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作者: konoyo
R-15
性描写
ここにいると少し気分が悪くなる。他人の家も苦手なあたしだけど、他人の部屋も苦手みたい。あたしは気を紛らわしくてデッドを呼んだ。そのくらい落ち着きがなくなってきたのね。

「ごめん。少しの間でいいからあたしの傍にいて。」

ちょうどそのとき亮君が部屋に戻ってきた。リンゴジュースの大きなペットボトルと透明なグラスを2つ持って。

「ごめんね。待たせて。喉乾いているでしょ。」

部屋を出て行ったときよりさらに亮君の顔は優しくなっていた。彼は一旦机の上にグラスを置いてそこにジュースを入れてくれ、そのうちのひとつをあたしに手渡してくれた。あたしの顔を見ながらそうしてくれた。あたしの顔には居心地の悪さが表れていたのだろう。彼はあたしを気遣って、

「優江ちゃんどうしたの?気分悪い?それとも居心地悪いかな?」

「亮君ごめんね。ここじゃなくてリビングでもいいかな?」

優しい亮君はためらうこともせず、

「いいよ。そうしよう。そっちの方がリラックス出来るかもしれない。」

と言ってくれる。あたしと亮君は1階に降りてリビングのソファに改めて並んで座った。

「優江ちゃん。具合悪いの?無理しないでね。うちまで来てくれたのはすごく嬉しいけど、優江ちゃん元気ないと意味ないんだから。体調悪かったら言ってね。優江ちゃんの家まで送って帰るから。」

本当にこの人は優しい人だ。隣に座っていてくれるとなんだか安心するの。

「大丈夫。少しの間こうしていていい?」

そう言ってあたしは自分の頭を彼の肩に乗せてみた。そうすると亮君はなにも言わずにあたしの頭を撫でてくれた。ずっと撫で続けてくれる。2人を少しの沈黙が覆った。優しい沈黙。いつもいつも悲しい思いをさせるものだとばかり思っていたのに、意外な一面だった。沈黙の中にいても穏やかな気持ちになれるものなのか。あたしが沈黙に対してあまりに後ろ向きなイメージを持ちすぎていたのだろうか。いいや、あたしの頭のうえにある掌のちからが沈黙の中にいるあたしを穏やかな気持ちにさせてくれたのだろう。

柔らかい気持ちになったあたしはもっと左によって亮君に寄り添った。顔も体も彼の方は向けられなかったけど。すごく近くに寄った気がした。

「大好きだよ。」

すごく優しい声で亮君は言ってくれた。あたしは目を瞑ったまま、

「ありがと。」
と返事した。口元がすごく緩んでいるのが自分でも分かった。そのとき、ふと気が付いて心の中で呟いた。

「ごめん。デッド。もう大丈夫。もう傍にいなくてもいいや。」

さっきまでの言いようの無い不安感も消えていたから。それにあたし達ふたりの幸せのときを見られたくもなかったから。まあ、姿を消してもヤツは全てを見ていることは知っているけどさ。 

次の瞬間あたし達はキスをした。他人事みたい?だって他人事のようにあっさりしていたもの。恥ずかしくもなかったし、ドキドキしたりもたいしてしなかった。感じたのは温もりと優しさばっかりで。

キスをし終わってから自然と亮君と見つめ合っていることに気が付いたときに急に恥ずかしくなった。恥ずかしいから、目を瞑ってもう一度唇を亮君の方に近づけた。2度目のキスはさっきより長くて濃い。2人の唇は柔らかく触れ合ったり、少し離れたり激しく溶け合ったりを何度も繰り返した。あたし達ふたりは何度かため息をついたり小さく声を漏らしたりして、体の中にどんどんと膨らんでいく熱い気持ちを外に吐き出した。亮君はもっとあたしを欲しがって、あたしのからだが彼の正面にくるようにしてあたしを彼の膝の上に乗せた。
その体勢のままあたしは彼にじっと見つめられた。もう恥ずかしくてあたしは顔を上げられない。あたしが彼の目を見ないということが彼の行為の抑止力を失わせることになったよう。顔を見つめられ、その視線は少しずつ下に向かって動いていった。首、胸、腹、腰、太もも…。そして視線はまた胸のわずかな膨らみよりもう少し上で止まった。ちょうど喉から胸にかけてのラインを見つめられて、というよりは確認されたの。

そして、また視線は縦方向に上下した。あたしは恥ずかしさと同時になんとも言えないよろこびを激しく感じていたわ。恥ずかしいことだけど正直、ドキドキしていたし…。亮君に見つめられている間、あたしは掌で彼の体に触れてみた。唇から始まって、首とか肩とか胸とか。見つめられるのも恥ずかしかったけど、彼を見ることも恥ずかしかった。その代わりに視線は落としたまま触れ続けた。軽く撫でてみたり強くしてみたり。

彼の視線が再びあたしの顔に移ってきた。相変わらず無言だったけどその空気は明らかにあたしのことを呼んでいた。応えるようにあたしも彼と目を合わせた。言葉には出さなくてもお互いの意思は通じ合えたようだ。さっきまで彼が見つめていたあたしの首の下に彼の大きな手が伸びてきてあたしの制服のブラウスのボタンを外す。下着までもが剥ぎ取られてあたしは自分の肌を始めて男というものに晒し、触れられた。触れられることでだんだんとあたしの羞恥心も薄れていったようだわ。彼のすること、為すことを拒むことはなかった。ただ彼に触れられている途中でも節々で無性にキスが欲しくなってそれを彼に求めた。後は彼の為すがままに。ふたりはお互いを愛し合い、慈しみ合い、求め合った。その行為の最中に彼は一度あたしの傍を離れようとした。このソファに座ったときにはふたりがこんなにも激しく愛し合うことなど想定も予想もしていなかったよ。

思えば彼が一度間を空けたことは良識ある男として人として当然のことだったのかもしれない。だけど、あたしは彼がそうすることを拒んだ。その場を立とうとする彼の手首をなにも言わずにしっかりと握りしめ。

彼はさぞかし戸惑ったことだろう。あたしの正面に座りなおし、あたしの頭を撫でながら

「優江。」
って声をかけてくれた。声色があたしの知っているいつもの優しい亮君にすっかり戻っている。ついさっきまでのピンと張りつめた蜘蛛の糸のような、弾けばちぎれてしまいそうな細い声とは明らかに違う。あたしはその蜘蛛の糸のような音が正直好きではなかった。もう、あの声は聞きたくない。だから自分の唇で彼の口を塞いだ。

あたしは腰を浮かせてもう一度彼と向き合うように彼の膝の上に座りなおした。座る位置を少しだけ変えたけど、愛し合うふたりが行き着く体勢になるにはさほど苦労はしなかった。あたしは無意識のうちに両腕を彼の首に回したまま彼にもたれかかっていた。心の中でたくさん

「愛している。」

と呟いた。そのうちのいくつかは心の箱では収まらず口からも漏れていただろう。こんなにも「愛している。」と言いやすい体勢は他にはなかった。
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