R-15
欲をかいたな優江
あたしは家に戻ると自分の部屋に閉じこもりデッドを呼び出した。
「ねえ、デッド。あたしの寿命ってあと何日残っているか覚えていない?」
「残念ながら分からねえな。だって俺は優江の夢を見てお前の寿命を知るのじゃなくて、あくまでお前に聞いて知っていただけなんだから。」
「最後にあたしがあと何日残っているって言ったのは何月何日だかも覚えていない?」
「それも覚えてねえなあ。正直そこまで優江の寿命を覚えようとしていた訳ではないしな。優江がいなくなったら、そらにまた新しい寿命の見える人間のところに連れて行かれるだけで、俺としては大して影響ないからな。」
「冷たい奴。」
全部分かっていたことだった。デッドがあたしの寿命を管理してないことも興味が無いことも。こいつは一体なんの為にいるのだろう。あたしが呼び出さない限りはずっと闇の中にいるって言うし、あたしはこいつが好きでもないから大して呼び出さない。闇の中でなにをしているんだろうか。というか闇ってどこ?という感じだけど。
だけど、あたしの色んな事情を知っているから時々こうやって呼び出して話をする。話と言っても一方的にあたしの質問攻めになることが多いが。あたしが今感じている死の恐怖を一番分かってくれるのも意外とこいつかもしれない。
「ねえ。あたしの命あと今夜か明日までかも知れない。なんだか分からないけど体調も悪いし、嫌な予感がするの。あたしまだ死にたくない。一度は死ぬこと受け入れたけど、その日が近づいてくると怖くて怖くて仕方がないの。」
「なんだよ。また怖くなっちゃったのかよ。大丈夫。きっと死ぬときはベッドの上だろ。そのときが来たらまた死を受け入れられるようになるさ。それともなにか心残りでも現れたのか?おなかの赤ん坊か?」
「なによ。分かっているなら聞かないでよ。そう。あたしは子供をきちんと産むまで絶対に死にたくないの。ううん、子供にはね、母親ってものが絶対必要なの。だから産んだ後もきちんと生きていたい。せめてこの子が大人になるまでは一番近くで見守っていたいの。」
「欲をかいたな、優江。人間というものは欲をかくと死ぬのが怖くなったり、避けたくなるものなのさ。ちょっと前のお前は欲が殆ど無かった。だから死をある程度迎え入れることが可能だったんだ。だけど欲をかいてしまったら死ぬのは怖くなって当然だぜ。オレが今まで見てきた奴もみんなそうだった。欲をかいて、それを捨てることが出来ずに恐怖にまみれながら死んでいく奴をどれほど見てきたか。」
「生きたいって思うことは欲なの?生きているって人間の最低限の権利じゃないの。」
「いいや違うね。生きることは義務なのさ。そして同じように死ぬことも義務なのさ。」
「生きることは義務なんでしょ。だったらあたしはまだその義務をなにも果たしちゃいないんだよ。子供も産んでないし、子育てもしていない。これは人間の女に生まれたからには誰でも通らなきゃならない立派な義務でしょ。」
「分かってないな。人間の義務はただ生きることなのさ。ただ生きていればそれが義務を果たしていることになるのさ。子供を産んでも、そうでなくても果たした義務は一緒なのさ。」
あたしは目に涙を浮かべて訴えるようにデッドにもらした。
「あたしまだ死にたくないの。せめてこの子を無事に出産するまでは絶対死ねないの。だってこの子はあたしとあたしの愛した人の愛の結晶だもの。愛し合った証しだもん。あたしが生きた証しだもん。」
「まあ、泣くなよ。出産予定は明日だろう。子供を産んで、その手に抱いてやることもかなうじゃないか。」
「でも、約束の日を迎えるまで実際は二日かもしれないし、今日かもしれない。」
「そうか。じゃあ後は運命次第ってところだな。」
あたしは完全に泣き崩れて言った。
「ごめんね。もう帰ってもいいよ。」
「生きる可能性もあるのだからあんまり気を落とすなよ。それとな。生きていた証し。そんなものにすがっていると辛くなるだけだぜ。」
ヤツはそう言い残してスーッと姿を消した。
「ねえ、デッド。あたしの寿命ってあと何日残っているか覚えていない?」
「残念ながら分からねえな。だって俺は優江の夢を見てお前の寿命を知るのじゃなくて、あくまでお前に聞いて知っていただけなんだから。」
「最後にあたしがあと何日残っているって言ったのは何月何日だかも覚えていない?」
「それも覚えてねえなあ。正直そこまで優江の寿命を覚えようとしていた訳ではないしな。優江がいなくなったら、そらにまた新しい寿命の見える人間のところに連れて行かれるだけで、俺としては大して影響ないからな。」
「冷たい奴。」
全部分かっていたことだった。デッドがあたしの寿命を管理してないことも興味が無いことも。こいつは一体なんの為にいるのだろう。あたしが呼び出さない限りはずっと闇の中にいるって言うし、あたしはこいつが好きでもないから大して呼び出さない。闇の中でなにをしているんだろうか。というか闇ってどこ?という感じだけど。
だけど、あたしの色んな事情を知っているから時々こうやって呼び出して話をする。話と言っても一方的にあたしの質問攻めになることが多いが。あたしが今感じている死の恐怖を一番分かってくれるのも意外とこいつかもしれない。
「ねえ。あたしの命あと今夜か明日までかも知れない。なんだか分からないけど体調も悪いし、嫌な予感がするの。あたしまだ死にたくない。一度は死ぬこと受け入れたけど、その日が近づいてくると怖くて怖くて仕方がないの。」
「なんだよ。また怖くなっちゃったのかよ。大丈夫。きっと死ぬときはベッドの上だろ。そのときが来たらまた死を受け入れられるようになるさ。それともなにか心残りでも現れたのか?おなかの赤ん坊か?」
「なによ。分かっているなら聞かないでよ。そう。あたしは子供をきちんと産むまで絶対に死にたくないの。ううん、子供にはね、母親ってものが絶対必要なの。だから産んだ後もきちんと生きていたい。せめてこの子が大人になるまでは一番近くで見守っていたいの。」
「欲をかいたな、優江。人間というものは欲をかくと死ぬのが怖くなったり、避けたくなるものなのさ。ちょっと前のお前は欲が殆ど無かった。だから死をある程度迎え入れることが可能だったんだ。だけど欲をかいてしまったら死ぬのは怖くなって当然だぜ。オレが今まで見てきた奴もみんなそうだった。欲をかいて、それを捨てることが出来ずに恐怖にまみれながら死んでいく奴をどれほど見てきたか。」
「生きたいって思うことは欲なの?生きているって人間の最低限の権利じゃないの。」
「いいや違うね。生きることは義務なのさ。そして同じように死ぬことも義務なのさ。」
「生きることは義務なんでしょ。だったらあたしはまだその義務をなにも果たしちゃいないんだよ。子供も産んでないし、子育てもしていない。これは人間の女に生まれたからには誰でも通らなきゃならない立派な義務でしょ。」
「分かってないな。人間の義務はただ生きることなのさ。ただ生きていればそれが義務を果たしていることになるのさ。子供を産んでも、そうでなくても果たした義務は一緒なのさ。」
あたしは目に涙を浮かべて訴えるようにデッドにもらした。
「あたしまだ死にたくないの。せめてこの子を無事に出産するまでは絶対死ねないの。だってこの子はあたしとあたしの愛した人の愛の結晶だもの。愛し合った証しだもん。あたしが生きた証しだもん。」
「まあ、泣くなよ。出産予定は明日だろう。子供を産んで、その手に抱いてやることもかなうじゃないか。」
「でも、約束の日を迎えるまで実際は二日かもしれないし、今日かもしれない。」
「そうか。じゃあ後は運命次第ってところだな。」
あたしは完全に泣き崩れて言った。
「ごめんね。もう帰ってもいいよ。」
「生きる可能性もあるのだからあんまり気を落とすなよ。それとな。生きていた証し。そんなものにすがっていると辛くなるだけだぜ。」
ヤツはそう言い残してスーッと姿を消した。