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作者: konoyo
R-15
腹を裂いて無理やり赤子を引きづりだしたい
あたしはもうなにも考えるのも感じるのも嫌なので、そのままベッドに潜りこみ無理やり眠った。

 目が覚めた。あまりの痛さに。下腹部が尋常じゃない程痛い。お母さんを呼ぼうと思ったけど声が出ない。取りあえずベッドから出てリビングまで辿り着きたいのだが、そもそも起き上がることが出来ない。

死ぬんだ。そう一瞬で判断した。是が非でもふうわだけは産みたい。そう思ってあたしは僅かばかりに残された力を振り絞ってベッドから出ようとした。まずはなにがなんでもあたしの異常事態をお母さんに伝えなければ。とりあえず足をベッドから出したいのだが、蹲った姿勢でいないとお腹の痛みがおさまらない。体をくの字に曲げたまま腰を動かしてなんとか足を、体をベッドの外まで押し出した。そうだ。これだけお腹が痛いとなればふうわになにかが起きているのかもしれない。少しずつ体を動かしながら神様にふうわの無事を祈った。最近のあたしは神頼みばかりだが、この願いだけはなにがなんでも叶えて頂きたい。

足をなんとか床に着け、続けて膝をつくことが出来た。痛みを抱え込み膝を引きずりながら部屋を出て、手すりに掴まりながらどうにかリビングまで辿り着いた。こんな姿勢はおなかの中のふうわに優しいはずがないのに。一体あたしの命はあと何時間もつのだろう。不幸中の幸い、リビングに入ってすぐに母に発見してもらえた。いつものおっとりとしたお母さんからは想像も出来ないくらい迅速にあたしをおぶって車の助手席に乗せて病院へ車を走らせてくれた。その間、あたしはお母さんと言葉を交わしたかどうかさえ覚えていない。
 
気が付いたときにはあたしは病院のベッドの上にいた。今日二度目のエコー検査だ。そして触診。誠に不思議な事にその頃にはあたしの下腹部の痛みは殆ど無くなっていた。先生曰く、もういつ出産になるか分からない、先程あたしを襲った激痛もおそらく子供がお腹から出る準備をしているからこそ引き起こされたのではないかということだ。なんだ陣痛というやつか、と思いながらも心のどこかで、あの異常な痛みはそれだけが原因なのではないのかもしれないという不安に覆われた。不安というものはとても不思議なもので一度現れると中々その姿をかき消すことはできない。理屈で消せるものではないのだ。不安から解き放たれるには、自然とそれが消え去るのを待ち続けるという方法しかあたしは知らなかった。

その後二時間程病院で待機したが再びおなかの痛みがやってくることは無かった。母に尋ねたら陣痛とはどうやらそういうものらしい。嫌だな。ふうわが生まれるまで何度もこんな目にあうのかしら。

可能であれば今すぐ陣痛がきて産んでしまいたい。むしろ、陣痛などこなくてもこのお腹を捌いてふうわを取り出したい。まあ、子供を産むのは自然な形が良いのだろうからそんなことは許されないとは分かっちゃいるけど。

結局その日は一旦家に帰ることになった。そして、帰宅してからも再び陣痛がくることも無かった。いよいよ明日は先生に告げられている出産予定日だ。なんとか今日は生きながらえた。どうか明日も無事に生きられますように。そしてなるべく早くふうわを産むことが出来ますように。
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