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作者: 山のタル
残酷な描写あり
41.追加報酬
「セレスティアさん、実は報酬はもう一つ用意しているのですが、そちらも受け取ってもらえないでしょうか?」
 
 八柱オクタラムナについての話も終わり、脱線した話を戻すようにオリヴィエがそう言った。
 そう言えば、報酬の話をしていたんだった。
 
「もう一つの報酬? 私は『商人証明書』だけで十分よ」
「それは理解していますが、セレスティアさんに助けを求めて災害と称される魔獣討伐の殆どを任せてしまったのに、その報酬が商人証明書だけですと流石に割に合いません。
 なので、商人証明書とは別にこちらでセレスティアさんが喜びそうな報酬を用意させていただきました。
 依頼主、そしてプアボム公国を治める四大公の一角としては、働きに見合った報酬をきちんと支払わなければその面目が立たないというものです。ですので、どうか受け取って下さい」
 
 オリヴィエは頭を下げてお願いしてくる。
 
「分かったわ。オリヴィエにも立場というものがあるものね。受け取るから頭は上げて頂戴」
「ありがとうございます!」
「それで、その報酬は何なのかしら?」
「それはこちらに」
 
 オリヴィエはエイミーの方に手を向ける。
 どうやらその報酬はオリヴィエではなく、エイミーが持っているようだ。
 
「………………」
「………………」
 
 受け取るのを最初は渋ったものの、貰えるとなるとどんな物が出てくるのか内心ワクワクとしていたが、エイミーはニコニコと笑顔を向けてくるだけで、何かを取り出そうとする仕草すらしようとする様子はない。
 
「……オリヴィエ、報酬は?」
 
 流石におかしいと思いオリヴィエに確認すると、
 
「彼女です」
「……はい?」
「ですから、彼女、エイミーが報酬になります」
「これからよろしくお願いします。セレスティア様!」
「「えええええーーーーー!!??」」
 
 
 ◆     ◆
 
 
 マイン公爵の説明では、マイン公爵はセレスティアから商人証明書を頼まれた時から、追加の報酬について考えていたそうだ。そして、セレスティアの話から使用人の数が少くなったことを思い出し、マイン公爵が侍女の中でも一番信頼を置いているエイミーを、セレスティアの屋敷の使用人として働かせることにしたらしい。
 
 人手が増えることに関しては、セレスティアもミューダも反対ではない。むしろ歓迎するところである。……ただ一点、給料を支払う必要があることを除いて。
 エイミーは奉仕して働くアイン達とは違い、モランと同じくお金を得るために働いている人種である。
 なので、給料は当然発生し、それを支払う必要がある。モランを格安で雇っている中であっても、そこにエイミーを加えたらなら、ニーナ達の負担が増してしまう。
 そうなると、資金を稼ぐ計画そのものが狂いかねなかった。
 
 そうした理由から、セレスティアはマイン公爵の申し出を断ろうとした。
 しかし――、
 
「エイミーは、セレスティアさんの所に“派遣”という形で働かせますので、私が雇った状態のままになります。ですので、給料は私の方で支払うことになるので、その心配は要りません」
 
 とのことだった。
 そういうことなら、セレスティアもエイミーを受け入れない手はない。
 しかしセレスティアは、一応エイミーにも意思確認を取っておくことにした。
 
「エイミー、本当にいいのかしら?」
「はい! むしろこっちでしっかり働けば、給料が今よりも倍になるので、問題ありません!!」
 
 エイミーは沢山稼げれば、仕事には特に拘りは無いようであった。
 
「そう、ならこれからよろしくねエイミー」
「はい、こちらこそよろしくお願いします!」
 
 こうして、新しくエイミーがセレスティアの屋敷で働くことになった。
 
 そしてそれとは別に、セレスティアは魔獣と戦ったクワトルとティンクの報酬だと言う大銀貨9枚を受け取った。これは、「魔獣の討伐に加わったハンター1人に大銀貨1枚を与える」と事前に決められていた報酬だ。ハンターとして魔獣と戦ったクワトルとティンクは当然これに当てはまる。
 しかし、それなら報酬は大銀貨2枚のはずであったが、別動隊として後方で待機していた7人のハンター全員が「俺達は別動隊で待機していたが、何も出来ずに戦闘から逃げた。それで報酬だけ受け取ったら恥さらしもいいところだ。だから報酬は魔獣と戦った『ドラゴンテール』の二人にやってくれ」と受け取りを辞退したのだ。
 そういうことならば受け取らないわけにはいかないので、セレスティア達は思わぬ臨時報酬まで貰うことになった。
 
 
 ◆     ◆
 
 
 エイミーの荷物が馬車に乗せてあるというので、アインと一緒に取りに行かせた。ついでにアインには、エイミーに屋敷のことを色々教えておくことも頼んでおいた。
 モランはお茶を用意するために食堂に行ったので、現在応接間に居るは、私とミューダとオリヴィエとカールステンの四人だけになった。
 
「それで、カールステンさんを連れて来た理由はなんなの?」
 
 報酬の話も一通り終わったので、オリヴィエが来てから気になっていたこと質問した。
 
「簡単に言えば、尾行を防ぐためです」
 
 それはいくらなんでも簡単に言いすぎだ。詳しく説明を求む!
 
「少し長くなりますが、今回カールステンを同行させたのは、この前の魔獣事件が関係しています」
 
 そう前置きして、オリヴィエは事情を詳細に話してくれた。
 
「魔獣事件の犯人と思われる二人組の男ですが、マターという人物の正体が判明しました。
 マターはブロキュオン帝国密偵部隊の元リーダーでした。密偵としての能力は優秀な人物だったそうですが、何かしらの罪を犯したようで、今では帝国で指名手配されています。
 マターの目的までは不明ですが、魔獣を産み出す実験をする時点で、まともなものであるはずがありません。それに、そんな危険な実験を個人でどうこう出来るわけがありません。おそらく、大きなバックがあるはずです。
 調査の結果、少なくとも私の領内とプアボム公国内でそういった痕跡は見つからなかったので、今回の件はマイン領、延いてはプアボム公国に対する敵対行為として捉えています。そして、敵対者達は実験を妨害したセレスティアさんや私達を不愉快に思うでしょう」
「なるほど、つまりその敵対者の目がいつどこかにあるか分からないから、目立つ行動をしなかったのね」
「その通りです」
 
 確かにマイン領が狙われたこの状況で、普段と同じように馬に乗って一人で行動するなんてとても危険だ。
 オリヴィエは強い。それこそ、そこらの兵士が束になっても勝てないぐらいの実力がある。
 しかし、上には上がいる。もし敵対者達の中にオリヴィエを上回る強さの人物がいた場合、一人で行動しているオリヴィエなんて、ネギを背負ったカモである。
 
「なので姿を隠せる馬車、それもいつも使う馬車ではなく一般に出回る普通の馬車を使用しました。更に同じような馬車を10台用意して、それぞれ出発する時間も方向もバラバラに動かして撹乱しました。
 そして私が乗る馬車以外は、御者と搭乗者全てを変装した兵士にしているので、万が一何かあっても対処可能にしています。
 私の馬車は遠回りに遠回りを重ねて、尾行がいないのを確認してからここに来ました。その為にカールステンの力が必要だったのです」
「カールステンさんの力?」
「はい、カールステンはドリュアスという種族です。その力は植物と心を通わせ、自在に操る力です」
「ほう、ドリュアスとはまた珍しいな!」
 
 ドリュアスという単語に反応して、ミューダは興味深げにカールステンをまじまじと見詰める。
 ドリュアスとは先程オリヴィエが言った通り、植物と心を通わせ自在に操る力を持つ珍しい種族のことだ。その能力以外で見た目や寿命は人と大した違いない。しかし、ドリュアスはその珍しい力と引き換えに、魔術や魔法を上手く扱うことが出来ないという特徴がある。
 全く出来ないわけではないのだが、魔力量が少い子供よりも制度が悪く、ハッキリ言って使い物になるレベルじゃない。
 そんな短所を持つドリュアスだけど、植物と心を通わせ自在に操るという能力は、その短所を補って余りある程に優秀な長所なのだ。
 
 特に今回のように尾行に気を付けて行動を要する場合には、ドリュアス以外に適任はいないと言ってもいい。
 植物と心を通わせるということは、植物と会話が出来るということだ。その能力の対象は、植物全般に及ぶ。植物は砂漠や極寒でもない限り、どんな地でも、どんな場所にでも敷き詰めるように存在している。
 植物と会話できるドリュアスにとっては、その能力を使った索敵・探知・偵察などの情報収集は目をつぶっても出来る簡単作業だ。
 
「なるほど、オリヴィエの事情は分かったわ。カールステンさんがフードを被っていたのも、姿を隠すためだったのね」
「そうです。カールステンはマイン領主軍の参謀長という立場にいますので、名前と顔はそれなりに知られていますから。
 ……それよりも、敵対者の正体が不明な現在、セレスティアさんも屋敷に居る場合はともかく、外に出かける時は十分に注意してください」
「分かっているわ。アイン達にも十分注意するように伝えておくわ」
 
 この事は、特にクワトルとティンクにしっかり伝えておく必要があるわね。私は屋敷に居れば安全だが、二人はハンターとして外で活動しているし、魔獣討伐の時もハンターとして参加していたのでそうもいかない。
 まあ何かあったとしても、クワトルはともかく、本気を出したティンクをどうこう出来る奴がいるとも思えないが。
 
 
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