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作者: konoyo
R-15
初夢
 朝のホームルームの時間に、先生から連絡事項があって卒業アルバムに載せる『将来の夢』を書く為の用紙を回覧するから全員二、三日のうちに書き込んでしまうように、とのことだ。この企画の話は大分前から聞いてはいたけど、正直あたしはなんて書こうか迷っていた。将来の夢とかなりたい職業なんて無かったから。
 
 希望と言うのか、願望みたいなものはいくつかあるのだけどね。医者になりたいとか、弁護士になりたいとか。だけど、卒アルに載せる程現実味も無いし、そもそも将来のことを本気になって考えているとまわりのみんなに思われるのが嫌いだった。うん。恥ずかしいっていうかね。だからそこには「お嫁さん」と書くつもりでいた。まわりの友達にもそう書くって言っている子が多いから、浮くことも恥ずかしいこともないし。実際、結婚っていうものに対して興味は人より強い方だと自覚していた。

 ウェディングドレスを着たいとかじゃなくて、所謂家庭のお母さんに憧れていた。亮君みたいな素敵な旦那さんと、ふたりくらいの子供と一緒に仲良く暮らしたい。子供は絶対にひとりは男の子が欲しいな。岳人みたいな男の子。ささやかだけど、照れずに胸を張って人に話せるあたしの夢はこんなことだった。

 ちょっとだけ気になる亮君がいることと、とても仲のよい果歩ちゃんがいる以外はあたしの学校生活は結構退屈なものだよ。特に勉強が好きなわけでもないが、成績はクラスの中でもなぜか上位に入っていた。だからこそ余計に授業が退屈だったのかもしれない。あまり真剣に先生の話を聞くわけでもなくボンヤリと窓から中庭を眺めたていたり、空想にふけっていることもしばしばだ。

 最近の授業は駆け足気味で行われていた。もう二月だから、先生はなんとか教科書の内容を消化しようとするのがバレバレの態度。そのせいかはいつも以上に退屈で、今も眠くなりなんだがウトウトしてきた。熟睡はしていなかったけど、眠っていたのではないだろうか。すっかり周りの声や音は聞こえなくなり、真っ暗な世界の中で意識がどんどん朦朧としていくなか、なにか不思議な感覚に包まれた。この感じはなんて例えればいいのか。なにか光のようだけど、眩しく輝いているわけではなく、白くぼんやりとしたものがあたしの下腹部の中に入っていったようだった。それは小さくて細くてあたしの人差し指程の大きさだった。なにかを授かったような感覚と言えば想像がつくだろうか。

 当然、夢なのだろうけど気持ちのよさは随分と鮮明だった。あたしの中に入り込んだ光は小さくトン、トンと音を立て上下に動いた。光はやがて形を変えて、 

「一一三五日」

という画像というにはあまりに朧な幻影となった。

「一一三五日ってなんだろう。」

 それがとても気になり目が覚めた。あたしは滅多に夢を見ないのに、この夢はいやにはっきりと印象に残っている。一一三五日の意味はまるで想像もつかなかったが、きっといい夢なのだろう。いい夢ならば続きが見たくてあたしはまた目を閉じて深呼吸をして浅い眠りについた。
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