を合流させた後、誰に指揮させるかは、武安君の指示を待つ。朝議はこれにて、解散とする」